憤怒の炎を宿す者   作:JOKER off

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問題児『ジン』

「かっ消えろ!! 全部消えろォオオオオオ!!」

 

 悲鳴と恐怖に包まれる研究所。

この世を地獄に変えるかの如く、少年は手に憤怒を籠めた炎を灯して辺り構わず殴る。

床、壁、机、椅子、棚、機材、そして・・・人。

 

 少年の怒りは止まることを知らず、全てを破壊し尽くすまで止まらなかった。

 

 

 1年後の新暦65年の春。

地球で二人の魔法少女の運命が交わる中、ミッドチルダは平和だった。

管理局の築いてきた平和を当たり前のように堪能する人々。

しかし、その人々の中に問題児の少年がいた。

 

「コラー! なんだその言葉使いは!!」

「るせぇ。飯が不味くなる・・・」

 

 管理局が支援する保護施設に怒鳴り声が響いた。

職員と子供達は、また始まったと言わんばかりに無視して朝食を食べる。

怒鳴り声の主は、今日こそはという覚悟で問題児に向き合う。

 

「ジン! 肉ばかり食わずに野菜も食え!!」

「不味くて食えん。ていうか、指図すんなよ・・・ジジィ」

 

 ジンと呼ばれた少年と睨み合うジジィと呼ばれた中年男性。

ゼスト・グランガイツという首都防衛隊の一部隊を任されている男。

そんな彼が何故保護施設に顔を出しているのかというと、ジンのことを気にかけてのこと。

だが、肝心のジンがマトモに取り合わないため、ゼストは朝から怒鳴る羽目になっている。

 

「隊長、そろそろ出勤しないと遅刻ですよー?」

「待てメガーヌ! コイツの性根を叩き直さねばならん!!」

「おはようございます。メガーヌさん」

「はい、おはよう♪」

 

 ゼストを迎えにきた女性に対して、ジンは掌を返した態度を取る。

メガーヌ・アルピーヌ凖陸尉。ゼストの部下であり、共にジンの様子を見にきていた。

 

「メガーヌ! 甘やかせるんじゃない!!」

「何を言ってるんですか。きちんと挨拶が出来たんだから・・・」

「ジン! 何を笑ってやがる!?」

「別に? 仕事に遅れても知らねぇぞ?」

「ジン君の言う通りだわ!? 急がないと!!」

 

 思い出したように慌ててゼストの制服の襟を掴んだ。

そして、猛ダッシュで保護施設の駐車場に停めてある車を目指す。

 

「ま、待てぇ! 話はまだ・・・」

「じゃあな、クソジ・・・ゼストさん!」

「また晩に来るからねー♪」

 

 怒るゼストと笑顔で手を振るメガーヌを窓から見送るジン。

メガーヌを味方にし、ゼストを弄るのがジンの日常だった。

 

 

 嵐のような朝食を食べ終えた者は二つに分かれる。

学校に行く者、保護施設の仕事をこなす職員達。

学校に子供達を送った後、職員は雑務をこなすために精を出している。

 

「正直、勘弁してほしいよな」

「そうね。なんであんなクソガキのことを気にかけるのかしら」

 

 職員室で書類仕事を片付けながら二人の職員が愚痴を溢す。

その話題は勿論ジンに関するモノだった。

 

「朝食の野菜炒めも素直に食わないから嫌になるわ。他の子は素直なのに」

「そうだよな。みんなの和を乱すのに長けてるというか・・・」

「ねぇ、アイツの噂知ってる?」

 

 突然、女の職員が得意気に男の職員に話しかけた。

 

「噂って?」

「ここに来る前に人を殺してるかも・・・って♪」

「うへぇ・・・。アイツなら殺ってそうで怖ぇわ・・・」

 

 とても保護施設の職員がしていい会話ではないだろう。

だが、二人の会話は徐々にエスカレートしていく。

そして、話題はゼストとメガーヌが標的になった。

 

「あの二人も馬鹿だよなー?」

「そうそう。なんであのクソガキに構うんだろうね」

「もしかして、二人の間の子供とか?」

「マジだったらウケるわー♪ 歳の差軽く10年あるじゃん」

「隠し子を隠すためにウチに預けてるとか?」

「何言ってるのよ! それなら慰謝料を貰わないと。ウチに迷惑ばかりかけ・・・・」

 

 その女の職員の言葉は最後まで言えなかった。

突然、職員室の窓が割れたのだ。原因は外から投げられた石。

男の職員が犯人の姿を見るため、窓から外を怒りの表情で見回す。

 

「クソ! 絶対にアイツだ・・・」

 

 結局、犯人の姿を見ることが出来ず、男の職員は苛立った。

犯人をジンだと決めつけ、真実を見抜くことを疎かにして・・・。

 

 

「バーン!」

 

 他の子供は真面目に学校に行ってる。

しかし、ジンは違う。簡単に言ってしまえば、サボりだった。

お気に入りの人気のない場所でダラダラと空を見上げるのが日課なのだ。

右手で拳銃の形を作り、呑気に漂う雲を撃ち抜いていく。

 

「そろそろやるか」

 

 空に漂う様々な形の雲を撃ち抜くのに飽きると、ジンは鞄から本を取り出す。

保護施設の図書室から借りっぱなしの『魔導師の基礎訓練』という本を。

出来ないことがまだ多いが、いくつかは出来るように努力していた。

 

「ハァ!」

 

 まず掌サイズの魔力弾を生成し、空中に浮遊させる。

そして、右手に持ってる飲料水が入っていた捨てられた空き缶を空高く蹴り上げた。

落ちてくる空き缶の軌道をよく観察し、生成した魔力弾をブチ当てていく。

基礎訓練の基礎中の基礎を毎日欠かさずに実践している真面目な姿がそこにはあった。

そうして時間が過ぎていき、夕方になってしまっていた。

 

「帰るか・・・」

「逃がすな! 待てぇ!」

「?」

 

 帰りたくもない保護施設に帰ろうとしたジン。

しかし、穏やかじゃない荒い子供の声を聞いた。

 

「やーい! お前の母ちゃんって、本当のお母さんじゃないんだろぉ?」

「俺のママが言ってたぞ! 本当の子供じゃないんだろ!」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ジンは気になってしまい、声のする場所を覗いてみた。

そこには二人のイジメっ子と女の子が声を押し殺して泣いていた。

 

「泣き虫ギンガ! 悔しかったらかかってこいよ!」

「泣き虫なギンガに殴られる訳ないけどな!」

「そうか。なら代わりにオレが殴るわ」

「へ? ブッ!?」

「お、おい!? げほっ・・・」

 

 高笑いする筈だったイジメっ子の片割れの顔面をジンが殴る。

残されたイジメっ子には鋭い蹴りを胴に叩き込み、蹲る様を見下す。

 

「つまらねぇことすんじゃねぇ。ドカス共・・・」

 

 イジメっ子二人は罵詈雑言を浴びせようとしたが、ジンの睨みがそれを許さない。

コイツには敵わないと悟ったイジメっ子の二人は、ソソクサと逃げていった。

 

「かかってこねぇのか、つまらねぇ・・・」

「う・・・うぅ・・・」

 

 ストレス解消出来るかと思っていたが、ジンは不完全燃焼に陥った。

今自分の後ろにいるのは、今絶賛泣いている女の子。

ジンは正直関わるんじゃなかったと若干後悔している。

 

「そこでいつまでも泣いてろ」

 

 相手にして得なんてない。

ほっといて帰ろうと一歩踏み出すジンだったが、ズボンの裾に不自然な重みを感じた。

 

「うぅ・・・」

「なんだよ! 助けてやっただろうが!!」

「道分かんないの・・・」

「はぁ?」

 

 女の子はジンのズボンの裾を掴んだまま放してくれない。

このままでは埒があかないと感じたジンは、詳しく事情を聞いてみることにした。

結果、女の子は迷子で帰り道が分からなくて不安で泣いているということ。

原因は、さっきのイジメっ子二人から逃げてるうちに知らない場所に来てしまったこと。

今日はついてないという気持ちを押し殺し、ジンは女の子と手を繋いで歩く。

 

「この道は見覚えあるか?」

「ううん。知らない・・・」

「ハァ・・・」

 

 歩いて30分。

流石に泣き止んでくれた女の子に安堵はしているものの、受難はまだ続きそうだ。

一緒に女の子の家を探してはいるが、肝心の見覚えのある道には中々辿り着かない。

あのとき見捨てておけばよかったとさえ思えてきていた。

 

「なぁ、ここは?」

『ぐぅ・・・』 

 

 今度は見覚えがあってくれと願って聞いたこと。

しかし、女の子は空腹を訴える腹の音で返事してきた。

 

「腹・・・減ってんのか?」

 

 さっきの泣き顔が嘘のように女の子はブンブンと恥ずかしそうな表情で首を横に振る。

どこまで世話を焼かせるつもりなのだろうか? 本当に今日はついてない。

 

「いらっしゃいませ」

「え?」

「何ボサッとしてやがんだ。さっさと自分の欲しい菓子を選べ」

 

 ジンはたまたま通りかかったコンビニに女の子と一緒に入店する。

この展開は女の子も想像していなかったらしく、鳩が豆鉄砲を喰らった顔をしていた。

 

「お、お父さんとお母さんか学校帰りに買い食いをしたらダメって・・・」

「あぁ?」

 

 父と母の言いつけを守ろうとする女の子。

 

「いいんだよ。オレ、学校に行ってねぇんだ」

 

 そう伝え、ジンは女の子にカゴを渡す。

 

「オレの場合は学校帰りじゃねぇ。それに腹減ってんだろ?」

 

 屁理屈をこねるジンに対し、女の子は何も言わなかった。

その顔は悲しそうではなく、何処か嬉しそうな印象を受ける。

 

「すいません。これとこれ」

「はい。お兄ちゃんは偉いね?」

「お兄ちゃんじゃねぇよ!?」

 

 お互いに好きなお菓子を買う。

ジンはコツコツ貯めてた小遣いを減らす羽目になったが、もう気にしないと決めていた。

そして、食べ歩きながら女の子の知っている道に辿り着くことができた。

 

「一人で帰れるか?」

「うん。でも・・・」

「でも、なんだよ?」

「きっとお父さんに怒られちゃう・・・」

 

 そう言われ、ジンは合点がいく。

正確な時刻は分からないが、きっと夕食刻というヤツだろう。

夕方じゃなく夜になってしまっていることから、ジンの場合も例外じゃない。

職員達が怒っているだろうし、何よりゼストが怒っているだろうから。

 

「いいか。オレに任せろ」

 

 不安がる女の子に耳打ちするジン。

その内容は自分が責任を全て負うものだった。

 

「コラ! ギンガ、こんな時間まで・・・」 

 

 怒鳴り立てようとした女の子の父親の勢いが見事に失速した。

ようやく帰ってきた愛娘を叱りつけようとした結果、見知らぬ男の子が娘と手を繋いでいる。

父親は少し呆気に取られてしまった。

 

「き、君は・・・」

「すぅ・・・オレがこの娘をこんな時間まで連れ回しました!」

 

 父親が質問する前に、ジンは深呼吸をして嘘をつく。

 

「だから、こんな時間になってしまったんです! ゴメンナサイ!!」

「ちょ、ちょっと?」

「だから・・・この娘を叱らないであげてください!!」

 

 最も伝えたいことを伝えたジン。

それが終わった直後、ジンは父親に頭を下げた。

 

「サヨナラ!」

「あっ!? ま、待て!」

 

 父親が戸惑っている隙に、仕事を終えたジンは走って逃げる。

父親の声を無視して走っていく途中で、一人の仕事帰りの女性がジンとすれ違った。

女性は何か家であったのか?と気になり、早足で家に帰宅する。

 

「ねぇ、さっき男の子が家から出ていったみたいだけど?」

「クイント、実は俺にも訳が・・・」

「ごめんなさい!!」

 

 先程までの出来事を伝えようとした父親・・・ゲンヤ・ナカジマ。

今さっきすれ違った男の子が純粋に気になるゲンヤの妻・・・クイント・ナカジマ。

そして、事の発端であるギンガ・ナカジマが泣きながら真実を両親に打ち明ける。

 

「怒られると思ったから~・・・・」 

「泣かないの。ギンガは悪くないから・・・」

「あのガキ、礼くらいちゃんと言わせろってんだ」

「まぁまぁ。私、ちょっと心当たりがあるから」

 

 少年の正体に心当たりがあったクイントは保護施設がある方向に顔を向けた。

 

 

「ジン、話があるから此方に来なさい」

「チッ」

 

 保護施設に帰ったジンを待っていたのは、穏やかじゃない男性職員の眼差しだった。

 

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