場所を移すということでイネアと名乗った金髪の女性は転移魔法というらしい魔法を使って私達を気剣術科の校舎へと連れ込んだ。「この距離なら歩けばいいじゃん」って言うと「あっ、そうだな。何か気が立ってたいたようでな、すまない」と真剣に返されてしまった。この人もきっといい人だ。根の善人オーラが半端ない。
気剣術科の校舎、といっても実質これは道場だ。木製の解放的な空間に板張りの床が広がっている。中々良い環境に見えるからここで修練を積む分に不足はないだろう。
「さて、招いといて茶の一つも出せないのは心苦しい限りだが早速、本題に入らせてくれ」
私もユウも静かに頷く。私達の中からここまでの何かを感じさせてしまったんだもん。実質、聞かないワケにはいかないや。まぁ、私の方は色々心当たりはあるんだけどね。
「まず、一つ最初に聞いておきたい。お前達、『フェバル』という言葉に聞き覚えはないか?」
体がビクッと震える。すると、隣で静かに話を聞いていたユウが徐に口を開く。
「フェバルをご存知なのですか!?」
えっ?ユウもなの?
「あぁ、少し縁があってな。私の師、といっても行方をくらませて長いのだが。ジルフ・アーライズという男だ。私情を挟んですまないが何か知らないか?」
「いえ、すみません。私もフェバルになったばかりで知ってるフェバルは私の他に2人くらいです」
「あぁ、それならそれでいい。主題に戻ろう」
なんだろう、私の知らない所で話がどんどん進んでしまう。
まぁ、いっかユウのことも気になるし。
「お前の気を読ませて貰った。なかなか特異な言い方をさせてもらうが、お前、中にもう一人いるだろう?」
ユウがハッと息を吸うのが私の元まで聞こえた。もう一人?どういうことなんだろ?
するとユウは私の方を見ると少し暗い顔をした。そして、一つ息を吐くと首を縦に振った。
私はどうしてユウがそんな顔をしたのかも分からなかったが取り敢えず全力の笑顔で答える。
フェバルってフェバルである事を肯定的に捉えられる人こそ稀有な存在のようだからユウにも何かあったのかもしれない。
「今までありがとう、フィーネ」
ユウがそう言った途端、彼の身長は少し伸び、体全体をガッシリとした筋肉が包む。髪が縮み、手足が少し太くなった。大枠はユウのままだったけどそこにいった『ユウ』は私がよく見知った彼女と違う体に変わった。
「ごめんねフィーネ騙してて。俺、本当は男だったんだ」
体つきがシッカリした『ユウ』になってもその声音は若干低くなっているものの弱々しいモノだった。
まるで初対面の時のユウそのままみたいで、私はあぁ、なんだユウじゃん!って勝手に納得してしまった。
すると女物の服を纏った『男の子のユウ』が如何にも可笑しくて私は笑いを堪えられなかった。
「あははははは、ひぃーおかしい。ユウがユウ君でユウ君が女装してる!あはははは」
雰囲気ぶち壊しだ。ヤッタネ!遠い昔、私に誰かがシリアスブレイカーとかカッコいいあだ名を付けてくれたような気がしたけど、それもここに極まれりって感じだ!
するとイネアさんも私に同調して笑っている。
すると、ユウは拗ねたように頬を膨らませた。だけどその表情はどこか朗らかだ。
「性別騙して相部屋しようとしてたんだよ?もっと怒ってもいいのに…」
「だって多分だけど男の子ユウも女の子のユウも同じユウでしょ!なら別に何も問題ないじゃない!」
そう言うとユウは許してあげたのに口ごもってしまう。
「もう、フィーネといると調子狂っちゃうよ…」
気の抜けたような笑みを浮かべてそう言った。とっても嬉しそうで優しい表情。まだ知り合ったばっかりだけどユウっぽいなっね思える顔だった。
「やっぱりなそっちの体だと気が有るのか。さっきの口振りから察するにそっちが元々の体だろう?」
「はい。ほんの一週間前なら俺はこの体で平凡な学生生活を送ってましたよ」
「なるほどな、この星が初めての旅先だったワケだな。すまないが師から私と同じ境遇の人が現れたら助けてやってくれないかと言葉を残されていてな。多少のことなら力になれるかもしれん。お前の話、聞かせてくれないか?」
そう言うとまた張り詰めた雰囲気が生じる。ユウは苦労したのかな?流石にシリアスブレイクは自重してユウの言葉を待つ。すると、ユウはユウにあった、ありとあらゆることをゆっくりと話始めた。
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話の内容はこういうものだった。
元々、ユウは地球という星の学生をしていたらしい。仕事(バイトというらしい)と勉強を両立させるそんな忙しい日々を送っていた。
そこに私の先輩、エーナ先輩が例の如く彼の事を殺しに来たらしい。
あぁ、星海ユウって名前どこかで聞いたと思ったらエーナ先輩が言ってたのか!てかエーナさんまた失敗してたのか!
エーナ先輩は私の時と同じようにフェバルとしての目覚めとその運命についてユウに説明をしたらしい。ところがそれを邪魔するかのようにウィルというフェバルが現れて彼を早くもフェバルとして覚醒させて遊ばれて嫌になるほど体を弄られたらしい。
ユウの能力は【神の器】と名付けられ性別の垣根を超えるという一見それだけのものでウィルに抗える要素なんて塵芥ほどもなかったそうだ。
挙句残された言葉は「ユウ。お前は、今から僕のおもちゃだ」だそうだ。
そしてユウは生まれ故郷から強制的に切り離されここに来たということらしい。
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酷い話だ。話には聞いていた世界の理を揺るがす存在。そんなエゴがまかり通ること。そんなものにユウは面と向かって鉢合わせしたのだ。そんなものトラウマにしない方が無理だろう。
事実、ユウがウィルの事を語るときの彼は顔面蒼白といった様子で見ていて心配になるものだった。
「なるほど、よりによってあのウィルに目をつけられたのか…」
イネアが神妙な面持ちでそう呟く。
「ヤツを知ってるんですか?」
「あぁ、一度対峙したことがある。ラシール平原。分かるか?」
ユウが頷くので私も知らないが同調する。
「あそこには昔、魔法大国が存在していてだな、ヤツはそれをほんの気紛れでぶち壊したのだ。たった一晩でな。まぁ、公には魔法実験の大規模失敗で滅んだとされているがな…」
「そ、そんな…とんでもないヤツに…俺は…」
ユウが恐怖、絶望そのどれともつかない顔をする。私はただ事の深刻さを受け止めるのに精一杯だった。ウィル、ユウをこんなにするなんて絶対許さない。
ただそんな思いだけが私の中に生まれた。
「あぁ、奴の【干渉】は恐ろしい能力だ。恐らくフェバルの中でもずば抜けて戦闘特化型なのだろう。結局ヤツはその魔法大国エデルを滅した後に、何処かへと消え去ってしまったのだが――もし奴がその気になっていれば、世界は丸ごと滅びるしかなかっただろうな。それくらいヤツの力というものは圧倒的だった。私もフェバルである師と共に挑んだが、全く敵わなかったよ。むしろ私は足手まといだったがな……」
遠い目をしてイネアさんはそう言った。彼女も決して弱いワケではないのに…諦観に苛まれた顔をしてそう言った。
「辛いことを思い出させてすまなかったな。ユウ、お前のことは大体わかった。その体についても後でもう少し詳しく話してやる。お前も分からないことだらけだから知りたいだろう?」
するとユウは少し顔に光を取り戻すと「はい!」と言った。
「では、少し待っててくれ。次はユウ以上に異質なお前、フィーネの話を聞かせてくれないか?これまた変わった話だが、お前いつからそこで停滞している?」
停滞という核心を突くようなイネアさんの言葉に私の気がギュッと引き締められるのを感じた。
お久しぶりです。宣言通りに投稿できず申し訳ないです。
さて、ご閲覧ありがとうございます。この挨拶も定型文となりつつありますが、毎回目を通してくださる読者様には本当に心からの感謝を。
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