湖面の月は未来を映す   作:クロム・ウェルハーツ

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 中忍試験の会場の視察を終え、一夜が明けた。差し込む朝日を浴びながら、ゆっくりと目を覚ますといつもの自室の光景がオレを迎えてくれた。

 オレはベッドから降りて、一度背伸びをする。最近は初夏に近づき、少しずつ暑くなってきたものの朝は少し肌寒い。クローゼットを開けて、その中から取り出したパーカーを羽織り部屋のドアを開ける。

 

 階段を降りて、洗面所へと足を向けながら今日の仕事について考えを巡らす。今日の予定は中忍試験の流れの最終確認。試験監督責任者は第一の試験が山中サイさん、第二の試験がテンテンさん、そして、第三の試験がロック・リーさん。いずれの忍も七代目様と共に数多くの任務を受けてきた忍たちだ。

 

 濡れた顔をタオルで拭きながら、顔を上げると鏡の中の自分が見つめ返していた。ふと、思い出したことではあるが、顔付きは母に似ている、しかし、目はヨロイに似ているらしい。鏡の中の自分を睨みつけるがオレはそんなことをしてもしょうがないと思いつき、表情を戻す。オレがヨロイと似ているなんてことないというのに。仮に似ていたとしても、オレと奴は関係ない。

 

 身支度を整え、居間にいる母に『いってきます』と声を掛けて玄関の戸を開ける。今日もいつも通りの日常が始まることを全く疑わずに木ノ葉隠れの里へと飛び出した。

 

 +++

 

 火影執務室に着いたオレを待ち構えていたのは、今まで見たことがないほど険しい顔付きをした七代目様と、同じような表情をしたシカマルさんだった。

 

「どうされましたか?」

「あ、ああ。シンゲンか。……それがな」

「おい、ナルト!」

「何だってばよ、シカマル」

「極秘情報だ。しゃべるな」

「襲われたのはヨロイの兄ちゃんだぞ! シンゲンに説明する義務がオレにはある」

「バカ! だから、言うなって言ってるだろうが! それに、極秘情報は例え親族でも明かさないことを六代目様からきつく言われていたじゃねェか」

「そうは言ってもよ!」

 

 二人の様子を見て、気がついた。ヨロイがまた何かしでかしたのだろう。そして、返り討ちにあったか、または、過去にした清算をつけようと誰かがヨロイを襲った。しかも、それが、上層部のみに制限されている情報ということから大名や他里の上層部の関係者と予測できる。

 

「シカマルさん。オレは一度、退室します」

「ああ、頼む」

 

 ならば、情報は聞かないべきだ。機密情報には知るべき時がある。それを誤った人間がどうなるかは過去の出来事が証明している。

 

「待て、シンゲン」

 

 しかし、七代目様はオレを止めた。

 

「あのな、ナルト」

「シカマル。お前の言いたいことは十分、分かってるってばよ。けど、シンゲンはオレの付き人で護衛部隊で、そんで、ヨロイの兄ちゃんの息子だ。この情報を漏らしたりなんかしねーよ」

「全く……。シンゲン」

 

 諦めたように頭を振り、シカマルさんはオレの方を向く。

 

「これから話す内容は特級極秘情報だ。五大国の隠れ里の影と音隠れの長、そして、その付き人しか知らない情報だ。情報を流すことは禁じる」

「ハッ!」

「まずは……第四次忍界大戦からか」

 

 シカマルさんが語る内容は、月並みな表現になるが驚くようなものだった。

 第四次忍界大戦で七代目様たちの最後の敵、大筒木カグヤ。彼女は大昔に作り出した人造人間であるゼツは、生きた人間をベースにした改造人間だった。そして、改造して力を上げた人間の兵団で彼女と同じ異世界から来る人間がいるらしい。

 

「しかし、そのような荒唐無稽な話、信じろというのが無理です」

「オレたちが“カグヤの城”と呼んでいる亜空間から見つけた巻物を解読した文章だ」

 

 七代目様から渡された紙には、『今、ワラワは幸せを手に入れた。だが、約束の時間は来た。だが、この箱庭はワラワの物。ワラワだけの物。愛しい者がいる世界を守るためには鬼にならねばならぬ、鬼にならねばならぬ』と書かれていた。

 

「今はもうちょっち解読は進んでんだけど、文書として出してねーんだ。けど、お前ならその文章が意味していることが理解できるだろ?」

「『約束の時間』『守るためには』という箇所から何者かが攻めてくるということを示唆していますね。それが、かつてのカグヤと同様の力を持った存在だとすれば、限りなく恐ろしい存在であるでしょう」

「ああ、お前の言う通りだ。カグヤと直接戦ったことがあるのはかつての第七班、ナルトとサスケ、そして、サクラとカカシ先生だけ。そいつより攻撃性能が低いうちはマダラでも地形を変えるほどの攻撃を連発していた。ここまで言えば分かるよな?」

「はい。そのような攻撃をする相手では並の忍がいくら集まった所で太刀打ちできません。できるとすれば、同じほどの能力を持つ者を持ってくるしか止める方法がないでしょう」

「そんで、カグヤにも対抗できる力を持つような人間の一人がお前の父ちゃんの赤銅ヨロイだった。けど……」

 

 七代目様は口を噤む。その時点で分かった。

 ヨロイは負けた。そして、カグヤとの同じほどの力を持つものの手にかかったということが。

 

「父は戦死でしょうか?」

「いや、死んではない。けど、重傷だ。治療している雲隠れの方から連絡が来たけど、まだ意識は戻ってない」

「そうですか」

 

 少し心が揺れた。あのような男は生きていようが死んでいようがオレには関係ないというのに……安心してしまった。

 気持ちを切り替えるために息を吐き出す。

 

「あ、すみません」

 

 七代目様の前で無礼なことをしてしまった自分を恥じる。少し余裕がなくなっていたようだ。七代目様は優しく笑いかけてくれたが、父を想う良き息子のような行動をしてしまったからこその七代目様の行動だろう。そのようなことは一つもないのに。

 

 どちらかと言えばヨロイは死んだ方が世の中に対する償いになるのではないかと考えているオレにとって、七代目様の微笑みは心苦しかった。

 

「いいってばよ。それに、謝らなくちゃなんねーのはオレの方だ」

 

 七代目様は椅子から立ち上がってオレに向かって深々と頭を下げる。

 

「そんな! 頭を上げてください!」

「すまなかった。オレがヨロイの兄ちゃんに危険な任務を任せたから、オレがヨロイの兄ちゃんの所に駆け付けられなかったからヨロイの兄ちゃんがこんな目に会ってる。一歩間違えてたら死んでいたかもしんねェ。本当にすまなかった」

「七代目様、頭を上げてください。忍にとって任務は絶対です。それに、父は任務に殉じることを誇りに思うハズです。オレは父にそう教わりました」

 

 確かに、『忍にとって任務は絶対』だと教わったが、その後すぐに『無理なら諦めて背を向けながら逃げて罠を仕掛けろ』と習ったので、父は卑怯だなという念を強めた結果となったが。

 

「そうか……。ヨロイの兄ちゃんはやっぱスッゲー忍だな」

 

 嘘をついたことで胸が痛む。ヨロイは凄い忍でもなんでもない、ただの卑怯者だと七代目様に言いたい。だが、七代目様は決して信じてくれないだろう。

 

 少し目線を上げると七代目様の後ろに広がる木ノ葉隠れの里に気がついた。そう言えば、ヨロイは雲隠れで重傷を負ったという内容を話されていた。しかし、なぜヨロイは雲隠れまで行っていたのだろうか? 五里が同盟関係とは言っても、無断で別の里に入るなんてことは禁止されている。それなのに、ヨロイが雲隠れに入れたということは何かしら取り決めであったと考えられる。

 

 そこまで、考えてオレは思い出した。カグヤと同じほどの力を持った者とヨロイは戦闘したということだ。七代目様から渡された紙に目線を落とす。

『約束の時間』『カグヤと同様の力を持った存在』『雲隠れの里』。

 そのキーワードが意味するのは、『八尾の人柱力』か。

 カグヤと約束した者が雲隠れに訪れていたということは、カグヤができなかった無限月読の成果の確認をしてチャクラの実が分散した八尾に目を付けたということだろう。ここから、導かれることはヨロイを襲った者の目的は……。

 

「気づいたようだな」

 

 目線を七代目様に注ぐとシカマルさんが頷いた。

 

「奴らの狙いは人柱力たち、正確には尾獣たちだ。そのことに気づいたヨロイさんは飛雷神の術ですぐに動けるように準備していた。だが、奴らの能力を計るために戦闘をしたら想定以上に強くて重傷を負ってしまったというのが今回の件だ」

「分かりました。七代目様の護衛を強化するよう手配します。それと、中忍試験は中止するように各方面に連絡します」

「だめだ」

「七代目様? しかし、あなたの命が狙われている状況です。中忍試験などしている場合ではありません」

「通常ならな。けど、さっきシカマルが言ったように、この件は世界中の人たちに知られちゃならねェ情報だ。カグヤと同じぐらい強い敵が現れるなんてことを説明したら、まず間違いなく混乱が起きる」

「しかし、七代目様!」

「オレのことは心配しなくても大丈夫だ。オレってば強いからな」

 

 本人は力強く言っているつもりだろうが、その実、七代目様の目の下には濃い隈ができていた。きっと、何日も執務室に籠り切りだったのだろう。そのような状態で強いから安心しろという言葉は説得力が全くない。

 

 だが、少し落ち着いて考えてみると、今回の合同中忍試験は五影と音隠れの長といった強力な忍が集まる機会でもある。そのような超一流の忍が集まる中に戦闘を仕掛けても返り討ちにされるのがオチだろう。

 

「分かり……ました」

 

 しかしながら、どうしてもオレは不安を拭い去ることができなかった。それが何故なのかは答えが出なかったため保留したが、中忍試験第三の試験の途中の出来事が起こるまで、それが間違いだったと気づけなかった。

 

 +++

 

 ヨロイについての話は終わり、火影執務室から出たオレは木ノ葉の里を歩いていた。使っていたSDカードの容量が一杯になったので、SDカードを買いに家電量販店へと向かう道の途中、七代目様とよく似た姿の男の子が目に入ったので、声を掛ける。

 

「ボルト」

「あっ! シンゲンの兄ちゃん!」

「お久しぶりです」

「……誰でしょうか?」

 

 うずまきボルト、それにうちはサラダ。共に、ルーキーとして活躍する下忍たちだ。そして、水色の癖ッ毛と蛇のような眼を持つ男の子はミツキと言ったか。音隠れから木ノ葉の忍者学校(アカデミー)に転入するという珍しい経緯を持つ下忍だ。しかし、書類上での確認のみだったので本人と会うのは初めてだ。

 

「初めまして。赤銅シンゲンといいます」

「ああ、アナタが。木ノ葉に来る時はヨロイさんにお世話になりました」

「気にしないでくれ。逆に、彼は君に迷惑を掛けていなかったかい?」

「特にないですね。ただ、一つだけ言うならお菓子を次々と勧めてくるのは止めて欲しかったです。みたらし団子だけというのは少し胸やけがしますから」

「それは……すまなかった」

 

 ヨロイだけじゃない。母さんもだ。恐らく、母さんが戸棚にこっそりと隠していた団子をヨロイが見つけて持って行ったのだろう。母さんの甘いモノの取り過ぎには注意を払っていたのにも関わらず、胸やけがするほどの量を隠していたとは。我が親ながら呆れる。

 

「ミツキはシンゲンの兄ちゃんと会ったことがなかったっけ?」

「シンゲンさんは中忍に上がってからは任務で忙しくされていたから、私たちも会うのは随分久しぶりだし仕方ないかも」

「それもそっか」

 

 ボルトはサラダの言葉に納得したように頷く。と、ボルトは何かに気がついたように掌を打つ。

 

「そうだ! シンゲンの兄ちゃん」

「ん?」

「オレたち、中忍試験受けるんだけど何かアドバイスとかない?」

「がんばれ……ぐらいしか言えないな」

「えー!?」

「オレは中忍試験を運営する立場だから、情報を出すのは禁じられているんだ。それが、客観的な立場からのアドバイスでも、他の受験者から見たら不正に思われるだろ?」

「それはそうだけどさ」

 

 拗ねたように地面に視線を向けるボルトの姿の苦笑しながら、オレは少し膝を曲げてボルトの目線に自分の目線を合わせる。

 

「中忍試験が開催されるまで時間はまだある。木ノ葉丸さんに修行を付けて貰うといい」

「木ノ葉丸先生じゃなくてサスケのおっちゃんに修行をつけて貰っているから大丈夫だってばさ」

「サスケさんに?」

 

 うちはサスケと言えば、長期任務で里の外に出ていることが多い忍だ。木ノ葉に帰ってくることも稀で帰ってきても数時間で出発するという報告を受けるのが常。そのサスケさんが木ノ葉に滞在している。かつて世界を七代目様と共に救った英雄と言われるサスケさんを木ノ葉に滞在している。

 

 これは、どこかで七代目様が狙われるという情報を得たのではないか? もしかしたら、カグヤの城という亜空間で巻物を見つけたのはサスケさんなのかもしれない。

 そして、木ノ葉が誇る二大戦力、うずまきナルトとうちはサスケが同時に里に居るということは、それだけ七代目様に迫る危機が大きいことを示唆しているのではないか?

 

「シンゲンの兄ちゃん? 突然、黙ってどうかした?」

 

 ダメだな。少し考えを纏めるのに、時間が掛かってしまった。ボルトたちに気取られないように口を開く。

 

「サスケさんに修行をつけて貰えるなんて、随分、幸運なことだと思ってね。七代目様、直々に修行をつけて貰うのと同じくらい名誉なことだよ」

「パパより七代目様に修行をつけて貰える方が名誉なことだと思うけど」

「サラダからしたら、そうかもしれない。けど、オレたちからしたらサスケさんも七代目様も、修行をつけて貰う所か話すことも難しい相手だからね」

「そうなの?」

「ああ。それに、サラダの伯父さんのイタチ先生が担当上忍だったオレは同期たちから随分、羨ましがられたものだったよ」

「伯父さんに?」

 

 目を丸くするサラダの様子に苦笑する。

 

「君には和菓子をいつも持っていく甘い伯父さんだけど、忍としての実力はもちろん、忍としての心構えも超一流だったのがイタチ先生なんだ。今、オレがやって来れているのもイタチ先生のお陰だと言っても過言じゃない」

「そうなんだ」

 

 サラダに頷く。少し時間を割き過ぎたことに気がつく。そろそろ時間だ。

 膝を伸ばし、いつもの視線に戻す。

 

「それじゃ、中忍試験がんばって。そうそう、最後に一つだけ」

 

 人差し指を唇に当て、内緒だというポーズを彼らに見せる。

 

「仲間を信じて、何があっても諦めるな」

 

 その言葉を残して、オレは彼らの横を通り過ぎた。後ろで腕を大きく振っているボルトの様子を感じ、少し笑みを溢す。三年前のイタチ先生の言葉を今度はオレが言うことになるとは、あの時は思いもしなかった。

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