ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』   作:ドラ夫

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20 決着と新たな戦い

「轟音、何てものじゃないな……」

 

 呼び出した白雷があまりに強くて少し驚いてしまった。

 この呪文は文字通り“天罰”を呼び寄せる。

 本来、人が死に、神の御前で罪を全てさらけ出した時に受けるそれは、犯した罪が多ければ多いほど巨大でより白い雷となる。

 流石ヴォルデモートと言うべきか、大きさも白さも普通の人間の比じゃなかったな。

 

「終わったのか!?」

 

 僕が“天罰”を呼び寄せる前に作った、特別製の光と音を遮断するサングラスと耳当てをつけたセドリックが白雷の音に負けじと叫んで聞いてきた。

 その問いは答えるまでもないだろう。

 今、目の前で突如白雷が霧散した事がそのままその問いの答えだ

 

「流石だね。こんなに早く“天罰”の性質に気づいてその上対処法を編み出すなんて」

 

「ぬかせ!俺様を滅せる呪文など無い!」

 

 ヴォルデモートは右足が吹き飛び、腹部に拳ほどの大穴を開けながらも敵意も気力も全く衰えさせずに立ちあがってきた。

 右手に握られた杖の先端には半透明の“もや”がくっ付いてる。恐らくあれは今まで犯してきた罪の記憶だ。

 僕が呼び出した“天罰”は咎人の罪の大きさを対象の記憶で決める。だからヴォルデモートはそれを抜き取ったのだ。

 その結果“天罰”は彼を無罪とみなして霧散した、というところだろう。

 新しく見た呪文を正確に分析し、その対処を素早くする事が、嫌になる位ヴォルデモートの魔法使いとしての優秀さを示している。

 

 彼はその“もや”を小瓶に入れると杖を振るい銀の義足を作り、それからおもむろに自分の左腕を肩から切り落とした。

 

「これは……まずいね」

 

 切り落とされたヴォルデモートの左腕が黒と金、そして血の様な赤色をした火を発し始めている。

 残念ながらあの魔法を僕は知らないけど、闇の帝王が自分の腕を媒介に発動する魔法だ。きっと生易しいものではない。

 けど、ギリギリ僕の方も次に放つ呪文の準備が完了した。

 込める感情は3つ。

 敵対心、守る気持ち、平和への願い。敵と戦う、されど殺しはしない呪文。

 僕とヴォルデモートは同時に攻撃を放った。

 

「『悪霊の火を纏いし左腕槍(インギス・マーリ・スピリチュア)』俺様に楯突くものを焼き貫け!」

 

「『エクスペリアームス 武器よ永遠(とわ)に去れ』!」

 

 ヴォルデモートの火と僕の呪文が中央でぶつかり合って火花を散らす!

 見たところ威力は互角。けど不利なのは僕だ。

 無理に出力を上げすぎて杖がカタカタ揺れ始めてるし、杖から出る衝撃の余波で手から腕へと段々と皮膚が剥がれていってる。このままだと杖も僕の腕も持たない。

 それに比べてヴォルデモートは予め腕を切り離してるから、余波を受けない。

 この差は今は小さいが、杖腕へのダメージは後々響いてくる。

 膠着状態はこっちが不利。だから僕は、苦肉の策として、『臭い』でヴォルデモートの左腕の正確な位置を割り出して、おもいっきり左手で銀の剣を投げた。

 ヴォルデモートの左腕は銀の剣による横からの攻撃で吹き飛んだ。阻むものが無くなった僕の赤い閃光がヴォルデモートに飛んでいく。

 

「『アクシオ 俺様の下僕共』盾となれ!」

 

 驚いた事に、ヴォルデモートは『呼び寄せ呪文』で仲間である死喰い人を呼び出して盾にした。

 強化された僕の『武装解除』は当たると、その時持っていた武器は永遠に持てなくなる効果へと進化してる。それはつまり、自分の今までの相棒()に別れを告げるということだ

 

「仲間を盾にするなんて、『闇の帝王』は優秀な者には寛大になんじゃなかったのかい?」

 

「ああ、寛大だとも、俺様は優秀な者には常に寛大だ。だから最も優秀な存在である俺様を第一に守ったのだ。そう、やはり最も優秀なのは俺様なのだ!そして負けるのはお前だ!お前を守る剣は無くなったぞ、トム。防いでみろ!『アバダケダブラ』!!」

 

 やっぱり、仕方がなかったとはいえ剣を手放したのは痛手だ。防御にも強化呪文を使わなきゃいけない。

 再び杖に込めるのは3つの感情。

 向上心、生存本能、そして人間の三大要求の一つである食欲。

 本来花を咲かせる呪文は、あらゆるエネルギーを喰らい尽くし、無限に成長していく一本の“木”を作り出す呪文へと進化する

 

「『オーキデウス 世界樹よ』僕と友を守り、食欲のままに餌を食え!」

 

 僕とクロ達に纏わりつく様に巨大な木が成長していく。

ヴォルデモートの『死の呪文』が当たったところが黒く変色して枯れていくけど、それを上回る速度で枝を伸ばしいく。

 不死性という一点でこの世のあらゆる者に優るヴォルデモートをこの呪文で殺す事は出来ないが、時間稼ぎにはもってこいの呪文だ。

その間にどんな敵でも確実に滅する僕の最強の呪文を練っていけばいい

 

 込めるの感情は4つ。

 原始的であり最も強い感情。すなわち『喜怒哀楽』

 喜──ジニーとヨル、クロを始めとした色んな人と心を通わせた時の喜び。

 怒──ヨルとクロに馬鹿な思い違いをした僕への怒り。

 哀──『前世』での十数年、常に感じていた哀しみ。

 楽──『魔法の世界』にきてからずっと、今も感じているこの楽しさ。

 

 時間をかけてゆっくり、深く、杖に送っていく。

 

 たっぷり五分ほどかけて杖に感情を込め終わると、世界樹がちょうどヴォルデモートを捕らえていた。

 

「安心していいよ、殺しはしない。ただ、『闇の帝王』ではなくなる」

 

 ヴォルデモートが何か言おうとしているけど、世界樹で口を塞がれて何を言ってるかわからない。

 物凄く睨みつけてるから大体内容はわかるけどね。

 

「それじゃあいくよ、『エクスペクト・パトローナム 守護神よ来れ』」

 

 守護霊ではなく、より上位の存在である守護神を呼び出し、闇を退けるのではなく、滅するものへと進化した呪文。

 呪文を唱えると、僕の杖から小さな光の球がでてくる。

 光の球がそのままふわふわと20センチ程進むと光を強めていった。光は徐々にその存在感を増していって、やがて部屋中全てを眩い光で包み込んでいく。

 光を浴びた者全てが『吸魂鬼のキス』の正反対の効果を受ける呪文。

 すなわち、魂を奪うのではなく満たす。

 善の魂を持ってる人にはほとんど意味の無い呪文だけど、ヴォルデモートの様に魂が悪に染まりきってる人間にとっては最高の効果を発揮する呪文。

 

 バケツに入った濁った水に透明の水を入れ続けると段々と色が薄まって最後には透明な水になる。

 この呪文はそれを魂で行う様なものだ。

 ヴォルデモートはこのままいけば魂が洗い流されて無垢なる者、つまり赤ん坊のような状態になるはずだ。

 ヴォルデモートをその状態まで持っていけば『分霊箱』があっても関係無い。死を迎えるわけじゃ無いからね。

 

 しかし、流石ヴォルデモートだ。普通の人を浄化するなら10秒もあれば充分なんだけど、5分ほど経ってやっと光が収まってきた──

 

「ん?」

 

 奇妙な事に、そこにあったのはスリザリンのロケットのみ。肉体がどこにも無い。あの呪文は肉体には一切傷をつけないんだけど……

 

「つまり、これは……自殺したのか?」

 

 それ以外考えられない。

 僕の呪文で魂が完全に浄化しきる前に、自殺して逃げ出したんだ。

 まったく、プライドの高いヴォルデモートが自殺するとはね。

 

「おっと」

 

 体から力が抜けて崩れ落ちてしまった。これはまずい。

 僕は自分で回復する事が出来ない。

 体力の枯渇で、意思に反して倒れてしまったということは誰かの手を借りないと一生倒れたままだ。

 

「手を貸そう、我が主人よ」

 

ありがとうヨル

 

 体を抱き起こしてくれたヨルにそう言いたいけど、口が動かない。

 いよいよこれは本当にまずい。

 さっきも言ったが僕は自分で回復する事が出来ない。それはなにも、肉体的疲労に限った話じゃない。

 さっきの戦いで使った魔力や魂、感情もそうだ。

 強化呪文を約1時間の間に4つも使った。それはつまり、膨大な魔力と魂、加えて計13種類の感情を消費した事になる。

 このままだと魔力の枯渇で本体(日記)が塵になるか、魂と感情が無くなってセルフ『吸魂鬼のキス』状態になる。

 今回は使わなくて済んだけど『動物もどき(アニメーガス)』の力まで使ってたら、うっかり暴走してそのまま魔法界を滅ぼしてたかもしれないな。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「助けに来たくせにボロボロじゃない。ちょっと待ってなさい『エクスペクト・パトローナム 守護霊よ来れ』」

 

 僕の呪文で『悪霊の火』が浄化されて回復したクロが、僕に『守護霊の呪文』を通して魂を分けて与えてくれた。

 魂と一緒に流れ込んできたのは僕とクロが出会ってからの、何気ない日常。

 これがクロにとっての『最も幸福な記憶』なんだ。そう思うとなんだが嬉しくなった。

 あんな戦いの後だって言うのに、僕は心の底から安らいでしまった。

 恐怖の感情は消費してないはずなのに、その類の感情は全く湧かなかった。

 

「ありがとうヨル、クロ」

 

 今度は口が動いた。

 僕はそのまま二人を抱きしめて、意識を手放し……ちゃダメだ!

 ここから帰らなくちゃいけない!

 

「みんなはここがどこか把握してる?」

 

「しておらん。ヴォルデモートが居なくなっても探知の類も妨害されている」

 

 ヨルが、クロが作り出したベッドに、僕を寝かせながら言った。

 

「この『探知不可呪文』の類はヴォルデモートが施したんじゃないんだ。元々ここにある物なんだよ」

 

「……嫌な予感がするわ」

 

「その予感は正しいよ。ここは──」

 

 

 

 

 

 

「グリンゴッツ銀行の金庫の一つ、その中でも最深部に位置するマルフォイ家の金庫の中だ」

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 僕がここにヴォルデモート達とクロ達が居ることに気がつけたことは運が良かったとしか言いようがない。

 ダンブルドアと知り合ってなかったら、ホグワーツを開けて旅に出なかった。

 サーラと仲良くなってなかったら、ドビーの説得は出来ず、マルフォイ家の金庫についての情報を聞き出せなかった。

 小鬼達と契約を結んでなかったら、この金庫を開ける小鬼達の魔法を使えなかった。

 そう考えると、結局僕がした事って他人の力を借りただけだな……

 ま、まあいいか。今はここから帰ることに専念しよう

 

「ヨル、優勝杯(ポートキー)を取ってくれる?かかってる魔法を小鬼用に変えないとここから抜け出せないんだ」

 

「心得た。『アクシオ 優勝杯』受け取れ、我が主人よ」

 

「ありがとう。セドリック、こっちへ来て。いいかい、今から僕の言うと──」

 

「『ステューピファイ 麻痺せよ』!」

 

 紅い閃光が僕を襲った。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「『ステューピファイ 麻痺せよ』!」

 

 当たった!

 

 僕の心は歓喜していた。

 あの、あのヴォルデモートを倒したんだ!僕が!!

 

「大丈夫だった、セドリック!?」

 

 セドリックが驚愕した顔をしてる。

 あのヴォルデモートにあそこまで近寄られてたんだ。勇敢なセドリックでもこうなるのは当然だ。

 僕はなるべく、心を落ち着かせるように話しかけた

 

「大丈夫だよ、安心して。シリウスに『麻痺呪文』は沢山習ったんだ。3日は目を覚まさないよ」

 

「ハリー……君は、君は!」

 

 セドリックが何か口をパクパクさせて言おうとしてる。

?…… ああ、そういうことか

 

「気絶からすぐに立ち直ったこと?それもシリウスからコツを習ったんだ、ほら」

 

 そう言って僕は口を大きく開けて、血まみれの舌を見せた。

 気絶するときは舌を出しながら気絶して、痛みで目を覚ますように訓練したんだ。

 このためにシリウスに何回舌を治してもらったかわからないよ……

 

「このバカ!貴方ねえ、こいつに何てことしてくれてんのよ!殺すわよ!?」

 

「痛ァッ!なんひぇほとふるんはよ!」

 

 クロが僕のアゴをおもいっきり蹴り上げて来た!

 出してた舌をおもいっきり噛んじゃったじゃないか!

 

「おお、だいじょーぶですかあ?」

 

「はりはとう、ヘラー」

 

「ヴァターしは、フラーです」

 

 ただ1人、フラーが心配してくれた。

 ヴォルデモートを倒したのに1人しか心配してくれないなんて、まったく、どうかしてるよ!

 

「ポッター」

 

「はに、ヒョル」

 

「不愉快だ」

 

 僕がヨルの方を向いたら、紅い閃光が飛んできて、僕の意識はそこで途切れた。

 流石に三度も舌を噛む勇気は、僕にはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

【校長室】

 部屋に一人で佇んでいるのは今世紀最高の魔法使いと名高い、アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアその人。

 彼の役目はここに転移してくるはずのハリー・ポッターとセドリック・ディゴリーの保護。しかし──

 

「……遅いの」

 

 そう、遅い。遅すぎるのだ。

 ダンブルドアが迷路の見取り図を見ながらクロとヨル、2人と一緒に考えたところでは10分ほどで迷路を攻略できる。と言うのが双方の見解であった。

 しかし、もう30分以上経っているのにも関わらず、何の音沙汰も、緊急時に上げる予定になっている花火さえないのだ。

 考えられる可能性はヨルとクロ、2人が花火さえ打ち上げられないほどに追い詰められている。

 これは、にわかには考えられないことだ。

 だがダンブルドアにはそれができる人物が3人、いや最近4人なっだが、思い当たりがあった。

 それは自分、ヴォルデモート、最近出会ったトム。そして自分のライバルであった──

 

バチンッ!

 

 ダンブルドアが思考の渦の中にいると、自分が作った(ポートキー)が使われた感触とその証拠の音が響いた。

 自分の心配が杞憂であった事にホッとしつつ、ハリーとセドリックを労おうとして。

 

 

 果たして、目の前に居たのはシリウスだった

 

「シリウス?なぜじゃ…いや、違う。お主は」

 

「久しぶりだな、ダンブルドア」

 

 シリウスが、いや、男がそう言うって瓶に入った薬を飲むと、顔がみるみるうちに変わっていった。

 その顔はダンブルドアがよく見た、もう二度と見る事がないと思っていた、かつての親友にして、最大の敵だった男。

 そして何より、取り返しのつかない、忌まわしき過去の象徴。

 

「ゲラート……」

 

「決着だ、決着をつけよう、ダンブルドア。私達の戦いに、アリアナに、過去に、全てに」

 

 

 ここにまた一つ。

 魔法界の歴史を変える戦いが起きようとしていた。


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