湖面の月は未来を映す   作:クロム・ウェルハーツ

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@2 英雄

 突然だが、オレは父親というのが大嫌いだ。

 

 一般的なイメージの父親と、自分の父親のイメージがあまりにもかけ離れているからかもしれない。いや、一般的な“親”というイメージと自分の両親の間には大きく深い溝が横たわっていると思う。

 簡単に言うと、オレの両親は子供っぽい。一人はいたずらっ子で一人はお菓子が大好き。そして、どちらも身勝手で人を振り回す。それはもう盛大に。

 

「でも、本当は好きだろ?」

「……」

 

 そのような両親のお陰で、自分はここまで成長できた。特に、六代目火影の護衛任務に命じられた時は身が震えたものだった。

 しかし、悲しいことに、それはオレが思い描いていた名誉ある任務ではなかった。ただ、一癖も二癖もある人間、オレの両親の抑え役として、いつも市中を走り回っていたから、そのような役割を期待されていただけなのかもしれない。

 

「よかったじゃん。お前の能力が認められたってことだよ。喜べ」

「……」

 

 六代目火影、うちはオビト様は火影という立場にも関わらず、普段は気さくな好人物である。だが、六代目と共に上役についていた“英雄”“写輪眼のカカシ”と謳われたはたけカカシ様に揶揄われて何度も、それは何度も火影室から涙目で飛び出していったことがあった。その度に護衛役の自分と先輩であり、幼馴染である猿飛ミライ先輩と共に宥めすかしたものだった。

 

 母が拗ねている時の経験がこんな所で役に立つとは。人生、何が身を助けるか分からないとどこかで聞いたことがあるが、なるほどとこの時思ったものだった。

 

「あ、それ、俺の言葉じゃね?」

「……」

 

 目の前にしゃがみながらニヤニヤしている男を無視して思考に没頭する。

 考えることは自分のこと、そして、客観的なデータだ。それならば、この目の前の男に悟られても特に問題はない。

 

 オレの名前は赤銅シンゲン。歳は15。黒髪で後ろに向かって逆立っている髪型だ。身長は170cmで体重は60kg、血液型はA型。

 顔付きは家族ぐるみで付き合いのある猿飛アスマさん曰く、母に似ているらしい。

 父は……父親と認めるのは癪だが、赤銅ヨロイ。そして、母は赤銅、旧姓、みたらしアンコ。

 現在の地位は上忍。そうは言っても、まだ上忍になって約1年しか経っていないけど。一つ年上の先輩である猿飛ミライさんもオレとほとんど同じスピードで上がったため、最近はミライ先輩とツーマンセルで組むことが多くなっている。先ほどの六代目火影様の護衛任務、本質的には太鼓持ち、などもその一端だろう。

 

「太鼓持ち……ねぇ。どっちかっていうと子守りの方が近いんじゃねぇの?」

「……」

 

 流石にそれは失礼だと思って、頭の隅に追いやった単語をこの男は事もなげに言う。

 

 そういう所が嫌いだ。

 

 昔馴染みとは言え、いくらなんでも火影様にいうような言葉じゃない。少し目線を鋭くすると、目の前の男は肩を竦めた。まるで、柳のようにオレの怒りを受け流す男に苛立ちが更に募る。

 

「シンゲン、お待たせ!」

 

 声が上から降ってきたかと思うと、次の瞬間、オレの前方に木の葉と煙が舞った。その中心には一人の女性が居る。

 

「ミライ先輩」

「ヤッ! ごめんね、準備に手間取っちゃって。……おっと、ヨロイおじさんじゃん。そんな所にしゃがんでどうしたの?」

 

 猿飛ミライ。

 三代目火影様の息子の猿飛アスマさんとその妻、紅さんの一人娘だ。

 母である紅さんに似て、肩ほどまでのくしゃくしゃとした黒髪。父であるアスマさんに似た力強い目付き。木ノ葉の中忍以上に正式に採用されている緑色のベストがよく似合うくノ一だ。

 

 木の葉瞬身で現れたミライ先輩はスタスタと俺の前にしゃがんでいる男に近づく。

 

「おう、ミライ。任務の報告にサスケを火影室に行かせていてさ。で、今はサスケ待ち。ああ、お前たちに聞きたいこともあったんだ」

「何?」

「『シシキ』って奴のこと……知らない?」

「ううん、知らない。シンゲンは?」

 

 奴に答えるのが癪だから、オレはミライ先輩に向かってだけ答える。

 

「聞き覚えがありません」

「そっか……ありがとな」

「それより、ヨロイおじさん。七代目様に任務の報告、サスケ様と一緒にしなくていいの?」

「いいの、いいの。友達同士、水入らずで喋りたいこともあるだろうしさ。それに……」

 

 そう言って、目の前の男……赤銅ヨロイは空を見上げる。

 空には一羽の鳥が飛んでいた。そろそろ、他里への報告へも済んでいるハズだ。今日より三週間後に始まる大々的な催し物の準備は着々と、そして、秘密裡に進んでいる。

 

「そうだね。七代目様とサスケ様のご子息たちが出場する中忍試験。お互いに話しをしたいだろうし」

「俺の目線からそこまで読み取るなんて、シンゲンといいお前といい、全く持って察しが良いな。ん? そう言えば、ミライ。お前が中忍に上がったのは何年前だっけ?」

「3年前。ルーキーとして中忍試験に出て合格したよ」

「優秀だな。俺は中忍試験を24の時まで受けていたぞ」

「ヨロイのおじさんと比べないでよ。その年齢まで中忍試験を受けていたのは色々と事情があったんでしょ? 世界を救うために」

「まぁな」

 

 ミライ先輩に褒められて、恥ずかしそうに頭を掻くヨロイの姿を見て、オレは座っていた団子屋の椅子から立ち上がる。

 

「ミライ先輩、行きましょう。そろそろ時間です」

「あ……そうだね。じゃあ、またね! ヨロイおじさん」

「おう、またな。ああ、シンゲン」

 

 やっと立ち上がったヨロイはオレの頭に貼り付けていたミスティッカー“世界の絆(バンドオブザワールド)”を剥がす。やっと、心の内を読まれないようになった。それにしても、このミスティッカーを貼られたのは一生の不覚だ。最後にヨロイを睨むと、奴は先ほどと同じように肩を竦めるのみだった。これ以上、この人に時間を割くわけにはいかない。無意味だ。

 

 オレたちはヨロイに背を向けて走り出した。行先は火影室。今日もいつもと同じ任務が始まる。

 

 +++

 

「失礼します」

「失礼します!」

 

 扉を開き、ミライ先輩を促す。今日の七代目様の予定は中忍選抜試験の第二試験で使われる会場の視察だ。そして、オレとミライ先輩はその際の護衛。

 

 今後のスケジュールを纏めながら、オレもミライ先輩に続いて火影室に入室する。扉の先に居たのは6人。窓の前に置いているデスクに座られている七代目様。そして、その前にいるのは猿飛木ノ葉丸上忍とその班員であるうずまきボルト、うちはサラダ、そして、ミツキ。

 

 そして、彼らよりもやや後ろに立っている一人の男が七代目様に向かって話しかけていた。

 

「この度の中忍試験に我々の科学忍具の使用を許可していただきたいのです」

 

 科学忍具班班長、カタスケ。彼は最新忍具の開発等、研究者としては一流。しかし、忍としては落第レベルの人間だ。忍は規律こそを貴ぶ。

 彼にはアポなしで火影室に踏み入る度胸はあるが、規律(ルール)を守る気はどうやらないらしい。

 

「カタスケさん。それ以上は……」

「上位者の忍術をコピーし射出可能なこの小手を、規格化して量産し配備することで、下忍に過酷な修行をさせることもなく、個人の忍術の幅も広がります!」

「カタスケさん!」

 

 オレの声を無視して、話を続けるカタスケの言葉を先ほどよりも大きな言葉で止める。今、オレに気づいたかのような大仰な演技をしながら、カタスケはオレとようやく視線を合わせた。

 

「火影様にお目通りを願うのなら、我々二人の内のいずれかに話を通していただかないと困ります。それが改められなければ強制退出という手段を取らせていただくこともありますので」

「いや、すまない。ついうっかりしていましてね」

 

 『しかし』と言葉を続けたカタスケは再び七代目様に向き直り、オレに背を向ける。

 

「いかがですか、火影様? 中忍試験での使用は?」

「ダメだ」

「なぜですか、火影様」

「中忍試験はパフォーマンスじゃねェ……忍を育てるためのもんだ。その忍具の有用性は認めるが、中忍試験にそんなもん使っても試験にはなんねェだろ。小隊運用に今のところ関係ねェんだからよ」

 

 七代目様の目線が一瞬だけオレに向いた。

 その意図を理解し、オレは行動に移ろうとする。カタスケの傍まで移動し、彼に『お引き取りを』と強い口調で言うだけ。足を踏み出そうとした瞬間、苛立ちを多分に含んだ声が響いた。

 

「父ちゃんのダッセー時代とは違うんだよ!」

 

 そう言って、火影室を飛び出していく影。七代目様によく似た彼は木ノ葉丸さんの制止も、父である七代目様の制止をも振り切り、外へと出ていった。

 この状況はまずいと考えたのか、カタスケは一度、七代目様に頭を下げるとボルトに続いて火影室を退出した。

 

「あー……サラダ、ミツキ。報告はきちんと受け取った。もう楽にしていいぞ」

「ハイ。……七代目様」

 

 少しの逡巡。彼女の迷いは火影という立場の人間に意見するということからか、それとも自分の気持ちを上手く言葉にできないことから来ているのか? どちらにしろ、彼女は言葉を口にすることを決心したようだ。

 

「ん? どうした、サラダ?」

「ボルトはきっと寂しいんだと思います」

「ああ、分かってるってばよ」

 

 そう言って、寂しそうな表情を浮かべる七代目様の顔を見たサラダは深々と頭を下げる。

 

「すみません! 七代目様が一番分かっていますよね。それに……」

 

 頭を振ったサラダは再度、七代目様に頭を下げる。

 

「失礼しました。ミツキ、行くよ」

「サラダ、七代目に聞かなくていいの? 七代目様が一番寂しいんじゃないかってことを」

「アンタは何も言わずに黙ってて! 失礼しました!」

 

 ミツキを引っ張って火影室から出ていくサラダを苦笑しながら見送る七代目様。と、七代目様の目が鋭くなった。

 

「木ノ葉丸。お前は残れ」

「ハ……ハハハ」

 

 そろりそろりとサラダに続いて火影室から出ていこうとしていた木ノ葉丸さんを呼び止めた七代目様の声色はサラダに向けていたものより冷たく、人を威圧するような声だった。

 

「木ノ葉丸お兄ちゃん、また調子に乗っちゃったみたい」

 

 従兄である木ノ葉丸さんの失態、七代目様から怒られている様子を見ながらミライ先輩は肩を竦める。時々、大ポカをする木ノ葉丸さんではあるが、今度のことは過去最大のミスだ。

 

 木ノ葉丸班に下された任務は野生の熊の捕獲。熊の捕獲に成功し、任務自体は成功したものの新忍具、カタスケが先ほど中忍試験での使用を求めていた忍具だ、の使用をしたところ、興奮していて術を射出した方向に民家があったことに気づかなかったと。それだけでも信じられないミスであるのに、おいろけの術で誤魔化したという。

 

 ミライ先輩の木ノ葉丸さんを見つめる目線の温度がどんどん下がっていく。

 

「それに、忍者にとって大切なのはチームワークだ。そのことはお前だって分かってんだろ?」

「ハイ」

「なら、それをアイツ等に教えてやってくれ。そうは言っても、こればっかりは時間が掛かるかもしんねーけど、オレは信じてる。お前ならアイツ等にチームワークの意味を理解できるように成長させられるって」

「ナルト兄ちゃん……」

 

 七代目様は優しい微笑みを木ノ葉丸さんに向けた。

 

「説教は終わりだ。アイツ等を頼むぞ」

「もちろんです、コレ! ボルトたちにチームワークがどれほど大切なのかきっちり説明してきます! ミライ、シンゲン。忍にとって大切なのはチームワークと根性だ、コレ!」

 

 目に火を灯し火影室から勢いよく走り去っていく木ノ葉丸さん。その姿を『本当に大丈夫かな』という表情で送った七代目様。

 深呼吸して、椅子から立ち上がった七代目様は首を回す。ゴキリゴキリという音からどれだけ七代目様の負担が大きいのか図られるというものだ。里の全てを一手に引き受ける火影という重圧。それは確実にうずまきナルトという人物の体に打撃を与えているのだろう。

 『オレってば頭脳仕事は苦手だってばよ』

 そうぼやきながらも、就業時間が来たからと書類仕事をモエギさんから引き継ぎ、彼女を帰らせて自分は泊まり込みで仕事をしていたことがあった。

 責任感が強いものの、それで体を壊してしまっては何にもならない。

 

 

「七代目様。中忍試験の第二試験会場の視察は私たちだけで十分です」

「カメラで写真を撮って画像データを七代目様のパソコンに送信するから七代目様はお昼ご飯でも食べて待っててください」

 

 七代目様はオレとミライ先輩の言葉に首を振る。

 

「今回の中忍試験は本格的に五大隠れ里が共同で行う試験だ。万が一にも何か事故とか起こっちゃならねェ」

 

 七代目様の言葉にオレたちは何も言えなくなった。火影室から出ていく七代目様の後に続いて、オレたちも外に出ていく。

 

「そういや、昼飯食べたか?」

「軽く携帯食料を食べたぐらいです」

「自分も同じようなものです」

「そっか。なら、一楽にでも寄っていくか? もちろん、オレの奢りだってばよ。それに、ラーメンなら時間はあまりかからねーだろうし」

「ありがとー、七代目様! 太っ腹!」

「ありがとうございます」

 

 七代目様は笑った。その少年のような眩しい笑顔は太陽を思わせる。火影は木ノ葉を照らす存在。どこか影があった先代よりも火影というものを体現している七代目火影を失ったら木ノ葉は……。

 

 そこまで、考えて自分の想像を打ち消す。七代目様が倒れるようなことがある、その前に、自分にできることがたくさんあるハズだ。七代目様のサポートの効率化と最新技術を使ったシステムの構築。今はまだ七代目様、自ら動く案件が多い。いや、多すぎるがそれを減らすために木ノ葉の忍一人一人の能力を上げて、七代目様を支えられるようにする。それならば、七代目様も安心して休みを取ることができるだろう。

 

 そのために、今は七代目様からの信頼を勝ち取る。

 七代目様の後ろについて、木ノ葉隠れの里を歩きながらオレは決意を深めた。

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