湖面の月は未来を映す   作:クロム・ウェルハーツ

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@3 思考

 自宅の書斎に籠り、安楽椅子に身を沈めながら、思考を巡らせる。

 

 アンコにもそれとなく聞いたがダメ。シンゲンも同じく知らないときた。一縷の望みに掛けて、ミスティッカーまで使って心の中を覗いたが、分かったのはシンゲンが俺のことを嫌っているということだけだ。

 成果はゼロといってもいいだろう。いや、気分が落ち込むようなことを聞いたから、どちらかと言えばマイナス。クソが。

 

「“別に来る者”……ねぇ」

 

 その言葉の意味すること、そして、シシキと名乗った人物の言い様からして、間違いなく奴は俺、赤銅ヨロイが転生者であることを把握している。

 

 誰にも話していない情報をどこから奴は仕入れてきたのか? 

 家族にも、信頼している俺のペイン六道にも話していない情報をどこから奴は仕入れて来たのか?

 その手掛かりが残っているとしたら、俺の血を分けた息子であるシンゲンぐらいだろう。と、いうよりそれしか思いつかない。俺に思い当たる節がないからシンゲンに何かあったんじゃないかと考えてみたが、特に問題は見つからなかった。

 

 そうだな、後は、俺の知らないやり方、例えば、魂に残された情報を摘出するような能力がシシキにあるのなら、俺が転生者であることが分かる可能性がある。輪廻眼の固有瞳術なら、それも可能となるかもしれない。

 他には、奴が前世で俺と会っていたというパターンも考えられる。その展開は正直、好きじゃない。前世からの因縁という奴は、もうナルトとサスケでお腹一杯だ。約15年前にアイツ等が戦っている余波を受けて、因縁なんてものは碌なもんじゃないと思い知った。アイツ等、地形変え過ぎだし。

 

「ハァ……」

 

 データが少なすぎる。

 

 傍のデスクに置いているチョコレートを口に含み、それを口の中でゆっくりと溶かす。カカオの香りと砂糖の甘味が苛立った心を落ち着かせる。信頼できる仲間にも隠してきた情報を敵に握られているなんて悪夢のようだ。更にその敵が強者だときた。二度の戦争の渦中で培われた俺の勘が警鐘を鳴らし続けている。走って走って……逃げろと。

 昔なら、逃げることができたのかもしれない。何も守るものがなく、使命のために生き続けることを自らに課していた時ならば。

 

 フォトフレームを持ち上げる。その中には家族写真、シンゲンがまだ小さい頃、10年ほど前に撮った写真が入っている。俺とアンコに両手を持たれて宙に上げられている息子の姿を見て、思わず笑みを溢した。

 

 これじゃいけない。気を引き締め、案を練る。カグヤの城で見つけた巻物の解析には時間が掛かると巻物を直接、持って行ったサスケから報告があった。俺たちの輪廻眼でも解読できないパターンの暗号。それを解読できる可能性があるのが、ナルトが先頭に立って立ち上げた木ノ葉の解析班だ。その解析班の仕事は主に古代文明の文字の解読となっている。というより、それを目的に立ち上げた部局であるというのが真相だ。

 大量のゼツを必要としたカグヤの理由。それを明らかにし、対策を素早く練ることができるようにするために必要不可欠な部局である。

 

「後に来る者」

 

 サスケはモモシキたちのことをそう表現した。なるほど、それは言い得て妙だ。チャクラを集める苗床であるこの星に流れ着いたカグヤから成果を受け取りに後に来る者。それが奴らなのだろう。

 なら、奴らの目的はカグヤができなかったチャクラの回収にある。木ノ葉についた後に、人柱力たちに身辺に気をつけるように連絡することをナルトに頼んでいたが、あの一癖も二癖もある人柱力たちだ。俺の注意をキチンと聞き入れてくれる奴は半数にも満たないだろう。特に、ビー。あのタコヤローは人の話を全く聞かないのがデフォルトだ。

 

 そう考えると、不安がまたもや首をもたげてきた。

 

「ふぅー」

 

 気分転換が必要だ。

 

 安楽椅子から立ち上がり、上着を羽織る。初夏に差し掛かっているとはいえ、まだ夜は肌寒い。充電していた携帯電話を手に取ると、丁度、着信が掛かってきた。画面を指でなぞってスライドさせ、通話状態にする。

 

「ヨロイか?」

「ああ」

 

 携帯電話(スマートフォン)の向こう側の声はサスケだった。前置きもなくサスケは淡々と要件を述べる。

 

「少しだが、解析の結果が出た」

「早いな」

 

 予想していたよりも大幅に早い。少しだけとはいえ、取っ掛かりができたら解読の速度は飛躍的に上がる。

 

「月夜の散歩と洒落込もうと準備をしていたから良かった。すぐに向かう」

 

 +++

 

「『約束の時間は来た。この箱庭はワラワの物。ワラワだけの物。箱庭を守るためには鬼にならねばならぬ、鬼にならねばならぬ』か。どう思う?」

「これだけじゃ何も分かんねーってばよ」

「カグヤの幸せが何かは置いておくとして、“約束の時間”というのがあの鬼たちのことだろうな。そして、来たと断定している所から一度、奴らを追い返すことができたのだろう」

「サスケの見解と同じだ。この『鬼にならねばならぬ』という表現からして、この後に無限月読を発動させた可能性があるな」

「どういうことだってばよ?」

 

 ナルトは首を傾げる。

 

「少しは自分で考えろ」

「そう厳しくするな、サスケ。こんな時間まで仕事をしてたら、頭が回らなくなるのも当然だっつーの。で、無限月読をしたって考えた理由は、カグヤの能力の中で“鬼”と表現されるほど外道な術は無限月読しかないだろ?」

「え? 火山につれていかれたし、髪を針にして飛ばしてきたんだけど」

「そんなの外道さが一つも感じられないじゃん?」

「そうかなぁ?」

「ナルト、こいつは大蛇丸の弟子で数々の非道な人体実験を行ってきた奴だ。ヨロイの中では相手を逃げられない状況にさせて殺す程度は非道に当たらない」

「なるほど!」

「……」

 

 納得するなよ、ナルト。悲しいだろうが。

 俺がこんな評価を受けるのも全ては大蛇丸様のせいだ。間違いない。

 

「つまり、これは……」

 

 突然、ナルトの体が大きく傾いた。それを慌てて支えるサスケ。

 

「ナルト! おい、ナルト!」

「七代目様!?」

 

 サスケがナルトに呼びかける中、俺は神楽心眼でナルトの体を調べる。ナルトのチャクラが少ない。正直、いつ倒れてもおかしくない状況だった。

 ナルトの体に手を当ててチャクラを流し込む。

 

「ナルト、大丈夫かい!?」

 

 何の前触れもなく、ナルトの父、ミナト先生が現れた。彼の声でナルトはうっすらと瞼を持ち上げる。

 

「やっちまった……」

「ナルト。後はオレがする。君は家に帰って休むんだ」

「けど、四代目。オレはまだ大丈夫だってばよ」

「大丈夫じゃないから言っているんだ。ナルト、頑張るのは君の長所だよ。けど、頑張り過ぎるのはダメだ。君が倒れるのは父としても見たくないし、ヒマワリちゃんの泣き顔も見たくないしね」

「父ちゃん……」

「ん。それじゃ、君は休んでいて。サスケくん、ナルトを頼めるかな?」

「ああ、オレはナルトを送ってくる。四代目、ヨロイと共に案を詰めていてくれ」

「ん、もちろんだよ」

 

 ナルトに肩を貸したサスケは解析室から出ていく。俺のチャクラをナルトに渡したとはいえ、精神的な疲労までは拭うことはできない。ナルトの視界は歪んでいることだろう。

 

「やっぱり、まだ早かったか」

「ミナト先生が火影に就任した時の方が早いですよ」

「そうだけど、オレとナルトじゃ性格が違う。ナルトは周りを上手く使うことができない性格だしね」

「そうですが、俺の息子も色々とナルトの負担を減らすようにしているようですし、中忍試験が終わるまでの辛抱ですよ。先人が一から十まで手助けをしたら成長しない。そうでしょう?」

「それは分かっているんだけどね。どうしても心配してしまうんだ。オビトが六代目火影になった時よりもずっと……」

「なんだかんだ言っても、オビトは暁にスパイとして居続けた奴ですから、組織内での立ち回りは上手いですよ」

「それはそうだけどね」

 

 オビトが木ノ葉に帰ってくることができた表向きの理由がこれ。カグヤとの戦いの後、無限月読の中でシスイに別天神を使わせて全世界の人間の認識を変えていた訳だ。そうすることでオビトは木ノ葉に戻ることができる。危険な組織を影から見張っていた英雄としての凱旋。そして、その後のオビト本人の頑張りとカカシの六代目火影の辞退によってオビトが六代目火影になったという話だ。

 真相、オビトが黒幕(ペイン)黒幕(長門)の黒幕という事実はあの時、無限月読に掛かっていなかった人間しか知らないし、全て俺の息がかかった者。真相が表に出ることはない。

 

「っと! ごめんね、すぐに報告を聞かせてくれないかい?」

 

 ミナト先生に解析班の一人が説明する様子を見ながら考えを纏める。

 四代目火影の分析力と言えども、あまりにも情報が少ない。ここから、シシキたちの対策は取れないだろうし、特に、シシキの能力については謎だらけだ。

 

 しかし、手掛かりはまだこれしかない。後は、戦争後に再び人柱力たちの中に戻った尾獣を襲う奴らの戦闘から情報を得る、か。

 と、なれば我愛羅。それがカグヤのやり残したことを引き継ぐ奴らの第一目標だろう。砂隠れとの連絡を密にして待つこと。それが、今の俺に打てる最善手だと考え、俺は唇を噛んだ。

 

 今まで、格上を相手にする時は原作知識からのプロファイリングやスパイとして集めた忍の個人情報から多くの戦闘で最適な手段を取れていた。しかし、今回はその情報が全くない上、守るものがあるから逃げることもできない防衛戦となるだろう。非常にやりにくい条件である。

 

「やるしかないならやるだけだ」

 

 光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女性騎士が語っていた言葉が妙に心を打った。双対する世界の真実に触れた時、人は定められし宿命と対峙するなんて過酷な運命に翻弄されている訳じゃない俺だが、なるほど、様々な弱体化させる手段が取れない場合は前だけ見るのも、また、有効な手段であるだろう。

 

 ならば、先頭に立つのは輪廻眼を持っている俺の役目なのではないのだろうか?

 

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