銀座事件から暫く経ったある日。
俺と伊丹はあの事件の所為もあり、土日も休みは無く不自由な生活を送っていた。
現在は、日課であるトレーニングの一つ、ランニングをしている。
「あれ!誰かと思えば、有名人の伊丹二尉と橘三尉じゃないですか!自分、名寄駐屯地から来ました倉田と申します!」
ランニングをしていると倉田が後ろから話掛けて来た。
「いや~、銀座の英雄であられる二尉殿と三尉殿との同じ部隊に配属になれて光栄です!あの、有名人になるってどんな感じなんですか?」
やたら喋るな、コイツ。
「いいなぁ~!女の子にモテモテなんだろうな~!」
「うるせぇ~!」
しつこい倉谷に伊丹が怒鳴る。
てか、女の子にモテモテって、三十代のおっさんにモテモテとか無いだろ。
訓練を終え、俺達三人は隊員食堂で昼飯を取る。
「はぁ~、結局即売会は中止、それにあの件で此処ん所、土日も休み無しだ」
「全くだ。ストレスが溜まって嫌になるぜ」
「大臣から賞詞まで貰った上に、昇進したのに文句言うなんてバチ当りですよ」
倉田が昼飯を食べながらそう言う。
「望んで昇進したわけじゃねぇよ」
「俺は昇進してないだけマシか。昇進すりゃ面倒な書類仕事も増えるし」
「……ホント、欲が無い人達ですね」
「俺は趣味に生きるために仕事してんの」
「働いで金貰って、趣味に使う。それ以上求めることこそ、バチ当りだろ」
「だから、俺達は仕事と趣味どっちで言われると、迷わず趣味優先なの」
そう言って、俺達は昼飯に手を付ける。
「あの、所で伊丹二尉、橘三尉」
「ん?」
「どうした?」
飯を口に入れながら味噌汁を啜ってると倉田がまた話掛けてきたので返事だけして、昼飯を食べ続ける。
「さっきまで黙ってたんですけど、俺、あの日即売会に行ってたんです」
その言葉に俺と伊丹は驚き、箸を動かす手を止めた。
「本当か!?」
「は、はい。あの日、自分は何も出来なかったので、言い出せず……」
「それで戦果は?何買った?よかったら今日うちに来ないか?」
「え?あ、ちょっと!」
「いいじゃないか、同じ仲間だろ」
伊丹は即売会でゲットしたものが気になり過ぎて倉田に抱き付いた。
興奮し過ぎだろ。
まぁ、俺も何をゲットしたのかは気になるが……………
そして、午後の訓練。
「倉田、怒るなよ」
「不潔です!伊丹二尉にそんな趣味があったなんて!」
どうやら誤解されたみたいだ。
「気を付けろよ、倉田。伊丹はお前みたいな若い奴を見かけたら男でも食っちまうからな」
倉田の後ろから囁くように言うと、倉田は青ざめ走るスピードを上げる。
「僕は女の子が好きなんですぅ!」
「待て、誤解だ!橘も、変なこと言うな!」
「いやあああああああああ!!」
「あはははははははははは!!」
「ふーん、これが」
「はい。先日から支給された戦闘服四型です」
伊丹が戦闘服四型に身を包み、戦闘服を見る。
「先行した偵察隊の調査に従って、こちらに切り替えて行くそうです」
「予算削減で、全部隊に支給されるにはまだ時間が掛かるそうですが」
「ん?じゃあ、なんで俺達の所に優先して届いたわけ?」
「それは…………そういうことなんじゃないでしょうか」
戦闘服を渡してきた富田がそう言う。
「そういうことって?」
「ですから、そういうことなんじゃないかと」
「だから、そういうことって?」
なんとなく予想できるが、違っていてほしい気持ちが大きい。
「つまり………二尉と三尉の望んでいないことが起きるということだと思います」
やっぱりか………………………
そして、三ヶ月後。
俺と伊丹は第五戦闘団に所属する員数外の幹部として迎えられ、ゲートの向こう側の世界、特別地域、通称“特地”へと派遣されることになった。
『北条前首相と各党の皆様の尽力によって、この法案が可決し、ついに、諸君らを解く地へと派遣することになりました。派遣部隊の諸君。諸君らの任務は、真に重大であります』
本位慎三現首相の話がそこで終わり、作戦の指揮を執る狭間浩一郎陸将が前に立つ。
「指揮官の狭間である。一ヶ月前から斥候が何度も入っているが、と口で何が起きるのかなど誰も分からない。従って、門を超えた瞬間から、戦闘が始まるかもしれないと言う心構えを持っていてくれ。…………まもなく突入だ!」
その言葉を合図に、64式7.62mm小銃に弾倉を装填し、初弾を入れる。
戦車隊が先に進軍し、そして、俺達自衛官を乗せた装甲車がその後に続く。
装甲車内は重苦しい雰囲気が漂っていた。
そんな中、俺と伊丹の向かい側に居た倉田が、不安げにこちらを見て来る。
「あの、伊丹二尉」
「ん?」
「こっちに猫耳娘、いますかねぇ?」
この雰囲気に耐えられなくなったのか、ちょっとふざけるようにそう言う。
「………いないわけないだろ」
それを読み取ったのか、伊丹もふざけるように言う。
「橘三尉はどう思います?」
「俺か?」
俺は少し考えた振りをして、苦笑と言った感じに笑い答えた。
「俺は、女は苦手だ。でも、いた方が面白いだろうな」