ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』   作:ドラ夫

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第5章─『半獣血のプリンセス』
34 開校と開合


 私がこっそり彼の部屋に入ると、彼はいつもの席でご熱心に本をお読みになっていた。

 どれだけ私が静かに入っても、何時も彼には気がついてしまう。でも、今日は違った。完全に本に熱中していらっしゃるようで、私にお気づきになっておられないご様子だ。

 私はほくそ笑みながら、彼の後ろにそ〜っと回り込んだ。

 今日は椅子にお座わりになっているし、身長の高い彼に普段出来ない事をさせていただこう。

 前から一度、彼に後ろから抱きついてみたかったのだ

 

『リドル先生!』

 

『おっと!……グリーングラスか』

 

 私が後ろから抱きつくと、そこで漸く彼は私の存在にお気付きになられた。

 彼の首に胸を押し付けらながら、腕を前に回して、指でスゥーッと彼の胸を撫でさせていただく。

 同級生と比べて、私は背も高いし胸も大きい。腕と指も細くて白い方だと思う。でも、彼は大人だし、魅力的だ。

 きっと大人の女性と関係を持った事がある。

 果たして私の体でご満足していただけるだろうか?

 私は言葉や仕草で人を虜にしてきた。

 体を密着させるどころか、肌を見せた事もないし、また必要もなかった。だから、こういった体での誘惑は初めてだ。

 彼にご満足していただくために、毎日イメージトレーニングはしてるけど、所詮イメージはイメージ。

 実際にやるのとは違ったようだ。

 自分で抱きついたのに、心臓がバクバクする。

 いつもよく回る口が渇いて、上手く次の言葉がでない。

 抱きつく以上の事なんて、妄想では沢山してるのに。

 ……どうしよう、とっても緊張する

 

『リドル先生、どうかダフネ、とお呼び下さい』

 

 でも、そのまま彼の耳元でそっと囁いた。

 緊張もするけど、もっと彼に甘えてみたい。

 出来るだけ艶っぽい、甘えた声を出してみたけど、効果はあるだろうか?

 

『ダフネ。これでいいかい?』

 

『ひゃぁ!』

 

 何とも情け無い声を出してしまった!

 でも、リドル先生が悪いんです!いきなり耳元で囁くんですもの!

 先に、囁いたのは私だけど……

 そ、それでも急過ぎます!

 ──まあ、嬉しいですけど

 

『り、リドル先生、今日はその…素直と言うか。まさか本当に呼んでいただけるとは……』

 

『嫌かな?』

 

『いいえ!決して、決して嫌ではありません。少し驚いてしまっただけです』

 

『驚く?この程度で?それじゃあこの先耐えられないかもね』

 

『それはどういう──きゃあ!』

 

 リドル先生は胸を撫でていた私の手をとっても強く握って、私を強引に引き寄せた。

 そして、ゆっくり振り返って、熱い吐息を吹きかけながら、私の首を強く噛んだ。

 痛みで反射的に動きそうになる私の体を、彼が力強く私の腕を抑える事で止めた。

 噛まれた所がとても熱い。掴まれている所がとても熱い。いや、他の箇所もだ。私の全身が、燃えるように熱い。

 彼は掴んでいた私の腕を離して、首元からゆっくり口を離した。そのまま私の顔を正面から、間近で見つめた。

 掴まれていた箇所に痣ができている。

 抑える力が強かったせいか、骨までジンジンと痛む。

 彼に力で征服されているみたいで、腕の痣が奴隷の証みたいで、私の体は熱くなった。

 彼の唇から真っ赤な私の血が滴ってる。彼はそれを舌で舐めとった。

 私の一部が彼の体の一部になってる事を考えると、さらに体が熱くなった。

 そして、私の血よりもさらに赤い瞳が、少しずつ近づいてくる。この瞳はダメだ。蠱惑的で、魅力的で、性的で、私の体の自由を奪ってしまう。

 体が焼かれて、灼熱の様になっているのに、私から動く事を許してくれない。

 彼の唇が私に触れるまでの僅かな時間が、永遠の様に感じる。これ以上焦らされたら、私の体は熱で焼かれてまう。

 早く、早く早く早く早く早く早く早く──

 

「『アバダケダブラ』!」

 

 一瞬の緑の閃光が、彼を包んだ。

 彼のあの瞳は閉じられてしまった。

 もう、私を見てくれない。

 体の熱が急速に冷めていく。

 閃光を放った先に居るのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああ!!!」

 

「ダフネ様!?どうなされました!」

 

「あ、あ、あぁぁ……。はぁ、はぁ、はあ。いえ、何でも、何でもありません。少し夢を見ていただけです。喉が渇いたので、ベル・エポック ブラン・ド・ブランを。付け合わせは任せます」

 

「かしこまりました」

 

 どうやら、私はまたリドル先生の夢を見てしまった様だ。

 夏休みに入ってからというもの、リドル先生の夢ばかり見ている。そして、叫ぶ私を屋敷しもべ妖精のマッチが心配して飛んでくる、という目覚めを毎日繰り返している。

 見るのはいつも、細部は違えど、私がリドル先生と二人で過ごす夢の様な夢だ。でも、最後には、必ずリドル先生は死んでしまう。

 そう、あいつの手によって──

 

「ダフネ様、お持たせいたしました。付け合わせはキャビアとクラッカーでよろしかったでしょうか?」

 

「え、ええ。構いません」

 

「それから、ホグワーツでお使いになる新しい教科書のご用意も済ませておきました」

 

「ありがとう、マッチ。もう下がって構いません」

 

 マッチは静かに頭を下げて、去っていった。

 彼は、この辺りの家で残ってくれた数少ない屋敷しもべ妖精の一人だ。

 元々は私専属の屋敷しもべ妖精の一人だったが、私の専属以外の他の屋敷しもべ妖精が全て居なくなってしまった今、彼等だけで屋敷の事を全てこなさなければならなくなった。

 大半の屋敷しもべ妖精達は、仕えていた家に保管されていた食料と強力なマジック・アイテムを持って消えた。恐らく、アイベリーに献上したのだろう。

 幸い、魔法を使えばいくらでも新たな食材は手に入る。けれど、調理の方はそう上手くいかない。

 屋敷しもべ妖精にその辺りを一任していた魔法使い達は辛酸を舐めさせられた。ほとんどの家が満足の行く食事を出来ていない。

 その上、アイベリーのせいで手紙も満足に届けられない。

 名家である私の家には、直接人が来て手紙を届けてくれるけれど、大半の家には手紙や新聞が行き届かなくなった。今や手紙の一通ですら貴重なものとなってしまった。

 そんな状況を作り出したアイベリーのこの後の行動は大体読める。もっとも、ただ読めるだけで、止める事は出来ない。だけど、出来る事が何も無い訳じゃない。

 私は私なりに、彼の意思を継ぐ。

 

 私はクラッカーを頬張り、グイッとお酒を飲み干して、眠気を覚ました。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 そこには、不思議な光景が広がっていた。

 醜いはずのトロールが、キチンと服を着こなし、身嗜みを整えていた。

 その隣では水中人が水掻きで器用にチェスをしていた。

 そして、そこにフクロウがスゥーッと降りてきた。地面に降り立つと、次の瞬間にはフクロウは人間になっていた。

 その人間を、料理を持った屋敷しもべ妖精が出迎えた。調理器具や食器には、小鬼が作った物が使われている

 

「アイベリー様、全フクロウに指示が行き渡りました」

 

「ご苦労様、流石に仕事が早いわね」

 

「しかし、何故私達を人間の元に帰すのです?」

 

「それは──」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「警告、じゃろうな」

 

 ダンブルドアは突如戻ってきたフクロウ達を見て、声を漏らした。

 

「警告?どういう事ですか?」

 

 疑問を投げかけたのはハリー・ポッター。

 彼は五年生の終盤から夏休みまで、校長室で過ごしていた。双方冷静になって話せるようになるまで時間を置くという、ダンブルドアからの提案があったのだ。

 無論、授業で教わる事はダンブルドアが代わりに教えていた。

 

「フクロウ達は間違いなく、アイベリーの手の者じゃろう。ワシだけでなく、ヴォルデモートもそれをわかっておる。じゃが、一度なくなった物が戻って来た時、人はそれを手放す事が出来なんだ。ワシらがいくら言ったところで、みなフクロウ達を二度と手放そうとせんじゃろう」

 

「それじゃあ、敵が僕達の側に居るのを見過ごすしかないって事ですか!?」

 

「そうじゃとも、ハリー。じゃが敵というのは、時として友となる。近づくのじゃ、ハリー。逆に、我々の陣営に引き込むのじゃ」

 

 ダンブルドアの頼みに、ハリーは力強く頷いた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「──と、人間達は考える。貴方達はそれにノリなさい。そして、最も重要なタイミングで裏切るの。いいわね?」

 

「かしこまりました、アイベリー様」

 

 そう言って、人間は再びフクロウになり、空へと羽ばたいていった。

 それを見上げる人間が三人。

 ルーナ・ラブグッドとセブルス・スネイプ、ヨル・バジリースだ。

 

「いつ見ても『動物もどき』が変身するところって面白いね」

 

「私は散々『動物もどき』の変身を見てきたせいか、そうは思わない。が、やはり大人の魔法使いから見ても珍しい物なのか?」

 

「左様。吾輩が知る限りでは正式な『動物もどき』は7人しか居ない。最も、非合法の『動物もどき』を数人知ってはいるがな」

 

 スネイプは苦々しげにそう言った。

 

「私も『動物もどき』を知ってるよ。きっと、ネビルはカエルの『動物もどき』だと思う。私、夢で見たもん」

 

「……そうか」

 

 意外と、彼らの陣営はのんびりと過ごしていた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 かつてトム・リドルが定めた基準によって集められた生徒達が、希望を胸にホグワーツを目指していた。

 この少女、セシリア・ゴーントもその一人だった。

 彼女は幼い頃より両親がおらず、孤児院で暮らしていた。

 そんなセシリアには、幼い頃から不思議な力があった。

 セシリアに嫌がらせをした子供を痛い目に合わせたり、動物に言う事を聞かせる事ができた。

 そんな彼女にとって、孤児院は退屈で窮屈な場所だった。故に、ホグワーツからの入学証が届き、自身が魔女である事を知った彼女は歓喜した。

 自身の同族を、自身の居場所を見つけと思ったからだ。

 手紙を読んだ彼女はすぐに孤児院を飛び出した。

 そして、驚くべき事に、彼女は自分で『漏れ鍋』を見つけたのだ。彼女はホグワーツが始まるまでの約二ヶ月をそこで過ごした。当然、彼女は頼れる人間やお金など持っていなかった。しかし、彼女は紛れもなく、そこで二ヶ月を過ごしたのだ。

 そこでの生活の中、彼女は理解した。

 自分が魔法界でも特別な事を。

 彼女にとって、今の所魔法界は少しだけ大きくなった孤児院だった。だが、彼女は失望しなかった。

 この世界にはヴォルデモートとダンブルドアという、偉大な人間がいる事を知ったからだ。しかも、自身の杖にはヴォルデモートと同じ不死鳥の尾羽が使われているらしい。

 その上、その不死鳥を飼っているのはダンブルドアだとか。運命を感じずにはいられなかった。そして、幸運な事に、ダンブルドアは今から自分が通うホグワーツに居るのだ。

 そんな訳で、セシリア・ゴーントは胸を高鳴らせながらホグワーツ行きの機関車に乗った。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「……分かっていたが、どいつもこいつも子供だな」

 

 さっきまでの胸の高鳴りが嘘のように冷めてしまった。

 魔法使いの子供と言っても所詮子供は子供。騒がしいのは仕方ない、としてもこれはちょっと肩透かしだ。せめて、人が少なくて大人しそうな奴がいるコンパートメントを選ぼう。

 私が列車内を歩いていると、一人で東洋人が編み物をしていた。東洋人というのは大人しいらしいし、中々の美形だ。こいつのコンパートメントに入ってやろう

 

「このコンパートメントを使わせて貰うぞ」

 

「ん?いいよ、歓迎しよう。僕はユウ・サクマ。今年からホグワーツに入ったんだ。よろしくね」

 

 サクマは手を動かしながらそう言った。

 視線でサクマの正面にある席を促している。座っても良い、ということだろう。

 

「ほお、東洋人にしては中々英語が上手いな。その歳で、大したものだ。私はセシリア・ゴーント。私も1年生だ」

 

「そうかい?有難う」

 

「うむ。ところで、さっきから何を編んでいるのだ?」

 

「これかい?これはホグワーツの制服だよ」

 

「自分で編んでいるのか?というか、そんな事が出来るのか?」

 

「僕はつい最近まで意識不明だったんだ。交通事故でね。だから、制服を買う暇がなかったんだ。それでしょうがなく編んでいるんだよ。編み方は独学さ」

 

「意識不明だった奴を学校に招待したのか!どうやら、あの招待状を送ってきてる奴はとんだ間抜けらしいな」

 

 私がそう言うと、サクマはゲラゲラ笑いだした。

 何がそんなに可笑しいんだ、こいつ。

 

「確かに、間抜けだね!是非ともその間抜けに会ってみたいものだ!」

 

 そう言うと、サクマはまた楽しそうに笑いだした。それにつられて、今度は私まで大笑いしてしまった。

 何というか、こいつは人を惹きつける何かがある。

 

「いやぁ、笑った笑った!笑わせてくれたお礼に、何か編んで君に贈るよ」

 

「何、気にするな。私も楽しませてもらった。その礼はとっておけ」

 

「そういう訳にはいかない。感情はなまものだ。すぐに使わないと、腐ってしまう」

 

「そうか?それなら、受け取っておこう」

 

そういえば、人に善意で何か贈られるなんて、初めてかもしれないな。

 なんせ、孤独だったからな。ずっと……

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「ゴーント・セシリア!」

 

 大広間中の生徒が黙り、彼女を凝視した。

 ゴーント家といえば、『聖28一族』の1つだ。故に、当然注目を集めた。だが、それ以上に注目を集める要因があった。

それは彼女の容姿だ。

 長い金髪に大きな金の瞳を持つ、黄金の少女。彼女は美しかった。その事も多いに周囲の注目を集めた。だが、それ以上に、似ているのだ。

 美しく、不遜で、他人を寄せ付けなかった、あの白銀に。

 彼女はゆっくりと無音の大広間を歩き、席に座った。

 誰もが注目する中、帽子が被せられていく。ほとんどの人間が、彼女の組み分けは長引くだろうと予測した。

 

「スリザリン!」

 

 だが、そんな予想を裏切って、黄金の少女はあっさりとスリザリンに入った。

 そしてその陰で、これまたあっさりと、ユウ・サクマはグリフィンドールに入寮した。


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