湖面の月は未来を映す   作:クロム・ウェルハーツ

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@4 関係

 中忍試験二次試験の会場は遺棄された街だ。昔は活気があったのだろうが、今は見る影もない。人の気配は全くないし、生き物も猫や烏といった小動物だけで大型の動物の気配は全くない。

 

 静かな街を七代目様とミライ先輩と歩きながら、中忍試験の会場において適切かどうかを確かめていく。もし、可燃性のガスなどが建物の中に溜まっていた場合、それを火遁などに利用する者もいるだろう。しかし、そのような下忍に扱うことができる範疇を超えている攻撃は敵だけではなく、自分や味方をも巻き込んでしまうことがある。

 

 これは余談ではあるが、実際の現場では可燃性のガスを攻撃に利用することはなくとも、何かの弾みでガスに引火して爆発するということがある可能性がある。その後のフォローをするのは、部隊長、中忍以上の忍になるため、その判断力を見るという試験も行われたこともあったという話だが、今回の二次試験の目的は小隊同士の市街遭遇戦を想定したものだ。危機管理や被害補填などの観点とは違うもの。そのため、今回の試験ではスリーマンセルでのチームワークと、会敵し即時の作戦立案能力が試される。だからこそ、その要素をより見やすくするために不具合は廃さなくてはならない。

 

「七代目様、シンゲン。子猫を捕まえたよ」

「おー、かわいいな」

「……」

 

 だから、その不具合になる可能性がある子猫は廃さなくてはならないだろう。ミライ先輩が持ち上げている白い子猫を見ながらオレは結論を出す。戦闘に巻き込まれた猫を庇う心優しい下忍がいる可能性は捨てきれないし、そのような理由でチームワークと作戦立案能力を見る二次試験を脱落させてはならない。

 

「この試験場から猫は捕まえておかないといけませんね」

「そうだね。巻き込まれたら可哀そうだし」

「では、試験監督官予定者の中忍たちに猫の捕獲任務を出すことにしましょう。よろしいですか、七代目様」

「そうだな、里に帰ったらすぐに書類を纏める」

「そのような雑務は自分たちに任せてください」

「そうそう、七代目様は確認してハンコだけ押してくれたらいいですよ」

「ああ、すまねぇな」

「お気になさらずに」

 

 七代目様は目を細めて困ったように頬を掻く。いつもの癖だ。

 しかし、彼はまだ諦めていない。オレたちから顔を別の方向に向けた七代目様の目は獲物を狙う目だ。きっと、隙を見て書類を全て精査するのだろう。少し溜息が出る。

 

「七代目、ご自愛ください」

「へ? シンゲン、いきなりどうした?」

「自分たちの目が離れたら書類を全てチェックするおつもりでしょう?」

「うぐっ」

「それでは時間がいくらあっても足りませんし、今以上に多くの影分身を使って公務に打ち込みますと、経験のフィードバックによって倒れることになります。ですので、先ほども言ったようにご自愛ください」

「ハハ……ご自愛って体を大切にしろって意味だっけか?」

「そうですが?」

「もうオレにとっちゃ木ノ葉隠れの里は自分の体みてーなもんだ。だから、里のために動くってことは、オレは自分を大切にしてるってことだろ?」

 

 優しい屁理屈。だが、その中に要である七代目火影(うずまきナルト)が入っていない。それではいけないと口を開こうとした瞬間、頭の上に手が置かれた。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だってばよ。オレは強いからな」

 

 自身の実力に自信を持っているのだろう。七代目様の言葉は力に溢れていた。

 しかし、そんな言葉はミライ先輩には通じなかった。

 

「けど、キチンと休まなきゃダメですよ。お母さんやお父さんも七代目様は昔から頑張り過ぎる所があるからって言ってましたし」

「紅先生にアスマ先生が?」

「そうです。今では七代目様の術代表といわれる風遁 螺旋手裏剣の術を創り出す時に無茶な修行をしていたって」

「いやいや、そんなことないってばよ」

 

 ミライ先輩は腰に手を当てて七代目様をジッと見つめる。ミライ先輩のその様子に七代目様は額に汗を流した。

 

「あー、えーっと、そーいや、紅先生にアスマ先生……っと、お前の母ちゃんと父ちゃんは元気か?」

「はい。元気ですよ」

 

 明らかな話題逸らし。次いで、七代目様はオレにも話を持ち掛けてきた。

 

「んじゃ、シンゲン。アンコ先生……っと、また間違えちまった。お前の母ちゃんと父ちゃんは元気か? まぁ、ヨロイの兄ちゃんが寝込んでる姿とか想像できねーけど」

「そうですね」

 

 ヨロイ。彼の名前が出た瞬間、オレの口調が冷たい物に変化したことに自分でも気がついた。七代目様もそれを感じ取ったのだろう。不思議そうな表情を浮かべながらオレを見つめる。

 

「すみません。ヨロイについては自分も把握できていないです」

 

 慌てて七代目様に謝ると、七代目様は少し寂しげな表情を浮かべて気にしないように言ってくれた。

 

「シンゲン、ヨロイの兄ちゃんと何かあったのか? オレができることなら力になるってばよ」

 

 七代目様の言葉で少し前の記憶が呼び起こされる。

 あれは七代目様の側近として任命された後の初仕事のことだった。

 

 オレと同時に側近として任命されたミライ先輩と共に命じられた任務は、数々の任務の報告書をパソコンのデータに打ち込む作業だった。パソコンがない時代で生まれ育った七代目や上役のシカマル様に、七代目側近としてオレたちより先に就いていたモエギさん、ウドンさんよりもパソコンの操作に慣れているという理由で後回しにされていた作業を引き継いだのだ。

 着任直後に、赤銅ヨロイの息子ということで七代目様やシカマル様からは父の評価、自分が思っていたよりも高い評価を聞かされてむず痒く感じたことを覚えている。普段は、居間のこたつで何時間も寝転んでいる姿や、母が冷蔵庫にとってあったプリンを勝手に食べて怒られている姿しか見たことがない父を知っているオレからするとあり得ない高評価ではあったが、伝説と言えるほどの方々から父を称賛され、嬉しくなかったということはなかった。

 

 だが、少し上昇していた父への好感度が下がる、いや、最早、好感をこれから先、覚えることはないと断言できるようなことが起きた。

 

「これは……」

 

 いざ、初仕事ということで巻物を傍に広げながらパソコンに文字を絶え間なく打ち込んでいたオレの手が止まる。

 その膨大な数の報告書の中で見つけたものは知り合いの名前。アカデミー時代の同級生やイルカさんなど小さい頃にお世話になった方々、そして、両親の名前だ。

 そして、赤胴、そうこの頃は本名である赤()という名前を隠していた頃の父親の名前を見つけて心臓が跳び上がったように感じた。

 

 そう、報告書に書かれていた内容が目を疑うようなものだったから。

 

 報告:忍里、岩隠れとの戦闘。

 作戦立案者(以下、甲とする)が影分身を囮とし、岩隠れの基本小隊3部隊を三方が岩に囲まれた崖におびき寄せる。岩隠れの忍が入り込んだのを見計らい、作戦責任者が土遁 岩石崩しを使い甲の影分身体ごと閉じ込める。崖の上に控えていた下忍うちはシスイ、下忍きしめじエノキ両人と甲の本体が岩の忍に甲の「今です」という合図を受け、クナイを投擲する。消費したクナイは200本。クナイは全て回収済み。被害なし。

 作戦責任者:夕日真紅

 作戦立案者:赤胴ヨロイ

 

 報告:忍里、霧隠れとの戦闘。

 作戦立案者(以下、甲とする)がチャクラ吸引で殺害した霧隠れの捕虜(以下、乙とする)に死魂の術を掛ける。乙の衣服の裏に起爆札を32枚貼り付けた後、死魂の術で操った乙を霧隠れの拠点に戻す。○一○○、乙に起爆札を起動させて自爆させることで拠点を混乱させた後、作戦責任者の指揮の元、全部隊で殲滅。被害、軽傷2名。

 作戦責任者:志村ダンゾウ

 作戦立案者:赤胴ヨロイ

 

 報告:雷の国での民間人対策

 作戦立案者(以下、甲とする)は雷の国、戸有村の村人182名全員を結界に閉じ込める。その後、甲は結界に新兵器である揮発性の高い眠り薬を充満させ、眠った村人を時空間忍術で木ノ葉第172実験場に移送。実験体として作戦責任者に引き渡した。

 使われた新術開発の人体実験経過については、別紙を参考とされたし。

 作戦責任者:大蛇丸

 作戦立案者:赤胴ヨロイ

 

 思わず、オレは資料である巻物から目を逸らした。自分の父親が人としての道を踏み外しているということは知りたくなかった。しかし、任務である。忍にとって任務とは絶対のもの。自分が見たくないから、嫌だからという理由で投げ出してはならないということは散々アカデミーでも言われてきたことだ。決して、目を逸らしてはならない。

 

 気持ちを落ち着かせて、巻物を取り上げる。報告書であるので、淡々と客観的な事実を述べられているのが救いだった。文字から得られる内容は凄惨極まるもので、一昔前の暗部の行動は里の闇を十二分に表したものだ。もし、映像などが残されていたらと考えると身震いする。

 そこに書かれている文字をパソコンのキーボードへと打ち直していく。痛みと嘆きと、そして、悲しみ。それを生み出した者と同じ血が自分にも流れているということがどうしようもなく恥ずかしかった。

 

「シンゲン?」

 

 七代目様の言葉でハッとする。思考に没頭してしまって七代目様に言葉を返していないことに気づいたオレは慌てて謝る。

 

「すみません。特にヨロイと何かあったという訳ではないです」

 

 嘘で言葉を濁す。頭を下げると七代目様はオレの気持ちを汲み取ってくれたようだ。

 

「そっか……」

 

 それだけ呟いて七代目様は視線を前に向ける。少し憂いを帯びた表情。だが、その表情は刹那の間だけであった。すぐに表情を元の明るいものに戻した七代目様はオレに笑いかける。

 

「オレができることなら力になるってばよ」

 

 そう言って、七代目様はもう一度、オレの頭を撫でた。

 そう言えば、ヨロイに頭を撫でられたことなんて一回もなかったなという無駄な思考を頭の隅に追いやって、状況を再確認する。

 

 まず、右側から七代目様がオレの頭を撫でている。そして、いつの間に来たのかミライ先輩がオレの左側に来ており、オレの頭を撫でている。全く気配を感じさせずに接近してきたミライ先輩に内心、慄きながらも呟く。

 

「なんでしょう、この状況は?」

 

 オレの疑問に答えてくれる人は誰もおらず、答えてくれそうな二人は笑顔でただ只管(ひたすら)に、俺の頭を撫でているだけだった。

 

 

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