【前回のあらすじ】
土曜日の学校。
それぞれに課せられた役割をこなす雪ノ下と一色、副会長と書記ちゃん、由比ヶ浜と塚原さん。
そして、一人黙々と雑務を片付ける比企谷 八幡。
かくして時は過ぎ、気がつけばお昼時に・・・
「ゆきのん!やっはろー!」
「雪ノ下さん、比企谷君。お疲れ様。」
奉仕部の部室に戻った俺達を迎えてくれたのは、映像研究部の部室から戻ってきた由比ヶ浜と塚原さんだった。
「ねぇ、ゆきのん。そっちはどうだった?」
「そうね。そのあたりの報告については、お昼ご飯の後にしましょうか。」
雪ノ下が言うと、雪ノ下、由比ヶ浜、塚原さんの3人はそれぞれ大きめのバスケットや重箱を机の上に並べ始めた。
どうやら、3人は今日の昼食を用意していたらしい。こんな事なら俺も登校途中にコンビニで何か買ってくるべきだった。
「それじゃあ、俺はコンビニで昼飯買ってくるよ。」
購買は休みだし、ちょっと遠いけどコンビニまで行くしか無いか。
そう思って席を立とうとすると、雪ノ下に呼び止められた。
「待ちなさい、比企谷くん。あなたは、私たち3人でこれだけの量の料理を食べられると思っているの?」
確かに、机の上に並べられた料理は、女子3人で食べるにしては量が多いような気がする。
じゃあ、これって・・・もしかして?
「今日のお昼は、みんなで持ち寄ろうって決めていたんだ。もちろん、ヒッキーの分もあるからね!」
「あ、でも、俺は何も用意していないぞ。なんか、申し訳ないな。」
事前に教えてくれれば、俺だって簡単な弁当くらい用意できたのに。
「本当にそう思うのなら、この後たっぷり働いてくれれば良いのよ。」
雪ノ下がニッコリ微笑んで言う。
「お、おう・・・。」
あ、これ『 この後滅茶苦茶(略 』ってキャプションが入るオチかな・・・。
「それじゃあ、時間ももったいないし、早く食べましょう。」
そう言って、塚原さんが自分が持ってきた重箱の蓋を開ける。
中には、唐揚げにウインナー、卵焼きにミートボールといった、お弁当の定番おかずが一杯に並べられていた。
また、雪ノ下のバスケットには色とりどりのサンドイッチが詰められている。
「ヒッキー!見て見て!」
そう言って由比ヶ浜が開けたバスケットには、きれいな三角形に握られたおにぎりと、いびつな形のおにぎり?が並べられていた。
「本当は、あたしだけでやりたかったけど、時間が無かったからママに手伝って貰ったんだ。」
「そっか、それじゃあ・・・」
「はい、ヒッキー!」
きれいな三角形のおにぎりを取ろうと手を伸ばした俺に対して、由比ヶ浜がいびつな形のおにぎり?を手渡してきた。
「お、おう。」
そういって、由比ヶ浜から渡されたおにぎり?を眺める。
「今回は、ママが用意したご飯や具をあたしが握っただけなんだけど、次は一からがんばって作るからね。」
つまり、このおにぎり?の素材に関しては安心できるということだろう。
そう思い、恐る恐る手にしたおにぎり?を二つに割ってみた。
中身は・・・普通の梅干だった。
意を決して、おにぎり?を一口頬張ると、普通にご飯と梅干の味がした。
ちょっと塩気が足りない気もするが、まぁそれを望むのは贅沢というものだろう。
そう思い、もう一口かじる。
ジャリ・・・
砂を噛んだような食感の後、舌に強烈な塩気が弾ける。
「しょっぱ!・・・これは、塩の塊?!」
慌てて窓際に駆け出し、俺用のパンさん湯飲みにポットのお湯を注ぎ、冷ます時間も惜しむように熱いお湯を啜る。
「あちちっ!」
「ヒッキー、大丈夫?」
由比ヶ浜が、心配そうに声をかける。
「ま、まぁ、塩辛いだけだから、今までのに比べれば、マシな方だろう・・・。」
そう言いながら、机の方を見ると、雪ノ下が三角形のおにぎりを手にして自分の目の前に置こうとしていたのを目撃してしまった。
「ほれ、雪ノ下。由比ヶ浜が心をこめて握ってくれたおにぎりだぞ。お前も食べないとダメだろ。」
そう言って、雪ノ下の目の前にあるおにぎりと、机の上に残されたおにぎり?を入れ替えてやる。
「いえ。私は、あっちのおにぎりをいただくから・・・」
雪ノ下が、目の前に置かれたおにぎり?をそっと押し返してくる。
「ゆきのんは・・・食べてくれないの?」
由比ヶ浜は、それを見て悲しげな表情をして呟いた。
「わ、わかったわ、由比ヶ浜さん。私も食べるから、そんな顔で見つめないでちょうだい。」
観念したのか、雪ノ下はおにぎり?を手にして、恐る恐る口を付けた。
一口、また一口・・・三度目に口にしたとき、雪ノ下の目が大きく見開かれ、顔が真っ赤になっていく。
はい、大当たり。
俺は心の中でほくそ笑み、涙目で俺を睨み付ける雪ノ下を尻目に、手に持っていたもう一つのおにぎり?に口を付ける。
一口かじると、とろけるような柔らな食感と共に甘い果汁と香りが口の中一杯に広がっていく。
これは、まさしく・・・。
「桃!?」
俺がそう叫ぶと、由比ヶ浜は大喜びで振り返り、こう言った。
「ヒッキー、大当たり!当たりとして、一つだけ桃を入れておいたんだ!」
おにぎりの具に遊び心を加える事は百歩譲って許すとしても、なぜ『桃』を入れようと思ったのか。小一時間ほど問い詰めたい気持ちである。
「おい、由比ヶ浜。」
「由比ヶ浜さん?」
「あ、あれ?ヒッキーもゆきのんも顔が怖いよ?せっかくのお昼ご飯なんだから、もっと楽しく食べようよ。」
「そうですよ!先輩達だけずるいですよ!」
その声に驚いて振り返ると、いつの間にか一色が膨れっ面をして立っていた。
「お前、いつの間に・・・。」
そう問いかける俺の声を無視して、一色も自分の弁当を机の上に置いて蓋を開けた。
「だって、生徒会室だと副会長と書記ちゃんが二人でお弁当食べてるせいで、わたしの居場所が無いんですよー。」
「知らん知らん。ってか、泣きマネするな。あざといから。」
両手を目に当てて泣き真似をしようとした一色は、一転して満面の笑顔で言葉を続ける。
「それに、せんぱいだってかわいい女の子に囲まれてお昼ご飯が食べられるんですからいいじゃないですか。」
言われてみれば・・・。そう思い、部室の中を見渡す。
雪ノ下に由比ヶ浜、それに塚原さんに一色。女子4人に対して、男子は俺1人。
あれ?なんだか急に緊張してきた・・・。
緊張のあまり、口にしたおにぎりの味が変に・・・いや、これは桃入りのおにぎり?でした。てへっ☆