湖面の月は未来を映す   作:クロム・ウェルハーツ

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@13 闘争①

 なぜ、人は争うのか?

 憤怒、怨恨、強欲。争いの原因は色々あるが、その全てに共通するものが“今”を変えたいというもの。今に対して不満を持ち、今を変えることで自分にとってより良い環境を創り出す手段として争いは行われる。

 見方を変えると、前向きな手段とも言えるだろう。現状を打破し、自分にとってより良い環境にすることはポジティブな考え方をする者以外ではできないことだ。

 そうは言っても、他人を犠牲にするなんてことは絶対に認めることはできないが。

 

 そして、今のシシキは不満を持っている。オレたちが自分を脅かそうとしている。そのことが彼女の不満と言えるだろう。

 そして、今のオレは不満を持っている。彼女たちは先人たちが創り上げた平和を壊そうとしている。そのことがオレの不満だ。

 

 だからこそ、オレと彼女は決して相いれない。どこまで行っても平行線だ。

 

 考え方は決して合うことはない。しかしながら、オレと彼女の視線は交差した。

 彼女の輪廻眼を正面からしっかりと見つめる。

『お前には負けられない』

 オレの意志を嘲笑うかのように彼女はチャクラで刀を創り出して、それをオレたちへと向ける。

 

「来なよ」

「火遁 豪炎の術!」

「風遁 旋風拳!」

 

 シシキの挑発。臨戦態勢を整えた彼女に向かって、前にいる二人が印を組み上げた。

 アスマおじさんの火遁が父さんの風遁を飲み込み、巨大な炎の塊となる。

 

『渦旋風火の術!』

 

 風の拳は火を纏い、炎の拳となってシシキを打ちのめすべく彼女へと迫るが、シシキは炎の拳を物ともせずに正面に向かって駆け出す。

 彼女の体を全て包み込むほどの炎の拳。こちらからは彼女の姿は見えないが、彼女が嗤ったことは本能で感じることができた。

 

「封術吸印!」

 

 響く声はシシキのもの。

 炎の拳にポッカリと開いた白い球に守られたシシキは、オレの予想通りの表情を浮かべていた。

 と、シシキの表情が引き締まる。

 水面に映る赤い炎。それを掻い潜りながら彼女へと接近した二人の忍と炎に包まれながらも冷静に炎を無効化した鬼女の斬撃の応酬。目に映る光景と耳に聞こえる音にズレが生じるほどに速く鋭い斬撃の交錯の軍配はシシキに上がった。

 

「甘いよ!」

 

 体を大きく横に回転させながら刀を振り回し、傍にいた父さんとアスマおじさんを牽制して距離を取ったシシキは足を地につける。

 

「ハハハッ!」

 

 シシキの足元の地面が大きく陥没した。普通では考えられないほどの力で地面を蹴ったらしい。

 心の底から楽しそうな笑い声を上げて、シシキは目にも止まらない速度でオレたちへと向かって来る。

 

 オレはポーチへと忍ばせていた右手をシシキへと向かって振る。オレの右手から放たれたのは一本のクナイ、そして、そのクナイに付けていた起爆札だ。

 こちらに向かうシシキとあちらへ向かうオレのクナイ。立ち止まったまま迎撃するよりも数倍の体感速度であることだろう。

 しかし、シシキは(すんで)の所で手に持つ紫の刀を振るいクナイを弾く。

 シシキの刀が触れ、その振動がクナイに繋がっている起爆札へと伝わり、起爆札が一瞬、白い光を放った後に爆音が響いた。

 

 これで、シシキも……。

 

 水が跳ねる音がオレの意識を戦場へと戻す。

 オレの前には緊張した雰囲気を出す紅おばさんの背中があった。

 

 マヌケか、オレは。

 あの程度の攻撃でシシキがダメージを負うハズがない。それにも関わらず、敵の前で隙を晒すなんて大馬鹿者もいいところだ。

 慌てて迎撃の準備をするオレの耳に風切り音が響いた。

 

「シンゲン!」

「クッ!」

 

 首を捻って、音の軌道上から避ける。

 耳を掠ったシシキの刀。目を見開き、彼女を注視する。それからの光景はいつもより遅く見えた。

 血が空中へと飛び散る。その血が地面に落ちる前にシシキは振り切った刀を持つ手の手首を返し、逆袈裟でオレを切ろうとする。

 やっぱり、第三の門からは少し開放速度が遅くなるのが難点だ。

 

 第三生門、第四傷門、第五杜門……開!

 

「なッ!」

 

 シシキは体内門を開くことで急激に上昇したオレのスピードについて来ることができなかったのだろう。彼女の右手首をあっさりと捕まえることに成功した。

 

 このままシシキを上に蹴り上げる。その後で、裏蓮華を叩き込む。

 シシキの左手首を引き、体勢を崩した上で彼女の顎へ右足の蹴りを放つ。

 

「なッ!?」

 

 本来ならシシキの体を空中へと蹴り上げる。そのハズだった。

 目の前の有り得ない光景に目を疑う。

 第五杜門まで開放した状態の人間の蹴りは通常の体術とは一線を画す技だ。どんなに防御に優れた者でもダメージを避けることはできない。それこそ、ダメージを喰らいながら陰癒傷滅の術で即時回復などをする他に防ぐ手立てはない。

 

 それなのに、なぜ、オレの目の前の存在は“空いた左腕一本”でオレの蹴りを止めることが出来ているんだ?

 

 驚愕に包まれながらも、周りの状況を把握するために目線を上に上げる。

 シシキの白い“眼”と目が合った。それと、シシキの更に上から迫る二つの黒い影にも気が付いた。

 

「来ちゃダメだ!」

「遅いよ。神羅天征!」

 

 シシキの体を中心として力場が発生する。

 オレと、後ろからシシキへ攻撃を加えようとしていた父さんとアスマおじさんが神羅天征によって吹き飛ばされた。

 輪廻眼から白眼へと眼の状態を変えることで全体の戦況を把握していたのだろう。戦いに慣れている。強力な武器(輪廻眼)から汎用性がある武器(白眼)へと切り替えることは、普通の忍に置き換えたら一番の得意忍術から起爆札での攻撃へと切り替えることとほぼ同意だ。

 一つの自信のあることに固執せずにより効果的な運用ができる手札に変える。感情がブレーキを掛けるハズのことにも関わらず、間を置かずに切り替えることができるとは、これが天才という奴か。

 

 考えを纏めながら、水飛沫を上げて地面を転がる。水によって衝撃が抑えられ、そこまで大きく飛ばされなかったことは不幸中の幸いだ。

 だが、神羅天征のインターバルの間に攻撃を加えることはできない距離だ。ならば、手数の多い体術で隙を作り、神羅天征を使わせる。

 そこまで考えて、立ち上がろうとする。

 

 しかし、オレは甘かった。

 神羅天征のインターバルの5秒間。それを逃す訳にはいかない。そのことをオレよりもよく分かっていたのだろう。

 

「無駄だよ。君程度の力ではボクは倒せない」

 

 神羅天征の効果範囲外にいた紅おばさんがシシキに向かって印を組む。

 

「蓮華王印!」

 

 蓮華王院。

 紅おばさんが得意とする幻術、その最高峰に位置する術だ。術に掛けられた者は幾千もの仏像を幻視し、幻ながら仏像の圧倒的な存在感で身じろぎ一つできなくなる。

 また、ただ強力な幻術であるだけではなく、かつて、初代火影様が使っていた木遁忍術の内の一つ、木遁 木人の術によく似ている。つまり、蓮華王院は掛けられた者に敵対している者が初代火影ではないかと誤認させる効果もある。

 初代火影、千手柱間が生きていた昔の時代、彼の力を知っている者は木遁忍術の様に見える蓮華王院を掛けられた瞬間、抵抗する気力を失って倒し易くなったと紅おばさんから聞いたことがあった。

 

 輪廻眼であれば、全ての術を看破する瞳力があるものの、今のシシキは白眼に切り替えている。ならば、視覚に作用する幻術も効果がある。

 

「うぅぅぅう……」

 

 体中から力が抜けたシシキ。彼女の後方へと吹き飛ばされた二人も紅おばさんと共に攻撃を加えるべくシシキの所へと移動して、三人が同時に刀を振り上げたその瞬間、オレの背筋に寒い物が走った。

 

「けるな……ざけるな……ふざけるな……ふざけるなァ!」

「うッ!」

「ぐッ!」

「キャッ!」

 

 爆発。

 爆弾や起爆札とは違う。これは、チャクラだ。膨大なチャクラを体内から体外へと放出した時の特有の空気の重さを感じる。

 

「邪魔」

 

 シシキはチャクラの膜によって動きを止められた紅おばさんを掴み、後ろへと投げ飛ばす。

 

兎毛針(とげばり)

 

 後ろを振り返ることもなく、チャクラで固めた髪を飛ばして父さんたちへ攻撃を加えたシシキはオレへと歩みをゆっくりと進めながら眼を変えて輪廻眼を見せる。

 

「点穴を突いている。後ろに転がっている彼らはもう動けないよ。これで……」

 

 オレの前で立ち止まったシシキの顔は愉悦に歪んでいた。

 

「……後は君一人だね」

 

 一転、優しそうな顔をシシキは見せる。

 

「中々、楽しませて貰ったよ。これまで潰してきた下等種族の中では君たちの種族が最も強かった。十分、誇れる。だから、もうボクに全てを委ねて。君たちの星の全てを吸収してボクたちの糧にするから。これが運命なんだと理解して」

 

 運命……。

 

「オレの……オレたちの運命をお前が決めるな」

「生意気」

 

 体に衝撃が走る。その衝撃はオレの体を後ろへと運ぶ。体内門を開いた影響でボロボロの体に止めと言わんばかりの衝撃。

 先ほどの焼き直しのようにシシキから吹き飛ばされる。

 

 震える腕。震える足。上手く動かない体。

 離れたシシキを睨みつけながらオレはゆっくりと立ち上がる。絶対に負けられない。人を人として見ないアイツにだけは負けられない。

 

「諦めて。君じゃボクには勝てない。ボクは君自体には何の思い入れもないから命は助けてあげるよ。(ヨロイ)の罪を君に負わせるのは大人げないしね。だから、もう降伏して。降伏してくれたら幸福な夢へと連れて行ってあげるから」

 

『それに……』と続けたシシキは自分の後ろを示す。

 

「彼らのような死に方はしたくないでしょ? 全身に穴を開けられて、痛みと絶望の中、ゆっくりと死に向かっていく。それは嫌じゃない?」

 

 針山のように硬質化した髪が(うずたか)く積み上げられた墓標。

 そこから亡者のように左手が伸びていた。その左手は対立の印をシシキの背中へと向ける。

 

「天道 天地陣」

「えっ!?」

 

 シシキの動きが完全に止まった。いや、止められた。

 目を見開き、驚愕の表情を示すシシキの後ろに立つ影が唇を歪ませていた。

 

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