二度あることは三度ある。
どこの世界の言葉かは知らないが、言い得て妙だと思う。
僕は再び目を開けることとなった。
立ち上がろうと思って身体に力を入れるが動けない。
寒さでまだ動かないのだろうかと考えたが違うようだった
手足を縛り付けられたまま椅子に座らされていた。
視界の右手には暖炉があり、そこでぐつぐつと何かが煮えていて、白い蒸気が鍋から上がっていた。
何を煮ているのか気になったところで、後頭部を何者かに捕まれてしまう。
「動かないで」
女の声がした。
聞き覚えのある声だった。
「動いたら殺すから」
わざと低くしたような声だった。
目の前にナイフがちらつく。
「あんたを助けたのは私。二つの質問に答えてくれたら見逃すから」
なるほど。
牢獄で男と喋っていた女はどうやら彼女のようだった。
「…ああ」
重たい口を動かして僕はそう答えた。
「一つ目、あんたの名前は?」
「…ココウだ」
「二つ目、私の兄を殺した?」
「…わからない。…もう少し情報をくれないか」
頭の上に置かれた手に力が加えられる。
「『ウンディーネ近衛団』の副団長よ」
ウンディーネ近衛団。
懐かしい言葉であり、因縁の言葉でもあった。
革命が成功したあの夜に激戦を繰り広げた相手だった。
副団長のことは良く憶えている。
剣捌きが上手くて、あの日までに何度も苦戦を強いられた。
戦場で出会いたくない奴だったが、それと同時に彼にはシンパシーも感じていた。
出会ったのが戦場でなければ、彼とは良い関係になれたような気がしていた。
だからこそ、彼とはあの夜に決着をつける気でいた。
「…君の兄のことは思い出した。でも、答える前に一つ聞かせてくれ。僕を恨んでいるのか」
「私は…」
そこで彼女は声を詰まらせた。
「…私は兄さんを死なせた人を恨んでいる」
その声は震えていた。
手も震えていた。
その言葉と震えは僕の傷を深く抉った。
なぜ、僕は殺すことしかできなかったのか。
他に何か良い手段があったのではないのか。
この3年間ずっと考えてきた命題を再び突き付けられた気がした。
「ああ、殺したのは僕だ」
「そう」
頭から手が離れた。
「殺したことを認めるのね」
行き場のなかった思いの矛先が全てこちらに向いたのを感じた。
「ああ」
後ろで殺気が高まる。
これでいいのだ。
これで彼女の気が晴れるのなら僕の命にも価値が出るというものだ。
無駄死にをしなくて済んだ。
この運命を僕は甘んじて受け入れよう。
おそらく後ろではナイフを構えた彼女がいるだろう。
死を覚悟したところで、部屋の扉が開いた。
「おい、報告がまだだぞ」
男が部屋に入ってきた。
部屋の真ん中で椅子に括り付けらた僕とその後ろにいるであろう彼女を睨む。
「何をしている?」
「この男はまだ生きていたので殺そうとしていたところです」
彼女は素早くそう答えた。
「なぜ、あの場所に捨ててこない」
「ここで殺した方が確実だと思ったからです」
「そうかで、なぜお前がナイフを持っている? そんなものを持つ許可を与えたおぼえはないぞ」
ナイフが床に落ちる音がして、椅子の前に転がってきた。
それを見た男の目が光った。
「命令違反だ、113番。罰を与える」
男は持っていたランタンを床に置き、手首に付けたブレスレットをこちらに見せる。
「お前にはもう少し仕事をしてもらえると思ったが残念だ。ここで死んでもらおうか」
男の言葉が言い終わらないうちに女が悲鳴を上げた。
首の部分を手で押さえたまま僕が座る椅子の隣に崩れてしまう。
「俺がこの男を殺すまでそのままでいろ。その後、ゆっくり殺してやる」
俺と彼女を交互に見てから男はそう言った。
「囚人、凍死できなかった運の良さに免じて聞いてやる。言い残すことはあるか」
ナイフを回収した男はそう聞いた。
床に倒れた彼女に目をやる。
彼女は息を荒げて必死に耐えていた。
「…あなたは火の民ですか?」
僕は男の顔に目を戻してそう言った。
「その通りだ。自分が誰に殺されたかを知りたかったのか」
男はナイフをこちらにわざとらしく見せつけながらそう答えた。
「ならば…火を後ろに置いたのは間違いでしたね」
部屋中の火が一瞬にして消えた。
続いて聞こえるのは男のくぐもった声。
そして、何かが倒れる音。
暗くなった部屋には静寂が漂った。