ずっと更新されなかったにもかかわらず、読んでくれる方が少しずつでも増えていることを有り難く思うと同時に、筆が進まなくて申し訳なくなります。
名前は伏せておきますが、ある方に作品を褒めていただけたことがとても励みになりました。
ひとまず一番言いたいのは、読んでくれた方々に心から感謝しているということです。本当にありがとうございます。
父と話した後も、シオンは答えを出せずにいた。玉手箱がパンドラの箱になってしまうのではないかと思うと、決心がつかないのだった。もっとも、それは人によって変わってしまうのだが。
それでも、シオンとこの玉手箱は切り離せない。玉手箱の存在なくして、シオンがここにいることはないのだから。
そういえば、パンドラの箱で最後に残ったのは〝希望〟だったっけ。シオンはふと、そんなことを思い出す。
自分の玉手箱にも、果たしてそれはあるのだろうか。もしあるのなら、それを信じてみたい、とシオンは思った。
†
魔法薬学の授業では、実際に薬を作る実習が行われていた。
声が聞こえてレベッカが顔を上げると、別の生徒がスネイプに何かを注意されていた。
相変わらず厳しいな、と思う。と同時に、自分も何か不手際をしていないだろうかと思いながら、作業に戻ろうとする。その時、レベッカの脳裏に、端正なシオンの顔が浮かんだ。
――え?
レベッカは改めて、スネイプを見る。その顔とシオンの顔が、レベッカの中で重なる。
――どうして?
レベッカの脳裏に、ひとつの可能性が浮かぶ。
――まさか。
「ミス・バーンズ、何をしているのかね?」
スネイプの声にレベッカは、はっとする。
「いえ、何でもないです」
「それなら作業に戻りたまえ」
「はい」
レベッカは慌てて材料を切る作業に戻った。
授業が終わると、レベッカは目の前で起こった現象について考える。
シオンは、父方の家族は自分が生まれる前にほとんどいなくなってしまったと言っていた。だが〝ほとんど〟ということは、まだ存在しているということか? そしてそれは、今シオンと面影が重なった人物なのか?
シオンに確かめてみたい、とレベッカは思う。
――でも、どうやって切り出そう?
夕食時。シオンの母・ビーチェについて、それからシオンについて話す声が聞こえてきた。
隣で『ホグワーツの歴史』を読んでいるシオンに、レベッカが眼を遣ると、その眉が僅わずかに上がっていた。その横顔が一瞬、スネイプと重なる。
「お母さんのこと、嫌い?」
レベッカが尋ねると、シオンはえ? と不思議そうな顔をする。
「どうして?」
「お母さん――ユルスナール先生のこと話してるのが聞こえると、今みたいに嫌そうな顔するから」
「それは……」
シオンが口ごもる。が、やがて口を開いた。
「お母さんじゃなくて、お母さんと比較されるのが嫌いなの」
簡潔、かつ端的な答えが、すとんと腑に落ちる。
ややあって、シオンが言う。
「……贅沢な悩みだって思う?」
「え? いや、そんなことないけど……どうして?」
「だって、ホグワーツ特急の汽車の中で、キミ言ってたじゃない。お母さん、小さい頃に死んじゃったって」
あ、そういうことか。レベッカは少し考えて、答える。
「確かに、シオンのお母さん――ユルスナール先生を見てて、素敵な人だなって思うことはあるけど、それとこれとは別だから。……でもシオンは、強いね」
「何が」
「いや、その……上手く言えないけど、そういう風に自分の気持ちがはっきりしてるというか、自分の気持ちを正確に表現できるところが、強いなって。私にはなかなか、真似できないから」
シオンは眼を見開く。が、すぐに冷静な表情に戻って言う。
「持ち上げても何も出ないよ」
素っ気ない返事に、レベッカは思わず吹き出す。
シオンはでも、と呟くように付け足す。
「……ありがと」
†
レベッカは無意識のうちに、シオンとスネイプ、ふたりの姿を眼で追うようになっていた。魔法薬学の実習の時に浮かんだ可能性のこともあったが、なぜふたりの姿が重なることがあるのかが不思議だった。
そうしているうちに、ひとつの事実に辿りつく。
――そうか。眼の色合いが同じなんだ。
ただ見ているだけではわからなかっただろう。レベッカの中で、可能性の線が濃くなりつつあった。
だが、答えは出なかった。果たして本人に確かめていいものだろうか?
「どうしたの?」
不意に声を掛けられ、レベッカは思わずびくりとする。
振り向くと、ゆるやかにウエーブしたアッシュブロンドの髪から覗くパールグレイの大きな眼が、こちらを見ていた。
「ユルスナール先生……あの、ちょっと考え事をしてて」
突如現れたビーチェに戸惑いながらも、レベッカは答える。
ビーチェが
「考え事?」
「はい」
その時、レベッカの中で、ひとつの考えが浮かんだ。
――この人になら、話をしても大丈夫かも。
「あの、先生、ちょっとお話できますか?」
「話? いいよ。じゃあ私の部屋行こうか」
レベッカはうなずき、ビーチェの後をついていった。