【前回のあらすじ】
期せずして由比ヶ浜宅に訪れることになってしまった比企谷 八幡。
寒さに凍える比企谷を迎え入れたのは由比ヶ浜の姉、もとい、母親であった。
由比ヶ浜の母親と会話を交わす八幡。だが、そうするうちに時間は過ぎて、結局、由比ヶ浜を自転車の後ろに乗せて学校へ向かうことに・・・。
早朝の学校。
こんな朝の早くに学校に来ている物好きは俺達くらいかと思いきや、すでに多くの生徒が登校しているようだった。
かすかに聞こえるベースギターやドラムの音をBGMに、グラウンドでは野球部やサッカー部が朝練に勤しんでいた。
そして、なぜかラグビー部の連中はグラウンドの片隅でA●Bの曲に合わせてダンスの練習をしていた・・・。
ってか、おい、ラグビー部。ラグビーの練習はどうした?
心の中でラグビー部の連中にツッコミを入れつつ、自転車置き場から生徒用昇降口へと急ぐ。
生徒用昇降口。
かわいくラッピングされた小箱がたくさん詰まっている下駄箱の隣の扉を開き、上履きを取り出すと脱いだ外履きを放り込んで蓋を閉める。
何の感情も出さず機械的に靴を履き替えた俺は、教室に向かって歩き始める・・・。
「はい!OK!」
ようやく、塚原さんからOKをいただくことが出来た。
テイク3でOKが出たのは俺が演技に慣れてきたからなのか、はたまた俺のレベルに合わせて塚原さんが妥協した結果なのか・・・。
「二人ともお疲れ!それじゃあ、撤収しようか。二人は小道具の回収お願いね。」
「OK、えーりん。はい、ヒッキー。」
塚原さんの撤収指示を受け、由比ヶ浜がビニール袋を差し出す。
「おう。」
由比ヶ浜からビニール袋を受け取ると、隣にある葉山の下駄箱を開けて中に詰まっていた小箱をすべて回収して詰め込む。
「ほら、由比ヶ浜。これを・・・ん?」
回収した小道具が詰まったビニール袋を手渡そうと袋の中を見てみると、小箱の山の中に封筒が紛れ込んでいるのが見えた。
「おい、これって・・・まさか。」
女子が好んで使いそうなファンシーなデザインの封筒には、『葉山くんへ』と可愛らしい丸文字で書かれていた。
「ヒッキー?どうしたの?」
「いや、葉山の下駄箱にこんなのが入ってた。」
「これって!隼人くんへのラブレター!?」
ビニール袋から取り出した封筒を由比ヶ浜に見せると、食い入るように身を乗り出してきた。
急に縮まった距離に戸惑い、手にしていた封筒を由比ヶ浜に押しつけるように手渡しつつ、一歩離れて距離を取った。
「まぁ、葉山の場合なら間違いなく本物のラブレターなんだろうな。」
「ラブレターに偽物とかあるわけないじゃん。ヒッキー変なの!」
なぜかドヤ顔で断言する由比ヶ浜。なんかちょっとウザい。
「ばっか、お前。ラブレターと言ったら・・・いや、やっぱいいや。」
ラブレターという物に幻想を抱いている由比ヶ浜に対して非情な現実ってやつを教えてやろうかとも思ったが、俺の心の奥底に眠っているトラウマを呼び起こしそうな気がしたのでやっぱりやめておくことにした。
ほら、治りかけのカサブタを無理に剥がすと大変な事になっちゃうからね。
「とにかく、これは葉山の問題だから俺達が関わるべきでは無いな。」
俺は由比ヶ浜から手紙を引ったくるように奪い取ると、そのまま葉山の下駄箱の中に手紙を放り込んだ。
「ねぇ、ヒッキーは貰ったこと無いのかな?その・・・ラブレター・・・とか。」
「中学の時には結構貰ったぞ。でも、なぜか宛名は『ヒキタニ君』宛てだったが。」
これが電子メールだったら、宛先間違いでメーラーダエモンさんが自動で返信してくれるのだが、下駄箱に入れられた手紙に関しては俺がその都度廃棄処分をする羽目になるので面倒だったよ・・・。
なぁ、中学の頃の馬鹿者達よ。俺を騙すつもりなら宛名くらいは正しく書こうぜ。俺は『ヒキタニ』で無く、『ヒキガヤ』だからな?
「じゃ、じゃあ・・・高校生になってからは?」
由比ヶ浜がさらに質問を続ける。いつもなら俺の自虐ネタに対しては『キモい!』とツッコんで流すはずなのに、珍しいこともあるもんだ。
確かに、この高校に入学してからは、そういった悪戯を受ける頻度は減った気がする。
なにしろ、中学の同級生達の知能レベルでは進学不可能な高校に進学したおかげで、連中との縁を切ることが出来たからな。
高校生になってからは、悪戯される以前に存在自体が認知されないくらい・・・幽霊部員ならぬ幽霊生徒と呼べるレベルだ。
あ、でも・・・
「あ・・・でも、去年の今頃だったかな。下駄箱に手紙が入っていたことがあったな・・・。」
俺がそう言うと、由比ヶ浜はギクリと肩を震わした。
「ただ、宛名が『ひきがや はちまん君へ』と、ひらがなで書かれていたんだよなぁ。うちの学校の生徒にしてはアホすぎんだろと思ったな。」
仮にも進学校の生徒なら、俺の名前くらい漢字で書けるだろうに。
「あ、あほ・・・。だって、ヒッキーの名前、漢字難しかったし・・・。」
なぜか由比ヶ浜はガックリと肩を落とし、何やらブツブツと独り言を言っているようだ。
「どうした?由比ヶ浜。何か言ったか?」
「え?い、いや、何でも無いし!で、ヒッキーはその手紙どうしたの?」
「いや、明らかに怪しすぎんだろ。開けるのも怖かったしそのまま捨てた。」
「す・・・捨てられた・・・。ぁぅ。」
「どうしたんだ、由比ヶ浜。もしかしてその手紙の送り主に心当たりでもあるのか?」
「へ?い、いや、し、知らないよ!あたし、何も知らないから!」
由比ヶ浜がオーバーすぎるリアクションで否定する。顔も真っ赤だし、熱でもあるのか?
「結衣ちゃん、比企谷君。早くしないと朝のHRに間に合わなくなるよ。」
その時、撮影機材を仕舞い終えた塚原さんが急かすように言った。
「じゃ、じゃあ、えーりんと荷物置きに行くから、ヒッキーは先に教室に行ってて!」
「お、おう。」
「それじゃあ、比企谷君。放課後に奉仕部の部室で。」
「わかりました。」
映像研究部の部室に荷物を置きに行く塚原さんと由比ヶ浜の背中を見送り、俺は教室へと向かう。
今日は5時半に起きたせいで、まだ授業前だというのに家に帰りたくなるほど疲れ切ってしまっていた。
こうなったら英気を養う為に、授業が始まるまでに少し眠るとしよう。
× × ×
そして、放課後。
今朝と同じく、かすかに聞こえてくる楽器の音をBGMにグラウンドでは陸上部やサッカー部が練習に励んでいた。
そして、ラグビー部は●KBの曲に合わせて一糸乱れぬダンスを行っていた。
「おい!大和!指が伸びていないぞ!」
「すいません!」
「『フライングゲット』の時の決めポーズはこうだ!この時のこの角度がポイントだ!」
「うっす!」
「よし!じゃあ、もう一度、通していくぞ!」
ラグビー部の連中、どんだけ練習してるんだよ・・・。ってか、ラグビーの方は大丈夫なのか?
さて、俺達と言えば、本日予定されていた撮影も無事に終了し、奉仕部の部室で部長の帰りを待っているところであった。
雪ノ下が戻ってくるまで手持ちぶさただったこともあり、俺は鞄の中から以前配られた脚本を取り出し、パラパラとページを捲った。
「今日は、このシーンまで撮影したから・・・残るは告白のシーンだけか。」
だが、俺の手元にある脚本では告白のシーンの部分は空白のままであった。
「あの、塚原さん?俺がもらった脚本、告白のシーンが書いてないんですけど。」
「あ、告白シーンね。結衣ちゃんが告白のシーンはNGだって。」
「え、NGって・・・じゃあ、ラストシーンどうするんですか?」
「だから、比企谷君の肩越しに結衣ちゃんの顔をグイッとズームしてテロップをドーン!っとするつもり。」
撮影機材をせっせとバックに詰め込んでいた塚原さんが俺の疑問に答えてくれた。
「はぁ・・・で、肝心のシーンがNGって、どういうことだ?由比ヶ浜。」
「えっと、ほら!やっぱり、告白は二人っきりの時にしたいというか・・・されたいというか・・・。」
俺が問いかけると、由比ヶ浜は真っ赤な顔で俯き、指をモジモジとさせながら呟いた。
「お前だったら、告白なんてするもされるも慣れてんだろ?何を今さら・・・」
「そ、そんなこと無いよ!あたし、告白とかした事もされた事もまだだし。」
「マジかよ・・・。」
以前聞いた話だと、総武高男子の中では由比ヶ浜の人気は結構高く、戸部曰く『競争率が高い』らしい。
その由比ヶ浜が未だ誰からも告白されていないというのは、意外というか・・・。
「まったく、うちの学校の男子連中も意気地が無いというか、ヘタレばかりだな。」
「本当だよ。一人の例外も無く・・・ね。」
「ヒッキーが、それを言うかな・・・。」
あれ?塚原さんと由比ヶ浜から厳しい視線を向けられているような気がするのは、どうしてなんでしょうね?
「じゃあさ、ヒッキーはしたことあるの?告白とか。」
拗ねたように口を尖らせた由比ヶ浜が言葉を続ける。
「お、俺を甘く見るなよ。告白くらい今までに何度もやって・・・」
その時、脳裏に京都にある竹林の光景が思い浮かぶ。
反射的に由比ヶ浜の方を見ると、もの悲しげな表情で俯いている。どうやら由比ヶ浜も同じ光景を思い出したのかもしれない。
修学旅行の時のアレは、依頼達成のために行った芝居のようなものであり、あれは告白では無く、アレであり、そうアレなので・・・。
まぁ、アレはノーカンということで。
「ちゅ、中学の時なんか、女子にちょっと優しくされたりだけで告白してフラれてきたからな!」
「告白してフラれるまでがセットなんだ!」
良かった。塚原さんはドン引きせずにツッコんでくれた。
女子が見せたちょっとした優しさを都合良く解釈しては期待して、そして相手に自分の願望を押しつけて、無残に打ち砕かれては失望する。
本当に、何やっていたんだろうか・・・中学の頃の俺は。
「ま、まぁ、あの時は若気の至りと言うことで・・・。今では告白してもお互い不幸になることは重々承知してますので。」
修学旅行の一件でもそうだが、俺が告白した時は間違いなく碌でもない結果になっているような気がする・・・。
「いや、ドヤ顔でそんなこと力説されても・・・。」
塚原さんはこめかみを押さえ、困った表情で呟いた。
「じゃあ、もしヒッキーと同じ中学だったら・・・あたしもヒッキーに・・・。」
由比ヶ浜は頭を抱えたまま、訳のわからない事を呟いているし・・・。
どうした、由比ヶ浜?考えすぎで思考回路が変な事になっているのか?
そんなときには甘い物でも摂取してみるといいぞ。とりあえず、マッカンでも飲んでみるか?
と、マッカンの事を考えたら、なんだか無性にマッカンが飲みたくなってきたな。
雪ノ下もいないことだし、今日は紅茶では無くマッカンで一息つくとしようか・・・。
そう思い席を立つと、部室のドアが開かれ、雪ノ下が疲れた顔で部室に入ってきた。
「あら、塚原さんに由比ヶ浜さん。お疲れ様。」
「お疲れ様、雪ノ下さん。」
「ゆきのん、おつかれー!って、ゆきのん!その格好どうしたの!?」
由比ヶ浜が驚いたのも無理はない。
部室に入ってきた雪ノ下は、なぜか体操服のジャージを上下に着用し、動きやすくするためかピンク色のシュシュを使って長く美しい黒髪を後頭部で纏め上げていた。
その上、まるで2~3kmくらい──いや、体力の乏しい雪ノ下だったら500mくらいか?──ランニングしたかのように疲れ切った表情を見せていたからである。
「ちょっと生徒会の手伝いを・・・ね。」
「生徒会の手伝いって、何をやっているんだ?」
「あら、あなたもいたのね。大根役者くん。」
「せっかく心配してやってるのに、その言いぐさかよ・・・。ってか、なんだよ『大根役者くん』って。何のヒネりも無いぞ。」
「う、うるさいわね・・・とにかく、着替えるから出て行ってちょうだい。」
明らかにおかしい・・・。
俺への罵倒もさることながら、会話に切れ味が無さ過ぎる。
普段の雪ノ下なら銘刀クラスの切れ味があるのに、今回ときたら土産物の木刀・・・いや、竹光レベルと言っていい。
雪ノ下によって廊下に追い出された俺は、そんなことを考えていたが・・・。
「まぁ、無理に聞く必要も無いか。それよりもマッカン飲んで一休み・・・っと。」
そう思い直し、暖かいマッカンが待つ自販機に向かうことにした。
× × ×
ピッ!ガコン!
自販機の取り出し口から熱々のマッカンと取り出し、まずはカイロ代わりに手を温める。
マッカンが程良い温さに落ち着いた頃合いを見て、プルタブを開けて甘味たっぷりのコーヒーを喉に流し込む。
「はぁ~、染みるなぁ。」
それにしても、今日のマッカンは本当に癒やされる。なぜだろうか?
なんてことは無い、朝のラブレターの一件、さっきの告白ネタの一件と、過去の古傷を思い出す出来事が重なったからに決まっている。
ダメだと思いながらも剥がれかけたカサブタを剥いていたわけだ・・・。俺もまだまだ子供だな。
さて、立ちっぱなしなのも疲れるので、近くのベンチに腰掛けて暖かいマッカンをちびちびと堪能していると、
「えいっ!」
と言う声と共に、頬に熱い何かを押し当てられ、飛び退くように振り返った。
「こんなところで油を売ってたんだ。」
暖かい缶ポタージュを手にした由比ヶ浜が、呆れ顔でそこに立っていた。
「由比ヶ浜かよ。びっくりしたじゃねーか。」
「えへへ、ごめんね。えーりんがゆきのんと話したいって言うからさ、あたしも追い出されちゃった。」
先程俺の頬に当てた缶ポタージュを軽く振りながら、由比ヶ浜が俺の隣に移動してきた。
「ヒッキー。そこ、いいかな。」
「ああ、かまわねーぞ。」
俺は、そう答えてベンチの端の方に移動する。
「それじゃあ・・・よいしょ!」
と、由比ヶ浜がベンチの中央、端に寄った俺のすぐ隣に腰掛けた。
いやいや、普通は端に座らないか?なぜ、そんなに近いところに座る。
由比ヶ浜は、困惑する俺を気にもしない様子で手にしていた缶ポタージュを開けると、グビッっと一気に呷った。
「はぁ、おいしぃ~。」
お前は、おっさんか。
「ねぇ、ヒッキー。撮影、明日で終わっちゃうんだね。」
両手をすりあわせて空になった缶を転がしながら由比ヶ浜が話し始めた。
「そうだな。二日しか経っていないのに、随分と長く撮影してた気もするがな。」
そう、たった二日しか経っていないのに、いろんな事がありすぎて数週間撮影していたような気分である。
「そうだね。ヒッキーは最初の頃、何度も撮り直しさせられていたもんね。」
「まったくだ。ぼっちにとっては拷問に等しい苦行だったぞ。」
「むー!またそんな捻くれたことを言うんだから。」
由比ヶ浜は、ぷくっとむくれた表情をし、上目遣いで俺を睨み付けた。
「そ、そういう由比ヶ浜は上手く演技できてたんじゃないのか?案外、女優とか向いてるかもな。」
俺が言うと、由比ヶ浜は
「そんなことないよ。」
と、軽く頭を横に振って穏やかな口調で否定した。
「だって、あたしは・・・演技じゃなかったから。」
「は?」
「だから、あれは演技じゃなくて、去年のあたしの・・・」
由比ヶ浜は真っ赤な顔で俯き、スカートの裾を握りしめながらポツリと呟く。
「演技じゃ無い?由比ヶ浜、それは・・・」
俺が由比ヶ浜に問いただそうと口を開いたとき、由比ヶ浜のスマホが着信音を鳴らした。
「あ、えーりんからだ。お話終わったみたいだから戻ってきてだって。」
スマホを取り出し画面を一瞥した由比ヶ浜は、すっと立ち上がると自販機横のゴミ箱に駆け寄り手にしていた空き缶を放り込んだ。
「ヒッキー!早く部室に戻るよ!」
由比ヶ浜に急かされた俺は、渋々立ち上がるとマッカンの残りを飲み干し、由比ヶ浜の後に続いて部室に戻った。
× × ×
部室に戻ると、雪ノ下と塚原さんが帰り支度を済ませていた。
ってか、塚原さんの荷物が昨日と同じくらい凄い量になっているのだが・・・。
「塚原さん。この荷物は・・・まさか。」
「あー、えっと・・・。昨日の晩で撮影できなかったシーンがあって、それを今晩、雪ノ下さんの家で撮る予定なの。」
「じゃあ、えーりんがさっき ゆきのん と話していたのって・・・」
「うん、もうこれ以上材料は無駄に出来ないからね・・・。」
「あ、そ、そだね。ごめん。」
先程の会話から察するに、由比ヶ浜は調理シーンの撮影でいろいろとやらかしたみたいだな。
由比ヶ浜に料理をさせることの危険性に気付いた塚原さんは、雪ノ下に代役を頼んだのだろう。
うん。今回のお話はドキュメンタリーでなくフィクションである。ある程度の脚色は問題ないだろう。
あれ?そうなると、今日の帰りもひょっとして・・・?
勘弁してくれよ・・・。この後荷物持ちとか、今日は流石に無理だぞ。
「今日はタクシーを呼んでいるから大丈夫よ。」
俺の考えが顔に出ていたのか、すかさず雪ノ下が俺の疑問に答えてくれた。
そっか。今日はこのまま何事も無く家に帰れそうだ。
「えー!タクシーなんて勿体ないよ。ヒッキーにも荷物持ってもらって、みんなでゆきのん家に行こうよ。」
おい、由比ヶ浜。余計なことを提案するんじゃねぇ。
「駄目よ由比ヶ浜さん。そんな事したら、そこの餓えた狼を私の家に呼び込むことになるわ。」
あの、雪ノ下?
反対してくれるのはありがたいのだが・・・ほら、もう少し言い方があるのではありませんか?
「ま、まぁ、比企谷君には昨日と今日の朝とで頑張ってもらったから。今日は早く帰って休んだ方が良いと思うよ。」
塚原さんが言っていることは至極普通の事のはずなのに、感動のあまり涙を流して感謝したくなる気持ちになるのはなぜでしょうかね?
「んじゃあ、俺もう帰って良いか?」
今日は、朝の5時半に起こされ、午前7時から学校にいたのである。今日くらいは早く帰ってゆっくりしたいところである。
「そうね。もうこんな時間では出来ることもないでしょうし、お疲れ様。」
「比企谷君。お疲れ。」
「ヒッキー、お疲れ!明日も頑張ろうね!」
もはや、言葉を返す気力すら無く、彼女たちの言葉に軽く手を振って部室を後にした。
あー、自転車で家まで帰るの面倒くさいなぁ。雪ノ下みたいにタクシーで家まで帰れたらなぁ。
・・・雪ノ下の奴、自分が疲れているからタクシー使うって言い出したんじゃねーだろうな?
などと、疲れのせいか突拍子も無いことを考えてしまったなと苦笑いし、残っている気力を振り絞って自転車のペダルを漕ぎ、家路を急いだ。