鉄は重要だって(ヒッタイト見たら)はっきりわかんだね。
土曜日、だがそんな事など考える者はここには滅多にいない。答えは簡単、いつも通りの日常の光景がここにいる者には見えているしその通りに身体を動かしているからだ。
「小山先輩、工学科の方が面会を申し出ています。」
席に着いて資料の上下を整えていた小山がちらりと腕時計を確認する。
「少し早めだけど、ちょうど良いわね。お迎えして。あと鉄鋼関連に絡んでる者を呼んでくれる?」
「分かりました。」
華は隣の部屋に戻って呼びに行き、小山が先程の資料を戻し終えた頃、華が連れてきた少し背の高い女性二人の後ろに呼んだ生徒会の者たちが着いてきた。その工学科の女性らは自動車部の様なツナギをしっかりと着こなしている。
「どうも、工学科の鹿島です。今回の依頼に関するグループリーダーを務めます。」
「清水です。サブリーダーを務めます。」
「生徒会副会長の小山です。今回の件に関しましては角谷会長に変わりましてわたし小山か務めます。よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
軍手を外して手を伸ばしてきた二人の手に答えると、早速鹿島が持っていたカバンに手をつける。
「それでは早速お話ししたいのですが、ホワイトボードのようなものはありますか?」
「ホワイトボードですか……」
「出来れば絵や図を用いて説明したいので。」
「うーん……」
「小山先輩、練習試合の前に使った第二小会議室はどうでしょう?土曜日ですので使っているところは無いはずです。」
「ああ、あそこなら確かにホワイトボードも有りますからね。」
「ではそちらで。」
工学科の二人は華に案内され、他の生徒会長室に来ていた生徒会の者たちもそれについていく。最後に小山がそこを出て、扉に手を触れたまま鍵穴を回した。
正面にはホワイトボードが立ち、その脇に工学科の二人、そしてそれと垂直に交わる縦長の低い机の両脇に大洗の制服の者たちが腰を下ろす。
「では早速今回受けました鉄鋼の切り出しについてご説明します。」
清水が資料を前に座る小山ともう一人に手渡している間に鹿島は口を開いた。
「今配っている資料をご覧になりつつお話を聞いて頂ければと思います。この学園艦はご存知の通り、一辺300mの鉄の立方体のブロックを無数のボルトで留めることで浮かんでいます。今回の依頼はこの立方体を切り出すことで鉄鋼を確保したいとのことでした。」
「はい、そうです。」
「まずはご用意した資料2ページ、この学園艦の内部構造図をご覧ください。この学園艦は先程のブロックを大体縦に25個、横に3個、上に2つ並べ、それの形を瑞鶴型にし、その上に甲板下の設備を載せています。それで今回の計画に関してです。ここから依頼通り連絡通路の増設を名目にその壁となる鉄鋼の切断を行おうと思うのですが……」
そういうと鹿島はホワイトボードに立方体を図をさっと書いた。
「ここの縦が300mになります。確かに多くのブロックは途中に段を挟むことで倉庫などのスペースを確保しています。ですが空間の広い、例えば区切る天井まで100m以上ある一部のブロックに置いて、ここに持ち運べてしかも平面の状態から切り出せる様なものになりますと、あまり高いところでは出来ないのです。いえ、切り出せたとしても運搬が厳しかったりします。さらに言いますと切断出来る場所もあまり多くありません。エンジンや港の近くは避けなくてはいけませんし、上の甲板部を支えるだけの強度が保証できなくてはいけなかったりなどの多種の理由で想定なさっているよりも少ないと思いますが、よろしいですか……」
「構いません。総量の予測はどうなっていますか?」
「こちらの予測ですと約840立方メートル、総量6.6ktほどを見込んでいます。これは重機操作においての現在使用可能な燃料の量も考慮にいれた値なのでそれさえ貰えれば結構増えるとは思いますが。」
「⁉︎ろ、6.6kt!」
「はい。やはり少ないですか?」
「い、いえ、とんでもない!それでも十分すぎるくらいです!」
小山が大げさに顔の前で腕を左右に振る。
「それと、もう一つ問題があるのです。この学園艦は先程上下二層のブロックが積まれているとお話ししましたが、上層は硬鉄のブロックなんです。」
「硬鉄?」
「簡単に言うと、硬いけど脆いんです。下層は軟鉄と言って、柔らかいけど頑丈なのですが。硬鉄は船舶などに不向きです。目的は転売用とお聞きしてますが、軟鉄よりは扱いにくいと思います。」
「どうして上層の方から取る鉄鋼の量が多いのですか?」
奥の方に座っていた生徒会の一人が手を上げる。
「学園艦全体のバランスから考えまして、重心を上げるのは良くないからです。そちらの方が艦が安定しませんから。」
「成る程。」
「それと下層にはあまり段が取られてないので切断しにくいというのもあります。大方の説明としてはこんなものですが、他には何かございますか?」
「出来た鉄鋼は何処に?」
「転売用とお聞きしてますので、港の近くの空きスペースにサイズを揃えて順次用意する予定です。規格はこの取り出したままの形を維持出来る磨き鋼材で、6F品、すなわち光るくらい磨いた形にします。あ、そうだ。一番重要なことを忘れてました。」
鹿島は慌てた素振りで手持ちの資料をめくりだす。
「硬鉄は鉄、炭素以外の配合は少ないのですが、軟鉄にはそこそこのクロム、約13%入っています。実質ステンレスです。すなわち鉄鋼として転売するのは厳しいと思いますが、よろしいですか?」
「寧ろ錆びにくいならそれに越したことはありません。」
小山も手持ちの資料のその部分を確認し、同意の意を示す。
「他にご質問のある方は?」
「価値はどれ程ですか?」
「私が手に入れている最新のステンレスレートが大体1t35万円、鉄鋼のレートが6万円ですので、あまり加工しないことも考慮すると13億円程度かと……」
「そう言われると価値はあまりなさそうな気もしますね。」
「……はい。正直これで学園艦の現状を打破しうるに十分な予算が確保できるとは思えません。こちらは代え難い経験が出来ますから構いませんが、本当によろしいですか?」
「ええ、そのまま実行してください。出来れば他にも鉄鋼、ステンレスの方でまだ切り出しが可能なところがあればそちらを優先的にお願いします。燃料に関しては万が一のさいは石油の流通を止めてまでもそちらに回しますのでご安心ください。」
「分かりました。進み出たこちらもご期待に添えるよう善処します。他には?」
鹿島とその脇に立つ清水の目の先に目立ってそびえるものはない。
「ではこのように実行します。どうぞよろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
一歩前に進み出た鹿島の手に小山も席から立って応じる。
「何か有りましたら連絡をください。それでは失礼します。」
扉の前で二人並んでその長身を折り、軍手をはめ直しながら駆け足で去って行った。ケータイさえ使えればここまで急がなくても良いのだろうが。手元にあるあれが暫くは単なる硬い何かでしかないことはやはり不便なことだと思わざるを得ない。
呼び出した生徒会の者たちは各自の業務に戻るよう指示した。やはりあの廃校の危機を乗り越えた人たち。この様な絶望的な状況でも机の前で確実にこの学園艦に必要なことをこなしてくれている。さて私も業務に戻らなくてはならないのだろうが、午後の配給に出向くまでに一つの仕事をこなすには微妙な時間が残っている。そこで先程の資料に軽く目を通し、水を飲みながら暫しの間休むことにした。あとは出発まで待てばいいだろう。
と小山が考えていると、あの甲高い耳をつく電子音がそれを止めさせた。これが繋ぐ相手とその内容はすぐに分かる、それが非常に面倒なものであることも。前考撤回とでも言えばいいだろうか。現在この学園艦のトップとしてとり仕切るこの少女にはそのような些細な休息も与えられないようだ。
そういえばCiv5のガルパンMODが出たらしいけど、大洗がチートらしい。
6.6ktは大体戦艦大和の10分の1の重さ。
次回予告
「乾杯はディナーの中で」