湖面の月は未来を映す   作:クロム・ウェルハーツ

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@5 会敵

 カシャッカシャッという音が俺の手の中から鳴る。54の小さな世界を内包したマクロコスモスを掌で転がしながら報告を待つ。木ノ葉隠れの里に戻ってきて5日。カグヤの城で見つけた巻物の解読は思った以上に難航している。なんでも、解読できた巻物の始めの文字と比べて、後の方の文字は読みづらい形となっているらしい。

 

 俺にも経験がある。あれは前世の……そう、小学生だった時だ。新しいノートを広げた1ページ目。真っ白で誰の手も付けられていないページに鉛筆を落とす時、いつも以上に、いや、これ以上ないというレベルで綺麗に文字を書いていたのに、次のページの大体半分ぐらいかな? それぐらいから、もういいやって気分になっていつも通りのレベル、簡単に言えば汚い文字と言えるレベルに戻った経験がある。きっと、カグヤも俺と同じような性格だったのだろう。わかるわ。

 

「ちっ……」

 

 思考をカグヤに割き過ぎていて、掌の中の世界の均衡が大きく崩れた。せっかく、取り戻した均衡が一つの判断ミスによって崩壊する。それを良しとできないため、俺は指を動かして綺麗な世界を取り戻す作業に没頭する。

 

 俺の手の中から鳴るカシャカシャカシャ。それと、解読機から流れるビィーンガシャガシャ。そして、解読班の走り回るパタパタという音。賑やかな研究室の中で独り黙々と手を動かして世界を作る作業に集中する。

 と、アラームが何の前触れもなく、けたたましく鳴り渡った。

 

「雲隠れより緊急連絡! 雷の国、雲雷峡より件の三人の姿を確認! 雲隠れの忍、ビーが応戦中です!」

 

 『はぁ』とため息をついて椅子から立ち上がる。いいところだったのに。

 手の中の未完成の世界(ルービックキューブ)を傍の机に置いて、チャクラを練り上げる。

 

「四代目とサスケに連絡。その後、七代目の指示を仰げ」

「ハッ!」

 

 大きく頷く木ノ葉の忍を最後に、俺の視界が変わった。

 目の前の山と湖が広がる雄大な景色は月明かりに照らされて幻想的なものだった。しかし、その感動をぶち壊す光景が俺の後ろに鎮座していたのが非常に残念だ。

 

 影分身の術を使って後ろの存在に向かわせながらも、視線は前方に浮いている奴らから離すことはない。離したら、まず間違いなく殺される。どれだけの力を持とうが、慢心は死を招くことをそれまでの経験から知っているし、それが力を見極めていない敵だと猶更だ。

 

「大丈夫ですか? ビーさん?」

「これが大丈夫に見えるか、バカヤローコノヤロー」

「まぁ、見えないですけどアナタに常識を当てはめることはバカらしいので」

「常識♪ 形無し♪ オレ、天使♪」

「何だ、大丈夫そうじゃないですか」

 

 八尾の姿に変化したビーさんは地響きを立てる。赤色のチャクラで崖に縫い付けられていたが、俺の向かわせた影分身が餓鬼道 封術吸引で赤色のチャクラで出来た棒を吸い取ったためにもう自由に動くことができる。

 

 しかし、2対3の状況。数の上では不利だし、ビーさんと組んだことはないからチームワークに不安がある。ならば、別れて個別撃破がいいか。

 

「乗ってあげるよ。ボクが君と戦う」

「……」

 

 俺の思考を読んだのか?

 声を掛けてきたシシキを睨むと、奴は眼を紫に光らせて怪しく笑った。俺の思考を読んだことといい、先日の俺のことを『別に来る者』と表現したことといい、あり得ないことだ。あり得ないことを現実にする力。輪廻眼。

 やはり、奴の固有瞳術だと考える方が適切か。

 

「こっちだよ」

 

 シシキは宙に浮かんだまま移動する。

 

「ビーさん」

「ああ、奴を任せる。こっちはオレに任せろ」

 

 ビーさんの言葉に頷き、地面を蹴る。頭上の二人が攻撃を仕掛けてくるかもしれないと気を張っていたが杞憂に終わった。完全にスルーされるのは俺を格下に見ているのか、シシキの実力を信用しているのか?

 どちらにしろ楽になった。一番、能力を知りたいシシキと差しで戦闘することは能力解明のためには効率的だ。神楽心眼でチャクラの動きを診ておくのがいいだろう。

 

「抜け目ないね。けど、それは無駄な足掻きだよ」

 

 ふわりと湖の上に降り立ったシシキは俺に背を向けながら口を開く。取り敢えず、隙が見えたからクナイをシシキの頭に向かって放るが、シシキは頭を軽く左に動かすことで、それを避けた。

 

「せっかちな男だね、君は」

「嫌なことは先にやるタイプだから、俺は」

「定食とかでも嫌いなモンから食べるタイプ?」

「あー……なんていうか、俺、お前のこと嫌いだわ。人の発言を先回り、しかも、一字一句間違いなく当ててくるとか性格悪い小僧だな、お前は」

「ふふ、そうかもしれないね。君の考えを正確に読み取れるボクと違って、君はボクのことを何一つしらない」

 

 勝ち誇ったように笑うシシキ。しかし、これでハッキリした。奴は心の中を読み取れる。

 人の性格が良く出ると言われる絶対的な優位を感じる状況での発言の声色をしているため、奴の発言はそれなりに信用することができる。敵に対して完全に優位な状況であると、人間は自覚して嘘をつくことは少なくなる。いわゆる、正論を振りかざすという奴だ。

 

 つまり、『君の考えを正確に読み取れる』という奴の発言は事実であると考えた方がいい。

 

「うん、そうだよ。君の考えは合っている。ボクの話した内容は嘘偽りのない真実。そして、これから話す内容で君の顔は驚いたものになる」

「つまり?」

「ボクは()()なんかじゃない。女だからね?」

「は? でも……」

 

 目にも止まらぬ速さでシシキから放たれた紫色の物体。それを、身を捻って躱す。神楽心眼でシシキのチャクラの動きを観察し続けてなければ、額にスコーンと突き刺さっていたに違いない。

 

「それ以上言ったら……殺すよ」

「ごめん、女の子に貧乳っていうのは流石に失礼だったな。すまない、俺は正直者なんだ」

 

 シシキから再び放たれた紫の矢。それは俺より1m手前の空間で霧散した。封術吸引でチャクラを固めた武具を無効化できるのは、先ほどビーさんの拘束を解いた時に確認していたことだ。同じ原理で出来ている矢も先ほどの赤い杭と同じ運命を辿っただけだった。

 

「へぇ……何も考えていない訳じゃなかったんだね」

 

 一瞬だけ驚いた表情を浮かべたシシキを油断なく見つめる。これまでの情報から推察……いや、推察した結果を読み取られる可能性がある。ならば、脳内でも暗号を使って考えを纏めるべきだ。

 

 ドドボダダ。ラズ レンラググス ドス。ヘッドセット ゾ オリザ ギデデオ。

 

 懐から出したヘッドセットを耳に着けてスイッチを入れながら、シシキの様子を見ると彼女は困惑した表情を浮かべていた。

 忍相手じゃない時は楽だね。忍のように表情を偽装する訓練なんかしてないから、心の中が表に出る。シシキのチャクラが乱れていたことからも奴が混乱していることは確かだ。おっと、奴のチャクラが急に整った。俺の心の読まれてもいい部分を読み取った結果、心を落ち着かせたという所だろう。

 

「ヨロイさん、ドスです」

「ドス、サスケに伝えろ。フグジュズキュグギン グ ユグボグ シシキ」

 

 ヘッドセットを耳から取り外し、それを握り潰す。これで、ドスからシシキは情報を得ることはできないと思われる。

 輪廻眼の解読パターンにもない暗号にして伝えれば、例え俺の心を読もうが暗号の言葉だけを思い浮かべていたら読み取れないだろうと考えてのことだ。そして、その読みは当たった。シシキは眉を顰め、俺を睨んでくる。

 

「中々、やるね」

「そりゃ、どうも」

 

 カランと音がした。

 

「モモシキ、コイツはボクが殺すから君はキンシキの所に行ってあげて」

「こやつは輪廻眼を持っている。お前だけでは荷が重い」

「ボクは君より強いよ」

「だが、お前は我の妻となる者。無用な争いで傷を付けられては、な」

「モモシキ……」

 

 目の前で突然、展開された桃色空間について行けない。取り敢えず、白目を向くことで対応しておこう。

 

「な、何が桃色空間だ! それに、白目を向いて対応って意味が分からない!」

 

 そうだね。けど、いい感じに空間を壊せたと思うよ。桃の天然水でビシャビシャになる前にね。

 

「下ネタを口にするな! 汚らわしい!」

「口にはしてないデース。心の中で思っただけデース。それを勝手に読み取ったアナタはえっちデース」

「この! 黙れ、変態!」

 

 俺が変態と言われたい女の子No.1はいおりんであって、目の前の奴とは貧乳ぐらいしか共通点がないという現実に思わず溜息が漏れる。

 

「貧乳って言うな! それに、いおりんって誰よ!」

 

 頭の中でいおりんを思い浮かべる。文字じゃなくて、画像でだ。

 

「ボクの方が大きいから!」

 

 ほう、画像を読み取れるのなら、映像も読み取れそうだな。えーっと、そうだな、少し変えてっと。

 

 モモシキ!モモシキ!モモシキ!モモシキぃぃぃいいいうわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁああああ……ああ……あっあっー!あぁああああああ!!!モモシキモモシキモモシキぅううぁわぁああああ!!!あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ……くんくんんはぁっ!モモシキ・大筒木たんの白色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!小説12巻のモモシキたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ……あああ……あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!! アニメ2期放送されて良かったねモモシキたん!あぁあああああ!かわいい!モモシキたん!かわいい!あっああぁああ!コミック2巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ……小説もアニメもよく考えたら……モ モ シ キ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のモモシキちゃんが僕を見てる?表紙絵のモモシキちゃんが僕を見てるぞ!モモシキちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のモモシキちゃんが僕を見てるぞ!!アニメのモモシキちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった……世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはモモシキちゃんがいる!!やったよキンシキ!!ひとりでできるもん!!!あ、コミックのモモシキちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!あっあんああっああんあカグヤ様ぁあ!!ううっうぅうう!!ボクの想いよモモシキへ届け!!地球のモモシキへ届け!

 

 スウェットを着たシシキがモモシキのポスターに頬ずりしているという中々に引く想像映像を見てしまった彼女の表情が変わる。やっぱり、このルイズコピペは破壊力が凄い。狂気というものをこれほどまでに表した言葉を俺は知らない。

 

「な、ななな……」

 

 想像力で戦うという高次元な戦いは、俺に軍配が上がったようだ。

 顔を赤らめてワナワナと震えているシシキを見ているとそのような結論に達した。やはり、小説12巻で裸のモモシキとキンシキが抱き合っているという泥沼と形容してもいい表紙の効果が抜群だったのだろうか? うーん、それとも独特の声をあげていないことから、ただモモシキの裸で顔を赤らめたという可能性の方が高いのかもしれない。

 

 『それ以上言ったら……殺すよ(ニッコリ』って発言から彼女を腐扱いしてしまったが、彼女の様子を見るにどうにも違うらしい。偶然の一致という奴か。

 追い詰めるために、次の弾としてもっと過激なものも用意しようと一瞬、頭の隅を過ったが必要はなさそうだ。俺の精神的にも悪いし。

 

 いや、待てよ。プラトニックな恋愛で絆を育むシシキとモモシキに訪れる試練、不良から襲われて妊娠などなどを経験して、最後にモモシキが病死するという昔読んだことのあるケータイ小説的な展開はどうだろうか? ハッピーエンドが好きな俺としては肌が合わなかったが、男と男が抱き合う程度で顔を赤らめるシシキならば、きっと喜んでくれるに違いない。それに、勝手な偏見ではあるが、女っつーのはケータイ小説が好きだと相場が決まっている。勝手な偏見なのだが。

 

 という訳で一つ、想像してみることにする。

 

「もう、止めて!」

 

 止めてと言われたらやりたくなるのが男というものだとどっかの誰かも言っていたと思う、きっとね。

 

「シシキ、神通を発動させるな」

「そ、そうだね。ありがとう、モモシキ」

 

 ねぇ、ぁの時、ぁたしわ……どうしたらよかったのかな? と入りを想像したのに、シシキは紫色のチャクラで創られた弓を俺に向かって突きつけた。どうやら、俺の心を覗くことを止めたらしい。

 

「これで、君の攻撃は効かない!」

「その代わり、お前のその心を読む術、モモシキが“神通”って言ったっけ? それは使えなくなった」

「神通が使えなくても、ボクらには丹がある。これで、君には負けない!」

 

 ボンボン情報を出してきてくれるシシキ。彼女の手には兵糧丸のような物が乗せられていた。彼女は、それを口に含む。

 

「なに!?」

 

 チャクラが増大した。いや、増大なんて生易しい。目の前に尾獣が突然現れた。そんな感覚。

 

「死ね」

 

 矢が来る。餓鬼道を使って無効化を……。

 矢が爆発した衝撃で頭が揺れた。後ろに大きく吹き飛ばされ、岩山にぶつかり動きを止める。凝集させたチャクラの塊を一気に拡散することで爆発させたのか。しかも、封術吸引の効果範囲外のために衝撃だけが俺を襲ったため無効化できなかったと。

 

 咄嗟のことでチャクラの鎧を纏うことすらできなかったため、生身の体へのダメージは極めて大きい。すぐに回復しなければマズイ。

 月の光が消え、俺の頭上に影が落とされた。顔を上げると、無表情のシシキと目が合う。

 

「使いなよ、百毫の術。少し変えて額じゃなくて胸にマークが現れるようになっているみたいだけど、ボクの眼にはしっかり見えているから意味ないよ」

 

 神通という術は心の中だけではなく、使える術も看破することができることが分かったが、それを伝える手段が今の俺にはない。ヘッドセットを壊さなければよかったなと思うが、後の祭り。どうしようもない。

 

「使わないんだ?」

「クソガキの思うように動くのが癪なんでな。……双邪至!」

 

 地面から腕の形に形態変化させたチャクラの鎧をシシキに向かって突き上げるが、彼女はそれを優雅な動きで躱す。

 

 奴の言うことに従うようになるのは癪だが、百毫の術を開放した後で創造再生を使うことが一番、回復速度が速い。体中に広がったマークが傷を治していくのを確認して、俺は立ち上がる。額から流れる血を拭うと、シシキの声が耳に入った。

 

「君のチャクラを減らすために、まずは四肢を捥いでいく。モモシキ、手伝ってくれる?」

「ああ、お前を辱めたこやつは許さん。お前の好きなやり方で成敗するといい」

「ありがとう。創造再生で治る手足を何度も何度も何度も! 切り落とす! 君が泣いて許しを請うようになっても止めない。生きながらにして地獄を味合わせてやる!」

「御託はいい。掛かってこいや、がきんちょ共」

「覚悟しろ! 赤銅ヨロイ!」

 

 ここで、俺が引けばビーさんが危機に陥る。そして、八尾のチャクラを得たこいつらは今以上の危険度となって他の里を襲うに違いない。奴らの目的はカグヤと同じだろうから。

 

 だからこそ、俺は逃げることができない。こいつらが狙う里には木ノ葉の里のナルト(九尾)が入っていることは間違いないから。

 修羅道の力で呼び出したブラスターとライトセイバーを構え、シシキとモモシキを迎撃する。

 

 援軍の雲隠れの忍が駆け付けるまでの爆音と土煙、閃光が飛び交い、血飛沫が舞う10分間の中、意識が段々と薄れていく。

 

「シシキ、引く」

「あと、少し」

「ダメだ。我もお前もチャクラを使い切った。それに、多くの敵が来ている」

「そうだけど、あと少しだから」

「キンシキを待たせている。行くぞ」

「もうっ!」

 

 空へと姿を消していく二人の姿を見送り、背もたれにしていた岩に体を深く預ける。もう再生もしなくなった右肘と両膝を何となしに見遣る。切断と再生を繰り返すことで俺の腕と足が何本も散らばる岩場を見渡して、俺は力なく首を下げる。

 

 いつの間に来たのか雲隠れの忍の声を聞きながら、俺の意識はそこでプツリと途切れてしまった。

 

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