「まず、見た限りでのユウ、お前の能力は性別の垣根を越えるというもの。それは分かってるな」
イネア先生が淡々とユウに向かって話始めた。ここまでは私にも分かっている話だ。視界の端でユウが首を縦に降るのを捉えた。
「それで、だ。女の体の方になるとこれまた異常に高い魔力反応が出ている。で先ほどもチラリと溢したがこれに対し男の体には魔力と相反する力である気が満ちている。
まぁ、順を追って説明しようか。
この世界において気力と魔力というのは互いに反発し合う。
その理由についてだが、魔力というのは外界の要素を自己の内に取り入れて魔法などに利用する力であるのに対し、気力といものが自身の内にある力を押し出すものであるためだ」
その通りだ。これは身を持って感じている私に気というものが感じられないのは気力を抑えて私が絶えず魔素を巡らせ続けているからだし。あ、これは乙女の秘密なんだったイッケネ!
ユウの方を見ると何やら難しそうな表情でしっかりとイネア先生の発言を咀嚼しているようだ。おっと私の出番かな!?
「だから要するに!魔力と気力は真反対の力だけどユウは別、二つの力をその変身で使いこなさちゃうのだ!」
「じゃあ、俺は魔法も気力もその両方を扱えるということですか?」
少し間が開き声が響く。完全に私の説明がスルーされている気がする。むむぅ。
「あぁ、それも飛び切り高い水準でな」
イネア先生がそれを肯定する。つまりユウの力の本質は外、内に捕らわれず力を使えるというものみたい。
「ユウ、ここからは憶測も含むのだが、お前は女のとき、お前の奥底で核となっている男の部分から、常に生命力などを供給することで生命として成り立っているようだ。
つまり、女の身体それ自体には生命力はないというわけだ。
だからなのか、お前の女の身体には、普通の生物ならば必ず持っているはずの、生命力を操る機能そのものがない。
もっと言えば気力というものが備わっていない」
「あっ」
そう呟くとユウは無言で変身能力を使った。なんか面白くて笑っちゃう。
ユウは女の子の体に戻ると体型差で乱れた服装をチョイチョイっと整えて手の平をグーパーグーパーしている。
心なしか頬が紅潮していてかわいい。
あはは、さっきまでの変態的な格好思い出しちゃってるのかな?
「じゃあ、私のこの身体って、操り人形みたいなものなんですか」
「そういうことになるな」
おー何事もなかったかのように切り出した。イネア先生をチラ見するとこっちもなんだかいかにも笑い出しそうな感じだ。
「くっくっ、しょうがない。いちいち変身するのに服装を気にしても仕方なかろう?私が今度便利な服を用意してやる。魔力の有無に反応して形状を変える服をな」
「そんなものが作れるのですか?」
「あぁ、作れるとも。任せておけ私を誰だと思っている」
「おーこれが年の功ってやつか!さすがですねイネア先生!」
「おっフィーネ、なんだまだ遊び足りないか?それともなんなら特別授業の時間にしようか」
イネア先生がそう言って気剣を作り出す。なんでかさっきより怒気が増してる気が…えっ、ねぇなんでよ!
ウッソでしょ、ええええええ!
思いっきり弾け飛ばされた。
道場から跳ね飛ばされ直線運動を続ける。飛んでる私、超飛んでる!むしろ吹っ飛んでる!
******************
フィーネが流れるような展開で居なくなった所でイネアさんが真面目なトーンで私へと向きなおる。
「さて、ユウ。話をまとめるとだな。お前は男と女二つの身体を使い分けることで魔力も気力も扱うことが出来るというのが現状わかっていることだ。だが、恐らくそれはお前の能力の本質ではないと思う。これに至っては根拠が乏しいがそれこそが他のフェバルに対抗するための鍵だとも思う」
【神の器】全くもって使えない能力だと思ってたそれにフェバルに匹敵できるかもしれない使い道があることを嬉しく思った。
ウィルに蹂躙され、不毛地帯に放り込まれ何の役にも立たなかったこの能力。
厄介事ばかり懸念していたこの能力。
それに魔力と気力の共存、他にも何かフェバルに届き得る何かがあること。
その今は何も変わらない私だけど『資質がある』そういわれた気がして戦慄する。
沢山の情報に混乱する頭の中【神の器】と名付けられた力の理由をどこかで理解した気がした。
「まぁ、核心的な面は彼女にも聞かれぬほうがよかっただろう。彼女には悪いがな。ああ、そうだこれはフィーネにも伝えておいて欲しいのだが、結局のところ私はフェバルについては何も知らない。こればかりは力に慣れずに申し訳ない」
「そうだったんですか!?」
ここまで事情に通じているならと期待していたんだけど。
「すまない、師は口をつぐんで大事なことは何一つと教えてくれなかった」
その言葉からは彼女の強い思いを感じた。悔しさ、それ以上の何かを。
きっと私たちは、そのジルフという師への大事な手掛かりだったのだろう。
この短時間だったがイネアさんの師への思いというのは極めて強いものと感じた。きっと彼女としても期待を裏切られたようなものなのだろう。
私としては何かできるわけではないけれど。
そんなことを考えているとイネアさんが柔らかく笑って言った。
「なに、どうであれ私の師への思いは変わらんさ。だからこそ、ユウそしてフィーネお前らを私は全力で助けたいと思う。そしてお前には取分けこれからも戦っていけるようにコイツを教えてやる」
そういうとさっきフィーネを弾き出した気剣をクルっと回して私へと突き付けた。この時、この瞬間、私の生涯忘れることが出来ない師匠が誕生した。
「ユウ、気剣術を学んでいけ。きっとお前ならものに出来る」
「はい!」
******************
「うぉぉおおりゃぁあ!」
風を操り引き返す。重力操って加速する。イネア先生の道場が見えてきた。
「ってい!」
風に乗って華麗に参上!この私止まることを知りません。故に追突ローリング!
入り口の向かいの壁に全身強打して勢いを止める。今回はバッチシ【守護】をキメてるから痛くも痒くもない!
あぁ、この力超便利。
そしてふと、二人の方を見る。この短時間で幾らか話が進んだようでそこには私を抜きにした信頼関係が成り立っていた。
「むむむぅ、ユウ。どうしたのコレ?」
「あ、フィーネお帰り。イネアさんの元に弟子入りさせて頂いただけだよ」
「私のことは先生と呼べ」
「はい!」
うーんなんか納得がいかない!
「イネア先生!はいはい!私も弟子入りしたい」
「お前はもう充分強いだろう?」
「ぐぬぬ、でもこう気剣術を元に魔法剣を体系化したいなぁって」
「ならば、私や私の指導を受けたユウから盗め。直接は教えてやらん」
もしかして、もしかしなくても、さっきの年の功発言根に持ってるよね!?
うわぁ墓穴掘ったら地雷出てきたぁー!二重破滅!
「はーい…分かりました」
「なに冗談だ。お前は自分の型があるからな…あまり手を加えない方がいいと思ってな。気剣術から学ぶのなら勝手にすればいい、その代わりと言ってはナンだがこの先ユウの相手を頼むかもしれないが構わないか?」
「うん、もちろん!」
「よし、決まりだ。今日は時間を取らせて悪かった。もう帰っていいぞ」
「はい、ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
感謝を伝えて気剣術科の道場を立ち去る。外に出るとすっかり日が暮れていた。
お久しぶりです。唐突なお話ですが、私の受験のために今年の更新はこれで打ち止めささて頂きます。
1年経ったら必ず帰ってくるのでまたお目にかかれるとそれほど幸せなことはありません。
また皆様に会えますよう一層、励んで参りますのでどうかよろしくお願いします。
航鳥