湖面の月は未来を映す   作:クロム・ウェルハーツ

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@12 世界

 全ての準備は整った。

 サスケたちと別れた俺たちは輪廻眼保持者のみが視認できる空間の亀裂の前に並ぶ。

 

「気を付けろよ」

 

 首元のミスティッカーをなぞりながら、オビトは不安気な目を俺たちに向ける。

 

「心配するな。それよりも、こっちのことは……」

「オレたちが上手くしておくから心配するな」

「カカシ……」

「それじゃ、いってらっしゃい。テウチさんに頼んで美味しいラーメンを用意するよ」

「ナルトが喜びそうだな」

「ま、そういうことで、ちゃっちゃっと解決しちゃって」

「ああ。……天之御中(アメノミナカ)!」

「神威!」

 

 万華鏡写輪眼と輪廻眼。この二つの瞳力があれば、ほぼ何でもできるとイタチが以前、語っていたが、あながち間違いではないのかもしれない。

 世界間移動のために開けた、黒い渦の周りに亀裂が入ったような時空の歪みへと飛び込みながら俺は少し笑みを浮かべた。

 

 +++

 

 渦巻く空間が安定した。

 状況を判断するための時間は一瞬。それ以上の時間は掛けられない。

 眼を見開き、神威で移動した俺たちの前に見えた景色を確認する。

 

 降り立った場所は幻想的な空間だった。

 一面に広がった水が空の月を映す。地面に薄く広がった水は鏡のように天空を映して、まるで自分が空の中にいるような感覚を覚えるものだった。

 ついでに言えば、月が出ているものの、その大きさは地球のものとは段違いに大きい。昼のような明るさにも関わらず、しっかりと見えている。

 以前、月が地球に接近したこともあったが、その時の月と同じ大きさだ。ちなみに、その事件が起こったのは第四次忍界大戦から2年後。つくづく世界の危機が稀によくある世界だと思ったものだ。

 

 世界の把握はできた。目を前に向ける。少女がその唇を薄く開く様子が見られた。

 

「“高天原(たかまがはら)”。ボクの世界だ」

 

 敵の姿を認めた瞬間、足元の水が弾けて水面に映った月がその姿を揺らす。

 全力を以って敵との距離を詰めつつ、手元に口寄せした黒刀を振り下ろす。

 一筋の線となった黒色と紫色が甲高い音を奏でて、その音を遠くまで響かす。

 

「ここがどこかだなんてことは関係ない」

「へえ。ここでボクを殺すってこと? 君にできるかな? ……赤銅ヨロイ」

 

 紫のシシキの剣と黒刀が交差する。鍔迫り合いの状態ながら、シシキは緊張をすることもなく笑顔を浮かべている。このクソガキが。

 反撃するべく、大量のチャクラを送り込む。

 

「!!」

「多少はボクの対策をして来たみたいだね。君だけじゃなく、後ろの三人の情報を見ることができないなんて初めての経験だよ。下等種族なりにがんばったことは評価してあげるよ」

 

 大した奴だ。

 チャクラで以って底上げさせた膂力に対して顔色一つ変えない。

 更に、話をしながらも力は全く緩んでいない。それどころか、今まで以上の力で以って黒刀を押し返してくるシシキに戦慄する。

 と、後ろでチャクラが練り込まれるのを感じた。

 

「待て、紅!」

「けど……!」

「今はまだダメだ。ヨロイが攻撃に巻き込まれる」

 

 シシキはその様子を横目で見ながら笑みを深める。

 

「足手纏いを連れて来たのは間違いだったね。君が分け与えた輪廻眼の力でボクの瞳術“神通”を防いでいても、その力を上手く使いこなせない下等種族には過ぎた代物だよ」

「ミライを……」

「ん?」

「ミライを返せ!」

 

 更に力を込めた斬撃がシシキの紫色の刀を上へと持ち上げる。

 だが、それは意味がなかった。

 

 続け様に横に黒刀を振るったものの、シシキは後ろへと飛び擦ることで斬撃を躱す。上へと刀が弾かれた時の力を後ろへと移動する力に上手く利用したようだ。

 

「随分と焦っているようだね。それじゃあ、つまらないよ」

 

 左手に集めた紫のチャクラを硬質化させたシシキは、右手に持った紫色の刀の形状を変化させる。

 

「すぐに決着がつくからね」

 

 左手に構えた紫色の弓、そして、右手に掴んだ紫色の矢。

 番えた矢はまっすぐに放たれた。

 

「!」

 

 それを紙一重で躱すものの、次いで出たシシキの足が腹に当たって体を大きく飛ばす。

 水面を転がる体を受け止めたのは紅だ。

 

「大丈夫?」

「……ああ」

 

 やはり一筋縄ではいかない。

 目の前の強敵は、その顔を愉悦に歪める。

 

「ヨロイ、行けるか?」

「もちろんだ」

 

 アスマに声を掛けて駆け出す。

 映した空を割るように二つの白線が水面に奔る。水面を弾き、俺とアスマはシシキの前へと躍り出た。

 手に持つのは二人とも特別チューンの黒刀。使用者がチャクラを流し込むことで適した性質変化を行うというものだ。

 

「まるでサルの一つ覚えだね」

 

 両手に刀を創り出したシシキは俺とアスマの剣戟を()()()で捌いていく。

 両側からの同時攻撃。さらに、忍術を使っているにも関わらずシシキには傷一つ付けることはできなかった。

 

 忍術……飛燕。

 黒刀にチャクラを流し込み先端から風の性質のチャクラを放出する忍術だ。

 それは通常、目に見えることはない。原作では鬼鮫の頬を切り裂くことができたこの術も全ての術を看破する輪廻眼相手には効果は薄いようだ。攻撃は一つ残らず見極められている。

 

 だが、それは想定内。

 

「くっ!」

 

 ぐらりとシシキの体がよろめく。遅いぞ、紅。

 紅が足元の水をチャクラで揺らして、振動を利用した幻術を発動させたためにシシキの動きが鈍くなった。

 

 ここだ。

 俺は右へ、そして、アスマは左へと黒刀を振るう。左右からの挟撃で逃げ場は上にしかない。そして、既に上からはシンゲンが刀を振り下ろそうと最上段に構えている。

 

「神羅天征!」

 

 シシキの体に刀が食い込む、ほんの数cm前で体が吹き飛ばされた。

 

 一秒ほどの短い時間の中で紅の幻術を解くとは大した奴だ。

 精神攻撃が以前効いたことから精神に直接変調をもたらす幻術もシシキには効くと踏んでいたのだが、まさかここまで幻術耐性が高いとは思ってもみなかった。

 輪廻眼保持者と言えども、視覚に頼らない幻術は看破することは難しいというのは自来也様とペインとの戦いから確定的に明らかだというのに。

 

「この前みたいな無様な姿はもう晒さない」

 

 眼を紫色に光らせて俺たちを睨むシシキ。怖い。

 

「この前?」

「……ボクに味わわせた屈辱を記憶していない、と? 下等種族の癖にどこまでボクをバカにしているんだろうね、君は」

 

 シシキは井桁模様を額に浮かび上がらせる。“カム着火インフェルノォォォォオオウ”を超えて“激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム”状態だ。技名“フォン・ド・ボー”とか叫び出しそうな雰囲気を感じる。うん、実に輪廻眼使いとして覚醒している。

 

 アスマの余計な一言で逆上したシシキは指の間にチャクラを集めて、それを具現化した。

 人差し指と中指、中指と薬指、薬指と小指の間でしっかりとホールドした三本のチャクラの矢。

 流石にアレだけ高密度のチャクラを喰らったら……死ぬわね。

 

 目の前のシシキの様子に、かつて四本目の尾が出たナルトと対峙した大蛇丸様と同じ感想を持つ。

 アスマと同時に大きく後ろへ飛び退きながら、印を組み上げているシンゲンの傍に近づく。

 

「死ね」

 

 弓を横にして同時に三本の矢を放ってくるシシキの表情はまさに般若。勝てる気がしない。

 轟音が大気を割るのとシンゲンが術を発動させるのは同じタイミングだった。

 

「結界門五封術・八門閉城略式!」

「弾けろ!」

 

 防御結界が俺たちの周りを覆ったと同時にシシキが放った矢が爆発する。戦略兵器に匹敵するほどの爆発規模、しかも、それが三つの共鳴爆破ときた。一瞬で結界全体に亀裂が入る。もう結界は持たない。

 

 仕方ない……か。

 前から迫る爆発に飲み込まれた、その瞬間、ガラスが割れるような高い音を立ててシンゲンが張った結界が破れた。

 前方から迫る爆風。だが、それは俺たちの体に影響を及ぼすことはなかった。

 

 神羅天征。

 シンゲンが張っていた結界に這わせ、神羅天征を発動させる。込めたチャクラは膨大、それこそ、第四次忍界大戦後に貯めていたチャクラを使い切るほどのチャクラ量だ。

 爆発力と斥力とが釣り合ったのは一瞬。轟音と共に目の前の空間が弾けた。レンズ越しでも目が焼けると錯覚するほどの閃光。それでも、爆心地の中心に立つ俺たちには傷一つなかった。輪廻眼パネェと輪廻眼の瞳力を再認識する。

 

「だから、サルの一つ覚えだって言っているんだよ!」

 

 だが、瞳力に関しては敵も同じもの、いや、それ以上の眼を持っていた。

 視界を全て奪われるような閃光の中、上から降ってきた声は俺たちの位置を正確に捉えていた。以前、戦った時にモモシキが白眼を使っていた。同じ一族であるシシキも白眼を使うことができていてもおかしくはない。

 

 しかし、敵の位置を正確に捉えていたのは俺も同じことだ。爆発でシシキの姿を見失った瞬間からシシキの行動に関して手を打っていた。俺たち以外のチャクラが範囲内に足を踏み入れた場合、動きを拘束する結界の術式を地面に仕掛けている。

 となれば、警戒する箇所はただ一つ。今し方、シシキが飛んできた上だけだ。

 

 術式が書き込まれた巻物が上、つまり、シシキの進行方向へと躍り出るのを確認してシンゲンを引っ掴み、その場から全力で離れるべく足に力を籠める。

 

 飛んで火にいる夏の虫。殺虫灯にしちゃ、少し大仰だな。

 結界拘束封印の赤い光を発する拘束術式は、シシキが持つ紫色のチャクラの刀に纏わりつきシシキの腕へと迫る。

 

「くっ!」

 

 術式が腕に触れるまで、ほんの僅かな距離。

 

 その距離が届かない。

 

 刀を投げ捨てたシシキはそのまま輪廻眼の力で空を飛び、俺たちが迂闊に手を出せないほど遠く離れた所へと着地する。

 シシキの刀となっていたチャクラのみを封印した封印架は今まで俺たちがいた場所へと落ち、仕込んでいた罠の餌食となる。輪廻眼、畜生道によって口寄せされた犬どもがチャクラのみを封印した封印架へと噛みつく。

 その様子を遠くから見ていたシシキは、地面についていた膝を離してゆっくりと立ち上がった。

 

「少し驚いたよ。巻物を投げた君、名前は?」

「猿飛アスマ」

「アスマか。うんうん。中々、いい感じだよ。神通を使っても君たちの心も過去も未来も視得(みえ)ない。そして、ヨロイだけじゃなく君たち下等種族もボクが汗を流すほどの緊張感を与えてくれる。君たちを足手纏いと言ったことは撤回させて貰うね」

 

 勝手に話を進めるシシキ。

 

「やっと……」

 

 シシキは一度、言葉を切る。

 

「……闘いを愉しめる」

 

 凄惨な笑み。

 犬歯を見せて心底楽しそうな様子を見せるシシキに昔の光景がデジャヴる。

 

 バトルジャンキーはフルフルニィという擬音がよく似合うことに改めて気がついた今日だった。

 

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