ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』   作:ドラ夫

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第2章─『闇の帝王』とアズカバンの囚人
05 囚人との夏休み


『それで我が主人よ、まだ肉体は持てぬのか、魂の方は全快しかけておるのだろう』

 

「うーん、やろうと思えば今学期にできる、とは思うんだけどね。確実にダンブルドア校長に目をつけられるだろうね」

 

 実際のところ、僕の魂はもう本来の5分の3くらいには大きくなっている。ヨルとジニーから安定して、2人の無理のない程度に魂を供給してもらってるから、次にホグワーツが始まるくらいの時期には回復しきるだろう。

 しかし魂が全快しても肉体、つまり入れ物がない。これを作る方法は原作通りにハリーを墓に連れて行き、闇の印を持つ者の手とハリーの血と僕を大鍋に入れてコトコト煮込めばいい。

 しかもこれはやろうと思えばすぐ実行できる。闇の印を持つ者に関しては、『僕』に絶対の忠誠を誓うバーテミウス・クラウチjrがいるし、ハリーに関しても何処にいるかわかってる。2人とも『妖精式姿現し』で簡単に連れてこれるしね。

 

 ただ、僕はこれを実行する気はない。理由は2つある。

 

 1つはメリットとデメリットを天秤にかけた場合だ。

 今の僕は実体化するだけなら──この場合は魔法が使えず、マグルと変わらない状態──一日中実体化できる。

 それなりの力を持つ状態、つまり魔法を使える状態であれば4時間ほど実体となれる。

 これだけ戦えれば大抵の事はできる。そのうえ実体化しててもほとんどの力を日記に残していれば、致命傷を受けても死にはしない。尤も、回復に時間がかかるだろうが。

 この状態でいられなくなってしまう事は、大きなデメリットだ。

 もちろん肉体を持てばメリットもある。今の僕は自然回復できないのだ。つまり攻撃されて何らかのダメージを負うと、ジニーやヨルの魂をもらうことでしか回復できない。もし僕が致命傷を受けたとしたら、ジニーとヨルから大量の魂を供給してもらわなくてはならない。

 

 ここで僕の魂の回復の仕組みについて詳しく説明しておこうと思う。

 

 仮に僕の魂を1とし、ヨルの魂を9とする。

 僕たち2人の魂を足して10にした後で、それぞれ5ずつ分け合うとする。

 このあと僕は日々の生活で少しずつ魂を消費していって、1週間後には2になっている。

 一方ヨルは1週間後には元と同じ9になっているのだ。これは肉体の有無が関係している。

 どういうことかというと、肉体は魂の器であり、回復させる装置なのだ。肉体を持たない僕は魂をどういった形にしていいかわからないから無駄な消費が多いし、魂を自然回復させる手段もないから他から持ってくるしかない。

 つまり、肉体を持てば魂や傷が自然回復するようになるし、基礎的な力も増す。

 

 しかし、デメリットが大きすぎる。

 

 僕が復活すると闇の印によって『死喰い人』がその存在に気付き、再び暴れだすだろう。

 しかも闇の印はスネイプ教授も持っているからダンブルドア校長にも存在が気がつかれる。

 その上日記には戻れない(『変身呪文』ではなれるかもしれないが、魂の器として日記であるのとは天と地ほど差があるので確実にダンブルドア校長に感づかれる)からホグワーツに行けないとなり、もう一人の『僕』の復活を阻止し辛くなる。

 これが1つ目の理由だ。

 

 もう1つ理由は単純に、このまま日記でいる方がいいと僕が思っているからだ。

 ジニー以外の人間の心も少し覗いてみたりしたが、彼女ほど心地の良い心の持ち主は居なかった。そんなジニーの勉強を手伝いながら、ホグワーツに通うのは中々楽しい。

 もし僕が肉体を持てばホグワーツに通うのは間違いなく不可能だし、最悪ジニーと敵対することになる。それは嫌だ。

 魂の回復にしても、ヨルから貰ったり、『吸魂呪文』でその辺の動物や人間から少しずつ貰う方法を確立しつつあるし、しばらく困る事はない。

 ならば、僕はもうしばらくこのままでいようと思う。

 

 そんな訳で、僕の方針についてはある程度決まった。

 そして目下最大の悩みは、ピーター・ペティグリューだ。

 

 彼を捕まえることのメリットは驚くほど大きい。

 まずシリウスの無罪の証明となること。

 それからヴォルデモートの復活を一歩遠ざける事ができること。

 更にこれがうまくいけばルーピン先生は来年も『闇の魔術に対する防衛術』の先生を務めることになり、マッドアイ・ムーディーにばけたクラウチを入れることもなくなる。

 個人的な事を言うなら、僕が大切に思ってるジニーの家に色んな意味で小汚いあの男が居るのは不愉快だ。

 それに、ルーピン先生はかなり好きな登場人物だ。ホグワーツから去るシーンは辛かった。

 加えて、同時に魔法の勉強が大好きな僕にとって理想的な先生なので、ずっとホグワーツにいてほしい。

 

 何にせよピーター・ペティグリューなのだ。

 彼自身はたいしたことのない男なのだが、学生時代にポッターさんを始めとする素晴らしい友人に恵まれたり、闇の帝王が殺したがってるハリーの『秘密の守り人』に絶妙なタイミングでなったり、その罪が偶然にもシリウスに押し付けられたり、弱ったヴォルデモートにクラウチの情報をもたらしたりと、非常に運がいいのだ。

 

 故に僕は本気で対処した、少しの油断もなく。

 

 何が言いたいかというと、ネズミを捕まえるのは猫ではなく蛇なのだ。

 

「動くなよ、ペティグリュー。君が少しでも動けば『闇の帝王』とヨル、あー、君にあと少しで噛みつきそうなそこにいる『蛇の王』バジリスクを同時に相手にすることになる」

 

「さ、逆らうなど、め、めめ滅相もございません。私めはいつも貴方様の復活を願っておりました」

 

 物語のあらゆるターニングポイントが折角家にいるのだ。これで何もしないのはマーリンの髭ってやつだろ?

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 今現在ペティグリューはロンの部屋で僕に杖を向けられ、とぐろを巻いたヨルの真ん中に立っている。しかもヨルは大きく口を開けていて、ほんの少しアゴに力を入れればいつでもペティグリューの頭に噛み付ける体勢だ。

 ちなみに、ウィーズリー一家はそろってエジプトだ。

 ペティグリューには悪いけど『妖精式姿くらまし』で少しの間僕と家に帰ってもらった。

 

『我が主人よ、私は鼻がいいから臭いで死んでしまいそうだ。早くこの臭い男を始末しよう』

 

「あー、蛇語はわからなかったね、ペティグリュー。彼は今君を食べてもいいか聞いているんだよ、君はどう思う?」

 

「わ、わわ私は信じています。ご主人様はけっして忠実なる僕の事を裏切らないと。で、ですよね?──そうだ!私めはあのハリー・ポッターの友達のペットなのです!お望みとあらばポッターの奴を殺せます!」

 

「へえ、忠実なる僕、ねぇ。ペティグリュー、君は閉心術をかけて心の内を明かそうとしないね。でも僕はこの世でもっとも魂や心に詳しいんだよ」

 

「ご、ご主人様、仰ってる意味が……」

 

 そう言うや否やペティグリューはネズミに変わりながら逃げようとする。しかし、

 

「だから君がネズミに化けて逃げようとしてるのは分かっているから無駄だよ、と言いたかったんだよ。わかった?」

 

 この部屋は一見ロンの部屋だが、実はそうじゃない。僕が『双子の呪文』で作り出したそっくりの部屋だ。

 そしてこの部屋を一歩でればそこにあるのは無数の鏡。そこに写っているのはヨル、つまりはバジリスクの瞳。

 

「これで上手くペティグリューをネズミのまま石にできたね」

 

『その人間、今はネズミだが、生かしておく価値はあるのか。言動を鑑みるに、そいつは我が主人の足元にも及ばぬ心の持ち主だぞ』

 

「ありがとうヨル。でも僕は殺しはしないし、君にもさせない。こいつにはきっちり罪を告白させ、罪を償ってもらう」

 

『だが我が主人は人前に姿を見せれぬだろう、あの小娘にそのネズミを渡すのか』

 

「いいや、こいつを今一番欲してる人に渡すよ。こいつを研究してからね」

 

『そのネズミは研究する価値があるのか』

 

「『動物もどき(アニメーガス)』は色んな価値があるのさ、上手くいけば僕の……」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「やあ、元気?」

 

「……ヴォルデモート!何故ここに!?復活したのか!!?」

 

「僕は確かに『トム・リドル』だけど『ヴォルデモート』ではないんだよ。それで、今日は君にプレゼントを持ってきたよ」

 

「どういう意味だ? とにかく私は闇の陣営には力を貸さないぞ!貴様に首を垂れるくらいなら、ディメンターとディープキスをしてやる」

 

「君がキスをする位ディメンター好きだったとは意外だよ。アズカバンが長くて愛着が湧いた?それとプレゼントはこれだよ、お腹が空いてると思ってね」

 

「ネズミ?いや、これは…ピーター!ピーター・ペティグリュー!!!だが…石になっている?」

 

「この石化を解くにはダンブルドア、というよりボグワーツに行くのが早いよ」

 

「……何が目的だヴォルデモート」

 

「こいつにしかるべき罰を受けてもらいたいのさ。でも僕が魔法省にそいつを連れて行ったら、僕が捕まるだろ?魔法省に郵送してもいいけど、そいつの逃げ足だけはたいしたものだ。だから強力な魔法使いに監視してもらいたいんだよ」

 

「何故お前が私に味方する」

 

「君以外にいないからさ。君ほど強力であり、それでいて仲間がおらず、何処にいるかハッキリしてる人物はいない。それに君は檻の中だからね、逃げられずにゆっくり話せる」

 

「私を選ぶのはわかった。しかし何故ピーターを差し出す?」

 

「そいつは嫌いだ。強い者の側につく。合理的かもしれないが、僕は好かない」

 

「好き嫌いで仲間を切り捨てるか、『闇の帝王』らしい考えだな」

 

「それは違う、僕は友達は見捨てない。彼は友達でなかっただけだ。そしてシリウス、君とは友達になりたいな」

 

「私はお前に屈しない!ジェームズとリリーの仇、1日たりとも忘れたことはない!」

 

「僕は仇でもヴォルデモートでもないんだけどな…… とにかく、ここから出して、そのネズミをあげるよ。ただしその代わりに僕の存在を誰にも話さないでほしい」

 

「馬鹿な、そんなことができるわけ──」

 

「ハリー・ポッター」

 

「っ!?」

 

「彼の引き取り人はマグル、しかもひどい奴らでね。まともな食事をさせなかったり、外に遊びに行かせなかったりしてるみたいだよ」

 

「・・・」

 

「君がここからでて、無実を証明できれば君はハリーをひきとって家族にできる。そして今まで憎まれていたルーピンやハグリッドとまた抱きしめ会える」

 

「……わかった、おまえの条件をのもう。では『破れぬ誓い』をたてればいいのか?」

 

「いや、その必要はないよ。君は認めてくれないけど僕は君と友達になりたいのさ。でもそうだね、『破れぬ誓い』はたてなくていい、その代わりに別の誓いをたててくれるかい?」

 

「何をすればいい?」

 

「簡単だ、今ここで、君の誇りと亡きポッター夫妻の名に誓ってほしい。魔法的な効力は何も持たずに、ね」

 

「……私、シリウス・ブラックは我が誇りと今は亡き我が盟友、ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターにかけて誓う。汝の存在について一切の事を他言しない!これでいいか?」

 

「うん、それで充分だよ。あとこれを渡しておくよ」

 

「なんだこの紙は?」

 

「それに書き込めばいつでも僕と連絡を取れる。それから万が一ペティグリューが逃げたら『蛇となりネズミを追え』とか書き込めば蛇になって追いかけてくれるよ。それから杖がないと困るでしょ?ホグワーツの予備の杖だけど渡しておくよ、ボグワーツについたらこっそり返しておいてね」

 

「……礼は言わないぞ」

 

「今はそれでいいよ。さ、ここから出ようか。忘れ物はない?」

 

「ふん、ここには何もない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやーシリウスかっこよかったなあ〜。誓いを立てる所とか流石貴族の生まれだって感じだったよ。

 恨まれてるのは辛いけどこれから少しずつ仲良くなればいいし、今は満足しておこう。

 『トム・リドルの日記』の1ページを『動物もどき』にしたものも渡したし、これでいつでも会話できるからね。

 

 さ、後はジニーの宿題を手伝いながら夏休みをたのしもう。


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