買い物も終え、屋上へ。
案内板に屋上は自動販売機コーナーと書いてあったが、数台の自動販売機と椅子、机が置かれていた。ただ、アレだ。思っていたよりも閑散としていて少し寂しく思う。
まぁ、手持ちのお金はまだ5万円はあるし、ちょいと休憩していこうか。この世界へ来てからはまだ何も口にしていない。喉が渇いたり腹が減っているわけではないから、別に良いかと思っていたが、なんともおかしな気分だ。そもそも、俺がこの世界へ来てからどれくらいの時間が経ったのだろうか? 太陽の位置はずっと変わっていないこともあり、どうにも時間の感覚が狂う。飲食や睡眠を必要としない体ってのは便利ではあるけれど……
「えーん、お兄ちゃん! 喉渇いたよぉ」
そして、何を買おうか悩んでいると、そんな子供の泣き声が聞こえた。
そちらの方を向くと、小さな女の子が泣いている様子。それで、俺の方をチラチラと見ていた。なんだよ、飲み物を買えってことか?
いや、別に、飲み物の1本くらいなら問題なく買えるけどさ……
とりあえず、200円で“おいしいみず”を購入し、泣き叫んでいる女の子の前へ。
買ったばかりの“おいしいみず”を持ち、女の子の傍へ行くと急に泣き止み、此方をじっと見つめてきた。
そんな女の子の目の前で“おいしいみず”を飲んでみる。
「……うわーん! 喉渇いたよぉ!!」
泣き叫ばれた。
少しばかりの罪悪感はあるが、うむ、なかなか美味しいじゃないか。
「うわーん! 喉渇いたよぉ!!」
ああ、もう。はいはい。分かった分かったよ。買ってやるって。全く、ギャーギャーと鬱陶しい。なんなんだお前は。
仕方が無いため、もう一度自動販売機で飲み物を購入。“おいしいみず”以外には、“サイコソーダ”、“ミックスオレ”なんかもあったけれど、買うのは一番安い“おいしいみず”にしておいた。
「ほら、これをやるからとりあえず、泣くのをやめろって」
「わーい! “おいしいみず”くれるの? ありがとー!」
よほど喉が渇いていたのか、俺から“おいしいみず”を受け取ると、女の子は一気にソレを飲み干した。見てみて心地良いくらいの飲みっぷりだ。
「ごちそうさま!」
どういたしまして。
「お礼に私の宝物あげるね!」
そう言って、女の子は技マシンをくれた。
いやいや、200円の飲み物1本で宝物を渡すなよ。宝物なんだから大事にしろって。
「その技マシンの中身は“れいとうビーム”なの。たまに相手を凍らせるわ」
確か、技マシンって売ると1500円くらいにはなったよな。これを売ってそのお金で飲み物を買えば良かったんじゃ……
そんな女の子から技マシンをもらうのはどうにも気が引けてしまい、返そうと思ったが――
「うわーん! お兄ちゃん、喉渇いたよぉ!」
また泣き出してしまった。ホント、お前は何がしたいんだよ。小さい子にとって飲み物1本って結構な量だと思うんだけどなぁ……
まぁ、それでも喉が渇いたのなら仕方無い。もう一度飲ませればおとなしくなるだろう。
そんなわけで、もう一度“おいしいみず”を購入し、女の子へ渡すことに。
「“おいしいみず”かぁ……うーん、やっぱり我慢する!」
あら、そうなの? それならそれで良いんだが……
「うわーん! お兄ちゃん、喉渇いたよぉ!」
さっき、我慢するって言ったじゃねぇかよ! お前の覚悟はその程度か。
なんだかなぁ……今までも変な奴らとは会ってきたけれど、コイツもなかなかに強烈な奴だ。
いや、でもこれはどうすれば良いんだ? 正直、もう関わりたくはないが、泣いている子供を無視するわけにも……う、うーん、“おいしいみず”以外の飲み物をあげれば良いのだろうか?
良く分からないが、試すだけ試してみようと思い、“サイコソーダ”と“ミックスオレ”を購入。そしてとりあえず“サイコソーダ”を泣き叫んでいる女の子へ渡してみた。
「わーい、“サイコソーダ”くれるの? ありがとー」
どうやら“サイコソーダ”は我慢しないらしく、飲み物を渡すとまた豪快に飲み干してくれた。
「ごちそうさま! お礼に私の宝物あげるね!」
んで、また宝物をもらってしまった。
なんだろうか……まるで小さな女の子を騙している気分になる。別にお礼が欲しくて飲み物をあげたわけじゃないんだけどなぁ。
「その技マシンの中身は“いわなだれ”なの! たまに相手を気絶させることがあるわ!」
ああ、そりゃあ、どうもありがとうございます。
それにしてもこの女の子は何がしたいのだろうか? これじゃあ、他人に技マシンをあげたいだけなんじゃないかと思えてくる。
「うわーん! お兄ちゃん、喉渇いたよぉ!」
まだか。まだ足りないのか! 流石にこれは冗談だろ。どんなに喉が渇いていようが2本も飲めば十分だと思う。
残っている飲み物は“おいしいみず”と“ミックスオレ”。んで、もう一度“おいしいみず”を渡そうとしたが、やはり断られた。じゃあ、と思い“ミックスオレ”を渡すと、美味しそうに飲み干す女の子。
う~ん、ただ色々な飲み物を飲みたかったってだけなんかねぇ? そうであってくれ。
「ごちそうさま! お礼に私の宝物をあげるね!」
また技マシンをいただきました。こんなにいらないんだけどなぁ……どうにも店へ売る気にもならないし、どうしたものやら。
「その技マシンの中身は“トライアタック”なの! たまに相手を麻痺させることがあるわ!」
その後、女の子は漸く泣き叫ぶのをやめてくれ、おとなしくなった。ホント、なんだったんだろうか。
ん~……せっかくもらったんだ。一つくらい使って上げた方が良いのかもしれない。もらった技マシンは“れいとうビーム”、“いわなだれ”、“トライアタック”だったかな。それらがどんな技なのかは分からないけれど……まぁ、“れいとうビーム”は強そうだ。だってビームだもん。弱いわけがない。デブチュウが覚えてくれたりしないかね? まぁ、あとで試してみようか。
さて、これでもうこのタマムシデパートに用はないかな。うん、何と言うか、色々と充実した店だったと思う。少なくとも悪いものではなかっただろう。“おいしいみず”が一つ余ってしまったが……ああ、そう言えばヤマブキシティへ続く、関所っぽい場所にいた警備員も喉が渇いた。とか言っていたか。持っていても仕方無いし、ソイツにあげるとしようか。
さてさて、それじゃあ、早速警備員の所へ行きたいところだけど……ちょいと気になることがある。どうせ予想通りなんだろうなぁ。とは思うけれど、確認しないことには分からない。
そんなことを考えつつ、再びロケットゲームセンターへ。
気になっているのは、俺が前回入店した時にずっといたあのロケット団員のこと。どうしてじっと壁にあるポスターを見つめているのかは知らんが、どうしても気になった。
「ああ、やっぱりまだいるのか……」
予想通りと言うか、当たり前のようにロケット団員はじっと壁のポスターを見つめていた。
壁のポスターなんてそんな面白いものじゃないと思うが、何をやっているんだか……これは俺の予想でしかないが、多分あのロケット団員は俺が話しかけるまであの場所から動かないだろう。この世界は分からないことだらけだが、なんとなく理解できてきたものもある。
別段俺は頭が良いわけでもないし、察しの良い方でもない。けれども、これだけの時間を過ごしてきたんだ。流石に分かることだってある。
なんとも面倒なことにこの世界は――俺が中心らしい。
そのことに確証はない。けれども、間違いではないだろう。
ただ、まぁ、この世界がゲームの中だってんなら、それもおかしなことではないのかなと思う。別に主人公とか、ヒーローとかそんな存在に憧れているわけじゃない。むしろ、そんな役目遠慮したいくらいだ。村人Aとかで良かったんだけどなぁ。
それにそんな役目を押し付けるのなら、台本くらい用意しとけってんだよ。この世界には分からないことが多過ぎる。
俺の物語……か。あの真っ白な世界でオーキドの爺さんが言っていたのは、きっとこう言うことだったんだろうな。
それなら、やっぱり俺が頑張らないといけないんかね? はぁ、俺よりも適している奴なんて沢山いただろうに……
だいたい、この世界は俺みたいな小さな子供に色々と押し付けすぎだろ。相手はロケット団とか言う、頭は残念だけど立派なマフィアだ。そんな奴ら相手に何ができるってんだ。そう言うのは子供じゃなく、大人の……大人の……
……まぁ、たまには大人振ってみるのも悪くはないか。ちょいと背伸びしたいお年頃なんだ。やるだけやってみるとしよう。
「よお、こんなところで何やってんの?」
「ああん? 子供が何の用だ。俺はただこのポスターを見張っているだけだ!」
じっとポスターを見つめていたロケット団員の元へ。
うだうだと言い訳を重ねてしまったが、自分で自分を説得できるほど、器用な性格でも素直な性格でもない。歳を重ねるたびに複雑に折れ曲がり続けたこの性格。
そんな自分の性格は好きじゃあないが、まぁ……嫌いでもない。
「ポスターを見張るってなんだよ。お前らどんだけ暇なんだよ」
「ああ、もう、うるせーな! 邪魔をすると痛い目に合わせるぞ!」
そして始まるポケモンバトル。
これでもう逃げることはできないだろう。今までと違い、今回は俺から首を突っ込んだんだ。とは言え、此処まで来たらもう引くつもりもない。それくらいの覚悟はある。
少しだけ道を外れてみるとしよう。
「宣戦布告だ。ハラマキ盛大にやってこい」
社会の荒波に揉まれ続けたおっさんってのは、お前らが思っているよりも強いんだぜ?
「ち、ちくしょう! このままじゃ、アジトの存在がバレちまう。ボ、ボスに連絡しなくては!」
ポケモンバトルは問題なく勝利。
そして、バトルで負けたロケット団員はゲームセンターの奥の方へ消えていった。
あと、アジトの存在だけど、多分もうバレてるぞ? 食堂にいた男性もアジトのこと知ってたし。それに隠す気があるならまずこのゲームセンターの名前を変えろよ。
さてさて、そんじゃ、早速そのアジトとやらへお邪魔しようかね。
そう思ってからロケット団員が消えた方へ行ってみたが、行き止まりとなっていた。あら? 確かにこっちへ来たのだが……隠し通路でもあるのか?
一応、壁をバシバシ叩いてみたが、開く様子はない。うーん、どうしようか。このまま無視しても良いが、変に格好つけてしまった手前、引くに引けない。
しかし、どうしてあの団員はポスターなんかを見張っていたんだ? あのポスターに何かあったりするのだろうか?
とりあえず、ポスターを調べてみることに。
すると、ポスターの裏にスイッチのようなモノがあった。
……えっ? もしかしてこれですか?
押してみました。何かの開く音がしました。
「……よ、よし、行くか!」