広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。



広西大洗奮闘記 16 僥倖を任す人

翌日の10月20日の夕方、交渉は一切しないと書かれた通知を片手に四人はまた銃を突きつけられつつトラックに載せられ、最初に入港した軍港に連れてこられた。トラックから降ろされると前には乗ってきた輸送船がちゃんと停泊していた。

「お前たちはこれから戻ってもらう。備品は基本そのままだ。ただし上海から出航してからしばらくは哨戒艇を護衛につける。」

その場にいた兵から松阪を通じて角谷が問う。

「しばらく、ってどれくらい?」

「1時間程と聞いている。それと、お前たちに会いたいと言っていらっしゃる方がいる。」

「私たちに?」

すると兵の後ろからスーツ姿のメガネの男が姿を見せた。

「大洗の者たちよ。」

しかし男の言葉は松阪には分からず戸惑ったような所作を見せたため、男は一息ついて後ろに来ていたまた別の者を呼んだ。

「おい、こいつらに北の言葉で挨拶してやれ。」

「はっ。」

呼ばれた男は前に進み出て角谷たちに大きく礼をする。

「出航前に失礼する。この方は上海市長の呉閣下だ。」

「上海市長!」

松阪の驚きようを見た角谷が聞くが、その返事を聞いた直後二人は揃って呉に最敬礼を示した。

「……上海市長が我々にどのような用でございますか?」

「いや、はるばるここに来た者たちに少し興味を持ったのと、このご時世に食料を食っておきながら我々に利益が無いことへの恨み節をぶつけようと思っただけさ。」

「……山本くん、田中くん。」

「えっ、あ、はい。」

2人より下がって頭の回路を数本切らしていた船舶科の者たちはそれらを再び繋げる。

「君たちは我々の持ってきた食料を4人の1日分だけ残してほかは持ってきてくれるか?美味い食事をもらった礼だ。」

「は、はい!」

駆け出した2人を見ながら呉は隣の者に言いかける。その者がどうしたのかと聞くので松阪は利益だと答えた。

「……それで、君たちはなぜこの国に来た。私は君たちを日本の艦から来た者と聞いているが、援助を求めるならそのまま日本にいた方が良かったのではないかね?」

「……私は詳しいことは分かりませんが、トップに聞いている暇もないのでお答えしますと、貴国は未来も残り続けるでしょう。」

「日本が滅ぶとでも言うのかね?というより、なぜ君たちがそのようなことを知っている?」

「貴国と日本は将来的に戦争に突入するでしょう、それも予期しない時に。そして、そのとき勝つのは貴国だ。貴国は日本よりも多くの味方と自国の民の力を用いてこれに勝利するでしょう。」

「……予言か?」

「いえ、私たちが知り得ている情報から考えられることです。」

「……」

「だからこそ、我々は勝ちそうな国と共にいようとした訳です。」

「……君たちは我が国を理解してないか未来が読める、どちらだろうな?」

「理解してないのだと思いますよ。この前面会した方にもそう言われましたから。」

「……そうか。」

その頃、やっと船内から船舶科の2人が袋を背負って出てきた。

「食料……少し残して持ってきました。」

「ありがとう。こっちに置いてくれ。」

「はい……」

足元に置かれた袋を開けまじまじと見つめた呉はまた隣の者を通じて聞いてきた。

「これは何だ?」

「保存が効く食料です。冷暗所に保存しておけばかなり保ちます。」

「どの位だ?」

「えっと……」

松阪は上の方にあった銀のパックの一つを手に取りじっと眺める。消費期限らしきところには2014の四文字。

「2年後まで大丈夫ですね。」

「⁉︎見た目よりも長く持つのだな。」

「生憎数はありませんし、礼としても微妙だとは思いますが、どうぞお使いください。」

呉は近くにいた兵を2人ほど呼び、袋を背負わせると一言礼を言って帰って行った。

「話は終わったか。」

先程の兵が銃を携え寄ってくる。

「ええ、お願いします。」

「ではとっとと乗り込め。すぐに出航するぞ!」

松阪は少し悪いと思いつつも生徒たちを急かして船に乗り込ませる。そして哨戒艇の出航を示す青い四角の旗が掲げられたのを確認して、田中が舵を握って4人は上海を離れた。

軍港を離れてしまえば辺りは真っ暗だ。4人はテレビなどで見た上海の夜景イメージとはかけ離れた様を見て、やはり過去というのが事実であるということを見にしみさせた。

 

 

小山は夜中、眠っていた頃に耳を突く緊急無線の音で目を覚ました。隣で寝ている華が目を覚ましていないところを見るとどうやら自分はよく眠れていなかった模様だ。

とにかく体を一つ伸ばして少しふらつきつつ隣に向かい、イヤホンを耳に差し込む。ボタンを押した瞬間、けたたましい音がさらに鼓膜を刺激し、寝ぼけていた小山の脳を強制的に目覚めさせる。

「……はい。生徒会の小山です。何ですかこんな時間」

「副会長!会長が!角谷会長が!」

少しイラつきながら答えているとその声を遮るようにまた鼓膜刺激させられる。

「どなたですか!」

「あ、すみません。船舶科艦長の大橋です。ですが本当に艦橋に来てください!角谷会長が帰ってこられます!」

「会長が……分かりました!すぐに向かいます!」

小山は素早く会話を切り、制服の上着をパッと羽織って音を立てる間もなく生徒会室を去った。外に出た小山は異様な暖かさを肌身で感じた。夏、までとは言えないが初夏と言われれば十分納得できる気温である。

学園艦は予定通り南に向かっている。だがこれから会長が帰ってこられるなら少し速度を上げるのだろうか、そんなことを考えながら自転車に跨り街灯も余りない道を駆ける。だが、間もなく小山は誰かに呼び止められた。

「ちょっとそこの自転車の人!こっちに来なさい!」

明かりを持って呼び止めたのはおかっぱの2人の女だ。つまり、風紀委員だ。小山は言われた通り彼女らの前で自転車を止める。

「貴女今何時だと思っ……て、副会長さん?」

「こんな時間までご苦労様です。」

「あ、ありがとうございます。て、そうじゃなくて、こんな時間に何してらっしゃるのです?外出禁止の時間ですよ。」

「すみません。艦橋から呼び出されたもので。」

「船舶科からですか?一体何です?」

「角谷会長が補給を受けられるようになるか交渉に向かわれていたのでその結果を聞きに行くんです。」

「角谷会長、そんなことなさってたのですか?そういうことなら。」

「ありがとうございます。一応このことは内密に。」

小山はにこやかな顔の前に指を立てた後再び自転車を走らせた。

そのまま艦橋の下に自転車を止めた小山は急いで階段を駆け上がると、上で白い船形帽をかぶった船舶科の1人に呼び止められ操舵室に案内された。

「失礼します。小山副会長です。」

「大橋さん!会長からの無線は!」

「こちらです。」

蜂の巣を突いたような騒ぎを通り抜けて艦長の前に進む。手渡されたヘッドホンを頭にはめて少し痛みを堪えながら無線を繋いでもらう。

「こちら大洗女子学園学園艦、大洗女子学園学園艦。応答願います。」

ドラマか何かで聞いたような言葉で小山は聞いたが、返事はない。

「……会長!小山です!」

「ああ、小山か……」

「交渉の結果はどうなりましたか!」

「……」

「会長!」

「……」

「……会長?」

「……すまない。完全に、失敗だ。」

「……」

「交渉そのものを向こうから打ち切られたよ。」

「……そうですか……」

「小山には、無理してもらってまで提案内容を書いてもらったのに、すまない。」

「……いえ、まだ、私たちは終わっていません。まだ次があります。」

「……」

「いつ、戻っていらっしゃいますか?」

「今日の夜中、だそうだ。上海から5時間以上乗っているが、上海からは一日かかるらしい。」

「今夜、ですか。」

「本当にすまない。」

「次、頑張りましょう。」

「……うん。」

角谷は今まで利益の得られない交渉を経験したことがない。それゆえに今回の出来事にショックを抱いていた。

「後一つお願いがあるのですが、今回購買から販売品の不足のため食糧、燃料以外のさらなる備蓄放出を求められたのですが、その為には統制体制の導入が必要になるんです。その許可を頂けますか?」

「……いいよ。」

「ありがとうございます。それとそれに伴いまして、これにより学園への反発が高まることが予想されますので、風紀委員への権限を強化したいのですがよろしいですか?」

「……具体的には?」

「反対行動実施者、計画者の統制体制終了までの拘束と取り締まり時の簡易的な自衛道具の所持の許可、といったところでしょうか?」

「……ふむ……日本はもう、関係ないからね。」

「日本で決められた法は無視しても取り締まられません。」

「……おっけー。それでよろしく。」

「では、前者は明日、後者は今日の昼には発令の用意を済ませます。」

「……よろしくね。」

「それでは、また今夜。」

「……ああ。」

最後の返事を確認して小山はヘッドホンを外して待っていた無線士に渡す。彼女らは引き続き角谷らの乗る輸送船に位置情報を提供しなくてはならないのだ。

「今夜戻ってらっしゃるそうですね。」

「ええ、その前にご一報入れます。」

「ありがとうございます。」

「誰か、下まで送ってやれ。」

小山は一礼して部屋を出て、付添いの人と共に下まで降りていった。

「……はぁ。」

「どうしました?大橋艦長?」

「いや、なぜ小山副会長は交渉を断られてもあの様に冷静にいられるんだろうな、と思ってな。あの人もこの先責任が増すんだぞ。」

「それは我々も変わりませんよ。」

「……それもそうだな。」

 

 

「それは本当なの?」

「ええ、夜間行動の見回りをしていた者から聞いた話だと小山副会長が直々にそう言っていたそうよ。」

日曜日にも関わらず朝早く、眠い頭を叩き起こしてゴモヨとパゾ美は学園に急ぐ。

「そして、補給を受け取れる様に交渉をしてきた、と。」

「ええ。これはチャンスよ。」

「へ?」

「補給が貰えるとしたら倹約体制打ち切るだろうし、貰えなければ統制体制が導入されるきっかけになるかもしれないわ。」

「つまり、それで向こうの動向が分かる。」

「それだけじゃない。帰ってくるなら補給船ドックに戻ってくるはず。そこに調査をさせれば詳しい動向が分かるかもしれないわ。」

「今朝行きがけにヤボクを呼び出したのはその為だったのね。」

「角谷会長が戻ってくるまで時間は余りないわ。すぐに動きましょう。」

気がつくともう彼女らは校門の前にたどり着いていた。すぐさま風紀委員会の部屋に飛び込み、資料を調べはじめた。しばらくして良い感じに資料が上がってきたころ、駆けてくる足音の後に扉がノックされた。

「会長、ヤボクっす。」

「入りなさい。」

丸メガネのおかっぱは中に少し控えめに入ってきた。

「こんな朝早くになんすか?」

「一つ頼みたいことがあるんだけど、その前に貴女は何か情報を得ているの?」

「特にないっす。」

「角谷会長に関しても?」

「いえ、特にウチには来てないっす。」

「……そう。それで頼みたいことは、今日、明日に学園艦のドックに潜入する委員を選んで欲しいの。角谷会長が補給を求めて艦外に出てらっしゃるという情報が入ったわ。その確認と生徒会の動向を見るためにドックに貴女の所から誰か潜入させて欲しいの。」

「潜入っすか?」

「そうよ。」

「待ってくださいよ。無理無理無理っす!確かにウチら学園艦店舗運営補佐担当は違反の疑いのある店舗の調査とかを仕事にしてますけど潜入とかそこら辺は門外漢っす!そんなことできる奴がいるわけないじゃないっすか!」

「でもよ!これさえ出来れば向こうの動きの詳細を掴めるかもしれないのよ!」

「ばれたらどうしようもないじゃないですか!しかもそれが風紀委員の者だとばれたらウチらもただじゃすまないっすよ!現状は生徒会と風紀委員は協力関係なんすから。」

「……でも貴女たちのところ以外に出来るところなんてないじゃない。」

その後もゴモヨとヤボクの口論は続いた。確かに情報を掴める確証はない。その為に潜入に慣れていない者を送る。それは確かにリスクが高すぎた。

「……あのー。」

その口論の中、おずおずとパゾ美が手を挙げた。

「何よ!」

「一つ提案なんだけど、秋山さんに潜入して貰うっていうのは?」

「秋山さん?誰っすか?」

「戦車道の人よ。確かにあの人は潜入とか得意だけど、戦車道にも関連しないのに潜入してくれるかしら?」

「でも受けてくれたら風紀委員を送るよりよっぽど都合がいいよ。風紀委員じゃないんだし。」

「……確かにそうね。万一ばれても風紀委員とは縁がないと言い逃れが効くわ。」

顎に指をかけ思案する。

「だったらその人にして貰えばいいじゃないっすか。」

「確かに賭ける価値はあるわ。じゃあ呼び出して話をしておきたいのだけど……」

「生徒会に聞かれると面倒だよね。」

「じゃあクラスの風紀委員を通じて直に呼び出せば良いわ。確か秋山さんは二年普通2科C組だったわね。」

「えっと、そうだね。合ってる。」

「じゃあパゾ美!朝そのクラスの風紀委員を捕まえて事情を言って秋山さんを……いつ連れてきてもらおうかしら?」

「昼っすかね?」

「そうね。じゃあ食事後に呼んで頂戴。」

「分かった、行ってくるよ。配給の時に校門の所で捕まえればいい?」

「顔は分かるわね?」

「勿論。」

「じゃあ頼んだわ。」

パゾ美はすぐに部屋を飛び出していった。配給が開始する前に配給所の一つの学校に来るものが多いのでうかうかしてはいられない。

「ヤボクは引き続き生徒会の動向と会長の行き先について重点的に調べて頂戴。」

「了解っす!」

ヤボクもまた同様に部屋を出て行った。ゴモヨも授業に遅れる前に"秋山さん"に伝える内容を纏める。これは風紀委員から彼女に頼むもの。向こうに利はない。だが、それでもやらなくてはいけない。それがこの学園艦、そして学園を護る風紀委員の務めなのだから。

 

 

角谷とその一行は輸送船の中で漫然と過ごしていた。

「……えっと、盗難されたと思われるものが数点あります。」

「……そう。活動に支障は?」

「ありません。ただ鍋の数が足りない程度ですし。」

「あ、そう。他には?」

「天気は平穏です。学園艦からの報告だと到着予定の少し前から雨になるそうです。」

「まぁ、でも雨で沈むような船じゃないでしょ。」

「報告は以上です。」

「じゃ……頑張ってねー。」

角谷はそのまま船舶科の2人を残して操舵室を去っていった。

「……会長、元気ありませんね。」

「そりゃあ、ねぇ。あそこまで意気消沈されるとこちらも不安になってくるんだけど……」

「といっても、我々は中国語のちの字も分からないから、こういう形でしか協力出来ないしね。まぁ、細かいことは上に任せた方がいいよ。」

「……それにしても、行きもしんどいのに帰りはさらにしんどいってなんなのよ。」

「帰ったらさ、休み貰わない?」

「あ、それいいね!」

「だって2人で40時間は操縦と通信したわけだし。」

「……それ、5日分だね。そして、私たちが出かけていたのは5日、丁度。」

「……あ。」

「……」

「……うん、なんか、期待させてごめん。」

「……いや、日常生活に戻るだけだから……」

顔から生気が急速に奪われた二人は無線と舵に手を戻そうとした。

「何?休暇?」

その時、松阪がちょっと寝癖の残った頭でこちらに来た。

「あ、松阪先生。おはようございます。」

「いやー長く寝ちまってすまんね。それで、休暇もくれないなんて何で船舶科はそんなにブラックなんだい?」

「……いや、5日で5日分仕事したからですが?」

「いや、軟禁されてた分も業務に含んでいいだろう。もし貰えないと言われたら私が直に交渉してやる。」

「……え、あれって飯もらって部屋でぐーたらしてただけですけど?それと腰の黒い物に怯えたくらい?」

「……威圧されるほどなんだから業務でいいだろ。」

「……本当にいいんですか?」

「私もこの様子だと次の仕事がありそうだけど、取り敢えずこの船の中は休みだ。だが君たちは学園艦に帰る前まで仕事があるんだ。休んでもバチは当たらないさ。」

「……キター‼︎」

「帰ったら寝るぞ‼︎熟睡万歳‼︎」

言葉を聞いて一旦電源を切ってから付け直してから一気に狂乱演舞しだす二人を見た松阪は船舶科の業務の忙しさに少し怯えた。

 

 

角谷は不安に襲われていた。次の交渉先が交渉に失敗した際にこうして帰してくれるとは限らない。さらに学園にも長期的な負担をかける事になる。今回の偶然に感謝しつつも次の交渉への不安は少しずつ角谷の堅い心を削り取っていった。

 

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