ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』   作:ドラ夫

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23 私生活とクラブ活動

 ホグワーツに来てから3週間、今僕の部屋は焼きたてのパンの匂いに包まれている。

 別にパンを焼くことにハマったわけじゃない。原因は生徒達が大量に贈ってくるお菓子にある。

 贈られてくるお菓子の大半に『愛の妙薬』が入っているのだ。『愛の妙薬』は人によって感じる匂いが変わるらしいけど、僕の場合は焼きたてのパンだったみたいだ。

 『闇の魔術に対する防衛術』の先生に一服盛ってみようとするその挑戦心は買うけど、これはいくら何でも多すぎる。

 7学年、4つの寮の多くの女生徒がそれぞれこの『愛の妙薬』入りお菓子を毎日、毎日嫌がらせの様に贈りつけてきているのだ。

 

 事の始まりは2週間前、とある女生徒が僕にマフィンをくれた。

 だから僕はお返しに、特技である『相手の好きなものを当てる』を使って彼女の好きなジンジャークッキーに彼女が作ったマフィンの良い所と彼女が最も褒めてもらいたいと思ってる事を褒める内容のメッセージカードを添えて贈った。

 すると今度は彼女と彼女の友達がクッキーを贈ってきた。

 だから僕は彼女と彼女の友達にも完璧なお返しをした。

 するとまた僕に贈り物をする人数が増えた。

 そこからは早かった。1人が2人に、2人が4人に、4人が16人に。気づけば僕の部屋には毎日100近いお菓子が贈られてくるようになっていた。

 

 その上、『ホグズミード』への外出があった日から何人かの生徒が、まったく、有難いことに『愛の妙薬』入りのお菓子を贈ってくれるようになった。

 しかも、それに目をつけたフレッドとジョージが『愛の妙薬』ブームを引き起こした。双子はハリーから得た資金を元手に作った『愛の妙薬』で荒稼ぎしてるみたいだ。

 その資金を使って双子はもっと強力で分かりづらい『愛の妙薬』を作る。

 これなら!と思った生徒達がもっと『愛の妙薬』を買う。

 もうホグワーツで『愛の妙薬』を手にした事がない生徒は居ないんじゃないか、と思うほど『愛の妙薬』は一般化してる。その膨大な量の『愛の妙薬』が最終的に、お菓子という形で全て僕の部屋に集まる訳だ。

 とりあえず僕は毎日大量のお菓子に『清め呪文』と『永久保存呪文』をかけて無毒化してから保存してる。それでも追いついてない。

 でも、生徒から貰ったものを捨てる訳にもいかないし、贈り物を他の人に渡す訳にもいかない。しかもお菓子の感想を書かなきゃいけないから放置する訳にもいかない。

 『愛の妙薬』入りとはいえ、全部手作りで、非常に手が込んでる事が伺える物ばかりだ。もらう事は勿論嬉しい。だけど嬉しくも、困った事態だ。

 

 それからクラブ活動の顧問になってくれ、という手紙も沢山もらってる、本当に沢山。

 『お料理クラブ』、『パーティーマナー講座』、『社交ダンス教室』、『詩の朗読会』、『マグルを魔法界に進出させる会』はては『魔女権利団体』なんてのもあった。男の僕に顧問をやらせてどうする!

 何だかんだで、この1週間の間に総勢32種類ものクラブ活動の嘆願書が届いてる。

 まあこれは仕方のない事かも知れない。今までクラブ活動の顧問になってくれそうな先生が少なかったからね。でもこれは少し多すぎるよ、流石に。

 

 それからハーマイオニーとジニー、レイブンクローとスリザリンの一部の生徒達が放課後に課外授業をもっとしてくれ、とせがんでくる。

 元々週に一回、火曜日の放課後に少しハーマイオニーとやるはずだった課外授業は、4つの寮を巻き込んで、土曜日の午前中を丸々使う立派なものにってしまった。

 僕との秘密の課外授業を“うっかり”自慢してしまったハーマイオニーに少しイラついたのは仕方がないことだと思う。

 

 それからトレローニー先生だ!

 僕が色々な先生方の元を訪ねている事をどっからか、本人は水晶からと言ってるけど、嗅ぎつけたトレローニー先生がいつ私のところに来るのか、と遠回しに聞いてくる。

 僕は占い学なんて物には、少なくとも彼女の占いには、全く興味がないのにだ!

 

コンコン

 

 僕が色々と頭を悩ませていると誰かが部屋を訪ねてきた。これも珍しい事じゃない、というより毎日誰かしらが訪ねて来る。

 

「どうぞ」

 

「失礼いたします、リドル先生」

 

「こんな遅い時間に何か用かな、グリーングラス」

 

 訪ねてきたのはスリザリン生のダフネ・グリーングラス。

 彼女は数少ない『愛の妙薬』入りお菓子じゃないお菓子を贈って来てくれる生徒で、僕のところによく悩みを相談しにくる。

 本来は嬉しい事なんだけど、その頻度が高すぎて少し困ってる。

 グリーングラスは今週だけでもう3回だ。

 毎回決まって僕の事を目を潤ませてみつめてくる。どうやったらそんなに目を潤ませる程悩みが出来るのか、甚だ疑問だ。

 

「相談に乗っていただきたくて来てしまいました。リドル先生しか頼れる方が居なくて……ご迷惑でしょうか?」

 

「そんな事はないよ。生徒に頼られて嬉しくない教師なんて居ない」

 

 僕とグリーングラスが話してる間にサーラが紅茶と彼女の好物である色とりどりのマカロンをそっと用意してくれる。

 

「ありがとう、サーラ」

 

 サーラは自分の、というより屋敷しもべ妖精の声は不愉快だから、という理由で来客、特にスリザリン生の時は声での返事をせずにうやうやしく一礼して消えていく。

 サーラはそう言ってたけど、本当は生徒たちの長い話を聞きたくないから逃げてるだけかも知れない。

 

「──それでですね、リドル先生。同級生の男の子達ったら本当に子供というか、幼稚なんです。私はもっと落ち着いた、大人の男性が好みなのですけれど、分かってくれなくて困ってしまいます」

 

 もう30分も話してるのに全く勢いが衰えない。

 僕はこういう時、ただ黙って紅茶とお菓子を勧めて話を促す。

 人の悩みを解決するにはまず相手に沢山喋らせた後、本当に求めてる言葉を少しだけあげる事だ。女性相手だと甘めの紅茶と匂いの強いお菓子があればなお良い。

 

「それに比べてリドル先生はこうやって落ち着いて話を聞いて下さっていただけて……尊敬いたします。寮監のスネイプ先生はこの様に相談するようなお人ではありませんから。私、この様に色々話せる方はリドル先生が初めてです。リドル先生には感謝、という言葉では足らない程大きな感情を持ってしまいます。もしよろしければ、私の感謝を受け取って下さいませんか?リドル先生、今度一緒に──」

 

コンコン

 

「おっと、新しい来客だ。話は一旦中止していいかな?グリーングラス」

 

「……リドル先生がお望みとあらば」

 

「ありがとう。入っていいよ」

 

「リドル先生、ここで何してるの?」

 

「それは僕のセリフだよ。僕の部屋に何か用かな?ラブグッド」

 

 入ってきたのは不思議ちゃんこと、ルーナ・ラブグッド。説明するまでも無いだろうが、レイブンクロー生だ。

 

「私のベッドが散歩に行っちゃったの。ここに来てない?」

 

 グリーングラスが怪訝な顔でルーナを見つめた。

 

「来てないね。『呼び寄せ呪文』は使った?」

 

「使ったよ。でも来てくれなかったんだ」

 

 彼女の呪文範囲圏外なのか、それとも『防護呪文』が掛けられてるのか、それとも閉じ込められているのか、流石に分からないな。

 僕が『呼び寄せ呪文』を使ってもいいけど、教室とかに閉じ込められて場合、扉をふっとばしてしまう。万が一近くに人が居たら怪我をさせてしまうし、ベッドもタダでは済まないかもしれない。

 

「なら僕が新しいベッドを用意しよう」

 

 最近マダム・マルキンに織物を習ったんだ。素材のストックはあるし、問題ないだろう。

 折角だから銀で柱と天井を作って天蓋付きのお姫様ベットを作ってあげよう。

 

「いいの?じゃあやってもらおうかな」

 

 礼儀を重んじる純血、その中でも『聖28一族』の長女で本人もきっちりした性格のグリーングラスは、ルーナの言い方が気に入らなかったみたいだ。

 

「“じゃあ”? 貴女、礼儀がなってないのではないのですか?リドル先生は貴女の為にベッドを作ってくださるのよ?敬語を使わなだけじゃなくて、“じゃあ”って言い方はないんじゃないかしら?」

 

 僕のためにありがとう、グリーングラス。

 でも、この場、この状況に限ってその言葉は悪手だ。

 

「うわあああああああん!」

 

「!?」

 

 ルーナは外聞もなく、突如泣き出してしまった。

 ルーナはいじめを受けている。普段は気にしてない風だけど、年頃の女の子が何も感じない訳がない。彼女はいじめに耐えきれなくなると、無意識か意識的かはわからないけど、僕のところにやってくる。

 そんな限界の状態で真正面から正論で叩き潰されたのだ、泣いてしまうのも無理はない。

 実を言うと、ルーナとの付き合いはジニーとハーマイオニー、セドリックの次に長い。

 彼女が僕のところに来た時は、僕はやっぱり黙って彼女の話を聞いた。その後で2週間ほど経ってから裏からそれとなく助けてあげていた。

 2週間待つ理由は彼女が僕に依存し過ぎない様にするためだ。悩みを相談したらすぐ解決、という感じにしてしまうと何でもかんでも僕に頼る様になってしまう。

 それにいくら僕といえどいじめを、しかも頭の良いレイブンクロー生の行うものを、誰にも気づかれない様に解決するのは準備が必要だった。

 賢いルーナは僕がした事にある程度気づいていたようだったけれど、彼女が僕にそのことについて尋ねてきた事はなかった。ルーナはそんな暗い話じゃなくて、楽しい話が好きだったからだ。

 話す事はいつも父親や『ザ・クィブラー』の事、彼女が見つけたがってる魔法生物に関してだ。学校生活の話はほとんど聞いた事がない。

 それでも、彼女の話はとても面白い。ユニークな発想と純真無垢な心、そして賢い頭脳を持った稀有な人間だと感じさせてくれた。

 そんな彼女をここまで傷つけた子達に、僕は珍しく怒っていた。

 

「ラブグッド、僕の手をとって。魔力の痕跡を調べたい。『ディスクミークライム 犯人を示せ』それから『ベーニ・ドミノウス 持ち主に帰れ』」

 

 僕が呪文を唱えると『愛の妙薬』入りお菓子が作り主の所まで飛んでいった。彼女達には少しの間、ナルシストになってもらう。

 

「何をしたの?」

 

「なに、持ち物を返しただけさ」

 

「……泣き止むのが早いのね」

 

 本気で心配しただけに、グリーングラスはルーナのあまりの切り替えの早さを見て嘘泣きだったのかと疑ってるみたいだ。

 

「早いよ。特技だもん」

 

 ルーナはその事に気付いてるのか気づいてないのか、よくわらない返事をしてる。まったく、面白い娘だ。

 グリーングラスもすっかり毒気を抜かれた様だ。案外ルーナとグリーングラスは相性が良いかもしれないな、少し話をさせてみたくなった。

 

「2人とも、今日はもう少しここで話をして行かない?」

 

「とっても魅力的な提案です。勿論そうしたいのですが、もうすぐ消灯の時間ですし…… 勘違いしないでください、本当にリドル先生ともう少し夜を楽しみたいんですよ?でも、その為に他のスリザリン生を裏切れません」

 

 彼女もまた賢い娘だ。

 僕と話をしたいし、ルーナにも興味を示してる。けどそれは迷惑になるから、と自制してる。子供である彼女にとって、夜に誰も知らないお茶会をする、というのはさぞ魅力的に映るはずなのに。

 もしかしたら僕の方がグリーングラスより子供かもしれない。僕はこのお茶会をもう少し楽しみたい気持ちの方が自制心に勝ってしまっている。

 

「安心していいよ、グリーングラス。僕はフィルチさんと仲が良くてね、少しだけ融通を効かせられるんだ」

 

 でもやっぱり僕は子供じゃない。自分の為に抜け穴を作ってしまうズルい大人だ。

 僕の実験の成果のおかげでフィルチさんはほんの少し、まだペンを机の上で転がす程度だけど、魔法を使える様になった。

 えらくそのことを喜んだフィルチさんは、僕の事をダンブルドアよりも偉大な、素晴らしい魔法使いだと思ってる。まあ要は、ほとんどのお願いは聞いてくれる。

 

「流石リドル先生です。あのフィルチを手懐けていらっしゃるなんて」

 

 グリーングラスが実にスリザリン生らしい、『スクイブ』を下に見た言葉を尊敬の念と共に送ってくる。

 ここで僕が『スクイブを下に見るな』というのは簡単だ。彼女は表向きその通りにするだろう。でもそれじゃあダメだ。それは逆にこれから先、注意する機会を失って、より根深い問題になってしまう。

 じゃあどうするか?

 勿論、もう1人のお茶会のメンバーに手伝ってもらう。

 

「ルーナ、君はフィルチさんをどう思う?」

 

「孤独な人だと思うよ。だって『グローリン』がたくさん集まってるもん」

 

「グローリン?」

 

「そう、グローリン。寂しい人の肩と鼻にとまるの」

 

「……リドル先生、グローリンを知っていますか?」

 

「残念ながら知らないね。ただ、フィルチさんが寂しい人って言うのは賛成だ」

 

「そうですか……」

 

 これでグリーングラスの中にフィルチさんへの関心が出来たはずだ。いきなり彼女の価値観を崩す事は出来ない。

 でも、グローリン?を見ようとしてフィルチさんを少しだけ気にするようになるだろう。

 その時、彼女の頭に『寂しい人』というフレーズが浮かべば、グローリンじゃなくてフィルチさんを気にする様になるだろう。

 そこから何を感じ取るかは彼女次第だ。

 

「ところでラブグッド、グローリンってどうやって見るんだい?」

 

 意外とルーナが言っている生物は実在してることが多い。

 当然、それらの生物は僕の好奇心を刺激する。

 

「ミルクの瓶の底を通して見るの。ピンク色の蝶々みたいな奴だよ」

 

「ミルクの瓶底を通してフィルチを見たのですか?」

 

「そうだよ」

 

「「・・・」」

 

  この後、ルーナの好物である甘くない本格的なココアとシナモン入りのマフィンを楽しみながら3人で夜を過ごした。

 結論として、ルーナの話は嘘か本当かよく分からなかった事をここに述べておこう。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「やあ、みんな。おはよう!」

 

「「「おはようございます、リドル先生」」」

 

 生徒全員が返事を返してくれた。

 ここに集まってるのは僕が張った【クィディッチに興味のある人集合】という張り紙をみて集まってくれたグリフィンドール生だ。

 クィディッチの選手を中心に、グリフィンドール生の6割位の人が居るかな?

 

「今からこれを君たちにプレゼントしよう」

 

 僕が杖をふるうと大量の箒が出てくる。

 どれもこれも1つとして同じものがない一点ものだ。その代わりというか、手作り故に形が歪だ。

 

「でも先生、その…私達には『ファイアボルト』と『ニンバス』があります」

 

 ジニーが心底申し訳なさそうに言ってくる。

 

「知ってるよ。でもこの箒はそれらを超える性能を持ってる」

 

 この歪な箒が?と生徒達が怪訝な顔をみせる。

 生徒達を納得させるには論より証拠だ。

 

「物は試しだ、ジニー。乗ってみて」

 

 僕が渡した箒はジニーの杖の本体と同じ材質が使われてる。1メートル32センチ、優しくて柔軟。

 ジニーが恐る恐ると言った感じで箒を手に取る。すると暖かい風が起こった後に、ジニーの足元の芝が伸び始めた。

 ジニーは少し驚いた後にニッコリ笑った。何かを感じ取ったみたいだ。

 

「それじゃあ早速飛んで──」

 

 僕が言い切らないうちに信じられない速度でジニーが飛び出した。そのまま空中で少しの間アクロバティックな動きをした後、地面に向かって垂直に、しかもトップスピードで降りてくる

 

「危ない!」

 

 ハーマイオニーがジニーが箒の制御を誤ったと思って助けようと杖を構えた。

 無言でハーマイオニーの手を握って下ろさせた。ハーマイオニーが驚愕の顔でこっちを見てくる。心配ない、そう目で合図した。

 真っ逆さまに落下してきたジニーは地面から5センチほどのところでトップスピードだった箒をピタッと止めた。素晴らしい技量だ。

 ジニーはそのまま杖に片足で乗りながら僕達の方に戻ってきた。

 

「『ファイアボルト』は掃除用具入れに入れておいて。私は今日からこの箒を使うわ」

 

 その後、生徒達はそれぞれの箒を我先にと取って行った。

 歪な形も、箒を気に入れば個性に見えてくる。それぞれ自分の箒の形がどれ位かっこいいか自慢しあってる。そうまでしてくれると製作者冥利につきるというものだ。

 中にはお金を払おうとした人もいたけど、お金より『闇の魔術に対する防衛術』の好成績が欲しいと言っていおいた。

 

「リドル先生の飛ぶところを見せて下さい!」

 

 生徒の1人でチェイサーのアリシア・スピネットがそう言ってきた。他の生徒も期待してるみたいだ。

 だけど──

 

「僕は箒に乗ったことがないんだ。一応、僕の箒も作ってはあるんだけどね」

 

 僕の発言にスピネットも含めた生徒達が全員驚いた。

 スピネットは驚いた顔をすぐに引っ込めてニッコリ笑って提案してきた。

 

「それなら私が練習を手伝います!一緒にクィディッチをしましょうよ!」

 

 正直言うとあまり気が乗らない。

 この箒達は杖の本体と同じ素材、つまり僕の箒は暴れ柳から作ってある。2メートル40センチ、乱暴で頑固。

 どうにも嫌な予感がするけど、生徒達の期待の眼差しが……

 

「それじゃあリドル先生、まずは箒に向かって『上がれ』と言って下さい」

 

 スピネットはもうすっかりその気だ。ここで断ることは出来ない。

 

「わかった『上がれ』。…いたあっ!」

 

 箒が物凄い勢いで僕の額に飛んできた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 スピネットが心配そうに顔を僕の額に近づけてくる。

 

「大丈夫、大丈夫。もう一回やってみよう。『上がれ』」

 

 今度は凄い勢いで箒が空に飛んで行った。

 

「あー、ちょっと待っててね」

 

 『呼び寄せ呪文』で呼び出してもいいけど、それじゃあなんだか負けた気がする。

 僕が直接あの箒を捕まえてやる。『飛行魔法』は習得済みだ。僕と箒、どっちが早く飛べるか勝負だ!

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ようやく箒を捕まえて地面に戻ってこれた。もう生徒達はそれぞれの箒を選び終えたみたいだ。

 

「リドル先生、今やった『飛行魔法』を教えて下さい」

 

 と、ハーマイオニー。他の生徒も興味津々だ。空を飛ぶというのは、魔法族非魔法族、男女、歳関係なくワクワクするものなのだろう。

 しかし残念なことに、『飛行魔法』を一から教えてたら、ホグワーツを卒業してしまう。そのくらい難しい呪文なのだ。

 

「今度ね。それより今は箒だ。みんな、自分の箒は選び終えたね?」

 

 生徒達は自分の箒を自慢するように掲げた。

 

「結構!それじゃあ仕上げだ」

 

 僕が杖をふるうと、箒にそれぞれ持ち主の名前と製造ナンバーが彫られた。これで本当の意味で一点ものになった。

 

「2週間に一回、僕の部屋の1つを箒で飛ぶように貸してあげよう。勿論、クィディッチ選手以外も歓迎だ」

 

 3つ目の部屋、つまり羽根の生えた鍵がいた部屋、今は錬金術の研究に使ってる部屋にミニチュアのクィディッチ試合会場を作ってある。生徒達に『収縮呪文』を使えば問題ないはずだ。

 生徒達は、特に男の子達は、僕の提案に随分乗り気みたいだ。

 

「ただし、『闇の魔術に対する防衛術』の成績が悪かった生徒は禁止だ、いいね?」

 

 これには少し不満そうな人がいたが、反論はしてこなかった。

 

 全員に箒に乗らせた結果、魔力変換効率は最低が92%最高が124%だった。

 この違いは何か?

 実はよくわからない。だからもっとデータを取って研究しなくてはならないな。そのために、生徒達には僕の部屋で沢山箒に乗ってもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕が少し離れたところから生徒達を見ていると

 

トントン

 

 と、誰かが僕の肩を叩いてきた

 

「どうしたんだい?」

 

「僕、シーカーになりたいんです。だから指導して下さい」

 

「へえ、それはつまり、ハリー・ポッターを倒すってことかい?」

 

 彼は無言で頷いた。

 

「いいよ、気に入った。来週のこの時間、僕の部屋においで」

 

 彼は頷くと生徒達が居る方に戻っていった。

 さて、これから彼の強化プランをねらないと。中々やりがいがありそうだ。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 トロールが守っていた部屋、今では僕が呪文を練習する部屋では、数人の生徒に『決闘クラブ』を開いてる。

 土曜日に行う課外授業、名前を『探求クラブ』とした、では魔法全般、つまり様々な呪文や魔法理論。最近では純血思想についての論議などもしてる。

 それに希望すれば誰でも入会できる、色々と手広いクラブだ。

 

 それに比べてこの『決闘クラブ』は完全に戦うための作法と呪文しか習わない。

 それに一部の優秀な生徒のみが入ることができる秘密クラブだ。

 そもそもほとんどの生徒はこのクラブの存在さえ知らない。というか、このクラブの存在を自力で知ることがある種の入団テストになってる。

 

 メンバーは入会順に

セドリック・ディゴリー

ハーマイオニー・グレンジャー

ジニー・ウィーズリー

ネビル・ロングボトム

ヨル・バジリース

クロ・ライナ・アイベリー

ルーナ・ラブグッド

ダフネ・グリーングラス

 の8人だ。

 

 最初の4人が創設者で、後の4人がこのクラブを発見して入ってきた人達。といってもヨルとクロは自力で発見したけど、ルーナは親友のジニーに、ダフネは仲良くなったルーナに教えてもらったみたいだ。

 

「今日教えるのは『盾呪文』の遠隔操作とその使い方だ。ディゴリー、僕の前に来て。よし、今から僕と少し撃ち合いをしてもらう。グレンジャー合図を」

 

「わかりました」

 

 セドリックが杖を構える

 

「それじゃあ、3…2…1」

 

「「『ステューピファイ 麻痺せよ』」」

 

 僕とセドリックから同時に紅い閃光が放たれる。

僕がヒラリとかわしたのに対して、セドリックはその場から少しも動かず閃光に当たった。

 

「『リナベイト 活きよ』今、どうしてディゴリーが避けられなかったかわかった人はいる?」

 

 ウィーズリー、クロ、ヨル、グリーングラスの手が挙がる。

 ここは新人のグリーングラスの優秀さを教えるために彼女に答えてもらおう。

 

「それじゃあグリーングラス、答えてくれるかな?」

 

「今先生がなさったのは無言呪文による、『盾呪文』での密封です。ディゴリー先輩の体の関節部分に、気がつかないほど小さな『盾呪文』を設置していました」

 

「そこまで気がつくとは、流石だね。スリザリンに5点あげよう」

 

 他の生徒達もグリーングラスを優秀な魔女だと認めたみたいだ。まあ、ここにいる時点で優秀なのは確定してるんだけど。

 

「じゃあどうやって複数の『盾呪文』を遠くに設置したか分かる人は居るかな?」

 

 今度はグレンジャー、クロ、ラブグッドの手が挙がる。

 さっきと同じ理由で、今度はルーナに答えてもらう

 

「ラブグッド、説明してくれる?」

 

「リドル先生が作ったのは複数じゃなくて1つの『盾呪文』だよね。それを所々糸みたいにして繋げてた。勿論、必要な箇所は大きくして」

 

「正解だ、レイブンクローに5点あげよう。『盾呪文』を遠くに、素早く設置するのは難しい。だから糸状にして気づかれないように相手のところまで伸ばすんだ。それを相手の体に纏わせて、関節部分の箇所だけ大きくする。さ、やってみよう。いきなり糸にするのは難しいから、まずは『盾呪文』を犬の形にしてみて」

 

 みんな中々苦労してるみたいだ。

 そんな中、一番早く出来たのはセドリックでも、ハーマイオニーでもクロとヨルでもない、ネビルだった。

 

「リドル先生、僕、出来ました」

 

「素晴らしい、グリフィンドールに5点だ。次は犬を動かしてごらん」

 

 グリーングラスが驚いた顔をする。ネビルをよく知らないスリザリン生からすれば当然か。

 

「グリーングラス、どうしてロングボトムが先に出来たのか疑問に思ってるだろう?」

 

 答えないが、しっかり顔に出てる。

 

「ロングボトムはここにいる他の生徒と違って、授業で習う以上の事をしてない。でもその代わりに毎日毎日、つまらない基礎呪文をずっと練習してるんだ。だから呪文の多様性では負けてても、精密性や操作性では勝ってるんだ」

 

「なるほど……」

 

 こういった事はコツや才能だけではない、毎日の練習が肝要だ。

 彼女もそれを理解してる。彼女の中で、ネビルはただの愚鈍な生徒じゃなくなっただろう。

 人は、自分に出来ない事が出来る人間を認める生き物だ。

僕は生徒同士の人間関係に関して、いじめが起きたりすれば別だけど、口を出したりしない。

 けど、お互いの事を知るきっかけを作るくらいはやってもいいと思う。

 

「ロングボトムさん、貴方は毎日どの位の基礎練習をなさっているのですか?」

 

「え、あ、その、6時間くらい?」

 

「6時間もですか?流石このクラブの一員なだけありますね」

 

「そうだよ、ネビルは凄いもん」

 

「僕なんて、全然凄くないよ……みんなみたいに色んな呪文が出来ないから、基礎ばっかりやってるだけなんだ」

 

「あまり自分を卑下するな。基礎が大事だとわがあ…リドル先生も言っていた」

 

「その通りだ、ヨル。さ、みんな練習に戻って」

 

 

 

 

 この後、みんなで『盾呪文』と『麻痺呪文』のみの決闘をトーナメント形式でおこなった。

優勝はクロ

準優勝はセドリック

3位はヨル

そして、4位はネビル・ロングボトムだった。


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