広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。
海上保安庁でその人は時報となった。


広西大洗奮闘記 20 騎士と母と水墨画

「小山ー、それで買取を始めたのはいいけど、売れ行きはどうなの?」

「ええ、今日1日1200万円相当の品と交換できたそうです。」

「200万円か……午後から始めたにしては上々かな?」

角谷はその言葉に少し安心したのか、干し芋を摘み出した。今日は最近では珍しく2枚目に躊躇なく手をつける。

「ですが、不要のブランド物や化粧品とかも混じっているので、とくに後者なんかは素直に喜んでいいのか……」

「交渉相手で前みたいに女性が出てきたらいいだろうけど、そうもいかないだろうねぇ。引き続き買い続けるように言ってくれる?貴金属だったらどんな高値でもいいから。」

「分かりました。」

「やっぱりね、金銀とかならどの国でも重宝されるからね。」

「そこら辺は少ないですね。やはり公立の高校に通っていらっしゃる方が殆どですから、言ったら悪いですが余りそういう物を持っていらっしゃる方が少ないのかも……」

「まぁ、交渉に使えそうな高価な物が手に入ればいいから。あとさ……」

角谷は机の上の数冊の書籍が横たわってできた山を指差す。

「香港に関する資料なんてウチの学校結構あるもんだね。」

「本当ですね。確か香港ってアヘン戦争後にイギリスが租借したんですよね。」

「そして私たちの世界だと1997年に返還された、んだけど今の世界だと普通にイギリスのアジアの拠点の一つだ。そして今の香港のトップの香港総督は Sir William Peel氏だ。因みにあと2月で変わるらしいけどね。」

「Sir、ということは騎士ですから偉い方なのでは?」

「その人相手かは分かんないけど交渉する必要はあるね。で、今提案内容打ち込んでるんだけど英訳が面倒でさー。しかも松阪先生試験準備があるから出発当日までは余り協力出来ないって言われちゃったんだよね。まぁイギリス英語は何とかなるからいいんだけど。」

角谷は目の前のパソコンを開き、キーボードを叩き始める。

「何とかなるんですか……やはり会長はすごいですね。」

「いやぁー、それほどでもないよ。まだ文面は半分しか完成してないし。明日終わるかなぁーこれ。とりあえず中華民国に提案したのを修正、追加しつつ文面組んでるから。」

「追加って何を加えるんですか?」

「前回の内容はこちらが向こうに長期的な補給を求めたのに対して、こちらは一回あげて終わるものしか無かった。だから今度はこちらから向こうに長期的な利益となるものも含めるのさ。」

「とはいっても、この学園艦に工場とかはありませんし、長期的に物資を供給することは出来ないのでは?」

それを聞いた角谷の顔は笑っているのか悲しんでいるのか分からない。

「……小山、この学園艦にあるものはモノだけじゃないぞ。」

「技術ですか?」

「それもあるが、次がイギリスだからこそ伝えられるものがある。」

「イギリスだからこそ?」

「……今回こそが、戦車道を売り込むチャンスなのさ。」

「イギリスにですか。確かに戦車道には参加していたとは思いますが、余り戦前戦車道でのイギリスのイメージが無いのですが?」

「だけど世界で始めて戦車を使ったのはイギリスだからねぇ。売り込む価値はあるよ。」

「なるほど……西住さん達には申し訳有りませんが……」

「香港も確かに日本には占領されるけど、中国の泥沼に巻き込まれるよりかはマシさ。それにイギリスなら流石に女性を軍人に組み入れたりはしないだろうしね。もしかしたらその前に離れる算段もつくかもしれない。」

「日本が宣戦するのは1941年の末ですからね。そう考えれば安心かもしれません。」

「それを含めて、あとこれも付けようと考えてる。」

角谷はメモ書きのようなものを小山の前に見せた。

「何ですか?えっと……農水産業増強計画(仮)?」

「一応書いては無いんだけど、将来的に援助ではなく交易という形で物資を受け取れるようになれないかな、と。」

「農業科、水産科の強化により学園艦のみで食糧を自給できるようにする、ですか。」

「学園艦の住宅、学園地域以外を開墾して農地を増やしてね。」

「これは向こうに聞かなければ分かりませんが、人員が足りますかね?」

「補給が受けられるようになって沖合に停泊できれば船舶科の人員に余裕が出来るはずだから、それを回そうと思っているよ。」

「これはちょっと農業科、水産科には聞けませんし、船舶科にどれ位余裕が出来そうか確認を取ってみます。」

「あとさ、開墾に必要な重機を動かす分の石油計算しといてくれる?必要なら更に価格を上げざるを得ないから。」

「向こうに回しておきます。が、夜も遅いので計算は明日になるかと。」

「ありがとう、頼んだよ。」

小山は渡されたメモ書きを握りながら隣の部屋に向かった。

「……サンダースとかならともかく、やっぱりウチの学園艦じゃあ長期的な対価は厳しいよなぁ……一時的に渡すものがどれだけ多いか、そこになってしまうんだよなぁ……」

 

 

優花里は部屋で机の上に世界史の教科書を乗せて思索を始めた。目的は昼間沙織が何を言っていたのか理解するためである。

(もし武部殿が仰っていたことが本当ならば、冷泉殿は生徒会を手伝っていることになりますが、西住殿からも冷泉殿の遅刻が増えたとは聞いていませんし、授業を受けない日は特に無いと聞きました。冷泉殿が生徒会に協力していると決めるのは拙速であります。

しかし、エチオピア侵攻ですか……それとこの大洗学園艦に何の関係があるのやら……)

優花里は机の上の教科書を開きそのページに書かれた文を読み直す。中華民国、統制体制、学園艦、補給途絶、その他今回の件について関係ありそうな文言を思い浮かべるが、これといって当たるものもない。論理として以前にそれらを自らから遮る大いなる壁の存在を感じた気がした。

「……試験も近いうえに度々で申し訳ないですが、またエルヴィン殿に相談するしかなさそうでありますな。」

自分の不甲斐なさにため息をついて優花里は教科書をたたみ棚に戻した。

 

 

翌日10月24日、この日は試験の前日ということもあり、授業は4限で終わった。その後家で昼食をとり、ちょっと散歩に出かける。一夜漬けは運動でもして血流を少し良くしてからやった方が効率が良い。西から雲が近づいてきているが、陽には被らずさんさんと照っている。

優花里は甲板から下に降りテラスの方に向かった。この統制体制の御時世のせいかすれ違う人もいない。だからこそ、ただでさえ目立つ格好の人はすぐに見つかる。

「エルヴィン殿。」

「おおグデーリアン、ここにいたか。」

「折角ですし、話はベンチに座りながらでも。」

「そうだな。」

ちょうど出会った場所の近くにベンチがあったのでそこで話すことにした。海を向いて2つあったので左側に腰掛ける。しかし座ってすぐは2人は話さず、ただ柵の向こうに途絶えつつみえる水平線を補完する。

「……あの時も、ここだったかな?」

目を細めつつ空を眺めるエルヴィンがぼそりと口にした。

「何時でありますか?」

「……黒森峰との決勝戦の前日さ。」

「あの日ですか。」

「あの日、私は、いや私たちは皆でここら辺のベンチに腰掛けてカツ丼を食ってたんだ。縁起をカツいだって訳だ。」

「そういえば、こちらもあんこうチームの皆さんとカツを食べましたな。」

「そちらもか。まぁいい。その時は勝てば、黒森峰に勝つのが如何に難しいか分かっていても、私たちのこの学園艦は守られるものだという純粋、な希望があった。」

「ですが、我々はその時の皆さんとさらに他の方の協力まで得て此処を守りました。」

「そう、守ったさ……でも、私は今の学園艦が残ったこの状況を素直には喜べない。」

「何が起こっているのか、分からない。だからこそ、調べる意味がある、のでありますか?」

「そうだな。それで、今日はどうした?」

「昨日武部殿から冷泉殿について聞くことができまして。」

「冷泉さんか?あの人がどうした。」

優花里は沙織から聞いたことを思い出せる限り伝えた。そして最後にこれは又聞きですがと付け加えた。

「……本当に冷泉さんがそう言ったのか?」

「私も疑いましたが、武部殿がそう嘘をつく理由もないと思います。」

「なるほど、だとして武部さんが話していることが真だとすれば、冷泉さんは少なくとも生徒会に参加しようとしている。」

「ですが、西住殿曰く冷泉殿の生活が大きく変わった様子は見受けられない、とのことです。」

「参加してないこともあり得る訳か。しかし冷泉さんの能力を知っている生徒会の人や五十鈴さんがみすみす放っておくというのも変な気がするな。」

「そこで私はこれから風紀委員に協力しつつ情報を集めたいと思っています。」

「風紀委員か?確かにグデーリアンは協力したことがあるがこれ以上協力する価値はあるのか?」

「風紀委員の方は独自で情報を集めていらっしゃいます。私たちだけでは調べられないこともご存知かもしれません。」

「ふーむ……すまないが、私はちょっと距離を取らせてもらいたい。私は風紀委員に口答えしたことがある身だ。とても協力を素直に受け入れて貰えるとは思えない。」

「ああ、そうでしたね。では私は協力して情報は出来る限りエルヴィン殿にもお伝え致します。」

「だが、これから試験期間だ。あの風紀委員が調査を優先するとは思えない。試験期間は捗らないだろうな。」

「まぁ、試験終わるまでに万事解決しているのが理想でありますが。では試験が終わってから協力していきたいと思います。」

「頼んだ。それと、1つ気になるのは、」

「やはりエチオピア侵攻でありますか?」

「それで何故あのような発言に繋がるのか、私も分からない。一応私も知ってはいるが、陸のラジオの特集か何かを拾ったものだろうな。今回の件と関係があるとは思えない。流石に中華民国が台湾ではないというのも考え直せば暴論だしな。」

「陸のラジオを拾った、ですか。そんなところでありましょうな。」

「まぁ、今後も協力していけばいい。私は親に会えると分かれば満足さ。そろそろ戻るか。流石に留年はしたくないからな。」

「ですね。では、今度は試験後でありますかね?」

「そうだな。ではな。」

エルヴィンは一人席を立ち先にそのベンチを離れていった。優花里は続いて帰ろうと思ったが、何故か身体に力が上手くかからない。何も、分からない。エルヴィン殿は暴論と仰ったが、それも我々にとって都合のいい暴論ではないかと疑いたくなる。

「……本土のラジオ……で、ありますよね。」

それの否定がどうなるかは。

 

 

信じられない。だが、彼女にとっては見慣れつつある光景だ。百歩譲って襖の向こうから

「菊代、今日はもう1杯頂くわ。」

というならまだ分かる。それでも百歩譲ってなのは奥様はそこら辺の節度はしっかりわきまえた方だと身をもって知っているからだ。仕事でも飲むことはあるが、その時は仕事スイッチでも入るのか酔って帰ってくることはない。

「菊代ぉ〜、早くもう1杯持ってきなさいよ〜。」

だからこそ、こんな声が聞こえてくることはありえなかった筈なのだ。しかもこれが今日初めてではないのなら尚更だ。

 

奥様はあの日以来こんな感じである。毎日のように海上保安庁に電話を掛けては受付の人にウザがられている。どうやら人工衛星による映像までも捜査に導入したが、まだあの日の8隻の学園艦は1つとして見つかってはいないらしい。文部科学大臣が辞任したがそんなことはどうでもいい。

問題は、その8隻の学園艦にこの家のお嬢様2人が乗っていらしたことだった。今日こそは奥様のこれをお止めせねばなるまい。

「奥様。」

「菊代〜。次。」

「ご無礼を承知で申します。これ程までに酒をお飲みになるとこの先の行動にも支障が生じます。今日はこの程度でお止めください。西住流は前に進む武道、ここで立ち止まるわけにはいかないでしょう。」

「……煩いわね、家政婦の分際で。それに貴女は西住流の者ではないじゃない。」

「承知の上です。ですが、既に世間では奥様に対し悪評が立っていると聞きます。西住流が蔑まされることは奥様の望むところではないでしょう。」

「……」

「私は西住の家に仕える者としてそのようなことを放って置くわけにはいきません。お二人が帰っていらした時に、奥様は今のような無様なお姿をお見せになるのですか。」

「分かってるわよ!」

西住しほは左手の拳で机を思いっきり叩いた。右手に握られたコップの中の酒が激しく波面を作る。

「でしたら、尚更」

「だけど私はどうすればいいのよ!家元を継いだと思ったら後継者を二人とも失うなんて!まほは……まだ甘かったけれど、将来、私が継がせる時はしっかりした西住流の後継者になってくれる。みほとはまだ和解出来てないのに……」

「……」

「みほは、あの子は西住流ではない。でも、今後の日本の戦車道にも必要な子よ。まほが詰まった時もみほが助けられるだろうし、みほが詰まってもまほが助けるわ。2人が揃って、初めて西住流も日本の戦車道もこの先何十年も上手く回る、のに……」

いつの間にはしほの目からは涙が2筋流れていた。

「もう、世界大会の委員も辞めざるを得なくなってしまった……先祖にも顔向けできないわ。そしてまほとみほがいなくなってもう二週間……。どうしてよ。本当にどうしてこうなったのよ!二人ともちゃんと母に姿を見せなさいよ!」

しほは二人の名前を交互に呼びながら机に突っ伏して号泣し始めた。そうだ。なぜ私は忘れていたのだろう。彼女は母だ。娘たちの無事を心配する1人の母親だ。それが故に彼女は自分の現在の絶望を忘れようとするが、それと西住流家元としての意思がせめぎ合い、そのことさえも忘れようとしているのだ。

これだけは残念ながら私には出来ないことだ。ただ、その時を。あの2人が私たちの前に姿を見せる時を信じよう、どのような姿であれ。

 

 

中華民国 桂林

「徳鄰。」

その部屋に1人の顔がのっぺりとした男が入ってきた。奥にいるまた別の者に話しかける。

「健生か。どうした。」

その者は並んだ歯を見せながら答える。のっぺりとした男は書類を確認しながら答えた。

「部下が新たな蔣の政府の動向を拾ってきた。」

「ほう、それで?」

「どうやら、大洗学園艦なるものの来航を断ったらしい。」

「何だそれは?学園艦なら分かるが、どこのやつだ?まぁ、蔣も何者か分からんやつを泊めたりはしないだろうな。」

「それで、その学園艦が南下しているという話があるんだが。」

「ウチには関係ないな。というより、学園艦クラスなんざを受け入れる、そんな余裕があるわけないだろう、東も。それより、自警団の訓練は進んでいるか?」

「ぼちぼちだな。まぁ、いざという時はかなりの数を動かせるが、増強を進ませすぎると蔣にまた睨まれかねないからな。」

「金も十分とはいえんしなぁ。東もデモ騒ぎが続いているというしどうしたものか……」

「まぁ、それは東との交渉次第だろうさ。」

「それで、共産党の奴らの第1波は陝西まで着いたらしいな。」

「ソビエト自治区か。そして蔣はそれを追撃せんとしている、か。」

「我々は方針を変えずにいればいいさ。」

礼送出共をな、と付けて部屋の主は席を立った。

「しかし、我々も考えなければならないな。共産党が生き残ったということはまだ蔣は戦いを続けるだろう。そしてそれが終わった後に牙をむくとなれば、」

「ウチか東か馮か閻か龍か……日本、か。」

「我々は蔣が牙をむく前に戦うか、これからも蔣と組んで日本と戦うか。」

「前者の為の東との提携だったな。しかし、蔣の政権は諸外国から認められていて正統性がある。そして前それをやって我々は大いに失敗しただろう。そして今度こそは日本が内戦に介入する。

仮にこちらについても、どちらかが勝てないように調整してくるだろう。」

「かといって、我々が団結しても、国力差から考えて日本に勝てるのか?我々は今まで少数民族の反発を抑え込んできた。戦争となれば反発は増すだろう。つまり日本と対峙すれば内憂外患の状況で戦わなければならない。」

「どちらを背負っても厳しいな……」

「我々は八、一宣言を現在支持していない。」

「そりゃ、そんなことしたら黄がブチ切れるわ。」

「だが、蔣と対峙するならそれも考慮に入れざるを得ない。」

「……本当に考えることが山ほどあって気が滅入りそうだ。」

のっぺりとした男は持ってきていた書類に再び目を落とした。

「気になるか?その学園艦。」

部屋の主は立ちながら思い切り歯を見せつけて笑いかける。

「いや、蔣の政権の状況で蔣と『交渉』に持ち込めるとは、どんな者たちなのだろうか、とな。普通は門前払いだろう。」




いやぁやっと20話まで来ましたね。
これからもまだまだ続きます!お楽しみに!
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