なんか早めに出来た。
注)ゴモヨが有能
まぁそど子の後継者だからね。
「……」
「……とうとう近づいてきてしまいましたか。もう少し皆さんの買い溜めが保つと思いましたが。」
「そうですね…」
朝の配給を終えた小山と華は1つの要求書を前に視線を落としていた。
「元々予期してはいたことですが……」
「これが実際に起こると……」
「反発は必至ですね。下手したら学生主体の暴動になりかねません。」
「会長さんが交渉してくださるのですから、こちらも混乱は起こさないようにしないと……」
「それで、どう対処しましょう。工学科に話は通しましたか?」
「連絡したところ『まず材料をくれ。話はそれからだ。』とのことです。」
「そうですよねぇ……」
「材料があっても学園全体の需要に対する自給はできないのではないでしょうか。」
「この学園艦には工場は無いですからそうなりますね。こうなったら1つしか手段は有りません。」
「何ですか?」
紙の上に視線を落としていた華の顔が小山の方に向く。小山は唾を喉に1回流してから口を開いた。
「倹約体制のさらに上、今まで一度も発令されたことのない、統制体制です。それを導入します。」
「……確か学園艦の全物資の管理権を生徒会が握るのでしたっけ。ですが今まで一部市場に頼った分があっただけに仕事は増えそうですね。」
「それに今まで市場に任せていたものまで統制するのですから、住民の方の不満が溜まるのは必至です。それで、備蓄はあるのですか?」
「余りないです。学園生徒が通常通り消費して10日くらいだと……」
「10日ですか。それがあるならとりあえず一部を購買に送りましょうか。統制体制導入は時期尚早です。」
「……私も会長さんを信頼しないわけではありません。ですが、最悪の事態も想定すべきです。早めにやって少しずつ供給できる期間を延ばすための手を打っておくべきではないですか?」
「……それと、暴動か……」
「それなら風紀委員の権限を拡大しては如何でしょう。何せ現在は実質的に日本の学園艦ではないのですから、日本政府から非難をくらうことはありません。」
「……暴動の未然弾圧に回しても支障はない、と。」
「はい。」
「……」
華の提案を受け入れるか、小山は頭を悩ませた。確かに学園艦の住民の方を生き残らせることは重要だ。それが我々生徒会の役目でもある。
しかし、その為にここまで規制をかけてもいいものだろうか。私たち同じ学園艦に住む者を力で弾圧しても良いのか、良心がブレーキをかけていた。
「……会長さんは学園艦を残す為にはどんな悪事でもやると仰って、我々はそれについていくことを自分自身で決めたんです。我々も覚悟を決めるべきです。」
「……泥を被るのが私たちの役目と。」
はっきり意思を宿した目を見開いた華が頷く。それはみほをかばった時を彷彿させた。
「……私は、会長を信じます。あの時学園艦教育局と交渉した会長を。だから、交渉失敗の報告が届くまで統制体制は導入しません。」
「かといって1週間先に報告が来たとしても、その時には備蓄はかなり切り崩されていると思いますよ。」
「ですが、値上げの要請くらいはできます。少し気は引けますが仕方ありません。また交渉失敗の報告がきたら、その場で統制体制の導入を行います。
それと並行して不要なペンと消しゴムの類の回収を実施しましょう。それでどれだけ持つかは微妙ですが、足しにはなるとも思います。」
「……そこまで仰るなら。」
「では早速購買に依頼してきましょう。五十鈴さんは万が一統制体制になった際の導入の準備をお願いします。」
「分かりました。」
それを伝え、華が自分の席に戻ったのを確認すると、小山は隣の生徒会室に向かい近場にいて手が比較的空いている1人をちょっといい、と呼び止めた。
「はい?」
「昼休みに風紀委員の2人に来るよう呼び出してくれる?」
「了解しました。」
それを聞くと会長室を通って倉庫に入り、少し圧力の高めの水道から水を一杯汲んで飲み干した。
昼休み、呼び出された生徒会の2人は会長室に案内された。
「失礼します。金春です。」
「後藤です。」
「どうぞ。」
にこやかに席についていた小山は席を回して2人の方を向く。その前へと2人は礼儀正しい移動してくる。
「何の御用ですか。」
「まずは風紀委員の夜間の取り締まり、お疲れ様です。それでさらに仕事を追加することになり申し訳ないのですが、このまま補給船のあてがないならば倹約体制のさらに上、統制体制を導入せざるをえなくなるかもしれません。その際住民の皆さんの不満から暴動が起こりえません。
そして窓の割れたガラスの法則のように、1か所の暴動はこの学園艦の住民の不満を爆発させる可能性があります。それを防ぐために風紀委員の権限の強化をしようと思っています。」
「それを使って未然に取り締まってほしい、と。」
「話が早くて助かります。」
「それで、どれ程までの権限強化を想定されていますか?」
「そうですね……反対行動実施者、計画者の統制体制終了までの拘束と取り締まり時の簡易的な自衛道具の所持を許可しようかと。」
「国からそれに関して何か言われることへの対策は?」
「この拘束は秘密裏に行ってください。国に対しては無許可行動に対する自衛行動と伝えます。」
「……大丈夫ですか?国に学園艦を潰せる口実を与えかねないと思いますが。」
「補給を与えていないと知られる方がよっぽど都合が悪いはずです。戦車道で優勝しながら廃校にされかけた我々の方に国民の支持は向いています。日本が独裁国家でもならない限り流石に廃校にはしないかと。」
「国からしたら支持率低下と政権喪失を下手に招くよりはマシということですか。」
「そうです。」
「……分かりました。準備は整えておきます。そど子が残した風紀委員の意地と誇りをお見せしましょう。」
「頼りにしてます。」
「以上ですか?」
「はい。……あ、それとこの事に関する情報が風紀委員内から漏れないように対策をお願いできますか?」
「情報ですか……とりあえず幹部で相談しておきます。」
「いえ、できればお2人で決めてもらいたいのですが。」
「……
(そこまで情報漏洩を気にしますか)」
2人は一度視線を合わせた。それで通じたようだ。
「……検討しておきます。」
「よろしくお願いします。」
「では、失礼します。」
2人は揃って礼儀正しく礼をすると、小山のにこやかな視線を背中に受けながら部屋を去っていった。
扉が閉じられ、さらに奥の部屋からも扉の前閉じた音が続いた時、華が口を開いた。
「いつまで治安が保つか……」
「取り締まれば取り締まるほど住民の方の不満はたまる。だけど取り締まらなければ爆発する。」
「いたちごっこと化しそうですね。」
「取り締まりには限界があります。だからその前に補給を受けられるようにしなくちゃいけない。」
「やはりそこまで長距離は行けませんね。」
「我々にできるのはその限界を伸ばし、交渉の成功を祈ることだけです。」
「あと上海までどれくらい?」
「あと3〜4時間といったところでしょうか?」
前を見ながら田中が舵を握る。
「そろそろだな。」
「だね。何か聞かれても対応できるように先生もここにいてね。」
「もちろんだ。ところで、言う内容はこれで良いのか?」
「嘘つくわけにはいかないでしょう。」
「この時代大洗学園艦は存在しないぞ。」
「でも学園艦はローマ時代からあるから話は通じるでしょう。中国でも明の時代には似たようなものがあったといいますし。」
「まぁいいが、やはり不安だな。」
「この時代日中関係悪いですしね。」
「とりあえず話を聞いてくれるかどうかだな。」
「それは話の持ってきようですね。」
「それで出来るのか?」
「とにかくやってみます。向こうにも相応の利益が与えられればいいわけですから。」
「まぁ、そこは任せる。私に出来るのは通訳くらいだからな。」
「よろしくお願いします。」
その輸送船は大陸を目指して西進を続けた。
「西住ちゃん……」
「どうしました?」
角谷がぼそりと口にした一言に山本が反応する。
「あ、いや、ちょっとね。」
「西住、ってあの戦車道の隊長か?」
「今回もまた苦労かけてるなぁ、と。」
「……角谷くん、西住くんは何者だ?」
「何者、とは?」
「私は戦車道に詳しいわけではないが、あの残り物の戦力で全力のあの黒森峰に勝つのが不可能に近い所業だということは分かる。それを成し遂げ、おまけに社会人さえ撃破する大学生チームを掻き集めの高校生チームで撃破するそのリーダー、西住みほ。彼女は何なんだ?」
「何てことはないです。戦車道とそれを通じた友達作りが得意なだけのそんじょそこらの女子高生ですよ。」
「……本当にか?」
「ええ。変なクマは好きだし言いたいことあっても躊躇するし、友達とは普通に喋りながら帰宅する、そんな子です。」
「……」
「もしかしたら、さらに苦労かけることになってしまうかもしれないですが。」
「……だろうな。それにしても空が青いのは気持ちがいいものだな。」
松阪が窓の外から空を見上げる。そこには雲が細かく、適宜に散らばった空が広がっていた。
「おおー。確かに海ばかり見てたから気づかなかった。」
「こりゃいいね。」
船を操縦する2人も同調する。だが1人、角谷だけは何も動きを見せない。
「……」
「こんな時だ。少しのことでもいいことと捉えないと気が腐るぞ。」
「……本当ですね。」
少し顔を伏せつつあった角谷の方から一瞬の笑い声が漏れた。
「パゾ美、何だと思う?」
「何が?ゴモヨ。」
昼休みの終わりまで彼女らは余裕がある。まぁ食事中ではあるが、邪魔をしない程度の会話は彼女らの精神に背くことではない。
「幹部にさえ統制体制の情報を伝えてはいけないって、余程だと思うけど。」
「情報漏洩を防ぐためだと思うけど?この情報が予定前に漏れて反対運動でも起きたら撤回とかもありえるし。」
「撤回したら影響あるほど補給が厳しい、ということ?」
「そう。ここ2週間弱ほど補給船来てないわけだから、」
「そこよ。」
ゴモヨはパゾ美の目の前にその指を突き出した。
「ど、どこ?」
「なぜ2週間近くも補給船が来ないのか、という話よ。」
「?南の港が急に使えなくなったからって聞いたけど。」
「それでこれほど補給船が来ないのが長期化すると思う?2週間もあったら本土から補給船を出すくらい造作もない事でしょう?」
「確かに……でも実際来てたら倹約体制は解除されるし、それにいくら何でも生徒会が密入船させているとしても船舶科が補給船が入ってきているのを見逃す事はないでしょう。彼女らも倹約体制で被害を受ける人達なんだから。」
「そう、だから補給船が来ていないのは確実ね。だったらなぜこんな長期間補給船は来ないのか?それは、目的はともかく補給をこちらから受け取っていないから、という事になるわ。」
「補給を断っているって事?」
「そう。だとしたらこれほど倹約体制が長期化し、統制体制を導入するのにも納得がいくわ。それに、こちらから日が差している事もね。」
「どういうこと?」
「太陽はどっち?」
「それは……」
窓際に座っていたパゾ美は自分と向かい合うゴモヨの右上に輝く太陽に指を伸ばす。
「船首は?」
パゾ美は少し頭を悩ませたのちに彼女の右どなりにある板ガラスの平面に垂直に刺さるよう指を向けた。
「つまり、この学園艦が向かっているのは南西、ということね。」
「!ということは!」
「そう、この学園艦は補給船が来ないにもかかわらず本土から離れるように航行しているということよ。いくら何でも変じゃない?」
「なぜ!彼女らも食糧とかが不足する事を吉とは思わないんじゃない?」
身を乗り出すように反論してくるパゾ美をゴモヨの手は押し留める。
「まぁまぁ少し落ち着いてよ。倹約体制の間食糧、エネルギーは生徒会の管轄になるわ。つまり生徒会の権限が増える。そして統制体制になればさらに権限が増すわ。
そして今回の情報漏洩の警戒。もし私たちが幹部にこの事を言わなかったらどうなると思う?」
「……私たちに仕事を丸投げしてくる?」
「そうじゃないわ。幹部は私たちに不満を持つはずよ。何せ下手したら国の法律の根本に背く事をやろうとするのに、それの議論にも参加できずに動けと言われるんだから。」
「ということは……」
「そう、もしこのまま生徒会の言うとおりにしたら風紀委員は分裂しかねない。」
「で、でも生徒会としても倹約体制、統制体制の不満を抑えるために風紀委員は必要でしょう?それを分裂させて利益はあるの?」
「……そど子の時は生徒会と風紀委員は一線を画しつつも協力関係を保ってきたわ。
それはなぜか。生徒会は学園艦廃止と戦車道に注力してきて、その間の学園内の治安を守る役目を果たしたのは私たちだった。つまり役割分担を果たしていたわけよ。
だけど学園艦廃止がなくなった今、生徒会がそれを続けるつもりはないとしたら?そして私たちはそど子の後継者として風紀委員を取り仕切っている者たち。」
「つまり、目的は私たちの排除……」
「そして自分たちに従順な風紀委員の確立を目指している。これはまだ確定はしていないけど、警戒する必要はあるはずよ。単に文科省と喧嘩しただけかとも思ったけど、それはさっき向こうが直々に否定したわ。」
「確かに言ってたね。私たちの補給を止めても国に利益はないって……」
「だから、私たちは生徒会が補給船を止めている、もしくは他に補給船がこんな長期間こない理由を突き止めて、場合によっては今の生徒会を引きずり下ろす必要だってあるかもしれないわ。」
「引きずり下ろすといっても、どうやって?」
「ーー。」
「……えっ!」
「それが最善だと思うわ。まぁ、理由の裏付けは取ったほうがいいわね。」
10月18日 中華民国 首都南京
「どうした?」
「閣下、お電話です。」
昼食を済ませ、少し漢書でも読んでから仕事に戻ろうとした男に、付き人が話しかけた。
「誰からだ?」
「上海の呉市長です。」
「ほぅ。すぐに向かう。待っていてもらえ。」
「はっ。」
付き人は執務室へと小走りで去り、蔣は水を一杯もらったのちに執務室へと戻った。付き人から受話器を受け取り、耳に当てる。
「蔣だ。」
『お忙しいところすみません。呉です。』
「どうした?日本軍がまた上海に来たか?」
『……貴方に冗談は似合いません。蔣閣下。』
「……妻からもよく言われる。それで、本題は?」
『いえ、奇妙な船が1隻上海に来たもので、ご報告を、と。』
「奇妙な船?」
『はい。沿岸にいたのを哨戒艇が見つけまして、交渉がしたいなどと北方の言葉でいうので連れてきた次第です。』
「お前言葉は分かるのか?」
『分からないので北方出身の者に聞かせました。それで、その者が言うには男1人、若い女子3人が我々は大洗女子学園なるものから来て、物資が枯渇しているから長期的な援助を求めたいなどと言っているそうです。今その者たちは軍の方に預かってもらっています。』
「どこから来たって?」
『大洗女子学園、だそうです。私この名前は初めて聞いたのですが、蔣閣下はご存知なのですか?』
「……その者たちはどこの出身だか聞いたか?」
『いえ、ですが男は北方の言葉で話しているそうです。』
「男、は?」
『ええ、他の若い女は日本語で話している、との報告です。日本人とみて問題はないかと……』
「やはりか……」
『どうします?このまま密入国の疑いで捕らえることも十分できますが?』
「いや、日本との関係悪化に繋がりかねない。丁重にとまではいかずとも軍の預かりからは解放して少しその者らの言うことを聞いてみてくれ。」
『それでよろしいのですか?』
「構わん。」
『外交部長を通す必要は?』
「汪か。あいつは日本寄りだ。言う必要もあるまい。」
『確かに二つ返事で済みそうですね。それでこちらで北方の言葉が分かる者から話は聞いてみますが、どうやら若い女の中の一人が中心で、男は通訳みたいな扱いだそうです。』
「ふむ……そうか。とりあえず話を聞いておいてくれ。対応はこちらで考える。」
『了解しました。それでは失礼します。』
向こうの回線が途切れたのを確認して、男は受話器を戻した。
「……来たか……とは言ったものの、日本語の上手い奴といえば、張か何か……でも張は今湖北省にいるし、何も北平にいるからな。呼ぶわけにもいかないし…」
執務室の席に着き、頭を悩ませる蔣の正面から聞こえた3度の軽やかなノックが彼の顔を起こさせた。
「ちょっと出てくれ。」
「はい。」
電話の間も微動だにせず立っていた付き人が扉の方に向かう。
「はい?」
「今大丈夫かしら?」
付き人が扉の隙間から蔣の方へと視線を戻す。
「奥様です。」
「美齢か。入れてくれ。」
「はっ。」
付き人がゆっくりと扉を開け、その向こうからチャイナドレスに身を包んだ麗しき淑女が姿を見せた。
「美齢、何の用だ?」
「少し時間があったから寄っただけよ。あまり仕事もないから。」
「そうか……」
(美齢、か。)
妻と目線を合わせていた蔣は少し視線を外して考えこみ、再び電話を手に取った。
「どうしたのよ。」
「少し待っていてくれ。」
「?」
蔣は指を使いある場へ電話が繋がるようにする。電話は少し時間をおいて繋がった。
『はい、呉です。』
「たびたびすまんな。蔣だ。」
『蔣閣下、如何なさいました?』
「例の者たちについて一つ確認して欲しいことがあるのだが。」
『はい?』
「その者たち、英語話せるか?」
『英語、ですか……すみません、現在報告はありません。』
「分かったら一報くれるか?」
『はっ。早急に確認させます。』
「よろしく頼んだ。」
再び蔣は受話器を音を立てて戻した。
「どんな用?」
少しトゲのある声が蔣に来るが、これくらいならもう慣れている。
「もしかしたら、上海に行ってもらうかもしれん。」
「上海?何かあるの?」
「一つ交渉を頼むかもしれない。」