ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』   作:ドラ夫

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15 それぞれの信頼

【必要の部屋】

「む、そろそろ第一試合が始まる頃か…… たまにはシリウスを通してじゃなくて、自分で応援しに行こうかな。二人に会いたいしね」

 

 小鬼達の製銀技術を教えてもらった後、僕は必要の部屋にずっと一人で篭っていた。

 本当は『三大魔法学校対抗試合』の第一の試練についてヨルとクロと予想し合ったり、二人の学校生活について聞いてみたりしたかった。しかし、今の僕には遣らねばならない事が3つあった。

 1つは小鬼の製銀技術を用いた銀の剣の製作。といってもこれはもうほとんど終わっている。

 1つは肉体を持つこと。単に僕が肉体を持つことで力が増すこともあるのだが、僕がいつまでも『僕』のホークラックスでいるといざという時に繋がりが出来てしまい、『僕』に手が出せない可能性がある。

 今までは魂でいる事の利便性を加味して肉体を持とうとしなかったが、グリンデルバルドの存在によってそう悠長な事も言ってられなくなった。

 そして最後の1つ、は僕の『動物もどき』としての力を磨く事。『動物もどき』としての力が完成すれば、復活の為にハリーの血を手に入れる事も、肉体を得る儀式も、何もかもが容易くなる。しかし、これが最も難航していた。集めた資料には苦手とするものや反対呪文についての表記は多くあったのだが、その生態などについての研究は驚くほどされていなかった。

 

 その一方で研究の間も一応『三大魔法学校対抗試合』については考えていた。

 シリウスの『M.O.M;XXXXX』の生き物をそれぞれ各校が用意する、という情報があったためにこの必要の部屋にながらある程度は第一の試練についての予想ができた。

 ホグワーツは間違いなくアラゴグ、つまりアクロマンチュラだと予想した。というのも『M.O.M;XXXXX』の生き物は手懐けるのも大変なのだが、元々の数が少なく、その希少性と危険性から魔法省に厳重に管理されているため、いかにダンブルドア校長といえど簡単には連れてこれないのだ。であるなら、わざわざすでに手懐けられているアラゴグを無視して他の『M.O.M;XXXXX』の生き物を取り寄せる必要はない。というのは当然の成り行きだった

 

 次にボーバトンなのだが、これも簡単だった。ボーバトン、というより校長のマダム・マクシームは美しい生き物、特に天馬が好きだ。しかし、天馬の中で最もM.O.Mが高い種類でもXXXXまでしかいない。だから造形が近く、誇り高い生物の代表であるドラゴンを選ぶのは容易に予想がついた。

 問題は種類だったが、これは『チャイニーズ・ファイアーボール種』か『ウクライナ・アイアンベリー種』のどちらかだろうと予想していた。

 理由は前者は元来気性の荒いドラゴンでは唯一、同時に三頭まで同種の存在を許すからだ。

 後者はドラゴンで最強の種族であり、一頭で『チャイニーズ・ファイアーボール種』三頭分くらいの強さはゆうにある。

 

 最後にダームストラングだが、彼等は闇の生き物を好む。

 よって『マンティコア』『キメラ』『バジリスク』が有力だったが、『キメラ』と『バジリスク』を生け捕りにするにはイゴール・カルカロフではちょっと実力的にも権力的にも実力不足だ。

 一応、他の『M.O.M;XXXXX』の生き物全ての対策も考えてあったが幸か不幸か杞憂に終わった。

 

 ここまで色々と考えたのはジニーのためもあるが、ヨルとクロのためだ。

 普通に考えれば『M.O.M;XXXXX』の生物の中でトップクラスの力を誇る二人が負けるはずはない。

 ヨルはバジリスクとしての力をほんの少しでも使えば、特にアラゴグには楽勝だろう。

 クロは単体最強種の中で最も強い個体であり、まだ幼いとはいえドラゴンは元来早熟である。クロはすでにその力の片鱗を既に見せているので、生物としての格の違いを思い知り他の生物は襲ってはこないだろう。

 いや、マンティコアだけは知性のない血に飢えた生き物だから襲ってくるかもしれないが……

 しかし、今回二人には完全に人間としての力だけで戦ってもらう。

 

 『動物もどき』は『生涯を通してその一種類だけ』という限定をかけることで、他の『変身呪文』と違って本質から細部まで、それこそ魂ごと変身することができる。

 故に全力で変身していれば、かのダンブルドア校長や組み分け帽子でさえ気がつく事は出来ない。しかし、裏を返せば全力でなければ欺けないのだ。

 公衆の面前で2人の正体を明かしてしまう事は出来れば避けたい。という訳で今日は2人の人間としての、魔法使いとしての技量が試されるのだ。

 二人にはハリーに勝ち、優勝してもらわねばならない。

 そんな二人の応援くらいは自分で直にしたい。

 

「ムムム〜魂の痕跡はっと……お、ヨルは今から試合か。じゃあクロと一緒に応援しようかな」

 

 そう言って僕は『妖精式姿くらまし』した。

 

 ・・・一人でいると独り言が増えるというのは案外本当かもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、久しぶり」

 

「ひゃあ! ちょっと、急に現れないでよ!ビックリするじゃない」

 

 久しぶりにクロと顔を合わせての会話だ。僕の一部を使った筆談ならしていたけど、やっぱりこうやって直接会って話すのとは訳が違う。

 

「ごめんごめん。ついさっきまで研究してたからね。時間的余裕がなかったんだよ」

 

「あんたも大変ねえ。成果のほどはどうなのよ?」

 

「ぼちぼちかな。『三大魔法学校対抗試合』の決勝戦に間に合うか間に合わないかは半々くらい」

 

「そっか…… じゃあまだ時間がかかるのね。まったく、面白くないわ。もっと頑張りなさいよ」

 

「おいおい、手厳しいな。僕が居なくてもヨルがいるだろ?それに、その分もっと学園生活を楽しむといいよ」

 

「バカ、そういうことじゃないわよ」

 

「そうなの?」

 

「そうよ」

 

「・・・そっか」

 

「「・・・」」

 

 何となく、久しぶりな事もあってか、お互い気恥ずかしくて黙ってしまう。でも何方かと言えば堪え性のないクロは、すぐに沈黙を破った

 

「……ねえ、あんた最近、ずっと一人じゃない。寂しくないの?」

 

「ん、ん〜どうだろ?寝ずにずっと研究してるからね。そんな事考える余裕がないかな。ただ……」

 

「ただ?」

 

「独り言は増えたかな」

 

「フフ、なにそれ」

 

「おいおい、笑う事ないだろ?」

 

「違うのよ、私もなの。私も独り言、多くなったなあって思ってたのよ」

 

「そうなの?」

 

「そうよ」

 

「・・・そっか」

 

「「・・・」」

 

 弱ったな、今日のクロは素直に僕の事を心配してくれたり、一緒に居たいって言ってきたり、どうも調子が狂う。

 

「…なんか喋りなさいよ」

 

「え、困ったなあ。小鬼の好物の話でもするかい?」

 

「あんた相変わらずジョークの才能がないわねえ」

 

「じゃあクロがなんか喋ってよ」

 

「え、困ったわねえ。ルームメイトのフラーの下着の趣味の話がいいかしら?」

 

「クロも人の事言えないよ……」

 

「ちょっと、失礼よ!」

 

「そ、そうかな」

 

「まったく、もう。やっぱりあんたって変だわ。他の人間と全然違うもの」

 

「まあ確かに僕は正確には人間とは言えないかもね」

 

「そういう意味じゃないわよ、バカ……」

 

 ? 偶にクロとはこうやって言葉のすれ違いが起こる。前に一回『じゃあどういう意味なの?』って聞いた事があるが、答えてはくれなかった。

 

「おっと、ヨルの試合が始まるよ。お喋りは一旦止めようか」

 

「そ、そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は特に語る事もなく終わった。ヨルは『悪霊の火』を見事に操りアクロマンチュラをまったく寄せ付けなかった。どころか、火で蛇やドラゴンを作って箒に乗らせたクラムと共にパレードをするほどだ。

 さらに、それに合わせて岩を楽器に変えて音楽をつける余裕さえ見せた。ダームストラングの特徴の一つである炎との荒々しい舞をよく表していると思う。

 本来ならもっと苦戦したのかもしれないが、アクロマンチュラの親玉であるアラゴグはヨルに何か感じ取ったみたいで手出ししてこなかったこともあった。

 

得点は

パーシー・ウィーズリー7点

ルード・バグマン10点

ダンブルドア校長9点

マダム・マクシーム8点

イゴール・カルカロフ10点

計44点となった

 

 

 

 

 

 

「さて、私の番ね」

 

「陰ながら応援してるよ」

 

「堂々と応援しなさいよ」

 

「頑張れ〜!!!」

 

 堂々としろ、というので声を張り上げて応援してみた。

 

「あんた大声で応援するの似合わないわね」

 

「そうかい?まあ、何にしても応援してるよ」

 

「ん」

 

 彼女はそう言って手をヒラヒラ振りながら気軽に歩いて行った。そして入れ替わりとなる形でヨルがこっちへ歩いて来た。

 

「久しぶりだな、我が主人よ」

 

「やあ、ヨル。元気にしてた?」

 

「ふむ、まあクロよりはな」

 

「そうかい?さっき見た限りじゃそんなに変わってなかったけど」

 

「それは今我が主人に会ったからだ」

 

「へえ、確かにそう言われてみると、僕もクロとヨルに会って元気になった気がするよ」

 

「・・・クロの試合が始まるぞ、我が主人よ」

 

 

 クロの試合も語る事は特にない。『天界の水』と言われる『悪霊の火』の水バージョンのような呪文(扱うには常に無垢な思いを抱かなければならない)を使ってあっと言うまにドラゴンを水牢の中に閉じ込めてしまった。

 流石に同じ種族なだけあって弱点、というか体の中の器官をよく把握しており、火を作る火蔵と呼ばれる臓器に直接水を送り込むというえげつない戦法を用いていた。

 最後にフラーが水を凍らせて自分達自身も氷のドレスに着飾るというボーバトンらしい優美なパフォーマンスも魅せた。

得点は

パーシー・ウィーズリー8点

ルード・バグマン10点

ダンブルドア校長9点

マダム・マクシーム10点

イゴール・カルカロフ6点

計43点となった

 

 

 

「お疲れクロ」

 

「よいパフォーマンスであっぞ」

 

「ちょっと、ヨルの所の校長どうなってるわけ?何で私が6点なのよ!」

 

「む、すまない。後で私から少し言っておこう」

 

「まあまあ、マダム・マクシームが10点くれたから良いじゃない。それより、次はハリー達だ。ちゃんと見てなきゃ」

 

 『原作』では第三の試練で『僕』が動き出したが、今となってはそれも怪しいのだ。全ての試練に命の危険が伴う以上、油断はできない。

 

「ふん!そんなにあの小僧が心配なわけ?」

 

「そりゃあね。といっても別に彼が特別な訳じゃないよ。今は偶々彼が最も危険な状態だから様子を見てるけど、基本的には全員を心配しているよ」

 

「我が主人よ、それは・・・」

 

 ヨルは危惧していた。

 何故なら、本当に彼の主人は全員の命を心配しているのだ。最低の裏切り者であるネズミの命さえ、奪おうとはしない。それは『生きていれば次に利用できるから』だとか『他人の命を奪うのは良くないことだから』とかそういった“ありきたりな理由”ではない。

 彼は人間には善と悪、両方の面があり、どちらか片方しか持っていない者はいないと思っている。なれば悪の方面に偏ってしまった者でも善になれることがある。

 そしてそれが実現するかどうかは人間が自分達で決めた法が判断する事であり、自分は関与しないべきだと考えている。

 勿論これはヨルの推測であり、直接語られたわけではない。だが、ヨルはこの推測が大きく外れているとは思っておらず、いつか主人が善の一面を欠片も持たない悪の人間に遭遇してしまった時どうすれば良いのかと考えていた。

 しかし、今はまだ、その事を話すべき時ではない

 

「どうしたんだい、ヨル」

 

「いや、大した事ではない、我が主人よ」

 

 彼はヨルが何か大事な事を言いかけた事に気がついていた。しかし、それを問い詰める事はしなかった。

クロそれは信頼によるものか、または質問の内容が分かっていて触れられたくなかったのか、はたまた全く別の何かか・・・

その答えを知るのは本人だけである。

 

「あ、ほら試合が始まったわよ」

 

「ああ、ごめんごめん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通の人間なら今、この場から逃げ出していたかもしれない。

 なぜなら世界的に注目される試合で、自分達以外の挑戦者は誰が見ても見事としか言いようがない結果を、当然のように出したのだ。

 それに比べて自分達が考えてきた作戦はパフォーマンスも複雑な呪文もない。泥臭い作戦と基本呪文の組み合わせだ。しかし、ハリーとセドリックの瞳には煌々とやる気の炎が満ち溢れていた

 

「セドリック、今からでもパフォーマンスを組み込む?」

 

 ハリーが笑っていった。

 それに対し、セドリックもまた笑みを浮かべた。

 

「そんなものはいらない、僕達はできる事をただやろう」

 

 二人は信じているのだ。

 自分の力を、仲間と練ってきた作戦を、そして何よりお互いを。

 

ビィーーーー!!!

 

 ホイッスル音と共にハリーとセドリックはそれぞれ別方向に駆け出した。

 

「『アクシオ ファイアボルト』!」

 

 ハリーは片手で『呼び寄せ呪文』を使い箒を呼びながらもう一方の手でポケットから『インスタント煙幕』と『ヒューヒュー飛行虫』を取り出して投げつけ、マンティコアの目と耳を遮る。

 

「『ジェミニオ そっくり』!」

 

 セドリックは自分とハリーの人形と『鼻血ヌルヌルヌガー』の模造品を作り、鼻血を常に噴出する囮を作り出す。視覚と聴覚が封じられているマンティコアは血の臭いを頼りに囮に襲いかかった。

 一方でハリー達は箒で上空にいる。マンティコアは地面に突っ立っている囮に夢中で少しも気がつく気配を見せない。

 二人が無言呪文で『プロテゴ・トタラム 万全の守り』を唱えた後、セドリックが金の卵目掛けて一直線に突っ込んでいったその瞬間──

 

「ッ!?」

 

 ハリーの前から突如としてセドリックが消えた。

 

  ハリーは驚愕する一方で、クィディッチの経験からか、冷静に状況を分析していた。そして下した決断は“このまま特攻”であった。

 理由は二つある。

 一つは、ここで引いてしまえば次にチャンスを作る事が難しく、タイムが落ちてしまい他の二校と大きく差がついてしまう事。

 もう一つは信頼。突如消えたセドリックは何らかの妨害にあった事は間違いない。しかし、“あの”セドリックが何の抵抗もなく吹き飛ばされたとは思えない。

 そこに見えずとも、セドリックはハリーのために道を作っている。その確信。

 何がセドリックを引き飛ばしたのかも、セドリックがどうやってハリーを守るのかも、何もわからない。しかしハリーは止まらなかった

 

もし、ハリーがセドリックを信頼していなければ

もし、もっと慎重に行動していれば

もし、マンティコアが今何をしているか確認していれば

もし、マンティコアにかけられた『保護呪文』についてその時考えていれば・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ハリーはこんなにも簡単に金の卵を獲得できなかっただろう

 

 この時、二人は知る由もないがマンティコアにかけられた『保護呪文』はその効果を発揮し、『インスタント煙幕』の効果を打ち消していた。またそれだけでなく、マンティコアは本物のセドリックとハリーがどれであるかもわかっていた。そしてマンティコアが攻撃する際に『不可視呪文』が発動し、透明になったマンティコアがセドリックを吹き飛ばしたのだ。

 攻撃された瞬間、それが不可視となったマンティコアだと気がついたセドリックは、とっさに自身で『鼻血ヌルヌルヌガー』を食べた。それに釣られたマンティコアはハリーに見向きもせず、セドリックに追撃をかけようとしたのだ。

 

 そしてセドリックの決死の陽動をハリーは見事に生かした。

 

得点は

パーシー・ウィーズリー10点

ルード・バグマン10点

ダンブルドア10点

マダム・マクシーム8点

イゴール・カルカロフ4点

計42点となった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、新聞にデカデカと選手達の活躍が掲載される隅で、その活躍を打ち消すような悲報がひっそりと掲載されていた。

 もし、『三大魔法学校対抗試合』がなければ、これほどの好成績にならなければ、もっと注目されていただろうそれは、これから起こる不幸の先駆けであった

 

 

 

『ニコラス・フラメル死去 原因は不明』


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