春。始まりの季節。桜の花が散る通学路を希望を胸に歩く新入生たちを横目で流し見しながら自分も彼らと同じ道を歩いていく。制服をきっちりと着ているその姿は懐かしいと思うと共に、初々しいなと思う。
次に、自分の姿を見る。第二ボタンまでシャツを開け、ネクタイも緩めている。おまけに眠そうに欠伸をするなど端から見たら「だらしない」と思われること間違いない。それでも自分の身なりを正そうとはしないのは自身の性格がそうさせていた。
音ノ木坂学園。二年前まで女子高だったこの学校だが、生徒数の少なさを危惧し同じ状況だった地元の男子校を合併。校舎は設備の関係で音ノ木坂の物を使用することになり現在に至る。
「あー・・・一限目数学か。よし、サボろう」
今日のド頭の授業を思い出して踵を返そうとする。が、そこに後ろからの衝撃で真正面に向かって倒れる。まるで漫画みたいな綺麗な倒れ方に我ながら面白いなと呑気に思う。
だが、痛いものは痛い。こんな仕打ちをされて黙っていられるか!
「おはよう、ゆう君!」
「おはようじゃないわこのすっとこどっこい!何朝っぱらからしてくれとんじゃおのれは!?あれか、お前は俺に恨みでもあんのかアアン!?」
「あいや、その・・・」
「しかも人生初のキッスが地球とか嬉しくもなんともない・・・」
ファーストキッスは土の味でした。あと鉄の味も少々。
「そんなに泣かなくてもいいじゃないですか」
「泣くわ!大事に大事に取っておいた俺の・・・俺のヴァージンがあああああ・・・」
「朝から卑猥ですッ!」
見事なハリセンを喰らい再び顔面ダイブ。というか海未さんよ、今どこからハリセン出した?
「大丈夫ゆう君?」
心配そうにしゃがんでのぞき込んでくる天使がいた。その声色は名の通りことりのように綺麗でかわいらしい。あぁ、ずっと聞いていたい。あと、パンツ見えた。
「うぅ・・・ことり、俺にはお前しかいない」
「ありがとう。でもさりげなく女の子のスカートの中を覗く人は嫌いかな」
ガフッ!?くそ・・・こんなところに伏兵が・・・図ったな穂乃果・・・!
「え、今日数学が一限からあったけど定規必要だっけ?」
「ハァ・・・行きましょう。穂乃果、ことり」
呆れた声を出してそそくさと去って行く幼馴染の園田海未。その後を追うようにして歩く南ことりと高坂穂乃果。そして海未に襟を掴まれてズルズルと引きずられていく俺、木原遊太。これは、この後起こるちょっとした事件と。それに関わった9人の女神達との奇妙な青春の一ページである。
◇ ラブライブ!~俺と私のラブライフ!?~ ◇
一限を知らせるチャイムがなる。それにより、それまで騒がしかった教室も一瞬にして静まりかえる。中学まではガヤガヤとうるさかったものだが、こう歳を重ねてくるとそういったことも段々と落ち着いてくるものだ。それにしても、流石は音ノ木坂学園。元女子高というだけに、こういう切り替えは割としっかりしている。古い伝統がある学校はやはり一味違うということなのだろうか。
教師が扉を開けて教室に入ってくる。
「起立!」
もうダレててもしかたない。こうなりゃ、気合を入れるだけだ!
「着席!」
サササッ!
「礼ッ!」
ゴンッ!
「ンオオオオ・・・・ッ」
「遊太・・・後で覚えておきなさい・・・ッ!」
「いや乗ったのお前らだろ。てか先生まで乗るとは予想GUIだわ」
「予想GUIかぁ・・・あれバニラ限定だから私使いたいけど使いずらいんだよね」
「俺もバニラって言ったら限られるからな」
あ、でも最近強化されたエクゾとかでは使ってるよ?だって殴れるしあのカード。そんなことを話していたら復活した海未に殴られた。脳天が痛い。
そんなこんなで授業は進む。馴染みの時間。週替わりで繰り返される当たり障りのない毎日。そんななんでもない普通の時間が激しく退屈で、そして心地よかった。別にどっかのラノベとかSSみたいに非日常を望むわけじゃない。ちょっとした刺激とかがあればそれでいい。でも部活に入るのはメンドクサイし疲れる。運動部は絶対ノーサンキュー。俺のモットーは楽して一攫千金。そう、ダメ人間なのだ。俺という人間は。
それに引き換え―――
「ねえゆう君、今日は何食べよっか?メロンパンかな?それとも刺激的なスパイスのカレーパンかな・・・」
「穂乃果、まだ三限ですよ?まったくこの子は・・・」
「でもわかるなぁ。私もちょっとお腹空いてきちゃった」
なんで、この三人はこうも青春を謳歌してるんだろうか?まぁ高校生活って響きはかなり魅力的ではあるが、そうまでして何かを変えたいとか、打ち込みたいなんて気持ちも沸いてこないわけで。なんというか・・・そう。
「・・・眩しい」
「お、やっと反応した。手鏡で光を反射させてチラチラ作戦大成功」
「ギルティ」
とりあえず訳の分からん作戦を完遂させた穂乃果にウメボシを喰らわせつつふと掲示板を見る。A4サイズの紙が、1、2・・・5枚。長さ約2Mの横長な緑カーボンの掲示板にその紙は貼られていた。そしてそこにはデカデカと〝重要なお知らせ〟と書かれている。海未とことりも急に俺の手が止まったことに小首をかしげて目線を同じものに向ける。そして、驚愕の表情を浮かべた。
「イタタタ・・・って、どうしたの?」
最後に穂乃果が張り紙を見る。そこに書かれていた内容は―――
「・・・は、」
「ハクショォォォォン大魔王~ふんぬらば!?」
「ボケてる場合ですかッ!」
海未の拳が鳩尾にクリーンヒット。クッ、さすが海未だ・・・いい拳だぜ。あ、朝食べた納豆ちょっとリバースしそう。猛烈に胃袋から口内が不快な感覚に苛まれながらも俺は改めて張り紙を見る。そこに書かれていた内容は、音ノ木坂学園廃校の報せ。つまり・・・この学校が、無くなるということだった。元々生徒数の少なさから合併までして生き延びてきた学校だ。そりゃ、近頃の最新設備の整っている学校でもなけりゃガッツリ進学校でもないこの学校はこれと言ってパッとしない印象を受ける。偏差値も高いというわけではないし。ま、俺が入れるくらいだからな。兎に角、そほど特色と言っていい特色もないというのがこの学校の印象なわけで。別段制服が可愛いとか人気のあるわけでもなし。年々生徒数も減っていった傾向からしていつかはこうなると気が来るだろうとは入学説明会の時にぼんやりと考えていてが。
「まさかホントになくなるとはな・・・よし、ここにデュエルアカデミアを―――」
「廃校ーーーーーー!?」
「大丈夫ゆう君!?穂乃果ちゃんの叫びを聞いた途端なんか耳から表現しづらい液体が滝のように!?」
「え、なんて言ったのことり?」
「もうツッコミきれません。というか穂乃果、ショックなのはわかりますが気を失うようなことはしないでください」
「だって廃校だよ!?この学校なくなっちゃうんだよ海未ちゃん!」
ガクガクと海未を揺する穂乃果。あ、今度は勢いのあまり海未が顔面真っ青に。
「落ち着け穂乃果。まだ手はある」
「えッ、何かあるのゆう君!?」
「この校舎とっととぶっ壊してデュエルアカデミア建てようぜ!」
「少しでもゆう君のこと頼りにした穂乃果がバカだったよ・・・」
そう呆れかえる幼馴染三人。え、何?今そういうノリだったよね?俺間違ってないよね?
「兎に角、これはどういうことなんでしょ?」
「どうもこうも廃校になるって書いてあるだろ。ことりはなんか聞いてないのか?お前ンとこのお母さん、たしかこの学校の理事だったよな?」
「う、うん。でも、私も初耳で・・・」
「こうなったら、海未ちゃん、ことりちゃん、ゆう君!」
俺達を呼んで急に奮起し始めた穂乃果。こうなった此奴は誰の言うことも耳に入らないしメンドクサイ。
「理事長に直談判だよ!」
「アホ」
なのでここで強引にでも止めておかないと後々もっと面倒なことになるので脳天にチョップをくらわす。
「いったぁい・・・もうゆう君なにすんのさ!?」
「何もへってくれもあるか。相手はこの学校の理事長だぞ?そんなお偉いさんが、いくら娘の幼馴染とはいえ一生徒に過ぎない俺達の話を聞くとは思えねー。行ったら門前払いがオチだ」
「そんなのやってみなきゃわから―――」
「いいか穂乃果。現実ってのは、無理を通せば道理が引っ込むなんてのは卓上の空論だ。それに廃校を食い止めるにしたってもっと別の形があるだろ」
「別の形?」
そう言って小首をかしげる穂乃果。ちくしょう、不意にもかわいいとか思っちまったじゃねーか。
「ま、それが通用するかどうかも別の話だがな」
何気ない一言。そして廃校という事実。この二つが、まさかあんな形になるなんて事。この時の俺は、微塵も思ってなかった。
これは、俺木原遊太と。これから出逢う、9人の女神達の奮闘と輝きを描いた、青春の記録である。