湖面の月は未来を映す   作:クロム・ウェルハーツ

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@18 視線②

 崖から身を躍らせる。

 

 それと同時に体内門、第五杜門を開く。この感触なら、もう一つ開けることができそうだ。

 シシキが落とした丹を経口摂取したことでオレのチャクラは一時的に増加している。増加したチャクラを第六景門に集めるとオレの体からチャクラが噴き出した。

 

「第六景門、開」

 

 体から噴出したチャクラが安定する。丹の力で第六景門を開くことができた。

 単純に身体能力を上げて体術をメインで攻める。忍術が全く効かないモモシキには体術で攻めることしかできない。

 そして、体術をモモシキに当てるための陽動は……。

 

「風魔手裏剣 影風車!」

 

 懐から取り出した巻物から巨大な手裏剣を口寄せする。次いで、景門を開いたことで底上げされた腕力で以ってモモシキへと風魔手裏剣を投げる。

 風を切って向かう風魔手裏剣を一瞥したモモシキはやっとオレの存在に気づいたらしい。いや、正確には鬱陶しいという感情が主で警戒するには足りないだろうが。

 

「神羅天征」

 

 モモシキへと近づいていた手裏剣が突如、あらぬ方向へと飛ばされる。輪廻眼、天道の力で吹き飛ばしたのだろうが、それは織り込み済みだ。

 吹き飛ばされた風魔手裏剣の影からもう一枚の風魔手裏剣がモモシキに襲いかかる。一枚目の手裏剣の影に二枚目の手裏剣を配置するようにして投擲することで敵の虚を突く影風車。天道のインターバルの5秒の間の攻撃のため、モモシキは天道の力で防ぐことはできない。

 

「下らぬ」

 

 モモシキが小さく呟いたかと思うと彼の右手がぶれた。と、彼に迫っていた風魔手裏剣が地面に叩きつけられる。

 

「このようなものでワレに傷を与えることができると考えたのか?」

 

 モモシキの言葉に何も言うことはなく、オレは彼の足元に叩き落とされた手裏剣に繋がる細いワイヤーを引く。

 

「!」

 

 一瞬だけだったが、モモシキの驚いた顔が見えた。すぐにオレが起こした爆発で彼の表情は爆炎に包まれたが。

 予め風魔手裏剣に仕込んでいた火薬と水薬。その二つを仕切る内部の壁を、ワイヤーを引くことで取り外して火薬と水薬を反応させると爆発するという仕掛けだ。モモシキ相手ではこの爆発も有効ではない。そのことが分かっているからこそボルトに頼んだ。遠距離忍術で隙ができたモモシキを狙うように、と。

 

 爆発で上がった煙をモモシキの右腕が払った。振るった腕の力のみで風を起こす膂力は驚異的だ。そして、その力を以ってオレを叩き潰そうとモモシキは力を貯めるために膝を曲げた。

 その刹那、モモシキの右肩の衣が弾け飛んだ。その衝撃でモモシキは地面に転がる。

 

「どういうことだッ!?」

 

 期待を軽々超えてくれるとは流石、ボルト。モモシキが思わぬ攻撃に動きが止まったことを確認した。作戦を次の段階へと進める。

 モモシキと同様に、オレもボルトが何をしたのか判断はつかないが、結果としては期待以上の成果。作戦段階では目晦ましを目的とした遠距離忍術だったが、モモシキの動きを止めることまでも成功した。

 

「いつの間に螺旋丸を? これは会得が大変な……」

「へへっ……」

「いきなり性質変化も加えて消える螺旋丸だがな」

 

 黒い杭を打たれた七代目様とサスケさんの隣にボルトが降り立つ。

 

「シシキの眼で視得た。下手人は貴様だな、狐の子!」

 

 オレからモモシキの目は離れ、更に今はモモシキの目は自分に傷を付けたボルトへと向かっている。最適なタイミングだ。

 オレはモモシキの足元の地面から身を現すと同時にモモシキの両腕を捕まえる。体内門を開けて上がった握力はモモシキの常識外れの力をなんとか抑え込むことに成功した。

 

「何ッ!?」

「クロクビ」

「あいよ」

 

 左の袖口から顔を覗かせた一匹の蛇がモモシキの右の掌にある輪廻眼に向かって液体を牙から噴出した。

 

「グァッ!」

 

 潜影蛇手により袖口から口寄せした毒蛇であるクロクビ。クロクビは噛んで毒を送るだけではなく、毒腺から分泌した毒液を噴出することのできる珍しい種類の口寄せの蛇だ。

 ちなみに、彼が持つ毒は出血毒に分類されるもの。出血毒とはプロテアーゼ、つまり、蛋白質分解酵素の作用によってフィブリンという血液凝固のためのタンパク質を分解することで血液凝固を阻害する毒のこと。それにより血管系の細胞を破壊することで出血を起こさせる毒だ。クロクビの毒が目に入れば失明は免れない。

 だが、まだモモシキの輪廻眼は残っている。左の掌にある輪廻眼の能力は右の掌にある輪廻眼が吸収した術を放出するというもの。これは優先度が低い。しかしながら、彼は両目と額に合計3つもの輪廻眼を持っている。これを全て潰さなくてはならない。

 

 ボルトが遠距離忍術をモモシキに当てた時、つまり、モモシキの視線がオレから外れた瞬間にオレは影分身を作り出していた。そして、本体であるオレは土遁の術でモモシキの足元へと移動することで奴の不意を突いた形になる。ならば、後はモモシキの体勢が整わない内に最速で攻撃を加える。

 後ろに置いてきたオレの影分身がモモシキの顔へと影を作る。

 

「神羅天征!」

 

 最速で動いていたにも関わらず、一つ輪廻眼を潰したにも関わらず、モモシキのとった行動は最適解を示していた。普通なら目まぐるしく変化する状況に、強力な武器を失った喪失感によって最適な行動ができなくなるというのに。

 神羅天征によりオレの影分身は体を煙に変え、本体のオレも掴んでいたモモシキの腕を放してしまい吹き飛ばされる。

 

「なんということを……!」

 

 憤怒の表情を浮かべるモモシキはその姿も相まって鬼のようだった。

 

「シンゲン、大丈夫か?」

「はい、問題ありません。すぐに奴を迎撃します」

 

 どうやら、神羅天征によって、七代目様の近くにまで吹き飛ばされたらしい。七代目様に目を向ける。体には何本もの黒い杭が打ち込まれており痛々しい姿だった。七代目様のサポートはすぐには期待できない。そして、サスケさんも満身創痍だ。更に、ボルトもモモシキに警戒されている。

 オレが囮となり七代目様の回復を待つのがベストか。

 

「待て、シンゲン」

「サスケさん?」

 

 立ち上がったオレをサスケさんが制した。

 

「ボルト、もう一発だ」

「でも、オレの螺旋丸じゃ」

「いいから、サスケの言う通りに」

 

 ボルトの掌に作られた蛍火のように小さな螺旋丸を見たモモシキは目を細める。

 

「その術。まだワレを愚弄するか。二度、同じ手は食わん」

 

 モモシキの殺気が高まる中、七代目様はずっとボルトを見ていた。七代目様の手が螺旋丸を持つボルトの手に添えられる。

 ボルトの手の上の青が輝きを増した。それは、大きくなっていく。

 

「行ってこい」

 

 ボルトに添えられた七代目様の手が離された。家よりも巨大な螺旋丸はボルトの手に託された。七代目様の想いを受け取ったのだろう。ボルトの目から零れ落ちた一滴の滴が風に煽られて消えていく。

 ボルトは自信に満ち溢れた顔でモモシキに向かって口を開いた。

 

「負ける気がしねェ……!」

「……いいだろう。貴様らが縋るこの術で引導を渡してやる」

 

 モモシキの左の掌からボルトの螺旋丸と同等の大きさの赤い螺旋丸が現れる。ボルトは正面からモモシキに向かって地面を蹴った。

 

『螺旋丸!』

 

 ぶつかる青と赤。人と鬼。家族に背を押された者と家族を喰らった者。

 二つの螺旋丸が衝突した余波で地面が大きく陥没する。そこには子として、恋人として、人として、鬼として譲れない決意が確かにあった。

 

「うおおおおお!」

 

 ボルトの雄叫びが響く。彼の右手の服が破れて飛ばされてもボルトは進むことは止めない。

 勝利の女神が微笑んだのはボルトだった。他人から奪ったものと親しい人から学んだものとの差が出た。威力は同等の二つの螺旋丸ではあるが、モモシキの螺旋丸は融通が利かず一定の出力しか出せない。対して、ボルトの螺旋丸は出力を抑えることで収縮を繰り返してモモシキの螺旋丸に歪みを与えている。

 

 徐々にモモシキの持つ螺旋丸が歪んでいく。ところが、ボルトに押されているというのにモモシキは余裕を浮かべていた。そこでオレはようやく理解した。モモシキは輪廻眼の力で術を無効化することができるにも関わらず、サスケさんがボルトに螺旋丸という“術”を打つように行った理由を。

 

「外導ノ印 封」

「何ッ!? このようなこと……有り得ん!」

「振り返って考えるのじゃ。君が、無知の故に、欲望と残酷さの故に、何をしたかを思い出すのじゃ」

「ワレは貴様を殺したハズだ! 赤銅ヨロイ!」

「まさにそうじゃ! じゃが、大蛇丸様式の変わり身の術という便利なものがあっての。君はそれにまんまと騙されたという訳じゃ。輪廻眼の力で心を読めないようにしておったのも、君が騙されるのに一役買っていたわけじゃな。……正確にはそう誤認させるのが俺の手だった訳だが」

 

 なるほど。サスケさんは写輪眼で父さんが生きている事を見切って、更に父さんがサポートすることを見越してボルトに螺旋丸を打たせたという所だろう。それならそれで教えてくれてもいいのにと思う。

 

「赤銅ヨロイィーッ!」

 

 モモシキの叫びを最後に、彼の後ろにいた父さんの姿が掻き消えた。飛雷神の術で時空間移動をしたのだろう。

 その瞬間、ボルトの螺旋丸がモモシキの体を飲み込み、空へ向かって放たれる。

 天で拡散したボルトの螺旋丸はモモシキを、空を覆っていた雲と共に跡形もなく消し飛ばす。ぽっかりと開いた空から差し込む光がボルトを照らした。

 

「……今度の勝負はオレの勝ちだな」

「ん?」

「忍の本質は変わらない。お前のガキだとしてもな」

 

 そういって、笑い合う七代目様とサスケさんから目を離し、オレは正面を向く。

 

 朝日を前に立つボルトの背中を見ながらオレは思った。

 それは新たな英雄の誕生の瞬間だった、と。

 

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