濛々と土煙が上がる。
それを見ながらオレは奥歯を噛み締める。声が出ないように、過去を思い出さないように、次を考えるために。
オレは父さんとは違う。あの人のように冷徹に動くことなんて出来はしないし、それが人として正しい道だと信じている。他人を思い遣ることができるのが人なのだから。
だが、今この時だけは冷徹に動かなくてはならない。奥歯を再び噛み締めて零れそうな涙を抑える。
オレは高速で考えを纏めながら、刻一刻と変わる戦場を見下ろす。
目線の先でモモシキは地面に転がるボロ雑巾のような肉片を蹴り飛ばした。頭から胸にかけて彼に踏みつぶされて失った父さんの体だ。
「テメェ!」
「ナルト! 前だ!」
父さんだった肉片を受け止めた七代目様の隙をモモシキは、逃しはしない。サスケさんが七代目様に注意を促すが七代目様が気づいた時にはもう遅かった。七代目様に肉薄したモモシキ。彼が固めた拳が七代目様の顔のすぐ傍まで迫っていた。
が、モモシキの拳は七代目様の鼻先で止まる。
「砂……?」
「五影を嘗めるな」
風影様が呟くと同時に上から雷影様と水影様がそれぞれの得物を振り下ろす。
「神羅天征」
モモシキが呟くと前にいた七代目様とサスケさんだけではなく、上から迫っていた雷影様と水影様、そして、モモシキの右腕を拘束していた風影様の砂があらぬ方向へと弾き飛ばされた。
神羅天征のインターバルは5秒と父さんから聞いたことがある。そして、七代目様はそれを知っているということも。黄色い閃光が瞬きの間にモモシキの懐へと飛び込んだ。
「螺旋丸!」
しかし、七代目様の螺旋丸はモモシキの体に近づくと共に、その形が歪み霧散していく。
「うつけめ」
「……忘れてた」
モモシキの拳が再び振るわれ、それは七代目様の右頬を打ち抜き七代目様を殴り飛ばす結果となった。
「土遁 山土の術!」
土影様が術を発動した。モモシキの両側から大きくせり上がった地面がモモシキを圧し潰すべく彼を挟む。だが、それは簡単にモモシキの両腕で完全に破壊された。しかし、土影様の術は七代目様に体勢を立て直す猶予を与える。
吹き飛ばされた七代目様を受け止めたサスケさんの腕から七代目様は体を起こす。
「サンキューな、黒ツチにサスケ」
「しっかりしな!」
「全く。いつまで経っても世話をかけさせやがる」
「なんも言い返せねェ」
モモシキを取り囲みながら戦う6人の忍は油断なくモモシキの一挙一動に注意を払う。
「……来い、下等種族」
熾烈な戦いが再び始まった。
+++
戦況は芳しくない。
世界最高峰の戦力の五影とサスケさんが相手でもモモシキは一歩も引かない。いや、それどころか、むしろ押している。砂を、チャクラの刃を、光線を、土塊を、鋭い斬撃を、高密度のチャクラを、その全てを正面から受けながらもモモシキは常に余裕がある所作を続けている。
信じられない。理解できない。怖い。
そして、悔しい。足手纏いでしかないことは分かっている。それは一番オレが理解している。オレが足手纏いだからこそ、父さんはオレにボルトと共に離れておくように言った。
今のオレにできることは、ただ戦場を見つめることだけ。
下で起こった爆風を顔に受けながら案山子のように立ち尽くす。立ち尽くすことしかできなかった。七代目様の体に黒い杭が打たれて動きを止められている光景を見てもオレは動けなかった。
「父ちゃん!」
下に跳ぼうとしたボルトの肩を押さえる。
「ダメだ、ボルト」
「何でだよ!」
「オレたちじゃ敵わない。死んでしまう」
振り返ってオレの顔を見たボルトは怒りの表情から寂しそうな表情へと変える。
「シンゲンの兄ちゃんがオレを心配してオレを守ってくれてるってことは分かってる。けど、オレは行かなくちゃならねェ」
「ボルト、君はまだ下忍になったばかりだ。君を危険な場所から遠ざけるのが上忍であるオレの役目。分かってくれ、ボルト」
「確かに、オレは下忍だってばさ。けど、木ノ葉の忍だ」
そう言って、ボルトは真っ直ぐにオレを見た。
「オレを信じてくれ、シンゲンの兄ちゃん」
「危険だ。死ぬ可能性が高い。それでも、君は行くのか?」
「父ちゃんが言ってた。その時はバカじゃねェのかって思ったけど、今なら父ちゃんが言った言葉の意味が分かるってばさ」
「七代目様の言葉?」
「『大切なのは三つ。チームワークと根性』って。三つ目は思いつかなかったみたいで誤魔化してたけどさ。それに……」
ボルトは金色の髪を少しだけ揺らして口を開く。
「オレは忍者だ」
七代目様よりも薄い空色の瞳は覚悟を雄弁に語っていた。
「オレを信じてくれ、シンゲンの兄ちゃん」
認められることではない。Sランクを優に超えるほど危険性が高い任務に下忍になって一年も経っていない忍を連れて行くなど正気ではない。理性で答えるならば、ボルトをどうにかして里に戻すことが第一なのだろう。
だが、感情で答えるならば……。
「考えていた作戦がある。ボルト、協力してくれるかい?」
「もちろんだってばさ!」
拳を掌に打ち付けたボルトはモモシキを睨みつける。モモシキはその視線を取るに足らないものと考えているのかこちらに目を向けることはなかった。
なら、無理やりにでもオレたちへ目を向けさせてやる。
ボルトの耳に口を寄せ作戦を伝える。
失敗したら命はない。失敗する訳にはいかない。
オレたちは絶対に世界を守ってみせる。
最後にボルトと目を合わせて、オレは強大な力そのものとも言える敵に向かって駆け出した。