ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』   作:ドラ夫

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31 『闇の帝王』の破滅

「やあ、大丈夫かい?」

 

 助けに来たのは良いけど、思ったより生徒の人数が多いな……。

 これだと僕の魔法が全員に及ぶかどうか

 

「余裕よ。なんなら、後5分くらいお茶してきても良いわよ」

 

「クロ、何だかんだで君もジョークの才能がないね」

 

「余計なお世話よ」

 

 クロが腕を組みながら笑った。

 つられて僕も笑っていると、

 

「『アバダケダブラ』!」

 

 すかさず緑の閃光が飛んできた。

 

「おっと、危ない!ダンブルドア校長、ゲラートさん!」

 

「おお、すまなんだ」

 

「そのくらい何てことないだろ」

 

 2人ともまったく悪びれていない!

 

「まったく、またこれだ!せっかく助けに来てるんだから、たまには邪魔しないでくれよ!」

 

 前回もこんな感じで再会を邪魔された。

 

「邪魔だと?お前が俺様の邪魔をしたのだ!お前さえ居なければ!『アバダケダブラ』!」

 

「「『エクスペリアームス 武器よ去れ』」」

 

 ヴォルデモートの緑の閃光が、ダンブルドア校長とゲラートさんの2人が出した紅い閃光にぶつかって、あっという間に競り負けた。

 そのまま紅い閃光がヴォルデモートの胸に風穴を開けたけど、すぐに治ってしまった。彼は本当に死を克服したみたいだ。

 

「リドル先生、蘇りの石です!ヴォルデモートは蘇りの石の力を使っています!」

 

「ありがとう、グレンジャー。グリフィンドールに10点あげよう」

 

 こんな時でも、ハーマイオニーは褒められた事に嬉しそうだ。

 

「僕達はどうすれば良いですか?」

 

 セドリックが落ち着いて、僕の指示を仰いでくる。流石年長者なだけはある。僕は杖を振るって、アーチになっていた銀の生き物達を呼び寄せる。

 そして、そのまま銀の生き物は分解していき、銀の文字となり、魔法陣を創り上げる。完成した魔法陣は光を発して、ハリー達を包み込んだ。

 この魔法は僕が知る中で、失われた古代の魔法も含めて、最強の守りを授けてくれる魔法だ。

 少し発動条件が厳しいけど、発動してしまえばヴォルデモートでさえ指一本触れる事は出来ない。

 

「その魔法陣の中から絶対に出ちゃダメだ。指一本でもそこから出たら、命の保証はしかねるよ」

 

 僕がそう言うと、僕達の戦いを見ようと魔法陣の淵に立っていたロンが慌てて魔法陣の中央へと戻っていった。

 

「ダンブルドア校長、ゲラートさん。2分持たせて下さい。そうすれば、僕が何とかします」

 

「2分で良いのかね?」

 

「気前よく、2日でもいいぞ」

 

 この2人の場合、出来そうだから怖い。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「すごい……」

 

 ジニーが感嘆の声をあげた。

 誰も返事を返さなかったが、その場にいた全員が心の中で同意していた。

 それは1つの芸術だった。

 アルバスとゲラート、旧魔法界の光と闇の代名詞だった2人の共闘。

 そんな2人の戦いに、命の危険に晒され、極限の状態だった学生達でさえ惹きつけられた。

 当然、アルバスとゲラートのそれぞれの個人的な力も高い所にある。だが、それ以上に注目すべきは、2人の一糸乱れぬコンビネーションだ。

 アルバスが防ぐ時はゲラートが攻撃し、ゲラートが防ぐ時はアルバスが攻撃する。声を出さずとも、パートナーのして欲しい事を理解し、目で見ずとも、パートナーの動きを把握していた。

2人は老人とは思えない様な軽やかな体捌きと、その圧倒的なコンビネーションでヴォルデモートをまったく寄せ付けなかった。

 決して、ヴォルデモートが弱い訳ではない。

 むしろ、一対一であれば、アルバスとゲラートに勝ち目はないと言ってもいい。それはニワトコの杖を加味してもだ。

 ヴォルデモートは今現在不死だ。

 つまり、自身の体を生贄に使う事でのみ放つ事ができる禁術を、好き放題使う事ができ、体力に衰えがなく、傷を負ってもすぐに回復できる。

 タダでさえ、全盛期程の体力がない2人であれば、あっという間に競り負けていただろう。

 だが、2分という制約と、信頼できるなパートナーの存在により、その優位性は覆った。

 そして、1000に近い呪文の応酬が行われた今、ついに2分が経過した。

 2分、それはすなわちトム・リドルが『動物もどき(アニメーガス)』として変身するのに必要な時間。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 突然だが、トム・リドルの6つ目の部屋には2つの鏡が置いてある。

 1つは『多面鏡』。

 騎士団が離れた場所から会議を行うための鏡である。

 もう1つは『みぞの鏡』。

 見た人間の最も強い願望を映し出す鏡。誰も心を閉ざす事の出来ない、魔法界最古の魔法逸品(マジックアイテム)の1つ。

 

 トムの1つ目の部屋には、夥しい量の『闇の魔術に対する防衛術』に関する本がある。

 その分野に関してだけなら、ホグワーツの図書館でさえ上回る程の量の本。

 当然、トムはその一冊一冊に目を通し、よく研究していた。

 

 

 

 

 今、ヴォルデモートの目の前には『死』がいた。

 それは、童話である『三人兄弟の物語』に出てくる、『死の秘宝』を授けたあの『死』だ。

 ヴォルデモートが“この世で最も恐れる者”である『死』。

 

 

 そう、トム・リドルの『動物もどき(アニメーガス)』の正体、それは『ものまね妖怪(ボガード)』だ。

 

 

 自身の世界最高の『開心術』と、世界最高のマジックアイテムの1つである『みぞの鏡』の研究により、誰も逆らう事の出来ない『開心術』を行うことを可能にした。

 さらに、『妖怪祓い』達が発見した妖怪のありとあらゆる弱点を克服した。

 普通の『ものまね妖怪(ボガード)』では変身した者の力を一部しか使えないが、トム・リドルはその膨大な魔力により、変身した者の力を完璧に使いこなすことが出来る。

 相手の一番怖い者に変身する。

 それはすなわち、その者が絶対に敵わない者に変身するという事だ。これほど怖い能力はない。

 そして、力を持つ者であればある程、恐れる者もまた強力な者となる。

 ヴォルデモートは現在不死だ。

 すなわち、最も恐れる者は自身の不死を消す存在。

 ヴォルデモートの前に立つ『死』は恭しく一礼した。

 そのまま指を鳴らすと──

 

 

 

──『ニワトコの杖』『蘇りの石』『透明マント』を破壊した

 

 

 

 何千年という月日の末、ついに『死の秘宝』の物語は結末を迎えた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「貴様、貴様ァ!自分が何をしたのか分かっているのか!」

 

「分かっているよ。あるべき物をあるべき姿に戻したんだ。『死の秘宝』は『死』を呼び寄せる。歴史がそれを証明している。そんな物、あってはいけない」

 

 僕はものの数秒で変身を解いた。それでも、もう正直クタクタだ。

 『死』でいると消費する魔力量が多すぎる。その上、この世で最も高い魔力を秘めている『死の秘宝』を同時に、全て壊したんだ。僕の魔力はすっからかんだ。

 タダでさえ、自力で魔力を回復できない僕は、持続性という点では老人であるダンブルドア校長やゲラートさんをも下回ってしまう。

 それに、『死』の攻撃方法は『死』しかない。

 僕は殺す事はしないから、『死』のままだと単純に戦い辛い。

 かといって、もう魔力が底を尽きかけているからこのまま戦ってしまえば、間違いなく僕が負けるけど。

 

「殺してやる!貴様は確実に殺してやる!」

 

 ヴォルデモートが僕に杖を向けるけど、ダンブルドア校長が間に入ってくれた。

 

「させると思うてかの?」

 

「黙れ!この老いぼれがああぁぁぁ!!!」

 

 ヴォルデモートの憤怒が炸裂した。

 機能が死んで、守りが無くなったホグワーツごと、あたり一面を消し飛ばした。

 まったく、ホグワーツの1割くらいが消えてしまった。

 

「箒を習っといて良かったよ」

 

 もう『飛行魔法』も使えない僕はギリギリの所で、ハリー達が持っていた箒に乗って、破壊を免れた。

 当然、ハリー達は僕の魔法陣の中にいるから安全だ。

 ダンブルドア校長とゲラートさんは強力な『盾呪文』で破壊を防いでいた。

 

「はあ、はあ、はあ」

 

「ヴォルデモートよ、お前そんなに馬鹿だったか?滅茶苦茶な魔法を撃って……。もう魔力が枯渇するぞ。お前まだ、『蘇りの石』が有ると思ってるのか?」

 

 ゲラートさんが呆れた口調で話す。

 

「もう終わりじゃよ、ヴォルデモート。ここでは『姿くらまし』の類は出来ぬ。飛んで逃げたとしても、我々にはフォークス達がおる」

 

 ダンブルドア校長がそうおっしゃると、2匹の美しい不死鳥が空から降りてきて、ダンブルドア校長とゲラートさんの腕に止まった。

 

「お主を今ここで倒し、残された『分霊箱』は後から壊す。魔法省で暴れておった『死喰い人』は全て捕らえた。もうお主の復活を手助けする者もおらんじゃろう」

 

「お前には『ヌルメンガード』に入ってもらう。そこで私とアルバスが一生を通して世話をしてやる」

 

 そう言って、ダンブルドア校長とゲラートさんが杖を構える。

 それに対して、ヴォルデモートが浮かべたのは、笑みだった

 

「フハハ、ハハハハハ!滑稽だ、実に滑稽だ!何をいい気になっている?貴様ら、チラリとでも思いつかなかったのか?そこにいるトム・リドルと俺様は、よく似た思考回路を持っている。そいつが奥の手(アニメーガス)を用意しているのに、俺様が何の奥の手も無しにここに来たと、そう思うのか?!」

 

 再び、枯渇したはずのヴォルデモートのドス黒い魔力が高まり始めてる。

 

「確かに、俺様の二度目の復活には『蘇りの石』を使った。『ペベレルの指輪』を媒介に、蘇りの石で肉付けをした!だが、一回目の復活はどうだ?『スリザリンのロケット』を媒介に、ハリー・ポッターの血で肉付けをした。だが、それだけでは足りん!父親の骨を、そこの男が消し去ってしまったからな。そこで俺様は考えた!そして、思いつき!完成させたのだ!」

 

 そう言って、ヴォルデモートが自身の左胸に手を突っ込んだ。

 そして、心臓の代わりに、石を取り出した。

 

「見ろ、これを!ニコラス・フラメルを拷問し、作り方を吐かせ、俺様自ら作り上げた『賢者の石』だ!俺様の肉体と完全に同化している!」

 

 そして、そのまま『賢者の石』を握りつぶした!

 

「1つ壊したくらいでそう慌てるな。安心しろ、俺様の体にいくつ『賢者の石』が入っていると思う?1つや2つ壊したところで、俺様には何の影響もない」

 

 そして、握りつぶした賢者の石の破片が形を変えていき、ヴォルデモートとなる。

 合計50体程のヴォルデモートが出来上がった。

 

「こいつらは『賢者の石』で作った俺様の『亡者』だ。魂こそないが、肉体は俺様そのもの。そこらの魔法使いよりは使える」

 

 ヴォルデモートが杖をふるうと、ヴォルデモートの『亡者』がゆっくりと動き出した。

 

「さて、さっき面白い事を言っておったな?もう終わりだとか、俺様を監獄に入れるとかなんとか。どうやって俺様を終わらせ、監獄に入れるのか……。教えていただけるかな、賢いホグワーツの校長とそのお友達の諸君!」

 

 そう言うと、ヴォルデモートの亡者が黒い霧を纏いながら僕達の方に飛んできた。

 まったく、困ったものだ。マジで!

 

「ヨル!僕の剣を呼び寄せて!」

 

「心得た!『アクシオ 我が主人の剣』!」

 

 僕が飛びながらヨルに向かって叫んだ。

 バジリスクであるヨルは耳が良い。こんな離れた距離から、高速で移動しながらでもちゃんと言葉が伝わる。

 数秒たって、ヨルの元に届いた僕の剣をヨルが僕の方に飛ばしてくれた。

 もう魔力は残っていないが、体力の方はまだある。

 今は箒に乗った僕と不死鳥につかまってるゲラートさんが空中でヴォルデモートの亡者と戦い、地上ではダンブルドア校長がヴォルデモート本体と戦ってる。

 

「若造、さっきの様に『死』に変身出来ないのか?!」

 

「時間も魔力も無いから無理です!」

 

「使えん奴め!」

 

「じゃあゲラートさんがどうにかしてください!」

 

「若いくせに老人に頼るな!」

 

 僕の剣とゲラートさんの炎が亡者をどんどん消していくけど、それを超える勢いで亡者が作られていく。

 このままだと僕達は負ける

 

「アルバス、早くヴォルデモートを倒せ!」

 

「分かっておる!」

 

 地上ではダンブルドア校長が作った守護霊の不死鳥と、ヴォルデモートが作った悪霊の火の蛇がお互いを食らいあっていた。

 その一方でダンブルドア校長の黄金の兵隊が、ヴォルデモート本体を捕らえようとしている。けど、ヴォルデモートは低空を黒い霧を纏いながら飛んで、逆に黄金の兵隊を少しずつ壊して行っている。このままだとヴォルデモートがいずれ兵隊を全て壊してしまうだろう。

 

「仕方が無い、『転移不可呪文』を一旦解きましょう!魔法省にいる騎士団を呼ぶしかありません!」

 

「ヴォルデモートを逃してしまうが、仕方あるまい!アルバス!」

 

「解いたぞ!」

 

「チョウ、ジョージ、フレッド!『姿くらまし』して魔法省に行くんだ!そこで増援を呼んできてくれ!」

 

 僕がそう言うや否や3人はその場から消えた。

 そしてほぼ入れ替わりで、騎士団がやってきた

 

「随分と早かったの、アラスター」

 

「油断大敵!いつ攻め込まれてもいい様に準備していたからな!逆に攻め込む準備にもなってた訳だ!」

 

「雑魚共が!この戦いに割り込む気か!」

 

「雑魚かどうかは今から試してみればいい」

 

 そう言ったのはルーピンだ。

 

「私の息子によくも手を出してくれたな、ヴォルデモート!」

 

「まったくだ、シリウス。私の娘と息子によくもこんな真似を!」

 

「ウィーズリーにブラック!血を裏切った者どもめ!今ここで根絶やしにしてやる!」

 

 そう言って、ヴォルデモートが杖を構える。

 それに呼応する様に、騎士団も杖を構えた。

 

「……と、言いたいところだが、興が削がれた。感謝するが良い、今日はもう大人しく撤退してやろう」

 

 意外な事に、先に杖を下ろしたのはヴォルデモートだった。

 

「どういうつもりじゃ、ヴォルデモート」

 

「俺様の目的は達成出来た。気づいた時には、もう遅い」

 

「どういう意味──」

 

「『アバダケダブラ』!」

 

 その緑の閃光は、ヴォルデモートから放たれたのではなかった(・・・・・・・)

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 トム達がヴォルデモートと激闘を繰り広げる最中、ハリーは夢を見ていた。

 だが、それは夢では無いと直感でわかった。

 これは過去、実際にあったことだ

 夢の内容は『TA』について。

 自分が作り上げてきたと信じていた、自分の宝物は、全て他人によって出来た物だった。

 集まったメンバーは自分を慕って集まったのではなく、ダフネ・グリーングラスによって集められたものだった。

 ハーマイオニーはハリーのためではなく、リドルに褒められるために『TA』に尽くしていた。

 そして、なによりアステリアとチョウは、本当はハリーが好きな訳ではなかった。

 アステリアが好きだったのは実の姉であるダフネだ。アステリアは姉のダフネの為に、ハリーに近づいていた。

 チョウが好きなのはセドリックだった。そして、セドリックはダフネに頼まれて、チョウに『TA』に参加するよう頼んでいた。

 ダフネが生徒達を洗脳し、『TA』に加える。

 ハーマイオニーがリドルの事を考えながら『TA』の教科書を徹夜で作る。

 アステリアが姉の事を考えながらハリーに話しかける。

 チョウがセドリックにいつ『TA』を辞めて良いのか聞く。その場面が、ハリーの頭の中にひっきりなしに映しだされた。

 強い絶望が、ハリーを襲った。

 その時、甘い声が聞こえてきた。

 

『ハリー、お前がこんな惨めな気持ちを味わうことはない』

 

『お前にこんな苦痛を味合わせた奴は誰だ?』

 

『そいつさえ消してしまえば、お前はまたみんなの中心に戻れる』

 

「……トム・リドル?」

 

『そうだ。あいつは周りの人間を騙し、お前に苦痛を味合わせた。騙されている人間を助けてやらねば』

 

『呪文は知っているだろう』

 

『さあ、殺せ!』

 

「『アバダケダブラ』!」

 

 緑の閃光が、トム・リドルを貫いた。

 ハリー達を覆っていた魔法陣は一瞬強く輝き、消え去った。

 それと同じ様に、トム・リドルの瞳の光も、一瞬の輝きと共に、消え去っていった 。


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