【必要の部屋】
「1匹と1頭──もう面倒くさいから2人でいい?2人の魔法使いの練度はホグワーツの学生だとヨルは大体四年生、クロは二年生レベルってところかな」
「あれだけやってその程度か…」
「二ヶ月だしこんなものだと思うよ?それに前半はとにかく『武装解除』と『盾呪文』を反射的に使えるようにしたんでしょ?」
「まあ、そうだけど…… ていうかあれ意味あったの?ドラゴンの姿の方があれっぽっちの魔法しか使えない人間の姿よりずっと強いんだけど」
「だろうね」
「はあ?あんたふざけてんの?」
「落ち着けクロ、我が主人は意味のない事はさせない」
「ヨルの中での僕ってそんな完璧な人間なの?困ったな…… 僕結構その場のノリで行動してるんだけど。まあでも、確かに今回の戦闘訓練と呪文の練習は意味があるよ」
「それを早く言いなさいよ!それだったら私も文句言わないのに」
「ごめんよ、クロ」
「いや、その、……私も少し言い過ぎたわ、ごめんなさいね」
「話が進んでおらんぞ、我が主人」
「ごめんごめん、それじゃあ説明するね!君たちに魔法の練習させた目的は──いや、ごめんやっぱり説明しない。今からヒントを出すから自分達で考えてみようか」
「へえ、いいじゃない。私結構こう言う謎解き?好きよ」
「あの小娘にものを教えている時のようだな……まあよかろう」
「それじゃあヒントは『エクスリペリアームス 武器よ去れ』と『プロテゴ 守れ』だ。その魔法が何故使われているか、がヒントだよ」
「・・・あ、わかった」
「ウソ!?僕ヒント4つ位用意してたんだけどな…」
「我が主人よ、信じられないことにクロはかなり頭がまわる」
「いや、今回は偶然よ。それに、多分ヨルより私の方が気づきやすいわ」
「そこまで気づくとは…… 本当に理解してるんだね。それじゃあ答えを言ってくれるかい?」
「答えは私達、つまりここではドラゴンとバジリスクの『短所を無くす』こと」
「・・・なるほど」
「ヨルには確かにこれといった弱点はないけど、私の場合『結膜炎の呪い』があるからすぐに気がついたのよ」
「確かに自分で『耐火魔法』をかけるドラゴンは恐ろしいな。いや、戦いの最中に急にサイズが変わったり攻撃方法が変わるだけで難敵か」
「僕が言いたいこと全部言われちゃったな。 正解だよ、ドラゴンやバジリスクの短所を人間で補うんだ。逆もまた然りだけど」
「その『短所を潰す』ってやり方は実に人間らしいわね」
「ドラゴンは思いっきり長所を伸ばしていく種族だからね」
「ふん!人間と違って種族への誇りがあるのよ」
「また話が脱線しているぞ、我が主人よ」
「ありがとうヨル。それで本題なんだけど、『動物もどき』としての訓練を積もうと思う。ドラゴンと戦ってたと思ったら急に魔法が飛んできたり、人間だと思って睨んでたら急にバジリスクになった、なんて面白いと思わない?」
「すぐにドラゴンから人間に、人間からドラゴンに、ってことね。確かに今だと変身に30秒くらいかかるし、戦いの最中や不意打ちされたら間違いなく変身出来ないわね」
「しかし我が主人はこの戦法をとれないのではないか?」
「確かにそうね。何であんたあんな雑魚の『動物もどき』になったわけ?しかも変身するのにえらい時間かかるわよね」
「将来僕が戦うことになるかもしれない相手に、恐らく有効なのさ。後、これは僕の研究が上手くいけば魔法界最強の生物になるかもしれない。それに……」
「それに?」
「ものすごく面白いと思わない?」
「……まあ、正直それは認めるわ。最初に見た時は度肝を抜かれたわ」
「確かにな。正直私にはそれほど悪い選択肢とは思えない」
「まあそんなわけで僕は僕なりに他の方法で強くなるよ」
「興味あるわね。教えなさいよ、その方法」
「ん、それだよ」
「それって、あんたがとりあえずって渡したこの杖のこと?こんなんあんたが持ってる杖に比べたらおもちゃじゃない」
「確か我が主人が開発した『主人を選ばぬ杖』だったか?」
「そうだよ。極東にある『匂いのない花』の木が本体で、芯に僕が魔力を込めた石を使った杖。誰でも使える代わりに、本来の6割くらいしか出力がでない。いわばお試し用の杖ってところかな」
「こんなもんが何の役に立つって言うのよ、まさかまた『短所が無い』とか言い出すんじゃないでしょうねえ」
「言い方が悪かったね、これは僕が使うんじゃないんだよ。プレゼントするのさ」
「また我が主人は私達のような生物を連れてくるのか?」
「いやいや、そうじゃないんだよ。ただ、僕の力になってくれる連中がこれを欲しがってるのさ。前に言った通り僕らから見たらゴミでも他方から見たら宝なのさ」
「…まさかあの連中と手を組むのか?」
「あの連中?」
「太古の昔からの嫌われもの、ある意味では私よりも魔法界では恐れられている」
「ヨル、そんな事は思っていても口に出すな。彼らには彼らの誇りがあるんだ」
「む、すまない、我が主人よ」
「いや、いいんだ。空気を悪くしたね。そうだ!君たち用の杖を用意しようか」
「それはいいけど、目処はついてるの?」
「ああ、確実に君たちに合う杖を作ってこよう。そうだな…… 3週間もあれば作れるよ」
「昔は一本作るのに半年ほどかかっていたというのにな。あの頃が懐かしい……」
「おいおい、1000年も生きてるのに1年前のことを懐かしむなよ。僕達はこれからもっと長い間一緒に過ごしていくんだよ?」
「・・・そうだな、我が主人よ」
◇◇◇◇◇
「『エクスペクト・パトローナム 守護霊よ来れ』!」
『原作』と違い、グリフィンドールVSスリザリンのクィディッチの試合最中にディメンターが乱入してきた。それに対して元々ディメンターを警戒していたジニーの行動は早く、的確だった。
さて、突然なのだが『原作』のジニーのパトローナムは確か馬だ。その時点でかなり強そうじゃないだろうか?例えばルーナの出したパトローナムはウサギなのだが、それより若干強そうな気がしてこないだろうか?いや、これについては全く根拠のないイメージなのだが……
何となく大きかったり、賢い動物な方が強そうではある。
また突然話が変わるのだが、いつか語ったと思うが、魔法は込めた『魔力』の量と『魔法に対するイメージ』、『特別な意識』の強さで決まるといった事は覚えているだろうか?
例えば『守護霊の魔法』は『幸福な思い出』が加わることでディメンターを追い払う強力な魔法となるのだ。
さらに話が変わるのだが、ジニーは果たして今どういった状況だろうか?
毎日寝る間も惜しんで勉強し、結果がついてくることで魔法に対する自信は相当ついている。
そして今回使う『守護霊の魔法』は全幅の信頼を置いている相手、つまり僕に教わったことで『絶対に上手くいく』という強固なイメージが出来ている。
しかも使い道は憧れのハリーのためだ。今、この瞬間にも彼女は『最も幸福な思い出』を更新しているだろう。
何が言いたいかというと、ジニーの『守護霊の魔法』が強すぎた
まず馬じゃなく『
さらにセドリックハーマイオニーも同じくかなり強力なパトローナムを使役している。
セドリックは巨大なクマだ。全長が5mちょっとあるクマを縦横無尽に動かしている。
ハーマイオニーは『原作』通りのカワウソだ。ただし、何故か3匹もいる。3匹とも別々の動きをし、上手く連携している。
そしてあの3人なら任せられる、そう考えたハリーが隙をついてス二ッチをつかんだ。その後試合は80:210でグリフィンドールが勝利。
この事件は記者によりジニーとハーマイオニー、セドリックは『若き3人の守護者』と掲載され、ハリーは『鋼の意思をもつ戦人』と紹介された。
この時、僕は気がつくべきだったのだ。『原作』よりはるかに注目されているクィディッチの試合に何故簡単にディメンターが入ってこれたのか?
この時の僕は愚かにも『原作』とタイミングがずれてディメンターが入り込んだのか。位にしか思えなかったのだ。
そしてもう1つ、煌めくパトローナムと満面の笑みのハリーを暗い瞳と憂鬱な顔で見つめる人達が居たことも……
その後、拍子抜けするほどに穏やかな日々が過ぎた。
シリウスからの情報ではホグワーツを襲ってきた人間は居らず、時たまクィディッチ選手へのしつこい勧誘が来る位だと言っていた。
僕も強化版『忍びの地図』にピーター・ペティグリューを始めとした、知りうる限りの『死喰い人』がホグワーツに入ったらすぐにわかるように設定しておいたが、ついぞ反応はなかった。
1番の懸念であったルーピン先生は無事狼人間であることが発覚せず、来年もホグワーツで教鞭を振るうそうだ。というのも、シリウスがスネイプの代わりに満月の夜の発作を抑え込む薬を作っていたのだ。
この事はもしかしたら僕が今のところしてきた事で最も良いことかも知れない。やはり親友同士の絆を見てるというのは心地よいものだ。
生徒に限った話であれば今年の『最多得点者』は僅差でセドリック・ディゴリーが受賞した。
そして得点数2位と3位がいるグリフィンドール寮は、クィディッチの優勝と寮優勝の二冠を達成した。
僕の友達達に関して言えば、『動物もどき』を生かしたスイッチ戦法はかなりの練度となり3人で戦うと僕も危うい時があるほどだ。
僕が渡した杖も無事に馴染み、魔法使いとしても、ヨルはホグワーツ6年生、クロは5年生レベルにはなったと思う
ただ今だに僕は『動物もどき』として変身するのに2分をきることはなく、ちょっと悔しい思いもした。
そんなこんなで穏やかに、されど確かな充実感を持って2年目のホグワーツを去ることになった。そして来年は『原作』でヴォルデモートが復活する年。一層きをひきしめなければならない。