ED:六兆年と一夜物語/IA
雪の中に建物が見えた。
――廃墟。
その言葉がよく似合う建物だ。俺は隣に立つ人物と共にその建物、暫定的にではあるが“カグヤの城”と俺たちは呼んでいる、の中へと足を踏み入れる。
建物の中に入った俺が抱いた第一印象は暗い、だ。ぶっちゃけ、大人の肝試しにも使えそうな雰囲気が漂っている。そう、前世でいう大学生がイチャコラするスポットだ。呪われてしまえ。俺は任務で、しかも、隣にいるのが不愛想な男、しかも家庭持ちという誰がどう見ても憐憫の目を向けてくる状況だ。少し嘘を吐いた。俺のかつての師ならば、ハッスルして隣の男に襲い掛かることだろう。大人の魅力溢れる美中年、そして、妻子持ちとかあの人にとっては舌なめずりをするレベルで大好物に違いない。『昼ドラは私の癒しよ』とか言っていたし。
ドロドロした物語が好きな俺の師ではあるが、昔と比べたら随分と丸くなったものだ。昔は文字通りドロドロしたものが好物だった。血と悲鳴と嗚咽。思わず目を背けたくなるような悲しく苦しい光景をいくつも作り上げてきた世紀のシリアルキラーである師の姿を見て、幼心にこう思ったものだ。
きっとこの人なら愉悦部に入れるのだろうなって。
「人が住んだ形跡はない。随分と昔に放棄された拠点と考えるべきだろうな」
隣の人物が呟いた言葉は俺を現実へと引き戻す。……まったく、慌ただしいな。
「そう結論付けるのはまだ早いんじゃないか? ほら、ここはフェイクで庭のどこかに本来の居室までの抜け道とかあるっていう可能性もある」
「どうだろうな?」
そういって、一旦しゃがんだ相棒は地面から一本の巻物を拾い上げた。
「フェイクなら情報を残していく必要はないだろ?」
「フェイクだけなら、な。つまり、考えられる可能性は二つ。一つはここが本当にカグヤの居城だった場所で、昔に破棄された拠点であること。で、もう一つは……」
グワンと重いものを思いっきり結界に叩きつけたような音がした。傍の空間が揺れている。揺れの原因の一つは俺が持つ力の一片である天道 神羅天征の術。そして……。
「その巻物は“餌”ってこと。そこんところ、詳しく教えてくれない?」
振り返ると、赤い光が凝固したような鉞を持つ巨漢の男がいた。彼の持つ赤い鉞は俺が発動した神羅天征の術によって、俺には届くことなく空中で阻まれている。
「
「貴様らに教えることなど何もない!」
俺が眼を細めると空間が爆発した。前方、つまり、鬼のような姿をした男の方へと放たれた斥力は軽々と男の体を吹き飛ばす。
と、吹き飛ばした男のチャクラが掻き消えた。いや、一瞬、消えたと錯覚するほどのスピードで移動しただけだ。だが、俺の隣にいる男の眼はそれを完璧に見切っていた。隣の男も鬼のような形をした男に続き高速移動によって、その姿を消す。
「千鳥!」
「ハッ!」
草薙の剣に雷の性質に変化させたチャクラを流し込んだ斬撃と鬼の男が振るった赤い鉞の斬撃が交錯した。膠着は一瞬。両者は別々の方向に飛ばされた。相棒は俺の隣へ、そして、鬼の男は崩れた屋根の残骸の上に立つ若い男の元へと地面を削りながら勢いを殺して動きを止める。
どちらも傷は一つも負っていない。だが、それぞれ、対する相手の力量が解ったのだろう。それで、動けない。どちらも迂闊な行動はすぐさま死に繋がるということを認識したに違いない。
「キンシキ、下がれ。少しこの者と話がしたい」
「ハッ!」
頭から角が生えた大男は手から赤いチャクラで作られた鉞を消した。
「貴様ら、カグヤではないな」
「その質問に答える前に一つ聞きたい。お前たちはカグヤの縁者か?」
牛のような角が頭から生えている若い男の確信めいた質問を質問で返す。『質問を質問で返すなあーっ!!』と怒られそうだと思ったが、そんな返しをしてくるのは俺の知り合いの中ではテンゾウだけだろう。中の人的に。
「縁者と言えば、そう。縁者じゃないと言えば、そうじゃない」
牛のような角を持つ若い男が立つ瓦礫の影からもう一人、男、いや、男と呼ぶには随分と若い。見た目は14、5の少年だ、が出てきて俺の質問に答える。
「ボクたちはカグヤと同じ一族。そういう意味だと、確かに縁者と言えるかもね。でも、ボクらがこの下賤な世界に降り立った理由。それはカグヤを殺すため。そういう意味だと縁者じゃないと言える」
「へー、カグヤって勘当娘だったってこと? 中々、ロックな奴だな。少し話をしてみたかったけど、まぁ、無理か」
「へぇ。続けて」
笑顔を崩さずに少年は俺に言葉を続けるよう促す。
ガキの癖に生意気なと思いながらも、それは表に出さない。ガキのすることに一々目くじらを立てるような心の狭い人間じゃないからな、俺は。
「カグヤは俺が消した。文字通りこの世から存在ごと消滅させた」
「下等生物がカグヤを消滅させた? 信じられないね。けど、カグヤのチャクラも神樹もこの世界を見渡しても見つからなかったし、カグヤがいなくなったということは信じてあげるよ。それに、君は隣の“うちはサスケ”とは違って……」
そう言って、言葉を止めた少年は唇を繊月のように歪ませた。
「……別に
少年の言い様に眉を顰める。
「何が言いたい?」
「君のことを知っているってことさ。もう少し詳しく言うと……」
「シシキ」
「いい所だったのに。どうしたの、モモシキ?」
「話し過ぎだ。控えよ」
「ハイハイ。今は君を立てるよ。ボクは静かにしておくね」
牛のような角を持つ男、モモシキはシシキと呼んだ少年から目線を俺に移す。
「して、別に来る者よ。名はなんと言う?」
「赤銅ヨロイ」
モモシキは頷くと一つ言葉を吐き出した。
「なるほど、覚えておこう」
モモシキの眼の周りに血管が浮き出る。
「大筒木の名に泥を塗った者としてな!」
「話が長い」
リキャストの時間はとっくの昔に過ぎた。
俺が掌を打ち鳴らすと、瓦礫から床へと降り立ったモモシキの両側から床が持ち上がり、彼を挟み込む。天道の力を作用させた単純な攻撃。それは脆く、モモシキの両腕でいとも簡単に砕かれてしまったが、陽動としての役割を十分に果たしてくれた。
天道を発動させた次の瞬間に投げたマーキング付きのクナイがモモシキの頭に迫る。奴は白眼保有者で、その視界は360°である。と言ってもあくまでも死角がないというだけの話。矢継ぎ早に繰り出される攻撃は一つ一つの動きを見切る写輪眼ならいざ知らず、視界が広いという特性のみの白眼では捉えきれない。そう踏んでのクナイの投擲だ。
しかし、モモシキは冷静だった。奴は両側から迫る岩の塊を体術で砕いたと同時に体を伏せ、クナイの進行方向から体を逸らす。状況判断のスピード、そして、判断したと同時に実行に移す胆力、どちらも見事と言える。だが、甘い。
「飛雷神 二の段」
「!?」
モモシキのチャクラが乱れる。突然、自分の顔面に足が迫ってきたら驚くのも無理はないだろうなと思いつつも、俺は足のスピードを緩めずモモシキの顔面に蹴りを繰り出す。
「けど、甘い」
「!?」
危険な声色を感じ、飛雷神の術を再び使ってサスケの元に戻る。状況はリセットされた。先ほどと同じように睨み合う状況にさせられたが、違いは一つある。
右肩を押さえ、掌仙術でそこをなぞるが切り裂かれた服は戻らない。傷は治るが、破れた服は俺が切り裂かれたという証拠だ。そして、もう一つ。押さえた左手を見るとべったりと血が付いていた。
「何をされたか分かっていないみたいだね?」
『シシキ』とモモシキに呼ばれた少年の声が廃墟に響いた。
「簡単な話だよ。君が飛雷神の術を使うことが分かったから、タイミングを合わせて斬りつけただけ」
シシキは自分が持つ紫色のチャクラで創られた長刀を軽く振る。
「ボクには全てが見えている。君の使う術も、君の過去も、君の正体も」
シシキはそう言って嗤った。その眼を紫色に怪しく光らせて。
「地の利は奴らにある。それに、奴らの能力を見定めるには時間が必要だ」
「……それもそうだな」
「一旦、引くぞ」
サスケの言葉に素直に頷く。ここで得られるものはもうないだろうし、ここでの戦いが長引けば不利になることが予測される。俺の飛雷神 二の段を見破り、更に俺に手傷を負わせることのできるレベルの戦闘技術。少なく見積もっても世界最高峰の戦力である五影と同等。2対3の状況で、しかも、相手の懐である可能性も高いカグヤの城で戦うことは避けるべきだ。
「引かせると思うのか?」
チャクラに殺意を乗せ、モモシキは一歩、足を踏み出した。
「引かせて貰う」
今のサスケは瞳力を使った直後。完全体
掌を合わせて術を発動させる。
「地爆天星」
俺が投げつけた黒い球は周りの瓦礫を引き寄せながらモモシキたちに迫る。
「これは逃げられたね」
そう言って、シシキは手に持つチャクラの刀で地爆天星の唯一の弱点である核を切り裂いた。その様子を横目に見ながら、サスケの肩に手を当てる。
イタチのような分析を一瞬で行ったのかと考えるが、それは違うと考えなおした。シシキのあの様子は
「ヨロイ、大丈夫だ」
サスケが呟く。
飛雷神の術を使う時に一瞬、コンマ2秒にも満たないものの術を発動させる際に体が硬直して隙ができる。その隙を補うため、チャクラを色で判別でき、更に相手の動きを細かく分析して、その分析結果から相手の未来の行動予測まで立てることができるサスケに判断を任した。そのサスケが大丈夫と判断したからには、今、飛ぶべきだろう。
色々と知りたい情報が出そろっていないのが残念だが、君子危うきに近づかずということわざもある。もう引いた方が身のためだろう。
ただ、この言葉だけは奴らに残しておきたい。
「I’ll be back!」