「バイタルは安定。意識も直に回復すると思います」
黒川が未だに気を失ってるエルフ少女の容態を見て、そう言う。
「そりゃよかった………しかし、まいったなぁ」
伊丹が後ろにいる難民となった村人たちを見て言う。
「これ、どっか目的地とかあるんっすか?」
倉田が運転しながら聞いて来る。
「無いらしいよ」
「えっ、無いんっすか?!?」
「強いて言うなら炎龍が襲ってこないって分かるまでらしい」
こりゃ、長い旅になりそうだな。
そう思ってると後ろの方の列で一台の馬車が横転し移動が一時止まる。
「ダメです、隊長。車軸が折れています」
富田が馬車の様子を見てそう言う。
「ここにいても死を待つだけだ。持てる分だけでも持って逃げるんだ」
村長が馬車の持ち主である村人にそう言う。
村人は悔しそうに表情を曇らせるが、伊丹が肩に手を置くと諦めたかのように俯いた。
村人が持てるだけの分の荷物を手にしたのを確認すると、俺達は壊れた馬車に火を放ち、再び移動を開始した。
「どうして火を掛けさせたのですか?」
その対応に納得できないのか、黒川が乗車するや否やそう言って来た。
「荷物を前に全然動こうとしないんだもん。それしかないでしょ」
「車両の増援を頼めないのですか!?」
納得できないと言わんばかりに黒川が叫ぶ。
「一応、ここはフロントラインを越えてるんだ。俺達ぐらいの規模なら見逃されても、大規模な部隊が侵入すれば敵も動く。そうなれば、偶発的な衝突、無計画な戦線の拡大、さらなる戦力の導入、瞬く間に広がる戦火、巻き込まれる難民、考えるだけでも恐ろしい」
「………そう言われたんですね」
「だから俺達が手を貸す。それぐらいしかできないんだよ」
伊丹の言葉に黒川は納得したような表情をした。
「あれ?前方になにやら…………」
倉田が何かを発見したらしく声を上げる。
伊丹は双眼鏡を手に、前方を見る。
俺も双眼鏡を取り出し前方を確認する。
「カラス?」
双眼鏡から見えたのはカラスだった。
そして、カラスが見えたと思ったら急に目の前に大きな斧が現れた。
驚き、双眼鏡の倍率を下げ斧の正体を確認する。
するとそこにはゴスロリ衣装を着た一人の少女が居て、その少女の手にその巨大な斧が握られていた。
「ゴスロリ少女だ!?」
「え!?」
伊丹がそう叫ぶと倉田が声を上げ、血走った目で双眼鏡を覗く。
少女は斧を手にこちらへとゆっくりと近づいて来る。
『貴方たち、何処からいらして、どちらへ行かれるのかしら?』
「えっと、なんて言ってるんだ?」
「さぁ?」
「何処から来て何処に行くのかと聞いています」
「え?橘、お前、特地の言葉分かるの?」
「少しなら」
そう答えると伊丹は、だったら早く言ってくれよっと言いたそうに俺を見て来る。
『神官様だ!』
すると子供たちがそう叫び、ゴスロリ少女へと近づき、村人たちも何人かその少女に膝を着き、祈るようなポーズをする。
「祈ってる?」
「あの変な恰好は宗教的な意味があるのか」
ゴスロリ少女は村人の話を聞き終えると近づいてきて、子供たちに尋ねる。
『この変な人達は?』
『助けてくれたんだ!良い人達だよ!』
『嫌々連れてかれるって訳じゃないのね』
『うん!』
少女は俺達が乗ってる高機動車に目をやると不思議そうな顔をする。
『これどうやって動いてるのかしら?』
『分かんない。でも、荷車より乗り心地はいいよ!』
『フーン、そう………』
そう言ってゴスロリ少女は伊丹を見つめ、舌なめずりをする。
数分後、伊丹の膝の上にそのゴスロリ少女、もといロゥリィが座っていた。
伊丹はその体勢に我慢できず、退かそうとし、ロゥリィはそれを拒み、倉田がそれをうらやましがるなど、高機動車内では数分ほどの騒ぎが起きた。
騒ぎが収まり、再び移動を開始する。
「少し雰囲気変わりましたね」
倉田が辺りの風景を見てそう言う。
「ああ、村から結構離れたからな」
そう言い、伊丹は窓から太陽を見上げる。
「こっちの太陽って日本のより熱くないか?」
「確かに」
俺も窓から太陽を見上げて言う。
すると太陽を背に一匹のドラゴンが現れる。
俺は一瞬驚きながらも小銃を手に迎撃準備をする。
すると、次の瞬間、横から巨大な龍、炎龍が現れ、そのドラゴン捕食した。
「「なっ!?」」
俺と伊丹は同時に声を上げた。
「戦闘用意!」
炎龍はドラゴンを一飲みすると、今度は難民を襲い出す。
火を吹き荷台を焼き払い、尻尾で薙ぎ払う。
俺達は銃を手に、ドラゴンへと向かい発砲をする。
だが、7.62mm程度の弾丸や機関銃では火力不足らしく、炎龍相手では豆鉄砲でしかなかった。
「構うな!撃ち続けろ!」
伊丹の命令を聞きながら、効かないと分かっていながら銃を撃ち続ける。
その時、炎龍が口の中に炎を溜め始めるのを見て、伊丹が声を上げる!
「ブレス!来るぞ!」
伊丹の予想通り、炎龍は炎を吹いて攻撃してくる。
伊丹の注意により、何とか攻撃を躱せたが、このままでは弾が尽きるのも時間の問題だ。
「どうする、伊丹!このままだと、こっちが危険だ!」
「くそっ!どうすりゃいい!」
伊丹がそう言った瞬間、エルフ少女が目を覚まし、大声で伊丹に声を掛ける。
『目よ!目を狙って!』
「目?」
その言葉に俺ははっとし、炎龍の目を見る。
見ると炎龍の左眼には矢が突き刺さっており、見えていない状態だった。
「伊丹!目だ!目を狙うんだ!あそこは鱗で覆われていない分、他より弱い!」
「そうか!全員、目を狙え!」
その言葉に全員が炎龍の右眼に向かって銃を発砲する。
目には当たらないものの、ドラゴンは目を狙った攻撃に怯み動きを止める。
「勝本!LAM!」
無線を手に取り、勝本に110mm個人携帯対戦車弾、通称LAMを使用するように命令を出す。
『了解!』
勝本はLAMを構え、炎龍に向ける。
『おっと!後方の安全確認』
LAMは発射時の反動を相殺するため、後方へカウンターマスと呼ばれる重量物を撃ち出すので、LAMを使う際には、後方の安全確認が必須だ。
だが、確認が遅い!
『遅い(よ)!』
全員が思わずそう叫んだ。
後方の安全確認が済み、勝本がLAMを炎龍に向け撃つ。
だが、撃つ瞬間、車両が揺れ、LAMの狙いがずれてしまった。
「外れるぞ!」
伊丹がそう叫んだ瞬間、ロゥリィが飛び出し、持っていた斧、ハルバートを炎龍目掛け投げ飛ばす。
ハルバートは地面に刺さると地面を粉砕し、炎龍を吹き飛ばす。
その為、炎龍の体が飛んでくるLAMの弾の前に現れ、炎龍の右腕に当たる。
当たった瞬間、爆発と爆炎が上がり、炎龍のみぢ腕が砕け散る。
炎龍は悲鳴を上げると、翼をはばたかせ、そのまま逃げ去った。
「ふぅ~」
「お、終わったんですかね?」
「………多分な」
俺達、自衛隊からの死者は幸いなことに誰もいなかった。
だが、難民から多くの死者を出してしまった。
俺達はそれを地面に埋め、弔うことにした。
その後、村長と話した結果、近隣の身内の元や、何処かの村や街に避難するそうだ。
「村や街に避難って、知り合い居ないだろ。大丈夫なのか?」
「それより、もっと重大な問題があるぞ」
「身内を失った子供、それに怪我人にお年寄りか」
『薄情の様ですまんが、その者らまで心配してやれる程、余裕はないのだ』
村長は申し訳なさそうに謝る。
『謝る必要はありません。貴方方は自分の事だけを考えてください。後の事は私たちにお任せを』
『…………すまない。アンタらには心から感謝しているよ』
村長は帽子を取り、帽子を胸に当て頭を下げる。
それにならい、他の村人も頭を下げお礼の言葉を口にする。
移動していく村人たちを見送り、俺達は残った村人たちを見る。
「それで、どうしますか?伊丹二尉、橘三尉」
黒川が訪ねて来る。
「……ま、いっか」
「なんとかなるさ」
そう言い、俺と伊丹は難民たちに笑顔を向ける。
「だいじょーぶ!」
「任せとけって!」
そう言うと難民たちは驚いた様な表情をし、隊員たちは笑っていた。
「え?なにこの空気?」
「いえ。二尉と三尉ならそう言うと思ってました」
「………僕って人道的でしょ?」
「………当たり前だ」
そう言い、俺と伊丹は号令を掛ける。
「全員乗車!」
「これよりアルヌスへと帰還する!」