朝。シオンは大広間へ続く道を歩いていた。足取りは重く、表情も冴えない。
八つ当たりしてどうなるというのだろう。シオンは密かに自分をなじる。
大広間に入り、テーブルに着く。視線を感じて顔を上げると、ビーチェと眼が合う。すかさず視線を逸らし、朝食をそこそこに済ませ、シオンは足早に立ち去っていく。
昼食の時間になる。厨房で食べ物をもらってこようか。が、シオンはその考えをすぐさま抹殺する。却って怪しまれるのがオチだ。その時、背後で声がした。
「シオン」
振り返ると、片手にバスケットを持ったラファエルが立っていた。
「お父さん」
シオンが駆け寄る。
「伯父さんに呼ばれて来たの?」
「あれ、バレちゃった?」
「だってお父さんを学校に呼び出す人なんて、お母さんか伯父さん以外に考えられないし」
ラファエルは小さく笑う。
「そっか。そうだよね。お弁当作ったから、天気もいいし、外で一緒に食べよう。おばあちゃんが作ったマドレーヌもあるよ」
シオンの口許が、
「……うん」
校庭のベンチに座りながら、ふたりは他愛もない話をした。学校の勉強のこと、家のこと。
「何か変わったことはあった?」
貝殻型のマドレーヌをかじり、シオンが尋ねる。
「特にこれといったことはないかな」
「そう」
沈黙が流れる。しばらくして、ラファエルが口を開く。
「セブルスから大体の事情は聞いたよ。一体何があったのかな?」
シオンは口ごもる。が、やがて自分と母が比較の対象になっていること、それに対する自分の考えを話した。
ラファエルはうなずく。
「そうだよね。理不尽だよね。シオンはこの世にシオンだけなのにね」
シオンがうなずく。ラファエルは続ける。
「でも人の気持ちってなかなか変わらないものだから、気にしない方がいいと思う。今は難しいかもしれないけど、少しずつ、そうできるようになればいいんじゃないかな」
「うん……。……あのね、お父さん」
「ん?」
シオンは親しくなりたいと思っている人がいること、その人にスネイプのことを話そうかどうか迷っていると話した。
ラファエルは沈黙する。しばらくして、口を開く。
「これもシオンにはまだ少し難しいかもしれないけど……人生で出会うすべての人とうまくやっていける人間なんて、いないと僕は思うんだ。だからシオンは、シオンが大切にしたいと思う人、友達でいたいと思う人との関係を大事にすればいいと思う。たとえば僕にとってのシオンやビーチェや、セブルスみたいに」
ラファエルは言葉を切る。
「もしその子が、セブルスのことでシオンを拒絶するようだったら、その人とは縁がなかったと思って、諦めた方がいいと思う。それに囚われてると、シオン自身が辛くなっちゃうと思うから」
「……お父さんは、怖くなかった?」
「何が?」
「伯父さんのことをお母さんに話すことが」
「ああ……そりゃあ緊張はしたよ。どんな風に思われるかとか、受け容れてくれるだろうかとか。まあ、受け容れてくれたから、シオンは今ここにいるわけなんだけど」
ラファエルは娘の髪を撫でる。
シオンが言う。
「でもそれって逆に言えば、お母さんがお父さんや伯父さんを受け容れてくれなかったら、そもそも私は生まれてないってことだよね?」
「……うん。……そうだね。そういうことになるね」
シオンは長い睫毛を伏せる。
「それなのに私、お母さんにひどいこと言っちゃった」
「……そっか」
ラファエルは、それ以上は何も言わずに、シオンを見つめた。
†
「首尾はどうだ?」
研究室に来たラファエルにスネイプは尋ねる。
「そうだね……僕から言えることは言ったはずだから、後はシオン次第ってところかな」
「そうか。……感謝する」
「いや、僕こそセブルスが教えてくれなかったら、シオンの相談に乗ってあげられなかっただろうから」
ラファエルは暖炉の上に置かれた
「それじゃあ」
スネイプがうなずく。ラファエルはエメラルドグリーンの炎へ入り、姿を消した。