広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。
人は人を手段としてしか見なすことが出来ない。しかし人は人が人から手段と見なされていることを知ることが出来る。


広西大洗奮闘記 31 地下

予想外に明るい。昼間のようだ。土曜日のこの時間、学園にいる人間はそう多くない。ある場所からその二人は階段を降っていった。段数は69、その理由は誰も知らない。何時もはその奥の扉を叩き、管理の者の返事が来るまで待たねばならない。

だかその者が急いで来ることから分かるのはここで答えるのはこの役に相応しい真面目な者か、それともただ交代を急ぐサボりたがりかの二択である。その者は三つある鍵のうち二つを開けると、その向こうから扉越しに声を通した。

「第3条、全文。」

どうやら前者のようだ。しかもくそのつく、よりによってこれを選ぶとは。

「……風紀委員会会則第3条

第1項、風紀委員長は風紀委員総数の過半数の信任を持ってその役に任ぜられる。3名以上が立候補し過半を得る候補がいない時は、上位2名にて決選投票を行う。

第2項、風紀委員長の任期は10月1日から次年度の9月30日までとする。

第3項、風紀委員長は風紀委員副委員長及び各担当長を任免する権利を有す。ただし解任に関しては全ての担当長の過半の賛成を得なければならない。

第4項、風紀委員長の解任は風紀委員総数の4分の1以上の署名で発議でき、風紀委員総数の3分の2以上の賛成を以ってこれを解任。時期風紀委員長の選出までは風紀委員副委員長がその任を代行し、後任は決まり次第その残りの任期を勤める。」

「……『マリが入院したそうですが?』」

「『飯原麻里は大洗学園艦総合病院で順調に回復しています。』」

「その声は間違いなく委員長ですね。すぐに開けますのでお待ちください。」

丁寧に確認が取られた後、最後の一度鍵が回る音がして外向きに扉が開かれた。

「手続きの仕様ゆえ失礼いたしました。」

「いいえ、真面目なのは結構よ。」

ゴモヨは頭を下げながら腰に鉄の棒を戻す担当にそれを解くよう手で示す。

「副委員長もご一緒でしたか。」

「ご苦労様です。」

「それで、3人の様子はどう?それを見に来たんだけど。」

「特に抵抗はしませんし、画面を通じてですが真面目に授業も受けているようですね。」

間にもう一つある扉の鍵を開けながらその者が答える。

「……こちらに対する不満はどう?」

「たまにぶつくさ投げかけてくるそうです。」

「そのくらいが丁度いいわ。」

扉が重そうな音を開けて開き、通路を歩く。床の埃まで見えそうな明るさだ。

「こちらですね。」

案内された二人の前には広々とした左手側と縦の太めの筋が何本も通った右手側があった。その筋の向こうからは人の声がする。

「一応ここに入ってること以外はできる限りの手配はしています。食糧、水、学習用具、そして彼らの自室のものも一部移動して持ってまいりました。彼らは全員寮やアパートに住んでいるので、面会希望がないのも有り難いです。」

「そう、じゃあそれぞれの個室から呼んで貰えるかしら?」

「分かりました。あと一応こちらをお持ちください。」

その者はゴモヨとパゾ美に二本の鉄の棒を渡すと、近くの鐘を打ち鳴らし中の3人を呼び出した。

「高田、杉本、吉田。出てこい。」

「はーい。」

「何よ。」

「今日は何の指導でございますかぁ。」

中からは文句を言いながら3人の女が姿を見せる。

「……この3人ね。」

「おや、今日は誰が指導の担当かと思ったら委員長と副委員長か。」

「我々をここに連れてきた張本人が何の用ですか?」

「簡単に言うなら、あなた方の願いのうちの一つを叶えに来たのよ。」

「願いですか。無論、ここを出れるわけではないでしょうが、何です?」

「私たちは独自で生徒会が何を隠していたのか調べたわ。それを教えようと思ってね。」

「……つまり、私たちが直訴して得ようとしていたことを伝えてくれると。」

「……信じられるかよ。生徒会の手先として私たちをここにぶち込んだ奴らだぞ。」

「無論それは承知よ。だけどこちらの立場を理解して貰えたら嬉しいわ。」

「立場ですか……とりあえずその内容を教えてください。」

「勿論よ。」

ゴモヨは近場の席に着くと、風紀委員が現状把握している内容を語り始めた。

「どこから話すべきかしら……まずは本当に日本からの補給は切られているわね。実際香港の南方の沖合、フィリピンの近くに現状いるみたいね。」

「どうりでこの季節にこんなに暑いわけか。」

「そしてこれまで通って来た周辺の国に補給を貰えるか交渉しているわね。」

「それを学園艦の人々には伏せていると。」

「そうね。概要はこんなところかしら。」

「ところで、私たちにそれを伝えてどうするんです?私たちはここを出れない訳ですから意味はないのでは?」

「……その日が来たら、あなた方はここから出すわ。その代わりその時に我々に協力して欲しいの。」

「何の協力だ?」

「『これ』を使った行動よ。」

ゴモヨは右手に握った鉄の棒を左右に振る。

「相手は生徒会、ですか。」

「ええ。」

「驚いたな。まさか生徒会の指示に従っている風紀委員がそんなこと言い出すとは。」

「何時から風紀委員が生徒会の配下だと思っていたの?私たちが望むのは風紀の維持と学園艦の平穏。その後者が生徒会の要望と一致したから協力してただけよ。」

「それで、生徒会にそれを使って何をするんです?」

「さらなる情報開示ね。このまま海外の国と交渉してその国に下手に取り込まれたら、私たちは日本人ではなくなるわ。それは住人の同意なしにやって良いとは思えない。それを生徒会から正式に発表させて学園艦の住民が反対すれば、生徒会も流石にそれには逆らえない。力からしても学園艦で風紀委員に対抗できる機関はないから、問題ないはずよ。」

「で、その為の人員として協力すれば良いのか?」

「そうね。人員もしくは指揮官としてね。もし協力してくれれば次の寄港地で奢ったり風紀委員の幹部として待遇するわ。生徒会の圧政に最初に抵抗しようとした英雄としての賞賛も付けてね。」

「幹部の話は結構ね。この頭をおかっぱにされたらたまらないわ。」

「まぁ、ここに閉じ込めた分だけの利益をくれるなら考えるさ。」

中の3人はそれぞれ顔を見合わせながらその方針に仕方なしの賛意を示す。何せ自分たちがやろうとしてたことを代行してくれるというのだ。おまけにここから出られるなら素直にしたほうが良い。

「納得いただけたようで感謝するわ。」

「それで、いつ出してくれるんだ?」

「動く当日よ。それまではダメね。」

「まぁ、下手に解放したら生徒会から疑われるのは目に見えて分かりますからね。」

「それでは当日はお願いするわね。必ず朝には呼びに行くから。」

「……まぁ、ギリギリまでバレないようにというやつですね。」

「そうよ。この不便は確実に解消するから、その時はよろしく頼むわよ。」

「まぁ、出さなきゃ食糧不足にでもなって外で暴動でも起きたらあなた方何されるかわかんないからな。信用しきった訳ではないが、話は分かった。」

「では私も暇じゃないから失礼するわ。」

「あ、ありがとうございました。」

ゴモヨが鉄の棒を手に取りながら席を立つと、パゾ美は頭を下げながらそれに続く。

「監視は継続ね。一歩たりとも外には出さないでよ。」

「勿論です。それとこのことカナン担当長にお伝えしますね。」

「一応よろしくね。」

鉄の棒を監視担当に戻しながらゴモヨは耳打ちする。

「ではこちらへ。」

階段を昇る音が途絶えた時、再びここに静寂がもたらされた。

再び日の光を浴びていたゴモヨのタブレットに一つの帯が浮かび上がる。それを押すとパスワード設定が表示され、5文字のアルファベットを打ち込むと日本語の文が表示された。

「……こっちは安パイそうね。」

「ゴモヨ、どうしたの?」

その文を一通りチェックすると、ゴモヨは黙ってそれをパゾ美に手渡した。

「……ああ、なるほど。」

パゾ美はそのあと画面の上で指を動かし、最後に画面に触れてゴモヨに返した。ゴモヨも同様な行動をとり、最後に画面に触れると再びそれを元の場所に戻した。




みじかくなりました。
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