大見得を切った揚句、ハードルをこれでもかと上げまくり自爆とはなんとも情けない。穂乃果にあんなことを言ってしまった為後にも退けず、俺はこうして放課後に三人娘に連れられて高坂家に来てしまった。
「それじゃ早速、作戦会議いってみよーっ!」
なんでそんな元気なんだお前。つい数時間前に「お前のおっぱい揉ませろ」って言った男が仮にも同じ空間にいるんだぞ?いくら
「・・・どうするんですか遊太。いえ、どうしてくれるんですか?」
怒気の籠った海未の声に思わずビクッと躰を震わせる。
「ど、どーもこーも言ったからにはちゃんとやってやるっつの。つか、アイドルやるにしてもお前ら作詞作曲したことあんのかよ?」
歌って踊る。ステージに立つならまず、必要不可欠な要素の一つとして歌が無ければそもそも話にならない。そう三人に投げかければ一度互いを見合って首を振った。こいつ等・・・まあ穂乃果のことだから、そこらへん何も考え無しに言いだしたのは今朝のやり取りでわかっている。わかっていることではあるが・・・。
「とりあえずは歌、だな」
そう言って俺はバッグの中から数枚のCDを取り出してテーブルに置く。パッケージも何もない、所謂ダビング用のCDだ。あまりこういうのは使いたくないが、状況が状況なだけに仕方ない。
「これは?」
三枚のうち一枚を手に取り、まじまじと見つめながら穂乃果が呟く。
「ねーちゃんが今度発売する予定のCD。ホントは持ち出すのも身内以外に聞かせるのも禁止なんだが・・・」
「ウソっ!?麗花さんの新作!」
「いいんですか?」
「いいわけねー。でも、こっからヒントでも得る事ができればと思ってさ。まあ・・・本人がいいって言ってんだからいいんじゃね」
「そんなアバウトでいいんだ・・・あ、それでさっき一端帰ったんだね。てっきりユー君の事だから逃げたのかと思ったよ」
ことりの鋭い指摘にまたしてもビクッとなる。ば、バレてた・・・。
「ンなわけねーじゃんかぁ。俺がァ、そんなことするわけないじゃないですかヤダー」
「白々しい・・・まあ遊太が逃げようとしていたという事実はさておき、私も流石にそれは気が退けますね。たしかにご厚意は大変ありがたい事ではありますが・・・」
お堅い海未のことだ。こうなることはわかってた。でもだからと言ってこれ以上俺がこの曲を使うことに対して進言する権利はない。あくまでも三人の意思を尊重し、その上で行動する。マネージャーとしてそれが正しい事だと思ったからだ。
「海未の言うことも一理ありだな。んじゃこれはねーちゃんに返して・・・・なんだ穂乃果?」
テーブルの上のCDを鞄にしまおうと手を伸ばした時、ふと穂乃果の食い入るような視線が気になった。眼はしっかりとCDに固定されている。それに構わずCDを取ってみればそれを追って穂乃果の視線が動いた。さてはコイツ、これが欲しいのか。右、左、そして右。まるで餌をお預けされている犬のように追いかける様はまさに動物そのもの。
「ほら穂乃果、お手」
「わん!」
「おかわり」
「わんわん!」
「おちn―――」
「言わせませんよッ!?」
どこからともなく取り出されたハリセンが俺の後頭部を直撃した。流石海未だ、これならどこの球団のトライアウトうけてもきっとバッターとしてやっていけることだろう。
「今つまらないこと考えてましたね?」
「なんでお前は俺の頭の中がわかるんだよ」
「・・・・本当に考えていたんですね」
しまった、かまをかけられたのか。図ったな穂乃果ァ!?
「今日数学の宿題なかったよね?」
「えっと、そういうことじゃないと思うんだけど・・・とりあえず、早く決めちゃわない?」
ことりの提案によりコントのテンションから真面目モードに切り替える。そう、俺達には時間がない。アイドルで講演をやるといっても、それには必要不可欠なものが全て欠落しているんだ。今からたとえ付け焼刃になるとしても、それくらいの覚悟がなければ間に合わない。
「そうだな。ことりの言う通りだ。んで穂乃果、お前マジで何か考えあんのか?」
「うん。ダンスの振り付けとか衣装とかはまだ全然だけど、曲の方に関してはちょっと心当たりがあって」
そう言って携帯のボイルレコーダー機能を立ち上げる。録音データをタップしてみれば、フォルダに3分弱の録音がなされていた。再生コマンドをタップし、音を流す。
「・・・・いい感じですね」
「でしょでしょ!?」
「うん。私この演奏好きかも」
「うんうん!」
二人の共感を得られたことで嬉しそうに相槌を打つ穂乃果。でも待てよ、コレどこかで聴いた記憶が・・・・。
「―――あ」
思い当たったのは、赤毛のカールした髪型が印象的な女の子。音楽室で一人楽しそうに、だけど少し寂しそうにピアノを弾いていた。あの時聴いた曲も、たしかこの曲と同じ感じだった。名前を聞く事はおろか会話すらなかった為今ここで彼女の演奏が話題になるとは思わなかった。
「俺、この子知ってるぞ。つか穂乃果、お前これ一歩間違えなくても犯罪だぞ」
「ええ!?」
「盗聴の類に含まれてもおかしくないかも」
「そんなぁ!?」
俺の言葉にことりが乗るという珍しい形でダメージを負う穂乃果。
「それで、その子にコンタクトは取ったんですか?」
「いや、それがちょっとな・・・」
意味深ともとれる言葉で濁す俺に海未が首をかしげる。それは、今から昼休みまで遡る・・・・。
♪
さて、どうしたものか。穂乃果達にああ言ってしまったせいで教室にいずらくなった俺はただ宛てもなく昼休みの校舎内をブラブラと歩いていた。自業自得ではあるが、あの時、俺に言い返してきた時の穂乃果の顔はいつにも増して本気だった。ということは、アイツは心の底からスクールアイドルをやって学校を救おうとしている。まあ海未とことりが一緒なんだからそうなんだろうけど。でも、穂乃果のあんな顔初めて見た気がする。
それだけに、俺が引き下がるわけにはいかなかった。
「ハア・・・つかどーすりゃいいんだよスクールアイドルなんて。俺アイドルのあの字もしら―――」
不意に、聴こえてきた音色に足を止める。視線を上に上げれば、ルームプレートには音楽室の文字が。屋上に行くかどうかと考えていたところ、無意識にここにたどり着いたらしい。それにしてもこんな時間に一体誰が・・・?
「ちょっとだっけよ・・・」
そろりそろりと、まるで絵に描いたような泥棒みたいな歩き方で身をかがめながらドアの前まで移動。ガラス窓から中を見えるか見えないかの所まで顔を出し、その正体を突き止める。目を瞑り、とても心地よさそうにピアノを弾く女子生徒が一人。赤い巻き髪が特徴で、遠目からでもその可愛らしさ―――と言うよりは美しさだろうか。兎に角、美少女だ。
(あんな子この学校にいたっけ・・・?)
と思考していると。今にして思えばそこで離れて後で調べればよかったものを、この時の俺は好奇心が勝ってうっかり目を合わせてしまったのだ。すると、どうだろうか。彼方からしてみれば、窓の外から顔を半分だけ覗かせてこちらをジッと見つめている男。その時間であれば、たとえピアノを弾こうがギターを弾こうが、人通りの少ない実習室の集まるこの階には支障はない。つまり、人気がないわけだ。そんな場所で、コレである。ホラー以外の何物でもない。当然、悲鳴をあげられた。
「あいや、ちが、俺は別に―――」
「あっち行ってッ!」
「メトロノームはらめぇ!?」
幾らなんでも驚きすぎだろ!?いやこっそり覗いてた俺が悪いんだけどさ!
♪
「とまぁそんな事があって―――なんて顔してないで反省してください。殴りますよ」
「だから殴ってから言わないで・・・」
気づいた時には海未の拳が右頬にめり込んでいた。
「あははは・・・えっと、曲のイメージとか次第にもなっちゃうけど、衣装ならつくれるよ?」
「ことりちゃん御裁縫得意だもんね」
「では、衣装はことりに任せるとして・・・問題は曲ですね。このまま麗花さんの曲を使うという訳にもいかないですし」
「という事で穂乃果!お前にマネージャーとして司令をだす!」
「イエッサー!」
膝立ちになり、ビシッと敬礼する穂乃果。なんだかちょっと楽しくなってきた。
「あの赤髪の子に接触し、作曲を依頼すること!そして作詞は海未、お前に決定だ」
二人そろって「ええ!?」と声をあげた。
「ちょっと待ってください、どうして私なんです!?」
「私その子知らないよ!?」
「ええい俺は聖徳太子じゃない!まずは海未。抜擢理由は簡単だ。おまえ、時々ポエム書いてるだろ」
「ギクゥ!?・・・な、ナンノコトデスカ」
「陽に向かいたいと願うは―――」
「殴りますよ?」
「だから殴ってから言わないでって・・・」
そんなこんなで渋る海未をことりの必殺技、〝お願い〟で墜とし、穂乃果に例の赤髪の子を押し付けた。あとは、三人が当日までに仕上げられるかどうかになってくる。残念ながら俺ができることはそこまで多くはない。踊って歌ってのアイドル活動をするのはあくまでも穂乃果、海未、ことりの三人だ。俺にできることと言ったら、三人の体調管理にトレーニングメニューを考えることぐらい。これ以上、ここに居ても仕方ないと、今日のところは帰宅する事にした。
そして、翌日。
「穂乃果とことりは基礎体力、海未は・・・あの羞恥心をどう捨てさせるか、か・・・前途多難にもほどがあるぞこれ」
スマホのメモ機能を使って個々のスペックを箇条書きで書いていく。穂乃果は三人の中で一番ポジティブでガッツがある分、冷めやすくもある。ことりは体力はないが要所要所で器用で記憶力もいい。海未は三人の中で体力もあるしダンスのキレもいい。だが歌声となると途端に小さくなる。これは、一度歌唱力をテストしようと言って行ったカラオケで検証済。全員共通しているのもあればバラバラなのもある。他人なんだから当たり前と言えばそうなのだが、こういう時はホントにギャルゲーの攻略の方がまだ楽に思えてきた。
(出現場所と好みさえ覚えておけば、後は話題合わせてデート重ねるだけだしな)
しかしゲームのようにセーブもロードもできないのが現実。融通なんてもっと効かない。これはもっとアイツらの詳細なデータを取る必要があるな・・・・例えば・・・・ぐへへ。
「うわぁ・・・」
思わず垂れてきた涎をぬぐったその時、確かにそう呟く声が聴こえて「なにを!?」とその方向を見る。そこには、スラっとした佇まいに腕を組み、此方を絶対零度が如く冷えた視線を向ける金髪ポニーテールの美少女が立っていた。それに思わず。
「綺麗だ・・・」
なんて呟いてしまった。
「お、ナンパ?エリチは攻略難易度高めやで」
そう笑いながら後ろからひょっこり顔をだす黒髪をシュシュで二つにまとめた、これまた美少女。関西弁・・・というにはあまりにも違和感のあるその独特な口調が印象的だ。そして何よりも、制服の下からでも主張するその立派なエベレスト。これは登山家としての血が滾るッ!
「・・・気持ち悪い・・・」
おっと、また金髪美少女からご褒美をいただいてしまった―――いや、そうではなくて。
「初対面の人間に、二回もキモいとは失礼だな・・・どこの誰だアンタ」
「絢瀬絵里。生徒会長よ」
ゲッ、一番イヤな部類の人種に目を付けられた・・・・つか、生徒会長が初見でキモいって言うのはますますどーよ。
「ウチは東條希。副会長や。以後、よろしゅう」
「・・・東條先輩」
「ん?」
「なぞかけとかでき―――」
「別にウチ、笑わせられへんかったら魂ちょんぎったり、スイッチ押してカニのバケモンになったりせーへんからね?あっ、あと、トラモチーフの―――」
「いえ、あの、はい。先輩がそういうノリができる人だとは思ってなかったッス・・・なんかあの、すんませんした」
「謝らんでもええよ?きみ、こういうノリできる部類の子やったんやね。なんや仲ようできそうな気ぃするわ」
そう言って笑顔を浮かべる東條先輩。俺のボケにも反応できて、かつこの神対応。これが海未だったら間違いなくいま俺はガイアとキッスしてるに違いない。ああ、女神とはここにおられたのか。
「そんなことより、貴方木原遊太君よね?」
「ええ、まあ」
「同じクラスの南ことりさんとは幼馴染だって聞いたんだけど・・・彼女から廃校の件で何か聞いてないかしら」
―――生徒会長が廃校阻止に奔走している。クラスの連中が話していたのを今思い出した。俺伝いにことりの事を聞いてきたってことは、つまり理事長に用があるということ。なるほど、だいたいわかった。
「いえ、何も。俺達も廃校の事は掲示されていた張り紙で知りましたから」
「そう・・・何かあったら教えて」
それだけ言ってすたすたと歩いて行ってしまった。
「・・・感じ悪っ」
それが、絢瀬絵里に抱いた最初の印象だった。もう綺麗とか可愛いとかじゃなくて、それだった。
「堪忍な。ホントは優しい子なんよ」
「東條先輩が言うなら・・・まあ」
というか、あの人があんな風な態度とったのは俺に原因があるのはわかるんだけどね。いくら何でも本人の身から言っても絶対気持ち悪い。俺にフォローを入れた後、ウィンクを残して東條先輩は絢瀬会長を追いかけて行った。いやあ・・・何あの可愛さ、反則でしょ。
「っとヤバ、こんなとこしてる場合じゃねぇ!」
携帯のディスプレイを見ればもう昼休み終了10分前。パンとコーヒー牛乳を口に押し込んで一気に胃袋へと流し込んだ。