『ガタンッ!』という音と共に僕の背後にある扉から両親が部屋に入って来る。
何故だか2人とも、とっても驚いている。母さんは泣きながら手で口を抑えているし、父さんは全てを諦めた顔で膝から崩れ落ちてる。
いつも落ち着いて微笑みを浮かべている2人らしくない。僕が少し驚いていると、母さんが僕の方へ駆け寄って、僕を抱きしめてくれた。
いつもの母さんのいい匂いがする。でも、抱かれ心地がいつもと全然違う。
母さんの体が濡れているのか、ぬちょぬちょしてて、ちょっと不快だ。
──違う、濡れてるのは僕だ
僕が真っ赤に濡れている
あぁ、そうか、これは僕が心を、魂を失った日だ。
僕が人を殺してしまった日。
僕が何をするにも無気力になってしまった日。
この日から、僕の両親は僕に対して気を使う様になってしまった。気を使うあまり、本心からじゃなくて、“家族らしい会話”をする様になってしまった。
この日から、僕は人を生き返らせる物語が沢山ある“魔法の世界”に憧れた。
そして、この数年後にハリー・ポッターの世界に、さらにその数年後に死を克服する『分霊箱』に、そしていつしか不死身のヴォルデモートに、強い憧れを抱く様になったんだ。
◇◇◇◇◇
クリスマス・パーティーの次の日、ブランデーを飲みすぎた影響で頭をグワングワンさせながら目を覚ますと、恐ろしい光景が広がっていた。
サンタとトナカイの格好をしたドラゴンとバジリスクが僕を取り囲んでいる。
こんな体験をするのは後にも先にも僕だけだろう。
早くこの恐ろしい者達から逃げ出したいけど、お酒のせいで意識がハッキリしない。これじゃあ魔法は使えないし、足元もおぼつかない。
「サーラ、居る?」
返事はない。
屋敷しもべ妖精達はアルコールに弱い。
屋敷しもべ妖精達がキッチンで行ってるクリスマス・パーティーに参加して、そのまま酔い潰れてしまったんだろう。
頼みの綱のサーラも居ないとなると、仕方がない。最近出来たばかりのアレを使おう。
僕が机の中から取り出したのは銀の杖。
小鬼製の銀が自分にとって有益な物を吸収する性質を『主人を選ばぬ杖』に組み合わせた杖で、呪文を吸収させて取って置ける。
今のところは1つの杖につき、1種類の魔法しか込められないけど、誰でも杖に込められてる魔法を使う事が出来る。
この杖に込められているのは『正常化呪文』だ。
使い方はいたって簡単。
杖を持って、込められている呪文を使おうと思うだけ。
僕が念を込めると、銀の杖が光って僕の服と胃と頭をいつも通りにしてくれた。
「『ウィンガーディアム・レビオーサ・マキシマ 全て浮遊せよ』『エンゴージオ 肥大せよ』」
ヨルとクロの巨体を持ち上げて、ヨルを大きくしたソファに、クロを大きくしたベットに、起こさない様に慎重に寝かせた。
2人が起きるのを待つ間に、クリスマスプレゼントを開封しておこう。
「『アクシオ クリスマスプレゼントよ来れ』」
サーラが誰から来たのか分かるようにタグ付けをしておいてくれたクリスマスプレゼントが飛んでくる。
クリスマスプレゼントを誰が何を贈ってくれたのか、後で生徒達に感想を聞かれたとき用に覚えていきながら、生徒達から贈られてきた箱を1つ1つ丁寧に開けていく。
グリフィンドール生やハッフルパフ生は贔屓のクィディッチチームのグッズなど、純粋に自分が貰って嬉しい物を贈ってきてくれる。
レイブンクロー生は踏むと靴を綺麗にしてくれるカーペットなどの、あると便利だけど自分で買おうとは思わない実用品を贈ってきてくれる。
スリザリン生は装飾品や他国の珍しいお酒など、嫌味にならない程度に高価な品物を贈ってきてくれた。
グリフィンドール生とハッフルパフ生は実に学生らしくて、レイブンクロー生は何処か主婦っぽい。スリザリン生は貴族らしいというか、贈り物慣れしてる。
贈り物1つとっても寮の特徴が見れて面白い。
ちなみに、ハリーからは『お菓子の詰め合わせ』に『これからもよろしくお願いします』というメッセージカード付きで。
ロンからは『チャドリー・キャノンズが勝つには』という本を『いつか僕が勝たせる!これからも練習よろしくお願いします』というメッセージカード付きで。
ハーマイオニーからは『ハーマイオニー厳選のマグル界の本詰め合わせ』が『いつも魔法を教えて下さっているので、今度は私の世界を知って下さい』というメッセージカード付きで。
ネビルからは『高山地の魔法植物』という本が『今年もよろしくお願いします。おばあちゃんが是非会いたいって言ってました』というメッセージカード付きで。
ジニーからは『思い出し玉』が、『たまには昔の様に付きっ切りで魔法を教えてね』というメッセージカード付きで。
クロからはドラゴン皮の膝まである黒色のローブが『採れたての皮を使ったわ』というメッセージカード付きで。
ヨルからは『ナイスにナイトでチェックメイトするやり方』という本が『私にこれ以上貴方の王を取らせないでくれ』というメッセージカード付きで。
セドリックからは『自動速記羽ペンQQQ』が『手書きの教科書ありがとうございます』というメッセージカード付きで。
ルーナからは僕も知らない何かの木で出来た『グニャグニャしたオブジェクト』が『肩こりに効くと思うよ』というメッセージカード付きで。
ドラコからは『金糸で蛇の刺繍がしてあるハンカチ』が『洗う必要の無いハンカチです。今度是非我が家にいらして下さい。父上と母上も交えて議論を交わしていただきたい』というメッセージカード付きで。
ダフネからは『闇の魔法使い達の恐ろしい所業』という分厚い本が『色々と役立てて貰えれば嬉しく思います』というメッセージカード付きで。
それぞれ贈られてきた。
それから小鬼達や屋敷しもべ妖精、騎士団のみんなやホグズミードの人達からもいくつか贈られてきてるので、それぞれ開封していく。
すると困った事に、僕がプレゼントを贈っていない何人かの人達からもプレゼントが届いている事に気がついた。
一応言っておくと、僕は今まで少しでも関わった人全員にクリスマスプレゼントを贈っている。
小鬼達以外にはそれぞれ銀細工を贈ったし、小鬼達には昔小鬼が作ったとされる骨董品を探して贈っておいた。
つまり、この何人かのプレゼントを贈ってきた人たちは、僕と関わった事のない、僕が全く知らない人達だ。
基本的には、ホグワーツの新しい『闇の魔術に対する防衛術』の教師になった僕と知り合いになろうとする魔法省の役人の人達だ。
だけど何人か、見過ごせない名前もある。
特にこの人、バチルダ・バグショットさん。
この人は『原作』ではヴォルデモートに殺されて、ナギニに入れ替わられた人だ。
そんな彼女から贈られてきたクリスマスプレゼントには、ゴドリックの谷で開催されるクリスマス・パーティーの招待状も梱包されてる。
バチルダさんがもう死んでいるのかどうか分からない。でも、このタイミングで、全く接点のなかった僕にクリスマスプレゼントを贈ってくるなんて、普通ではない。会いに行かないと、ダメだろうな。
この誘いが罠であれ何であれ、何かあるには間違いないのだから。今は少しでも情報が欲しい。
残念ながら、ホグズミードでのクリスマス・パーティーには行けそうにない。
◇◇◇◇◇
トムがクリスマスプレゼントを開けているのと同時刻、ハリーのイライラは最高潮に達していた。
ハリーは冬休み中、ホグワーツに残っていると仲間達と『TA』が出来ると思っていた。。だが、『TA』の主力メンバーのハーマイオニーやアステリアやチョウは、ハリーが引き留めたが、実家に帰ってしまった。
ハリーは仲間達が『TA』を軽く扱っている様で少しイラついたがアステリアが、自分の家は名家で、クリスマスに帰る事は仕方がないことだ、と涙ながらに謝ってきた事で許した。
そしてチョウに家族との絆の大切さを優しく説かれると、ハリーの機嫌はスッカリ良くなって、家に帰る事を決めた。
だが家に帰ってみると、シリウスやルーピンは快く出迎えてくれたものの、結局騎士団はハリーに徹底して情報を与えてはくれなかった。
それがハリーには不快だった。
ここ最近、『TA』の幹部として運営側の人間だったハリーは、前にも増して自分が蚊帳の外でいる事が我慢ならなかった。
更にハリーは『妖怪祓い』の本で『閉心術』を学び、『TA』で実力がついた事もあって、自分が騎士団に認められない事に益々イライラしていた。
自分の成長を無視されている気がしたのだ。
更に、ハリーの家は特別な守りが施されているため、フクロウ便が届かない。つまり、アステリアやチョウと手紙のやり取りが出来ない。ましてや、クリスマスパーティーに招待するなんて、ムーディーが許すはずがなかった。
虐待されないだけで、これではダーズリー一家に居た時と同じだ!
とハリーが思うのも無理からぬ事だった。
この時、ハリーは知る由もないのだが、騎士団は闇の陣営との命を賭けた戦いをしながら、無能なファッジを何とかスクリムジョールに負けないように、政治的な戦いも同時に行っていた。
常に明るいトンクスでさえ口数が少なくなるほど、騎士団は疲弊しきっていた。
そこに度々ハリーが情報を公開するよう押しかけてきたり、こっそり盗聴しようとしてくるのだ。
誰の為に情報を与えず、誰の為に我々が戦っているのか。もっと理解してほしい!と騎士団員が、誰も口には出さないが、考えてしまうのも仕方のない事だった。
こうした悪循環に落ち入り、ハリーは家と騎士団への不信感を強めた。そしてそれに反比例する様に、学校と『TA』への思い入れを強くしていった。
そしてその日の夜、遂に事件は起きた。
ファッジ及びスクリムジョールの死亡。つまり、魔法省は陥落したのだ。
魔法省が陥落したほぼ同時刻、魔法省にてベラトリックス・レストレンジを初めとした何人もの『死喰い人』か暴れているとの情報が、パーシーから騎士団に入ってきた。
ヴォルデモートこそ居ないものの、総戦力に近い数の『死喰い人』達の襲撃。
当然、騎士団のメンバーを総動員しての戦いへと赴いた。この時、騎士団はハリーが連れて行け、とせがむ事を予期してハリーに何も言わずに、こっそりと飛び発った。
魔法省にて『死喰い人』が騎士団と闇祓い局の連合軍と激闘を繰り広げる中、ハリーは夢を見てた。
それは、ホグワーツにてアステリアが拷問される夢。
ハリーは飛び起きて、この事を知らせようとすると、ブラック家には誰もいなかった。ハリーが不審に思い、家を探索してみるも、やはり誰もいない。
ハリーが、ハーマイオニーが作った『TA』の連絡用の羊皮紙で『TA』全体に呼びかけてみるも、アステリアからの応答や発見報告はない。
また、ホグワーツに残っている『TA』のメンバーから、マクゴナガルやスネイプ、リドルといった教師達が姿を消した、との情報が入ってきた。
この事を知ったハーマイオニーは、事態を重く受け止めた。リドルや騎士団が一斉に姿を消すなど、普通ではない。
そしてハーマイオニーは、リドルから緊急用に、と習った『ポートキー作製呪文』でハリーを初めとした『決闘クラブ』及び『TA』のメンバーの、ハーマイオニーが知っている限りの家を回った。
集まったメンバーはハリー、ロン、ハーマイオニー、ネビル、ジニー、フレッド、ジョージ、セドリック、ルーナの九人。
ホグズミードに転移し、フレッドとジョージが発見した抜け道からホグワーツ内部に侵入すると、そこに居たのは──
◇◇◇◇◇
ハリー達がホグワーツへの侵入を果たした同時刻、トムもまたゴドリックの谷に到着していた。
そして、そこでバチルダの魔力を感知しようとして、驚愕した。
「馬鹿な……僕と同じ、いや、それ以上の魔力!」
かつて退治したヴォルデモートよりも、自身よりも大きい魔力を持つ人間。
それも、一人ではない。
このゴドリックの谷には、彼を上回る魔力を持つ人間が、二人いた。