ガルパン成分は、あります!
まだ広州での会議は続く。
「……まぁ、取り敢えず大洗を受け入れることは良いだろう。」
陳が背筋と腕を天井に近づける。
「そうだな。こちらも約束を実行してくれるならば異存はない。」
広西の代表として李も同意する。
「となると、次は汪精衛の狙撃を受けた今後についてか……容態は?」
「現在まだ報告が入って来ておりません。」
「……2日経って何もないということは死にかけの状態が続いていると見るべきですね。」
「そこまで重篤ならば、政界からは一歩引くことは確実として良いかと。」
「汪精衛が抜けるとなると、後釜は……」
「張岳軍辺りでしょうか?」
「……蔣の側近か。」
「何れにしても、蔣へのさらなる権力集中は間違いないだろうな。」
「そして、こちらへ牙を剥く時は……」
「共産党と日本次第でしょうね。どちらかが安定すれば、叩きに来るでしょう。」
「すでに経済的には叩かれまくっているけどな。だが我々は正直それに対して大きく打てる手が無いのも確かだ。一応ここは国民党の支配下。ここで国民党が税をとることに異論は出せない。」
陳は頭を抱える。
「ウチではそのようなことは無いですが、何せ山がちな広西ですから、税収はあまり有りません。」
「イギリスやフランスがこちらに肩入れしてくれそうな気配も無いしな。」
李も白も良い顔色ではない。
「金も無い。兵力も劣る。外交は不利。やること無いじゃないか。纏まっても烏合の衆だろうに。そしてそちらの主な支援元はアメリカ、イギリス、ドイツ。こちらはフランス、日本。とても纏まれるとは思えん。」
「反蔣があるじゃないか。」
「それだけでは間違いなく内部分裂を呼びます。経済的な協力関係ならともかく、政治的にも協力関係を築くのは無理でしょう。」
「しかし、纏まっても軍事力では勝てないのだ。別個なら尚更無理だろう。ここは小異を捨てて大同すべきだ。即ち勝つ為には犠牲が必要だと相手に思わせなければならない!寧為鶏口、無為牛後!鶏口である為にはそれなりの力を持つ必要がある!」
「大同して蔣に面と反抗して得するのは日本と共産党だ!確かに共産党は落ち目だが、それでも日本相手には得策じゃない。」
「しかし、蔣に反目せねば我々の存在意義なんて他にないだろう!ただでさえ今の我々には展堂殿がいらっしゃらないわけだから!」
「蔣と戦えば世論はついてきません。そんな中で勝ち目のない戦いが出来るはずがありません。それに戦争となれば蔣は間違いなくこちらに対して分断工作をこれまで以上に進めるでしょう。それに対抗出来ますか!」
「……ではこのまま滅べと。蔣は間違いなく牙を剥く。それに抗うなと。」
「我々が本格的に協力関係を強化したら蔣を刺激します。我々が戦うのは少なくとも今ではありません。」
「共産党を呑もうとし、そして今後も統一を進めていくだろう蔣に対して、まだ軍が境界に集中しきっていない時がそうなのではないか?」
「武力で勝つのは無理です、この先も。」
白が反対し、陳は若干これに押されつつあった。周りの広東の者は積極的に協力しようとしない。これにも無論訳がある。
嘗てから広東と広西は敵対関係にあることが多かったのだ。そう、この李宗仁と白崇禧らの前に広西を支配していた陸栄廷の時から。蔣桂戦争の時も中原大戦の時もそうである。それでありながらここで手を組もうとしている事に心理的に拒否感を覚えるものもいる。
白と陳の議論から抜けて考え込んでいた李がふと手を挙げた。
「どうした、李さん。」
「ちょっと考えがあってな。」
「考え?どういうものだ?」
「まず広東、広西の双方からなる政務委員会を設立する。これは現状よりも遥かに権限を持ったものにする。」
「李さん、貴方は先程まで反対してたじゃないか。急にどうした。」
「だがこの委員会のトップを広東、広西どちらが握るか揉めるだろう。だから、折衷案として今回来た大洗のトップをこの委員長に就ける。」
その言葉を聞いた周りは一斉に静まり、各々の丸くされた目から放たれる視線が李の座る椅子の一点に集中する。
「……冗談、だろう?」
「いや、結構本気だ。」
初めに口を開けて零した陳の言葉にも李は平然と答える。
「向こうの代表が女だってのも知っているよな。」
「それは向こうが『女子学園』と名乗っているのだから当然だろう。」
「いや待て、待て、本当に待て。お前はこれまでのこの中華の歴史を見て、女が政治に介入した時その王朝がどうなるか知っているだろう。八王の乱、則天武后、韋后、楊貴妃、万暦帝期、西太后。その後これらがどうなったかは言うまでもない。
それよりも外から来た者をトップに就けるとはお前はここの政治的権限を失いたいのか!それにそんな事をしたら更に支持を得られないだろう。」
「無論それは分かっている。だから手を打つ。まずは彼女に権限は与えない。椅子に座って判を押すだけだ。そして彼女が日本人であることは隠す。確かに広東も広西も華北や上海、南京ほどは反日の機運はないが、無いわけではない。」
「いや、そういうのはいい。就けて利益はあるのか!」
「……南京が断った大洗を受け入れ、保護するという名分が入る。」
「名分⁉︎そんな物のために彼女をトップにするというのか!」
「今の我々にはこれが必要なんだ。では陳さん、展堂殿は来年欧州から帰っていらっしゃるようだが、彼をこちら側に戻せるか?」
「……控えめに言って、出来るとは言えない。南京も引き込もうとしているし、厳しいのは間違いないだろう。」
「そう。展堂殿がいないうえに汪精衛が失脚するなら、西南政務委員会は成立経緯上その存在意義を失う。だからこそ、それに変わり得る存在が必要なのだ。」
「しかし、南京が彼らをその価値があるものとして認めるでしょうか?」
「鉄鋼だ。考えてみろ。全長8km近いとんでもなくでかい船だぞ。内部を支える為に多くの鉄鋼が使用されているとみて間違いない。それの一部でも南京に贈ると言ったら?」
「願っても無い話でしょうね。」
「南京からすれば日本人を受け入れるという彼らの嫌悪感を呼ぶ最大の理由がなくなる訳だ。その代わりに大洗の保護権をこちらが握る。」
「成る程、小分けにして定期的に送れば向こうは攻めると鉄鋼が止められるから躊躇するというわけですか。」
「それに向こうとしては日本人のいる大洗を引き受けたくないからこちらを潰す訳にもいかなくなる。潰して鉄鋼を得る為には大洗を保護しなくてはいけなくなるからな。そして我々が正式に保護権を保持していると示すにはトップに就けるのが分かりやすい。」
「……話は分かった。だが、やはり女をトップに据えるというのは妥当とは思えない……あの代表ではなくて適当に無能を捕まえて就ければこっちの政治に口を挟まないのではないか?」
「女であるというのにも訳がある。そもそもお飾りだからどちらでも良いというのもあるが、欧州では世界大戦後に女の地位が向上した。イギリス、アメリカでの男女平等の選挙権などがその典型だ。その中で女をトップに据えたら世界からどう見られる?」
「……進んでいると見られる、と。」
「そう、仮にそれがお飾りであっても張り子の虎の継続とは思われまい。そして我々が生産体制を整えるまでは欧米の支援を受けなければならない。そしてその為に国や企業の幹部層に会うわけだから相手と話が通じる程度は有能でないと困る。」
「……その委員会に広東、広西双方が加われば双方が現状を守れるということか……確かに一度会ってみて、それなりに話は通じる人間だったが……」
「だが、実権は持たせん。委員会での発言権もなくしてしまって、象徴的存在にしてしまう、というのが私の案だがどうだろう?」
「……この広東が守れるなら、私は如何なる手段でも取る。」
「伯南殿!しかし……」
広東の幹部層は陳に声をかけようとする。
「国外に脱出するような事態になるよりはマシだ。流石にそれをそのままという訳ではないが、大枠は同意しよう。」
その一言で周りの広東の者たちも陳が賛成しているからと反対の意は示さなかった。この一部には南京で籍を持っている者もいるが、それでも敵対する事になれば余程のことがない限り受け入れられることはあるまい。わざわざそれを捨てる必要はなかった。
「ではこの後細部を詰めていきたいが、その前に一旦休憩としよう。それにその統一した委員会を作るのならば、財政をどうするかや運営体系を決めなくてはならんし、やる事は多そうだな。取り敢えず昼食を用意しているから、食べていってくれ。」
「ご相伴に預かるよ。」
その会議室からはぞろぞろと参加していた者たちが連なって出て行った。李と白もその最後に続く。
「徳鄰、どういうつもりだ。」
李の耳元に低い小声が来る。白のだ。
「陳さんが言った通りだ。もはや、我々に嘗ての、蔣に堂々と反旗を翻す程の力はない。合従するしか大広西を守るすべはない。そして大洗を受け入れるなら広東と共にこの策を取るのが妥当なだけだ。広西はそこまで反日の機運もないしな。」
「……だが、女がトップに就くとは……」
「反対か?」
「私も陳さんが言っていたようにするべきだと思うがな。下手に頭が良い奴を就けると面倒になる気がするが。」
「……寧ろそうでなくては困るのだ。」
「?何故?」
「……この会議の人数比を見ろ。殆ど広東の者たちだ。そして仮に委員会を作るならばその委員はやはり広東の者が多くなるだろう。その中で我々が安定した発言権を得る為には第三極がいる。それが大洗だ。」
「待て、大洗から引っ張ってくるトップには発言権を与えないんだろう?発言権もない奴が第三極になる訳がないじゃないか。」
「多分求めてくるし、こちらは呑む。」
「流石に陳さんは認めないだろう。あの人からすれば大洗は駒だ。いや、我々もそう見るべきだろう。駒の言うことを呑むとは……」
「いや、呑む。考えてみろ。そもそも奴らがここに来たのは偶然だ。元から来るわけじゃなかったというのは嵐の時に来たとかこちら宛の正式な要求書が無かったことからも分かる。即ち正式に物資援助を頼んでいる他国が居てもおかしく無いわけだ。」
「……もしその国が先に大洗と手を結べば、この計画は終わる。そしてその先にあるのは……」
「その通り。我々が手を組むことの必要性は陳さんが一番良く知っているから、少し妥協してでも呑むだろう。何せ委員を占める人数で広東と広西の差が一人になる事はないだろうからな。」
「こちらからすればいないよりかはマシ、になりますけどね。」
「そしていた方が良い理由はさっき話した通り。即ちトップを場合によってはこちら側に付ける機会が得られることが肝要なのだ。」
「確かにそうですね。」
「まぁ詳しくは昼を食べてから考えることにしよう。もう着いたみたいだからな。」
「ですね。」
李も白も視界の向こうに見える料理に舌鼓を打ってから細かく考えることにした。
ムリがあるのは仕様。
次回予告
「65は人類史で重要」