湖面の月は未来を映す   作:クロム・ウェルハーツ

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@10 心情

 時は少し遡り、俺がシンゲンと会う前のこと。

 雲隠れの里で療養中、俺が怪我を負ったことを聞きつけてやってきた六代目火影と、その付き人と共にモモシキ御一行について対策を練っていると、何の前触れもなしに伝令が俺の病室のドアを勢いよく開けやがった。病院内では静かにしなさいと習わなかったのだろうか?

 

 音を立ててドアを開いた伝令が持ってきた情報で六代目火影が大きな声をあげる。俺たちも人のことは言えないらしい。

 伝令によると、モモシキたちが木ノ葉隠れの里に襲撃してきたらしい。どうやら、俺の最悪の予想は当たってしまったようだ。

 立ち上がった六代目火影の時空間忍術により、雲隠れから木ノ葉へと一瞬で移動した俺たち三人。

 一瞬の暗闇を抜けて、俺たちの前に広がる景色は荒廃した木ノ葉隠れの里だった。

 

 ボロボロの木ノ葉の里。

 隣で『何じゃこりゃあ!』と叫んでいるキャラ崩壊したような六代目火影は置いておいて……いや、昔からこんなもんだったか。

 辺りを見渡すとペイン来襲ほどとは言えないが、それでも尚、甚大な被害が木ノ葉に齎されている。こんなことをすることができる下手人は奴らしかいない。“後に来る者”大筒木モモシキ、シシキ、キンシキの三人。

 

「ま! 落ち着け、オビト」

「落ち着けって言われても、これが落ち着いていられる事態か? 里はこんな風になってるしナルトは攫われたし」

「ナルトは大丈夫だよ」

「なんでそう言い切れるんだよ?」

「んー、オレがあいつの担当上忍だったから?」

 

『なるほど!』と一人納得した六代目火影であるうちはオビトの頭越しに、ナルトの先生だったはたけカカシと目が合う。写輪眼を失った今のカカシは左目を隠すように斜めにしていた額当てを普通の忍と同じように掛けている。昔よりは表情が読み取りやすくはなったものの、昔と同じように口元を完全に覆い隠すマスクは今も身に着けている。まあ、1/4しか素顔が見えなかった時に比べて今は1/2ほど見えるようになったのは大きな進歩だろう。

 

 オビトはカカシの理論に納得しているが、カカシのいつもの手口だ。のらりくらりと面倒臭いことは躱す。

 ナルトが大丈夫だということをカカシが確信しているのは、敵がナルトを拉致したのはナルトを殺すためではなく、生かしたまま何か別のことを行うと予測したからだろう。そして、それはナルトが持つ特別な力、九尾に依存することも想定しているに違いない。

 そのことをオビトに説明しなくともいいと考えたのは、これからの動きはオビトに詳細な説明を行わなくてもいいと考えたからってところか。理由を述べなくてもナルトを助けるために動いてくれる。オビトへの信頼がカカシにはあった。

 

「で、どうなの? ナルトが連れ去られた場所、分かった?」

「ああ。天之御中(アメノミナカ)を使った形跡がある」

 

 カカシの疑問に対して、俺は眼に力を籠めて答える。

 輪廻眼、外道の力の一端である天之御中。この術、というよりは能力は自らが指定したものを自らが創り出した空間の中に引き込むという効果を持つ。

 

「それは厄介だな」

 

 カカシは一度、天之御中によって別の空間へと連れ去られたことがある。

 思い出しただけでもイラッとすることに俺が黒ゼツに体を乗っ取られた後のことだ。俺の体を媒体にして復活した大筒木カグヤという俺のご先祖様が天之御中をカカシたちに使用したらしい。

『赤銅ヨロイを生贄に! 大筒木カグヤを召喚する!』って俺の扱いが☆4モンスターと同レベルで悲しい。いや、逆に考えよう。オベリスクの巨神兵を生贄にして青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)を召喚したと考えれば少しは気分が良くなる。俺がオベリスクでカグヤが青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)か。俺が青肌ゴリマッチョでカグヤが元金髪碧眼美少女の白い龍か。ビジュアル的には完敗していると気がついて他の例えがないかと頭をフル回転させるものの思いつかない。少し悲しい。

 

 ……話を戻そう。

 カグヤが天之御中を使ってカカシたち第七班を大いに苦しめたが、この天之御中。実は輪廻眼所有者の視界には空間の亀裂として痕跡が残されている。亀裂と言っても、半透明の黒いモザイクのようなものが不規則に並んでいるという感じではあるが。その亀裂に輪廻眼の瞳力を送り込むことで、天之御中によって創り出された世界へと侵入することができる。

 まあ、逆に言えば、輪廻眼所持者がいない場合は侵入どころか感知すらできないというチートな能力だ。

 

「ヨロイ、開けることができるか?」

「ああ、ギリギリできる。けど、開ける時に使う瞳力は膨大だ。一度、開けたら次に開けられるのは数日後で、更に輪廻眼の能力は大幅に制限される」

「無理矢理、通っても返り討ちにされる可能性が高い……か」

「じゃあ、どうすればいいんだよ!」

「落ち着け、オビト。まだ、分析しかしていない。手はある。だろ? ヨロイ」

 

 カカシはそう言って俺を見る。

 

「あるにはあるが、かなり分の悪い賭けになるだろうな」

「分の悪い賭け?」

「ああ。ナルトの九尾の封印式にはミナト先生の飛雷神の術のマーキングの術式が組み込まれている。それを目印に時空間移動を行えばナルトの所に行くことができる。ナルトと同時に連れ去られたミライは飛雷神の術を使うためにマーキング付きのクナイを持っているからミライに関しては、それを目印にして飛べばいい。けど……」

 

 一度、言葉を止めて溜息をつく。

 

「飛んだ瞬間、その場で殺される可能性が高い」

「そういうことか。相手はナルトを追い込むほどの実力者。そして、ナルトに限って言えば、ナルトから九尾を引き剥がすための術を行っていてナルトの近くにいる確率が高い。となると、飛雷神の術を使って周りを確認する一瞬、その実力者の前に無防備な姿を晒してしまう訳か」

「そう、オビトの言う通り。辺りを確認するための時間はどうしても必要。無差別に攻撃するとナルトにまで攻撃が当たるかもしれないし」

 

 どうするべきか。敵は強大な上に人質まで取っている。思い返してみても、これほど悪い状況は忍になってから一度としてなかった。そもそも、火影、というか世界で一番強いと言っても過言ではないナルトを拉致できるような者が相手だし、その目の前に無防備な姿を見せれば、まず間違いなく殺される。

 

「ヨロイ。オレに作戦があるんだけど聞いてくれる?」

「作戦?」

「そ。お前の瞳力をなるべく落とさずに敵の懐に潜り込むための作戦」

「聞かせてくれ」

 

 流石はカカシだ。

 本人は『だらしない先生ですまない』と発言したちょっと後に、サスケからいい笑顔で笑われてウズウズされたカカシではあるが、先生という立場でない場合、カカシは優秀だ。かつて、6歳という若さで中忍に昇格した能力は伊達ではない。俺は24歳まで中忍試験を受けていたっていうのに。悔しい。

 能力分析、作戦立案といった忍の任務についての能力は五大国の隠れ里の中でも最も規模が大きいと言われ、優秀な忍が多い木ノ葉隠れの里の中でも図抜けている。

 

 そのカカシが、モモシキたちが創り出した亜空間へと俺の瞳力を極力減らすことなく入り込む策があると言った。これは絶対に聞いておかなくてはならない。

 

「カグヤと戦った時、オビトが共に戦ってくれたというのは覚えているな?」

「……おう! もちろんだZE☆」

「絶対に忘れていただろ!」

 

 明るく言葉を返す俺にオビトは指を突き付ける。バレてしまっては仕方ない。

 

「カカシ、続きを話してくれ」

「こっちを向け、ヨロイ!」

 

 オビトに背を向けてカカシに体ごと視線を向ける。カカシが呆れたような視線を俺たちに向けているが、それは果たして俺か、それとも、オビトに向けたのか判断はつかなかった。

 

「……話を戻すぞ。カグヤの天之御中の中に引き摺り込まれたオレたちだったが、移動を繰り返すカグヤに追いつくために時空間忍術を使った」

「それが、オビトの神威ってことか?」

「ああ」

 

 カカシは頷く。

 オビトの神威をカグヤの天之御中とリンクさせて、時空間移動を可能にした。ならば、今回のモモシキたちの天之御中もオビトの時空間忍術である神威で干渉は可能なのではないか?

 カカシの解析通りなら、オビトの神威を天之御中とリンクすることができれば、そこからは天之御中の亜空間、その中の任意の場所に時空間移動することができる。つまり、相手の背後に姿を現すことができるということだ。

 姿を現す時に背後を取ることができるのなら、それは大きなアドバンテージとなる。視界が360°あろうが、人間の体の構造上、背後からの攻撃に反応するには腕や足の稼働率からして難しい。それこそ、エアギアのニケのように肩甲骨を切除して背中の後ろまで腕を回せるような人体構造をしていなければ背後からの攻撃をカウンターで返すという行動はできない。

 もっとも、肩甲骨を外した程度では腕は背中まで回らないどころか動かなくなるのだが。ニケとは違うアプローチで、骨を外した後、チャクラを流し込んで自由自在に動かすことができる技術が音隠れの里では開発されている。

 俺の元同僚で、孤島での任務の際に突然の爆発により殉職してしまった剣ミスミという男が好んで使っていた軟の改造だ。また、俺の師である大蛇丸様に好んで使う術でもある。

 

 閑話休題。

 ズレた思考を戻し、カカシに向かって頷く。

 

「それで行こう。ただし、行くのは俺とサスケ。それから、数人の手練れだけにしておきたい」

「オレも行く!」

「それはダメだ、オビト。お前は六代目火影。七代目がいない今、お前が木ノ葉の指揮を執るべき立場にある」

「けど、オレもナルトを助けに行きたい。それに、ミライも連れ去られたままだ。二人を助けるためには人手が多い方がいいだろ?」

「フォーマンセルを二小隊、8人が限度だ。俺とサスケは確定として、後は暗部の中でも選りすぐりの人材で救出にいく。それならば、機動力は失わない。ナルトは助けることができるだろう」

「……ミライは、ミライはどうすんだよ? 最悪、お前とサスケがバラバラになって戦うこともあるぞ」

「ミライも忍だ。捕らえられた忍がどうなるかは解っている」

「それはつまり、ミライを見捨てるって言ってんだな、お前は?」

「ああ、そうだ」

 

 忍に犠牲は付き物。ミライを気に掛けるなんてこと、第三次忍界大戦を生き抜き第四次忍界大戦を仕掛けた男から出るセリフではないが、それは本来、うちはオビトという人間の持つ優しさという長所でもある。

 だが、この場で優しさなどという甘さを見せ、優先順位を間違えるなんてことはあってはならない。ミライとナルトでは世界に対する影響力が違い過ぎる。一般人であるミライに比べて、ナルトは英雄と讃えられる七代目火影だ。例え、ナルトが望もうが望むまいが、彼には仲間の屍を踏み越えようが生きなければならない責任がある。

 

 と、オビトが昔、第四次忍界大戦で十尾の上から見せたような表情を俺へと向けた。

 

「お前……それ、本気で言ってんのか?」

「……優先させるべきはナルトだ。アイツを失えば、世界の纏まりが欠けることも考えられる」

「本当の本当にミライを見捨てる。そう思っているのか?」

 

 一瞬の逡巡。

 幼い頃から見てきた息子の幼馴染の少女。彼女は今、安否不明で敵の手に落ちている。だが……。

 

「ああ、そう思っている。ナルトを……七代目火影をここで失う訳にはいかない。例え、それが誰を犠牲にしてもナルトには生きて火影としての責務を全うして貰わなくてはならない。それが、世界の恒久の平和への道筋だ」

「第四次忍界大戦の時……」

 

 オビトは写輪眼を発動させて俺を見る。誤魔化しが全く効かないようなオビトの雰囲気に思わず口を真一文字に閉じてしまう。

 

「ナルトは言った。『オレが知りて―のは楽な()()()じゃねェ。険しい道の歩き方だ』ってな」

「……」

 

 そんな言葉は知らない。第四次忍界大戦の中、俺は自分の持ち得る知識の全てを細かく精査し、マダラを倒し無限月読を俺の支配下に置くために動いていた。周りの情報を集めながら動いていた俺が覚えていないということは、きっとオビトが忍連合軍全てとチャクラを引っ張り合った時の出来事か、俺が黒ゼツに利用されてカグヤの生贄になった時の出来事だろう。

 いや、それは関係ない。その言葉がどこで語られたかは意味のないことだ。

 

「アイツは……ナルトは誰かを見捨てて自分だけ助かるような楽な道は選ばない。なら、六代目火影であるオレも楽な道は選べない」

「なら、どうする?」

「二人とも助ける険しい道を歩く」

「……それは理想だ。子ども染みた何も解っちゃいない綺麗事だ」

「ヨロイ!」

「ちょっと待て、オビト」

 

 カカシがオビトの肩を押さえて俺へと視線を向ける。

 

「で、お前の答えは?」

「だからこそ、現実にしたいじゃない。本当は綺麗事が、いいんだもん!」

 

 カカシは目を細める。口元が隠れていて分かり難いものの、あれはカカシが嬉しい時の表情だ。

 

「それじゃあ、行きますか。ね、オビト」

 

 俺の答えを聞いたオビトもカカシと同じような表情を見せて拳を掌に打ち付ける。

 

「ああ! 二人を助けに行くぞ!」

 

 +++

 

 地面を何度も殴りつけている息子の姿。それに、悲しみを覚えるがシンゲンには頑張って貰わないといけないために、発破をかけるべきなのだろう。

 

「世界中の絶望を背負った悲劇のヒーローのようだな」

 

 ならば、俺はシンゲンに嫌われようが構いはしない。

 俺に対する怒りから心を持ち直させて元の精神状態へと持っていく。幻術でも精神状態の平静は保つことができるが、戦闘に対する一種の興奮作用などは完全に失われる。感情の切り替えは健全な精神でこそ行うことができるということをこれまでの経験で重々承知している俺は憎まれ役になることしか思いつかなかった。

 

 俺の言葉で心が上向きになってきたシンゲン。

 

「前に言わなかったか? お前が泣く時は駆け付けるって。この世の中で一番、お前の力になれるのは俺だって」

「……忘れたよ、そんなこと」

「んじゃ、今、言った。OK?」

 

 シンゲンは短い間ではあるが逡巡する。そして、シンゲンは俺が差し出した右手を取ったのだった。

 

 

 

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