広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。
頑張れ、会長。





広西大洗奮闘記 14 「会話」

「五十鈴さん、工学科に確認は取れましたか?」

「はい。船内の不要な鉄鋼やブロックの隔壁などを切断すれば数は作れる、と言ってますが、代わりに重機を動かすので燃料がほしいとのことです。」

無線を切った華が隣から戻ってくる。

「幸いさらなる値上げのお陰で石油の備蓄の減少は抑えられているので、回してもいいでしょう。」

「しかし鉄鋼15キロトンとは、私たちが伝えておいて何ですが想像もつきませんね。」

「この学園艦の大きさを考えたら微々たるものでしょう。何せ学園艦のブロックの隔壁1つ切り出せば昔の空母の甲板ほどの鉄板が出来上がるのですから。」

「生憎空母の甲板が予想できません。」

「私もです。」

ふふふと少し笑いあい緩んだ空気の中、1つ扉を挟んだ向こうが少し騒がしくなる。

「どうやら、夕方の配給の片付けが終わったみたいですね。」

「もうそんな時間ですか。」

「明日の朝は私が配給担当ですね。」

「五十鈴さん、ちょっと今夜配給行ってきた人を1人呼んできてくれる?」

「あ、はい。」

隣に行った華は間も無く1人の生徒会の者を連れて会長室に入ってきた。その者は背筋をすっと伸ばして小山の前まで来る。小山もそれに椅子をその者の方へ回して応える。

「……それで、配給の際に不審な動きはありましたか?」

「住民の皆さんはもうこの配給に慣れていらっしゃるようで、特に不審な点はありませんでした。しかし……」

「しかし?」

「風紀委員の中に配給後の我々を見張っているような人物がいるようです。幸い早めに気がついて近づくと走り去って行ったので情報の漏洩などは心配しなくて良いかと。」

「走り去ったということは、あまりその人をよく見れなかったのでしょう?なぜ風紀委員と断定できるの?」

「おかっぱだというのは確認できました。」

「……流石にそれだけで断定するわけにはいかないわね。」

小山は背筋を軽く丸めながら肘を肘掛に乗せ頬杖をつく。

「仮に彼女が風紀委員の者ならば、風紀委員は配給の後の我々が気の抜けた時を狙ったのだと思われます。放課後の集合の件といい風紀委員の動きを注視する必要はあるかと思われます。」

「でも、風紀委員は現在深夜の見廻りとか風紀維持はしっかり行ってくれて報告もくれているのでしょう?」

「ですが、それは我々を欺くための偽りという可能性も……」

「とにかく!」

その者の言葉を止めさせるほど小山がいつになく声を荒らげ、肘掛を殴りつける。

「まだ風紀委員の行動かどうか曖昧な現在、こちらから風紀委員を敵対視して行動する訳にはいきません!仮に風紀委員が叛逆の意思を持っておらずにこちらから敵対視して手を切られたら、誰がこの学園艦の反発を抑えるのです!風紀委員が風紀維持の為の行動を止めたら暴動が起こる可能性は増えます!それだけは絶対に避けなければいけません!」

その場にいた者は少し後ずさりした格好で立ち尽くしていた。そこにさらに小山の叫びを聞いた野次馬が隣から入ってくる。その者たちを眺めながら息を整えた小山は柔らかな顔で語りかけた。

「……皆さん、あんこう踊りはしたくないでしょう?」

その場にいた者は無言で一斉に首肯した。

 

翌日。

上海のアパートらしき1室に留め置かれた角谷ら4人はあまりにあまりに暇すぎて机のそれぞれの辺にそれぞれがいてたまにこういう声を順に発していた。

「……いっせーのーせさん!」

机の上には親指を上にした拳が計6つ乗っていた。山本が声を出したタイミングに合わせて親指を上げるものと上げないものがいる。

「……3、だな。」

「よし!」

山本がガッツポーズを作り拳を1つ引っ込める。

「じゃあ次……いっせーのーせゼロ!」

今度はその隣の角谷から無邪気な声が出る。

「……ふっ。」

松阪が指を立てていたため、これは失敗に終わる。

「なに松阪先生勝ち誇ったような顔してらっしゃるんですか?」

「いやぁ、この勝負始めてから角谷くんが一番勝っているから、今回はそれが止められてよかったな、と。」

「そんなのまだ分かりませんよ。このあと1週して誰も上がらないかもしれないですから。」

「まぁそうなんだが……」

「ここ持ってきてくれるご飯はとても美味しいんですけど、外に出れないし騒がしいし、早めに出たいですよ。」

「あまり量ないけどね。」

「それでも配給の量に比べたら十分マシですよ。」

「……やっぱり、苦労かけてるんだな……」

急に角谷の顔と言葉が曇り、船舶科の2人はそれを見て自分たちが言ったことに気づき申し訳なさそうな顔をする。ゲームによって少し良くなった空気は一瞬にして崩された。松阪は教員としてこの場をなんとかしたかったが、自身も必要量ギリギリの配給を貰っている身。何かを言ってこの場の場を固められるはずもない。しかし、しばらくして聞こえた階段を上ってくる数種の足音はその場の空気を再び固めた。

「……誰か来る。」

「飯の時間には早いですよね。」

「とにかく並んで待っておこう。」

扉の前で少し会話が行われ、見張りの者が扉の鍵を開け開いた。

「入るぞ。」

見張りの者とそれに続き何か香港とかの映画に出てきそうな女性とそのボディガードらしき黒服の男が2人部屋に入る。

「椅子。」

女性が言い放つと、黒服が素早く椅子を用意する。女性はそこに腰を下ろす。その様にこの部屋にいる者はこの女性が只者ではないと確信した。

「この方は南京からお越しになったソン メイリン様だ。」

「ソン メイリン……」

角谷は聞き取れた言葉の部分のみを繰り返し、松阪は横一列に並んでいた状況から一歩前に進み出る。

「初めまして、レディ、ソン。私はこの度参りました大洗女子学園の通訳の松阪、と申します。」

ソンは挨拶への返事もせずにただ中国語であいさつした松阪を見つめている。松阪は列にいた角谷を手振りで一歩前前へ出させる。

「に、你好……」

松阪に習って最敬礼しながら数少ない中国語の単語を投げかけると、ソンはクスリと笑って口を開いた。

「Nice to meet you, girls and gentleman.」

「⁉︎」

前に出た2人は目を見開きながら礼を戻す。その目の前でソンは微笑みながらこの4人を見回していた。

 

「では、ソンさん。貴女がいらっしゃったのは我々との交渉の為ですか?」

宋美齢の簡単な自己紹介と今後は英語で会話する、と決めた後に話しだしたのは松阪だ。

「いいえ。私はただ貴方がたと話をするために来たのですよ。」

「話、とは具体的に何でしょう?」

角谷も自身がこれまで習った英語の知識を使い会話を試みる。

「本当に単なる会話ですわ。政治的な議論をするつもりはありません。」

「会話、ですか。とはいうものの、今回の物資補給に関する話でないならば、共にお話することはないと思いますが。」

「補給物資の話ならば簡単に終わりますわ。」

「えっ?」

美齢の顔からにこやかさはいつの間にかなくなっている。

「はっきり言わせていただきますと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中華民国は間違いなく大洗学園艦への物資補給を断るでしょう。」

 

 

昼過ぎ、廊下の外から秒針のカウントより早いペースで足音が響く。まもなく行政院による会議が行われる会議室の中の両サイドに並んだ閣僚の前に、一番遅れて入ってきた蔣が腰を下ろした。

「中全会も近いのに急に集まってもらって、さらに遅れてしまってすまない。1つ報告を受けるのが遅れてしまった。」

「なに、構わんよ。」

席について早々に頭を下げた蔣に言葉をかけたのは財政部長であり妻の姉の夫に当たる孔祥熙だ。

「それよりも、会議を早めに始めてしまいましょう。」

教育部長の王世傑が続く。その声に合わせ場の空気も挨拶を抜きにする方向になっていった。

「それで、今回の概要は外交部から、という形でよろしいでしょうか?」

「良いだろう。一応説明をお願いできるか?」

まず発言した汪精衛の提案に蔣も同意し、汪は礼を言って言葉を続けた。

「それでは皆さん既にご存知だとは思いますが、例の大洗学園艦の件についてです。かの学園艦から提案を受けましたので、それを受け入れるか否かを議論したいと考えております。提案の内容は既にお手元に資料としてご用意しましたのでそちらをご覧ください。」

1人を除き他の各部長は資料をめくり始める。その一人である蔣はしばらく黙ってその様子を眺め、最後の一人だった交通部長の朱家驊が机に資料を戻すと口を開いた。

「それと、今朝空官学校に学園艦の存在を確かめさせたところ、日本から通告された通り全長目測で7キロ以上の化け物じみた空母型の艦が確認された。甲板に相当する部分にかなりの数の住宅が建てられているらしい。」

「なるほど、それが事実ならこの鉄鋼15キロトンやら1万人分の食料を1月分以上というのも納得できるな。」

孔も顎に指を当てて納得した様子だ。

「しかし問題は3年間もの間ここに書かれた量だけ物資を安定して補給させられるかだろうな。一斉に遅れる量も限界がある。」

「……やはりそこですよね。」

「財政部としては無理だな。現在上海など工業都市で共産党の出した八、一宣言に伴うストライキが頻発している。とてもじゃないがまず十分にこれを供給できるか保障できない。」

「外交部としても難しいでしょう。九一八事変(満州事変の中国側の呼称)以後、というより二十一か条の要求を日本が突きつけた時点で我が国の国民は反日に傾いています。この現状で日本人である大洗を受け入れるとなると……」

「……なるほど。軍としても共産党追撃の後は対日に動くことになる。日本との全面戦争になれば幾ら何でも日本海軍に対して大陸から沖縄周辺までの制海権が握れるとは思えない。対日戦が始まるまでに、即ち共産党を倒すまでに3年も掛けるわけにはいかない。が、この大量の鉄鋼は今後の軍備増強に一役買うかもしれない。」

「軍備増強ねぇ……」

「すみません。」

「どうした、騮先?」

手を挙げた朱家驊、字騮先を見た蔣は話を止めさせ、孔も自身の丸い顔を朱の方を向ける。

「それよりも、この大洗というのは何者なんですか?全長7キロもある空母型のものなんて日本でも、いやアメリカでも建造できるとは思えないのですが。」

「情報では日本にもう1隻同様の艦が東京湾の外にあるらしい。それは日本から物資補給を受けているそうだ。」

「……本当ですか?としても、そのような大型の艦2隻に関する情報がCC系から全く流れてこないのは不気味ですな。」

「それに関しては藍衣社からも来ている。だが向こうの代表として来ているのが日本人で、彼女らが日本の学園艦を名乗っているのだからそうとしか考えられん。」

「……」

「艦内のものを貰って全員上陸させて、有能なやつだけ残して秘密裏に山奥にでも追いやってしまったらどうだ?」

「まず全員上陸させるためにわざわざ輸送船を与論島の近くまで送るのか?おまけに山奥に追いやる手間の方が面倒だぞ。秘密裏ならなおさらだ。」

「それに代表として来ている人間でさえ中国のどこの言葉も話せないのだから、有能だとしても使える人間はそんなにいないだろう。日本人が我々の手引きで大量に上陸したのが民衆にばれてさらなるストライキが起こる方が面倒だ。」

「……やはり一度の物資提供が出来れば御の字だな。」

「だが、その一度が民衆にばれて国内が再び混乱でもしたら今は壊滅に近い共産党が息を吹き返すかもしれんぞ。」

「……軍としてはこの鉄鋼と食糧は興味深いのだが、ここまで弊害が大きいのなら諦めた方が良いな。」

「いずれにしても向こうの出した条件で乗るわけにはいかないでしょう。」

「では援助は断る、という方針は良いかな?異議のあるものは挙手を。」

「「異議なし!」」

その場にいた部長たちから一斉に声が聞こえ、誰一人として腕を動かすものはいなかった、はずだった。

「ん?」

しかし、1本だけ腕が天井を向いている。

「すみません、1つ疑問が…」

「騮先か、何だ。些細なことならこのまま賛成多数で決定したいのだが……」

「いえ、その大洗学園艦とやらは航行しているのですか?」

「ああ。雨農から報告を受けた時はもう一つの同型艦の近くにいたそうだが……」

「東京から与論島沖まで、石油を燃料として航行してきたのですか?領内で石油を自給できない日本が?この大きさだと燃費が悲惨なことになると思いますが……」

「……確かにな。では石油では動かしてない、と。」

「私はそう思います。そしてこの大きさの学園艦を動かしている訳ですから、そのエネルギーは我々の人知を超えたものだと。」

「……口を挟んで悪いが、君は何が言いたいのだね?」

孔が腕を組み背もたれに寄りながら顔を朱の方へ回す。

「……この学園艦は、我々と同じ理論の上には成り立っていないのかもしれません。」

「すまない。ますます分からない。」

蔣も孔も眉を潜めながら朱の顔を覗く。

「まさか学園艦が別世界から来たとでも言うのかね?」

「話が向こうと通じていますから、流石に別世界というのは言い過ぎだと思います。しかし、学園艦が我々の知らないエネルギー源を持っている、とは十分に考えられます。そのエネルギーを使うことができれば、我が国に革命的な影響を及ぼすかと。」

「しかし、それを我が国がコントロール出来るのか?しかもそれに投資するにも資金、物資などが要る。それとさらに学園艦に物資補給するなら幾ら何でも割に合わん。」

「外交部としても日本人を受け入れてさらにストライキが頻発されれば、そのエネルギーを用いて支えるための工業力が低下します。その上日本からの情報流出であれば日本との開戦の要因になり兼ねません。ただでさえ戦闘機派遣で刺激しているのですから、これ以上は避けるべきです。」

「……やはり、日本人を受け入れることと物資補給をしなければいけないという2つの弊害に勝る利点は無さそうだな。行政院としてはこの要求は断ろう。」

「……そうですね。」

朱も疼く学者魂を抑え渋々納得した。

「……さて、」

「蔣閣下、他にもあるのですか?」

手をつき背筋を整える蔣に王が問いかける。

「いやいや、この要求を完全に話し合わずに頭から断るのは国として如何なものか、と思ったのだが。」

「つまり、無理な要求を突きつけて断らせた方が他国などの印象もまだ良くなる、と。私はその必要はないと思うが。相手は国家ではないのだから、そもそも対等に議論する必要もない。」

「しかし、相手は日本を離れたとはいえ日本の学園艦ですよ。下手に日本の心象を悪くすることもないと思いますが。」

朱は蔣の方に加勢する。

「とはいっても……万が一相手がこちらの出した無茶な条件を呑んだらそれはまた面倒だろう。」

「向こうは少なくとも数10万人が1日に消費する食糧を持っているのですよね。ならば無茶な要求を突きつければ大人しく引き下がるのではないですか?」

「しかし補給を貰ってない学園艦は孤島のようなものだ。少しでも状況が改善しそうならば食いついてくるかもしれないぞ?」

「食いつかれては困りますよね……」

「やはり万が一のことを考えて、断固受け入れないと伝えた方が宜しいのでは?」

「……そうだな。では、大洗の者たちにはその方向で伝えるとしよう。」

蔣のまとめに周りの者は同意した。

「それと大洗の者たちはこのまま帰すか?」

「将来的に敵となりうるか、ですか。」

直後に孔が言った言葉に反応したのは汪だった。

「ふむ……それは今朝送った美齢の返事次第でいいだろう。」

「奥さんを上海に送ったのですか?」

「あいつは今まで私より多くの人に会ってきた。私よりも人を見る目はあるだろう。」

「確かに美齢なら安心だ。」

孔も賛成の意を表した。蔣は不満のある者はと聞いたが、反論は上がってこない。

「では、美齢の返事を待つとしよう。」

その場で他に議題もなく、行政院の会議はお開きとなった。

 

「……なるほど。」

「貴女が失敗したのは大きく2点。まずは今の中華民国に対する理解、即ち我が国の日本に対する悪印象を甘く見ていらしたこと。もう1つはそちらが要求したのが長期的なことであったのに対し、そちらから提供されるものが短期的なものであったこと。責任を感じる期間はこちらの方が長くなるわけですから、こちらが嫌うのも当然です。」

「……」

角谷は美齢から発される言葉を脳内でできるだけ早く変換しながら理解しようとした。

「……我々との交渉が失敗したら他国に頼るのでしょう?日本から去ったということは、恐らくまた西に。」

「……はい。」

「でしたら、この経験は貴女にとってプラスになったと思います。この先どのように交渉されるかはわかりません。また私も外国の方との付き合いならありますが外交に関しては門外漢なので、忠告するというのもおこがましいかもしれませんが、伝えておきたいことがあります。」

「はい。」

目を一瞬たりとも逸らさない。

「まず、貴女がたが相手国を利用しようとしているのと同時に相手国も貴女がたを利用しようとしているということ。そして、外交というのは利用し合いであるのと同時に騙し合いでもある、ということです。」

「cheating each other……」

「流石にイギリスほどの舌の数は必要ないですが、もう一枚くらいあると便利だと思いますよ。」

「……」

「そして、恐らくそれが貴女がたが生き残る道、なのでしょう。」

「そういうもの、なのですか。」

「そうです。」

「……一つ宜しいですか?」

「何でしょう?」

「貴女は、なぜそのようなことを私に教えてくださるのでしょうか?何処からともなくやってきた怪しい存在なのに。」

「……そうですね。私は未知の世界に飛び込んだことがあるので、貴女に少し共感したからでしょうか……申し訳ありません。詳しくは分かりません。」

「……未知の世界。」

「貴女がたの提案内容と学園艦などから、貴女がたが私の常識を超えた人たちだと推察できます。だとするならば、貴女がたにとって私たちの世界は未知、少なくとも又聞きした世界であるはずです。」

「……その通りです。」

「だからこそ、この世界が貴女がたの常識とは異なるとお伝えしたかったのかもしれません。」

「……ありがとうございます。」

「もう暫くすると貴女がたに要求拒否の通知が来ることでしょう。生憎私がお助け出来るのもここまでです。」

「……私は生憎諦めの悪い人間です。」

「そうですか。」

生徒会長を務め、大学も推薦で受かる角谷だ。美齢からの格式高い英語にもしっかり返す。松阪は一歩下がって口を挟まずに待ち、船舶科の二人は半ば放心状態でオーバーヒートしていた。

「……では、私はこれで。」

美齢が席を立って黒服を一瞥すると、黒服の男は椅子を回収して扉を開く。

「……幸運を。」

最敬礼で見送る4人を背に、美齢はモデル歩きでその部屋を去っていった。扉に再び鍵が掛けられ、足音は徐々に小さくなっていく。それが聞こえなくなった時、角谷は急に足が無くなったように重力に引かれて腰を床に落とした。

「……」

呆然と美齢の去った扉の中央を見つめている。

「……完全に失敗、か。」

「……ええ。」

松阪も両手を腰に当て深くため息をつく。

「……一応返事を待とう。まだ正式に断られた訳ではない。」

「あとは……安全に帰れるかどうか……」

「……」

「小山……ごめん。」

角谷の視線は扉から床に移っていた。

 

もう日が沈み、業務を終える者がちらほら見え始めた頃、総統府の前にやっと車が戻ってきた。

「……やっと着いたわね。」

「お疲れの出ませんように。」

運転手の見送りのもと、美齢は総統府に入り真っ直ぐに蔣のいる執務室に向かう。扉の前にはあの付き人がすっと立って待っていた。

「宋様、蔣閣下がお待ちです。」

「分かったわ。」

中に案内されると既に蔣の机の前で椅子が準備を整えていた。用意が良いことだ。

「美齢、待ってたぞ。」

「それで、早速報告した方が良いかしら?」

「そのために来たのだろう?」

「ええ。」

椅子の前に立つと付き人が後ろから椅子を軽く押す。その力加減が丁度良く、美齢は心地良く着席できた。

「それで、大洗の代表らしき少女は我々の敵となると思うか?」

「敵とはなりえない可能性が高いと思うわ。」

「……ほう。それはなぜ?」

「彼女はリーダーとしては優秀だと思うわ。彼女がリーダーとなれば人はついて行こうとする。だけどそれはその集団内での話。彼女は正直で、さらに経験が足りないがゆえに外交や政争に弱い。仮に我々と仲の悪い国に行ったとしても政争などで追い落とされる可能性が高いと思うわ。」

「……我々と直接戦うトップにはならないと。」

「ええ。それで、彼女たちは如何するの?」

「敵となりえないなら、日本との関係をわざわざ悪化させる必要もない。」

「……」

「このまま帰そう。」




今まで出た歴史上の人物は
次の解説編で紹介します。
多分紹介すると思う。
紹介するんじゃないかな?
まぁちょっと覚悟はしておいてね。

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