今回から歴史上の人物がちょくちょくでてきます。
この作品はいかなる個人、イデオロギー、組織、国家を避難する意図は持ちません。
俺のケータイは中国語打てるほど高性能ではないですすみません。
短いけど次長めにするからお許しください!
中華民国首都 南京
扉を開き、1人の中年くらいの男が自身の執務室に戻ってきた。
「閣下。」
部屋で待っていた者が礼儀正しく敬礼する。それに軽く答えると、壁に大きく掛かっている白地の中国の地図に背を向けつつ席に着いた。
「如何なる御用ですか?」
「南昌に電話する。少し下がっていてくれ。それと茶を頼む。」
「はっ。」
再びかしこまって敬礼すると、その男はそそくさと部屋を去った。机の上に電話を移した彼は受話器を取り、相手のいる場へ向けて指を当てた。かけてから間もなくコール音は途絶えた。
『ー。』
「私だ。雨農に変わってくれ。」
『ー。』
部屋の男はそれだけで口を止めたがすぐに別の男に変わったようだ。
『ー。ー。』
「雨農、例の知波単…とやらの情報は入ってきたか?」
『ーー。ー。』
「そうか。それで?」
『ーー。ーー。』
「ほう…そうか。意外だな。」
『ー。ー、ーー。』
「ふむ、他にもあるとは。それについては何か情報は来ているか?」
『ーー。ーー。』
「日本の動向、ひいては親日派の動向とも関連するかもしれないからな。頼んだぞ。」
『ー。』
そう言うと男は耳に当てていた受話器を電話機に戻し、電話機を後ろの棚に戻した。それから机の左脇にある大きな地球儀に手をかけ、日本、本州、東京から微妙に東にずれた程に指を当てる。それと同時に彼の右の方からノックが聞こえる。
「どうした?」
「お茶をお持ちしました。失礼してもよろしいでしょうか?」
「ああ。」
戻ってきた付き人が台の上に乗せ、湯気を漂わせる茶を机に置く。男は少し香りを嗅いだのち、異常はなさそうだと感じて少し口に含んだ。やはり普通の茶であり問題なかった。喜ばしいことだ。味も宜しいのだから尚更だ。
東からくる例の艦、それをどうするかは早急に纏めねばならないだろう。
10月17日夜 大洗女子学園艦補給船ドック
何時もは補給船がひっきりなしに訪れるここもしばらく補給船が来ていないせいかひっそりしている。荷物を背中に抱えてエレベーターで降りてきた角谷の向こうの方では灯が点いている。
「会長、お待ちしてました。」
「おや、長坂ちゃん。来てもらっちゃって悪いね。」
船の前で待つ長坂に角谷は近づきつつ軽く手を振る。
「いえいえ、これも仕事のうちですから。」
「それで、輸送船の準備はどう?」
「問題ないです。食糧と水も積み込み済みです。これから少々他の日用品を積み込みますが、それも間もなく終わるでしょう。」
「仕事が早くてありがたいね。」
「そちらからいらっしゃるのは2人でよろしいですか?」
「ああ、私と松阪先生の二人だよ。」
「ところで、松阪先生は?」
「ちょっと中国語の関連書類持ってくるから遅れるって。」
「分かりました。おいお前ら、早く運べ!」
荷物を持って船に向かう一人が足を止めていたのを見た長坂がその者に叫ぶ。その者はすみませんと一言口にして歩みを再開した。
「いいよいいよ。まだこっちは出発しないんだし。」
「そうですがこういう所もきっちり締めとかないと今後面倒になりますから。」
「じゃあ、いつもの事だけど出かけている間も学園艦のことよろしくね。」
「お任せください。そちらこそ我々に幸運を持ってきてください。」
「ははは、そんなこちらに都合の良い条件は提示しないよ。やはり相手が相手だからね。厳しくはなると思うよ。」
「大丈夫ですよ。文科省をやり込めた貴女なら。」
「だといいけどねぇ。」
後ろからのエレベーターの到着音を受けて顔を向けると、白い船体を前に語る二人の後ろから書類カバンを手に持った茶縁の眼鏡の男が駆けてくる。
「いやぁ、角谷くん。待たせてしまって申し訳ない。」
「ありがとうございます。そういえば、一緒に行かれる間の授業はどうなさいましたか?」
「代講を頼んだ。病気で休むことにしておいてもらった。」
「なるほど、それなら大丈夫でしょう。」
「そろそろ出発かね?」
「ええ、負けられない戦いです。」
「頑張ろうじゃないか。」
2人はがっちりと握手を交わす。角谷の方が手は小さいが、力は変わらない。
「それでは、今回同行する操縦士をご紹介します。山本ー、田中ー!」
「はい!」
長坂の呼びかけに輸送船の中から顔を出した2人から元気な返事が帰ってする。
「お前らを紹介するからちょっと来い。」
「あ、はい。今行きます。」
輸送船から駆け下りる音ののち、間もなく山本と田中は長坂のところに来た。
「えっと、こいつらが今回同行する山本と田中です。私の班の操縦担当の一人で、その中でも腕がいいので信頼してやってください。」
「松阪先生、会長、よろしくお願いします。山本と言います。」
「田中です。よろしくお願いします。」
「よろしくね。」
「よろしく頼む。」
二人は頭を上げた黒い短髪の山本と茶じみた肩にかからない程度のストレートの田中とそれぞれ再び握手を交わす。
「えっと、それじゃあ確認いいかな?行き先はとりあえず上海周辺。位置はレーダー使ってこちらを確認してそれを伝えてくれる?」
「はい、もちろんです。」
「食糧、水は1週間分。あとは燃料も。」
「大丈夫です。」
角谷と長坂の確認作業が一区切りついたその時、入り口の方からまたエレベーターの到着が知らされる。
「ん?」
「会長ー!」
向こうから多くの人が駆け寄ってくる。
「みんなか。」
その群れに感慨を感じている間に角谷の前方の視界は人で埋まっていた。
「交渉頑張ってきてください!」
「学園のことはやっておきます!」
集まった生徒会の仲間たちは次々に激励の言葉をかける。
「うん、やってみせる。この学園艦が助かるまで!」
一人一人答えていると向こうから一人近づいてくる。近くに来ると角谷の周りの群れはモーセよろしく割れた。
「小山。」
小山の目の下のクマが激務を物語る。角谷はカバンから小山の激務の賜物を取り出し、小山の目の前に突き出す。
「安心しろ!これは無駄にはしない!そして、私が離れている間は小山がこの学園艦のトップだ。しっかり纏めといてくれよ!」
すこしうつむき気味だった姿勢がぴんと伸ばされる。
「……お任せください!」
「五十鈴ちゃん!」
角谷が声をかけると、すこし後ろから華が顔を出す。
「はい。」
「小山をしっかり支えてあげてね。」
「はい!」
「他のみんなも仕事はしっかりね!暴動起きたら起こした人と一緒に全員でアンコウ踊りを学園のグラウンドでやってもらうから!」
「はい……えっ?」
「よし、それじゃあそろそろ時間だ。乗りこもう。」
群れのものの一部の膝はガクガクと揺れ、他にも動きが急にぎこちなくなる者など様々な反応が見て取れる。が、角谷はそれを無視して背を向ける。
「そうだな。早く話は伝えたほうがいい。」
「エンジンは?」
「もう掛けてあります。」
「それでは、良い航海を。」
敬礼をして見送る長坂の傍の階段を登り、4人は船に乗り込む。
「よし、山本ちゃん、田中ちゃん。出発だ!」
「はい。」
リズムを刻むエンジン音が大きくなり、周期も短縮されていく。そして、輸送船とこの学園艦とを繋いでいた鎖が外された。船は円を描いて大海の方へ船首を向ける。
警笛はない。ただ船のみが明かりも灯さずに海へ飛び出していった。輸送船の後ろでは角谷と田中がにこやかに手を振っている。そしてドックに残った者もそれに振り返している。
助かるという幸運を願って。学園艦から出た輸送船は更に船首を左に回してドックの者たちの視界から去っていった。
「みんな……」
輸送船が見えなくなった後、ドックに残った一人、小山が切り出す。
「やるよ!」
「はい!」
出航した4人は船内の操舵室に集まる。
「それで、上海まではどれくらいかかるの?」
「飛ばして17時間以上はかかりますね。」
海の方を向いたまま舵を握る山本が答える。
「そんなにか!」
「まぁ、700キロありますから仕方ないですけど。」
「結構あるね。理想としては上海に着く前に中華民国との交渉の場があれば良いんだけどねぇ。」
「夜も遅いですし明日もありますし、会長と先生はお休みになってください。我々が操縦とかやっときますから。」
「良いのかい?無線くらいなら手伝えるよ?」
「それが我々の仕事ですから。」
山本と田中の二人はにこやかに角谷と松阪の方を向いた。
「それじゃあ……」
「お言葉に甘えて。」
それを聞き角谷と松阪は布団のある倉庫へと物を取りに向かった。そのまま、その晩は時折船舶科の二人の声がする他は特に物音もなくふけていった。
翌朝、角谷が寝ていた倉庫の一室で目を覚まし、一つ大きく伸びをして布団をたたむと輸送船のデッキへと身を出した。
船の周りを一回り歩くが、やはりあまり大きくない。海風が容赦なく角谷に吹き付け、髪を巻き上げる。
「気持ちぃー!」
船のデッキの柵に腕をのせ、その強い風を味わう。船はとても早く進み、後ろに白い泡の筋が何本もついてきている。前を見れば青い海が視界いっぱいに広がっている。
しばらく海風に当たっていたが、お陰でちょっと肌が乾燥してしまったようだ。顔を洗うべく船の中に戻り挨拶がてら操舵室に向かう。
「おはよー。」
「あ、おはようございます。」
「いやー、昨日からずっとやってもらっちゃって悪いね。」
「なんだかんだ交代でやってたりしますし、寝不足はいつもの事なんでなれました。」
「だよね。」
田中の言うことに山本が同調すると、2人は顔を見合って笑い出した。
「やっぱり船舶科は大変だねぇ。」
「その代わりのこの学費ですから、おあいこですよ。」
「しかも休みなしでしょ。」
「停泊時にはたまに休暇が貰えたりしますね。といっても行く場所もないですけど。そういう日は気が済むまで寝るに限ります。」
「そういう日くらいしか出来ないもんね。」
「そんな中でこんなよくわかんない世界の操縦頼んじゃって悪いね。」
「まーしかし、この世界で私たちはどうなってしまうんでしょうね。」
「一歩間違えれば奴隷行きかもしんないからね。」
「……奴隷ですか?」
「奴隷というのは語弊があるかもしんないけど、搾取の対象には十分なり得るよ。」
「……頑張ってください。残念ながら我々には何も出来ないので……」
それを聞いた角谷は腹の底から大きく息を吐き出すと、窓の外に広がる海に背を向けた。
「顔洗って朝食作ってくる。」
「あ、お願いします。」
角谷は船内のキッチンらしきところに向かう。まぁ、キッチンといっても給湯室に一つコンロが取り付けられたくらいのものだが、それにしては大きな鍋やらフライパンやらがあちこちにある。何せ学園艦は本土からかなり離れた場所も航行するのだ。それに補給する補給船、輸送船の航路も伸びる。そのためには自動的に乗員への飯を一気に作って楽する必要があるわけだ。
角谷はフライパンを1つ手に取ってまな板とともに洗い、業務用の冷蔵庫に詰められた食糧の中から適当に足が早そうな野菜を見繕って刻み、野菜炒めを作り始めた。野菜の水分が抜けて炒めやすくなったところに塩胡椒で味をつけ、さらに混ぜて出来上がりである。
皿は洗われて棚にあるので4つ取り出し、パンとともに乗せれば朝食の出来上がりである。それを2回に分けて持っていくと、操舵室にはちゃぶ台が用意されている。
やはり日用品を積んでくれてありがたいと思いつつ、起きてきた松阪とともに存亡を賭けた一つの戦いに向けて朝食を摂った。操舵室は時折入る無線の音以外は波の音で占められていた。
雨農とは藍衣社と調べれば出てきますよ。