【必要の部屋】
僕が夏休みの最中に度々ホグワーツにきて書いていた魔法陣、その真ん中に巨大な蛇、『蛇の王』バジリスクであるヨルが鎮座してる。
「それじゃあ始めるよ。何か危ないと思ったらすぐに言ってね」
『この魔法陣は我が主人が二ヶ月以上もかけたのであろう。ならば私は全幅の信頼をおこう』
「ありがとうヨル。それじゃあ魂比を僕が1ヨルが9にするよ」
『うむ』
「……よし、いい感じだ。魂の方は安定してる、かな?」
『そのようだな。それで次はこの薬を飲めば良いのだな』
「うんうん、それじゃあ次は──」
◇◇◇◇◇
「・・・完璧だ」
僕はおもわず感嘆の声を上げた。
「私の知る限りでは誰も成し遂げておらぬことだ。魔法界の歴史に新たな1ページを刻んだな」
「そんなことはどうでいいよ。僕は出世や名誉はどうでも──いや、カエルチョコのカードには乗りたいかな」
「カエルチョコのカード?あいにくと知らぬが……」
「そのうち教えてあげるよ。それより、そろそろジニーのところに戻ろう。もっと喜びを感じてたいけど、実体化するのがきつくなってきた」
「承知した、我が主人よ」
◇◇◇◇◇
「トム、この新聞見て!あのシリウス・ブラックが無罪だって!真犯人は……ピーター・ペティグリュー?誰かしらこれ」
『昔にホグワーツに通っていた生徒ですね。確かシリウスさんやハリーのご両親と仲が良かったかと…… なんにせよ、よかったですね、ジニー。これでポッターさんの命の危険が減りました。よろしければ新聞を読ませていただきますか?』
「相変わらずホグワーツに関する事なら何でも知ってるわね。新聞なら、もちろんいいわよ。この新聞を栞とあなたに触れさせればいいのよね?」
『それで大丈夫です。ジニー、感謝します』
「それじゃあ、あなたが読んでいる間に私は宿題を済ませてくるわね。早くあなたに頼らなくてもいいくらい賢くならなきゃ」
『私に頼ってくれないのは少し寂しいですが、応援していますよ、ジニー』
「大丈夫よ、トム。頼りはしなくても、信頼はしてるもの」
記事を見る限りでは、シリウスについては闇の陣営でなかった事や、本当は殺人を犯していなかった事が細々と書かれているだけだ……
魔法省としては、自分達がかけてしまった冤罪をあんまり騒ぎたくないらしい。そのせいかシリウスについてはあまり書いていない。
逆にペティグリューを捕まえたことは自分達の手柄としてアピールしたくてたまらない、という様子だ。
その為に内容はもっぱらペティグリューについてで、最低の裏切り者なことや、非合法の『動物もどき』だったことがデカデカと書かれている。
さらに、今回の件を解決したのはダンブルドアとシリウスと、加えて魔法省ということになっている手の込みようだ。
当然というかなんというか、ポッター夫妻殺しに関与していたことは一切書かれていないか……
◇◇◇◇◇
僕が渡した僕の1ページからはシリウスの視点と心情が伝わってくる。一応そのことはシリウスにはもう伝えていて、何か僕に伝えたくないことがあるときは『閉心術』を使うように言ってある。。
シリウスの視点を覗いてみると、今は裁判の真っ最中だ。
内容はペティグリューの事ではなく、今までの冤罪についてとハリーの親権問題だ。
シリウスの主張は冤罪をかけた魔法省を許す代わりに、ハリーの親権の譲渡だ。
ハッキリ言うと後見人であるシリウスにはその正当性があり、冤罪を免除するなんていう事をしなくても親権は貰える。
が、裁判は難航していた
なぜかというと、魔法省としては英雄であるハリーの後見人に冤罪をかけ、ハリーを劣悪な環境に閉じ込めておいた事を公にしたくないのだ。
しかもこの件は前々から問題視されていたバーテミウス・クラウチ・シニアの行き過ぎた正義、つまりよく調べもせず判決を下していた件が絡んでいるためなおさらだ。
しかもファッジはこの件での冤罪を大々的に認めることになれば、魔法省大臣の地位をダンブルドアに奪われると思っている始末だ。
ダンブルドアも自分が出て行けば、ファッジがますます意固地になることがわかっているから手をこまねいているようだ。
それをわかっているシリウスは、一人で必死に主張を続けている。しかし、裁判長を務めているのはあの
『人間というのは愚かな者だな、我が主人よ』
「それは人間の一面に過ぎないよ。ヴォルデモートだって優しさを見せるときもあるし、ダンブルドア校長だって冷酷さを見せるときがある。一見愚かに見えても、ある分野では優秀なときもある」
例えば『薬草学』で非凡な才能を見せたり、時にハリー以上の勇気を見せるネビル・ロングボトムのように。
「だから彼らも愚かに見えて実は役に立つこともあるのさ」
『ほお、ということは何か考えがあるのか』
「シリウスは今困っているだろ?何せ僕という怪しい人物に協力してまでハリーの親になろうとしたのに、思わぬところからの妨害を受けたんだ」
『それを解決する、ということか』
「そういうこと。そして僕がすることはチョイと手紙書くことだけでいい」
◇◇◇◇◇
「私はハリーの後見人だぞ!私が親になることになんの問題がある!」
「あなた、アズカバンに収監されてたわよねぇ?ディメンターに幸福な思い出を吸われていた人は子供に幸福な思い出を作ることは難しいと思わない?」
「見てのとおり私は正気だ!それに私をあそこへ送ったのは魔法省だろ、その責任はそっちにある!」
「そんなに大声で叫ぶ人は正気と言うのは少し難しいわねえ。それに魔法省という言葉は適切じゃないわ、正確にはバーテミウス・クラウチ・シニアがあなたをアズカバンに送ったの、わかるかしら?」
「同じ会話をなんどもさせられれば叫びたくもなる。そのクラウチは魔法省の人間だろ!」
「そうねえ、確かにクラウチ氏は魔法省に勤めているわね。でも今、彼は魔法省国際協力部所属なの、そしてここは魔法省執行部、ちがいわかるかしら?」
「だからなんだ!魔法省が冤罪をかけたのは事実だ!」
「あなた一旦落ち着いたらどうかしら?紅茶でもいかが?」
「そんなものを飲んでる暇はない。私は一刻も早くハリーの元へ行きたいのだと言っているだろ!」
「そもそも、誰が貴方のような人を親に──」
「僕の父親はシリウスにしてくれ!」
「「「ハリー!?」」」
扉を開けて現れたのは大勢の記者を引き連れたハリー・ポッターその人だ。
「なぜポッターが…この裁判のことは誰にも知らせてないのに…… シリウス・ブラック、あなたねですね!無関係の人間を法廷に招く事はーー」
「僕の親のことだ!無関係なんかじゃない!」
「ハリー、なぜここに…?」
「はじめまして、シリウスおじさん。手紙が届いたんだよ。シリウスおじさんが父さんの親友だったことや、名付け親だってこと、僕の御見人だってこと、今ここで僕のために一人で戦ってくれてるってこと、それからこの裁判所への行き方。びっしり書いてあったんだ」
「手紙?誰から」
「シリウスおじさんのポケットの中の友達っていう人からだよ、知り合いじゃないの?」
「ポケット?まさか…」
ポケットに入れていた紙を見てみると。
『応援してるよ ポケットの中の友達より』
この後、ハリー本人が自分の今の環境やシリウスと一緒に暮らす事を希望する事が語られ、世論は完全にシリウスに味方をした。
元々法律上では完全にシリウスが親権の主張をするのは全く問題がないこともあり、ハリーの親権は無事シリウスの物となった。
一部の人間はファッジをはじめとした魔法省の面々にシリウスに冤罪をかけたことや、ハリーを劣悪な環境に置いたことの責任をとっての辞職を求めた。
しかし、後日ダンブルドア校長が自分もシリウスを裏切り者だと思っていたこと、ハリーをダーズリー一家に預ける事に賛成したことを発表したために、世間は一応の落ち着きを見せた。
ファッジはダンブルドアに感謝をし、魔法省とホグワーツの関係は強固なものとなった。
シリウスはこの件で非常に僕に感謝してある程度は信用してくれたようになった。その後、僕はヴォルデモートの魂の一部が自我を持った存在で、ヴォルデモートとは全く違う思想を持っている。という事を時間をかけて説明した。
今ではハリーに何を買ってあげたら喜ばれるかの相談をされるくらいだ。
僕は今までのクリスマスプレゼントと誕生日プレゼントの分をまとめて、ということで『ファイアボルト』をプレゼントする事を提案してみたところ、ハリーがものすごく喜んでくれたと言って、いや書いていた。
ジニーも新聞にてハリーのインタビューを読み、涙を流して喜んでいた。
自分も何かハリーのために何かをしてあげたい、と考えたようで一層勉強に身が入ったようだった。まだ『臭い』がついているので魔法が使えない事が歯がゆいらしく、早くホグワーツに行きたがっていた。
そんなジニーの葛藤も今日で終わりだ。今現在の僕たちの居場所はボグワーツ行きの列車の中。原作と違ってシリウスが脱走していないためディメンターはいない。
この1年間はもしかしたら平和に暮らせるだろう。万全の環境の中、ジニーはこの1年間でメキメキと力をつけることになることを僕は確信してる。それから個人に的に一番の楽しみであるルーピン先生の授業について思いをはせていると……
『ピーター・ペティグリューが脱走した』
最悪の報告がシリウスから上がってきた
……ヨルにはああ言ったけど、やっぱりどうしようもなく愚かな人間もいるかも知れないな。