湖面の月は未来を映す   作:クロム・ウェルハーツ

8 / 19
@8 背中①

 中忍試験が始まった。

 毎回、木ノ葉ではお祭り騒ぎとなる中忍試験。実力のある下忍を持っていると世界に知らしめることによる国威高揚、自里での開催は数年に一回という珍しさから木ノ葉隠れの里では大いに盛り上がる。

 

「浮かねー顔だな、シンゲン」

「シカマルさん」

 

 中忍試験三次試験の会場。その中の各里の長である“影”の来賓席で火影様の護衛をしていると上役であるシカマルさんから声を掛けられた。

 

「ええ。大体のカラクリは分かりましたし、その後の七代目様の御心を思うと……」

「どうしても勝ちたかったんだろうね、ボルトは」

 

 ミライ先輩の言葉にオレは小さく頷く。

 それとほぼ同時に七代目様は無言で来賓席から試合会場へと跳んで降りて行った。

 

 やはり、あの時、何が何でもカタスケさんをボルトから遠ざけるべきだった。まさか、ここまでの執念とは思いもよらなかった。

 

 ボルトに自分のことを信用させて新式忍具を使わせる。

 言葉にすれば簡単だが、それを実行するためにカタスケさんはどれだけの時間と工夫を掛けたのだろうか? そして、そのことはボルトの未来、少なくともこの中忍試験での昇格を奪ったということを知っていて行ったのか?

 まだ、子どもで自分の力を多くの人に認められたいという純粋な心を利用して、自分の発明品のアピールを行おうという下劣とも言える行い。

 

 七代目様と言い争うボルトへと近づいていくカタスケさんを思わず睨みつける。

 

「行くよ、シンゲン」

「はい」

 

 大声を上げ、自分の科学忍具をアピールしているカタスケさんに木ノ葉瞬身で近づき、ミライ先輩と共に彼の肩を抑える。

 

「ごめんね、カタスケさん。場を乱すようなことは遠慮して貰わなくちゃ困るんです」

「ここは中忍試験会場であって科学忍具の発表会ではありません。お引き取りを」

 

 オレたちがカタスケさんの肩に手を置いたその時だった。

 強大なチャクラと、その中に冷たいものを感じ、何もないハズの試験会場の空を見上げる。

 

「ほう……」

 

 敵だ。

 宙に浮かぶ三人の人影を確認した瞬間、体は弾かれたように動き、七代目様の前に瞬身の術で移動する。ミライ先輩も同じように動き、オレとミライ先輩が七代目様の斜め前に出るようにして陣形を取った。

 

 護衛の基本陣営だ。

 二人が護衛対象の斜め前に出ることで、護衛対象も放出系の忍術を使って、護衛の間から術を放つことでサポートすることができる。護衛対象が上位の忍であればあるほど、効果が増す陣営だ。

 

 だが、俺たちを嘲笑うかのように三人組の中で一番、大柄な影が試験会場の地面へと降り立った。

 その大男から視線を七代目様に移した宙に浮かぶ若い男は唇を捲り上げる。

 

「こいつだ……。ここの苗床で一番多いチャクラを持っている。こいつから回収すれば、神樹を植え直せる」

「おいおい! 何だ、君たちは!? 今、この会場は私の……」

 

 動くことができなかった。

 現れた三人を油断なく観察していたというのにも関わらず、体が反応できなかった。大男の手にチャクラが集まると同時に体に風を受けて後ろに飛ばされる。

 大男のチャクラの暴風は試験会場の中、全てに吹き荒れ爪痕を残す。会場の床だけではなく、壁、そして、観覧席へも余波は及び、会場の屋根が崩れて観覧客を巻き込もうとする。

 だが、観覧席に居たのは一般人だけでなく、忍も多数いる。それぞれが術を使い、観覧客を大男の攻撃の余波から守っていた。

 

 周りの状況を確認して、視線を前に戻す。大男がオレたちを吹き飛ばした隙に降りていたのか若い男と若い女が地面に立っていた。

 

「我の白眼には狐が見える。狐、こっちへ来い」

「狙いはオレか……」

「ああ」

 

 若い男が目に力を集中させる。

 チャクラが眼球に集まり、血管が目の周りに浮き上がる。白眼だ。

 

 それに気がついた瞬間、後ろから轟音が聞こえた。それと同時に前から突風が吹き、オレの髪を揺らしたことにも。

 慌てて振り返ると、そこには若い男の姿があった。飛雷神の術などの時空間忍術でオレとミライ先輩の間を通り抜けたのかと一瞬、認識違いをしたが、男たちが現れてから発動させ続けているチャクラ感知は若い男の足にチャクラが残っていることを感じとった。

 

 これはつまり、ただ速く移動したということに他ならない。

 シスイさんと同じかそれ以上の瞬身の術。その勢いのまま七代目様の前に躍り出た若い男、そして、その男のより奥にある試験場の壁に空いた大穴。

 

 それは答えを示していた。七代目様を若い男は吹き飛ばしたということを。そして、オレは七代目様の護衛として選ばれていながらも何もできずにいたということを。

 

「このッ!」

 

 感情の赴くまま、腰のベルトに手を触れる。口寄せの術式を予め組んでおいたベルトから二本のチャクラ刀を口寄せして、それにチャクラを流し込む。

 オレのチャクラ刀は使用者のチャクラを水に変え、刀身に纏わせて回転させることで切れ味を上げるというもの。

 これまでの修行の成果か淀みなく動いた体は若い男を袈裟懸けに切り裂くことができるハズだった。

 

「クッ……」

 

 しかし、オレのチャクラ刀は若い男の赤いチャクラで創られた刀で防がれる。それだけではなく、チャクラ刀が纏っていた水までもが吸い取られるように男の右手へと流れていく。

 その右手の掌にあり得ないものを見た。

 

「輪廻眼?」

「我に刀を向けるだけあって太刀筋はいい。だが、それは不敬が過ぎるぞ」

 

 瞬間、男が左手で持つ赤いチャクラで創られた刀に透明なコーティングがされる。

 マズイと思う間もなく、危険を察知した本能に従って頭を下げると、今まで頭があった場所を赤い線が通り過ぎた。そして、足元に落ちるのは二つの銀の刃。

 

 あり得ない光景に目を疑いながらも、瞬身の術で距離を取る。

 オレの手に残されているのは、男の刀と触れた所から斬られた愛刀の姿だった。高名な鍛冶師に大金を払い、打ってもらった一品。今までの任務では刃毀れ一つしなかった心強い存在の最期がオレの手に残されたものだった。

 

 今は感傷に浸る場合じゃない。

 意識を切り替えて、両手からチャクラ刀を手放す。

 

 ――分析開始。

 オレのチャクラを纏わせた斬撃は受け止められた。その時にチャクラは男の右の掌の輪廻眼へと吸い込まれている。その後の男の斬撃は刀を切り裂くほどに威力が向上した。まるで、オレのチャクラ刀にチャクラを纏わせた時と同じように。

 ここから、推測される答えは……。

 

「お前の能力は敵の術を吸収し、任意のタイミングで放つことができる。違うか?」

「下等種族にしては優秀だ。我の力を読み取るとはな。だが、高位の者を推し量ることは、先の我への攻撃に重ねて不敬だ」

 

 言葉を切った男は眼に力を入れた。

 その目線を浴びた瞬間、今まで味わったことのない恐怖を覚える。

 

「いきなり、人を蹴り飛ばすような奴に不敬だとか言っても納得できねーってばよ!」

 

 拳を振り下ろす七代目様だったが、その拳は男には届かずに空を切る。

 だが、男に距離を取らせることは成功した。

 

「シンゲン、大丈夫か?」

「七代目様。ありがとうございます。しかし、お怪我は?」

「大丈夫だ。オレ、昔っから怪我しても、すぐ治るからな」

 

 オレを庇うように立つ七代目様。

 護衛はいらないと言葉の外で告げられたように感じる七代目様の背中を見て項垂れる。

 

「シンゲン、奴の情報を教えてくれ」

「は、はい! 敵は白眼と輪廻眼を保有しています。視界は360°で更に輪廻眼の固有瞳術は忍術を吸収後に放出ができるようになっています」

 

 確かに、戦闘では役に立たない実力のオレだが、できることはあった。七代目様に敵の情報を伝えること。そして、情報の分析と精査だ。敵は前の男だけではなく、大男と若い女もいる。

 

「モモシキ! キンシキの方に向かって!」

 

 と、若い女の声が響いた。

 その声に反応して弾かれたように動き出すのは若い男。

 一瞬で大男の元に辿り着いたかと思うと、大男の動きを封じていた影に右手を伸ばすと、その影を吸収した。

 

「かたじけない!」

「サスケ! 済まねェ! ってクソ、こいつもか!」

 

 壊れた観客席にいたシカマルさんを、若い女の弓から放たれた紫色のチャクラの塊が射貫こうとする。すぐに今居た場所から瞬身の術で姿を消したシカマルさんは事なきを得たが、もし、当たったとなると生きてはいられないような威力を発揮した矢に戦慄する。

 

 一進一退が続いた状況は今の若い女の攻撃でリセットされた。大男と戦っていたサスケさんは脇に抱えていたサラダと共に七代目様の隣に姿を現す。そして、角が生えた者たち三人は横並びとなり、正面からオレたちを見ている。

 ふわりと宙に浮かんでいく三人に注目しているオレたちの後ろにザッという音がした。

 

「七代目様! ご子息は会場の外にお連れしました」

「サンキューな、ミライ。シンゲンと一緒に、サラダもサクラちゃんのとこに連れて行ってくれ」

「ハッ!」

「かしこまりました」

「許すと思う?」

 

 声は若い。だが、どこか毒を含んだ声に、サラダの方に出しかけた足が思わず止まる。

 次の瞬間、風切り音が耳に届いた。チャクラ感知で捉えたモノの進行方向へと体を差し込む。奴らに背を向けて、ミライ先輩と折り重なるようにして向かって来る紫色のチャクラの進行方向の先であるサラダの前に立ったが、いつまで経っても予期した衝撃は来なかった。

 後ろを振り向くと、紫色の壁がより濃い紫色の矢を遮っていたのが目に入る。話には聞いていた。万華鏡写輪眼の瞳術、“須佐能乎(スサノオ)”だ。サスケさんが守ってくれたのだと気がついた。

 

「ウオオオ!」

 

 突然の大声。それは、ボルトのものだ。

 

 七代目様が若い男に会場から吹き飛ばされた時に空いた大穴の向こう側からボルトの姿を確認することができた。

 班員であるサラダに向けられた攻撃に我を忘れ、新式忍具から忍術を放出するが、その全ては若い男の右手に吸収される。

 ボルトの持ち得る全ての忍術を意に介さずに、若い女は口を開く。

 

「今のは警告。後ろの人間を逃がそうとするなら、容赦はしない」

「どういうことだ?」

「うずまきナルト。赤銅ヨロイは知っているね?」

「ああ。ヨロイの兄ちゃんをテメェらが襲ったってことも、ビーのおっちゃんを襲ったってことも知っている」

「そう。その時にさ、ヨロイにボクのことをコケにされたんだ。だから、君の後ろにいる赤銅シンゲンを餌にしてヨロイを釣り上げたい」

「ヨロイの兄ちゃんがお前らの目的か」

「いや、違う」

 

 七代目様と話していた若い女ではなく、今度はその隣にいた若い男が話を始める。

 

「我の目的は、この苗床にいたカグヤのやり損ねたことをやり直すことだ。ヨロイについては、我の妻を貶めた罰を与えるだけで目的とは言えぬな」

「どういうことだってばよ?」

「散ったチャクラを集め、神樹を植え直しチャクラの実を回収する。それが我の目的だ」

 

 奴らの答えを聞き、サスケさんは七代目様に尋ねる。

 

「ナルト、巻物の内容を覚えているか?」

「ああ。えーっと……」

「巻物には、こいつらが、いつかチャクラの実を取りに来ると記されていた。カグヤが白ゼツの兵を集めていたのは、こいつらに対抗するためだった」

「チッ。カグヤといい……。そんで、その後はどうするんだ?」

「丹を錬成するらしい」

「丹?」

「薬のことだ」

 

 サスケさんの言葉に対して、若い男は懐に手を入れる。

 

「さよう。これさえあれば、不老長寿、怪力乱神、思うがまま。お前らは不便よのお。修練や努力のような無駄なことに精を出さねばならんのだからな」

 

 若い男は指先で摘まむ赤い丸薬を見せつける。

 

「我を見よ。丹さえあれば、手間なく簡単に本当の力が手に入る」

「バカ言うな! そんなの、本物の力じゃねェ!」

「お前ら下等生物には分からんことだ」

 

 冷たい目でオレたちを見る若い男に大男が話しかけた。

 

「どう致しますか?」

「どうせ、この苗床も綺麗に整え直さなくてはならぬからな。ついでにやっておくか。」

 

 若い男は取り出した丹を口に含む。

 

「ちょっと、モモシキ!」

「加減はする。五体満足であることは保証できんが」

「ボクが注意しなきゃ、狐の人間以外は全員死んでたよ」

 

 増大したチャクラ。

 軽口を叩きながら、尾獣に匹敵するチャクラを完全にコントロール下に置いたバケモノは手の上に浮かんだ火の玉、水の槌、土の礫、雷の球、風の塊、そして、その上に、それらとは隔絶した大きさの黒いチャクラで作られた巨大な球体を掲げる。

 

「狐……お前は死なぬよな」

 

 




今回の更新は前後編と別れています。
次の更新もシンゲン目線のストーリーとなります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。