ラビュリントスの肖像   作:*Lycoris

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四章 人間が繋がるということ 一学年九月

 朝。シオンは大広間へ続く道を歩いていた。足取りは重く、表情も冴えない。

 八つ当たりしてどうなるというのだろう。シオンは密かに自分をなじる。

 大広間に入り、テーブルに着く。視線を感じて顔を上げると、ビーチェと眼が合う。すかさず視線を逸らし、朝食をそこそこに済ませ、シオンは足早に立ち去っていく。

 

 昼食の時間になる。厨房で食べ物をもらってこようか。が、シオンはその考えをすぐさま抹殺する。却って怪しまれるのがオチだ。その時、背後で声がした。

「シオン」

 振り返ると、片手にバスケットを持ったラファエルが立っていた。

「お父さん」

 シオンが駆け寄る。

「伯父さんに呼ばれて来たの?」

「あれ、バレちゃった?」

「だってお父さんを学校に呼び出す人なんて、お母さんか伯父さん以外に考えられないし」

 ラファエルは小さく笑う。

「そっか。そうだよね。お弁当作ったから、天気もいいし、外で一緒に食べよう。おばあちゃんが作ったマドレーヌもあるよ」

 シオンの口許が、(かす)かにほころぶ。

「……うん」

 

 校庭のベンチに座りながら、ふたりは他愛もない話をした。学校の勉強のこと、家のこと。

「何か変わったことはあった?」

 貝殻型のマドレーヌをかじり、シオンが尋ねる。

「特にこれといったことはないかな」

「そう」

 沈黙が流れる。しばらくして、ラファエルが口を開く。

「セブルスから大体の事情は聞いたよ。一体何があったのかな?」

 シオンは口ごもる。が、やがて自分と母が比較の対象になっていること、それに対する自分の考えを話した。

 ラファエルはうなずく。

「そうだよね。理不尽だよね。シオンはこの世にシオンだけなのにね」

 シオンがうなずく。ラファエルは続ける。

「でも人の気持ちってなかなか変わらないものだから、気にしない方がいいと思う。今は難しいかもしれないけど、少しずつ、そうできるようになればいいんじゃないかな」

「うん……。……あのね、お父さん」

「ん?」

 シオンは親しくなりたいと思っている人がいること、その人にスネイプのことを話そうかどうか迷っていると話した。

 ラファエルは沈黙する。しばらくして、口を開く。

「これもシオンにはまだ少し難しいかもしれないけど……人生で出会うすべての人とうまくやっていける人間なんて、いないと僕は思うんだ。だからシオンは、シオンが大切にしたいと思う人、友達でいたいと思う人との関係を大事にすればいいと思う。たとえば僕にとってのシオンやビーチェや、セブルスみたいに」

 ラファエルは言葉を切る。

「もしその子が、セブルスのことでシオンを拒絶するようだったら、その人とは縁がなかったと思って、諦めた方がいいと思う。それに囚われてると、シオン自身が辛くなっちゃうと思うから」

「……お父さんは、怖くなかった?」

「何が?」

「伯父さんのことをお母さんに話すことが」

「ああ……そりゃあ緊張はしたよ。どんな風に思われるかとか、受け容れてくれるだろうかとか。まあ、受け容れてくれたから、シオンは今ここにいるわけなんだけど」

 ラファエルは娘の髪を撫でる。

 シオンが言う。

「でもそれって逆に言えば、お母さんがお父さんや伯父さんを受け容れてくれなかったら、そもそも私は生まれてないってことだよね?」

「……うん。……そうだね。そういうことになるね」

 シオンは長い睫毛を伏せる。

「それなのに私、お母さんにひどいこと言っちゃった」

「……そっか」

 ラファエルは、それ以上は何も言わずに、シオンを見つめた。

 

          †

 

「首尾はどうだ?」

 研究室に来たラファエルにスネイプは尋ねる。

「そうだね……僕から言えることは言ったはずだから、後はシオン次第ってところかな」

「そうか。……感謝する」

「いや、僕こそセブルスが教えてくれなかったら、シオンの相談に乗ってあげられなかっただろうから」

 ラファエルは暖炉の上に置かれた煙突飛行粉(フルーパウダー)を一握り取り、暖炉に投げる。

「それじゃあ」

 スネイプがうなずく。ラファエルはエメラルドグリーンの炎へ入り、姿を消した。

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