広西大洗奮闘記   作:いのかしら

42 / 97
どうも井の頭線通勤快速です。

A dog can't choose his owner.


広西大洗奮闘記 39 囲まれて

 この部屋の下の区分けを跨いだのは5日ぶりだ。夕方、窓の外はすでに紅い。迎えに来た軍人らしき人間に外に出るよう言われ、足を踏み出した。因みにこの軍人らしき人間も門番といつも飯時に来るボーイを除けば久々に来た人間である。流石に外に出ることもなくベッドで4泊するのは厳しい。どこに連れて行かれるかは知らないが、言えるのは私が、外の者から見たら優雅な監禁生活を送っていた間にも学園艦の食糧は刻一刻と減っていることだ。

この5日の無駄を如何せん、いやどうしようもない。出来るのは何としても食糧を手に入れ、学園艦に戻る術を見つけることだ。船を修理出来る機会も欲しい。はてさてどのように手に入れたものか。

 

 馬車に揺られて案内された先は何やら高い建物である。その軍人らしき人間の案内に従って階段を登り、ある部屋の前に案内される。顎でされた指示を見る限りどうやら一人で入れということのようだ。

待て待て、そもそもここがどこだか分かってない上に何の用事かも知らないのだ。おまけに私は中国語を話せない。せめて用件だけでも教えて貰えないかと聞こうとしたが、英語が通じないようだ。まぁ殺されることは無いだろう、多分、と思い切り、3度のノックののち扉の向こうへ声を掛けた。

「Hello.I'm Annzu,Annzu Kadotani.I come here……

(こんにちは、私は杏、角谷杏です。私は……)」

「Come in.

(入れ。)」

低い声で言い終わる前に返事されたため、ゆっくりと扉を押し出し、顔を覗かせる。

「Sit down there.

(そこに座れ。)」

 部屋は入り口側が開いたコの字型に机が置かれ、そこの外周にあの役人とそんなに年の差が無さそうな人間十数人が席を連ねている。そして、そのコに喰われるように小さな机と椅子が設置されていた。

どこかの資料で見た気がするが、中国では昔はござに座っていたが、長江以南の方から椅子に座るようになったらしい。

椅子に座る。一応音は立てないよう注意して椅子を引く。座ってみるとまだ何も本質的な会話は行っていないのに漠然とした恐怖が襲った。周りの人間の約半数が軍服。彼らの階級は秋山ちゃんやエルヴィンちゃんなら分かるのだろうか。少なくとも下の方の階級では無さそうだ。そして正面にいるのが前に部屋を訪ねた人間だとも分かった。

「……Why was I called here?

(何故私はここに呼び出されたのですか?)」

「That's the answer.

(それがその答えだ。)」

通訳らしき白い帽子の男に指し示された先には、いや机の上にあったから見えていたが、紐で束ねられた紙の束があった。

「Can I hold it?

(持っていいですか?)」

「Sure.

(構わない。)」

その束は裏返されていたため、そっと手にとって表を見る。そこには筆で書かれたらしき題の下に活字を使ったかのような文字が連なっていた。タイトルは

 

 對申請驗收的大洗到廣州

 Requisition on the acceptance of Oarai to Guǎngdōng

(広東への大洗の受け入れに関する要求書)

 

 中國國民黨中央執行委員會執行西南部

(中国国民党中央執行委員会西南執行部)

 

とある。

「Requisition on the acceptance of Oarai to Guǎngdōng……」

これが何か、そんなものはすぐに分かる。希望だ。これまで得ようとするも得られなかった希望だ。

「What is this?

(これは何ですか?)」

しかし何か、相手の口から聞きたい。

「If you approve this plan,we are ready to establish a friendship and cooperate with you to prosper.

(もしこの計画を受け入れるなら、私たちはあなた方と友好を築き、相互の繁栄の為に協力する準備が出来ている。)」

そう、この言葉を、私は、一月弱、待っていたのだ。さて、相手は何を望む。紙の一番端をそっと掴み、めくる。中身は漢文ではなく英文だった。文字を見るに漢字のタイプライターが無いのが原因だろうか。

 

 内容をここでグダグダ書くのは避ける。何せそれぞれの条項に注意書きなどが付いているのだ。ここに書ききれるものではない。概要だけ纏めておこうと思う。

 

・大洗女子学園学園都市の処遇

住人は総員学園艦から退艦し、万山群島に於ける無人島に学園都市を設置し居住することを許す。この対象となる島の策定は合意後に決定する。その地に於いて、学園都市の開設と学園機構の維持を許す。

 

・学園艦乗員の権利

学園艦乗員には中華民国国民としての権利を一切認めない。ただし大洗女子学園学園都市の住人としての権利を認める。

 

・学園艦乗員の移動

学園都市である無人島以外への上陸は広東省政府が許可を出した者にのみ許す。海域は無人島の選定後決定する。

 

・大洗女子学園学園艦

学園艦は広東省政府の管轄とし、許可を出した者以外の乗艦を認めない。学園艦は1936年1月1日を以って大洗女子学園から広東省政府に開け渡される。

 

・学園機構の運営

学園機構の運営について、広東省政府から派遣した顧問官をそれに参画させる。また学園都市に於ける収入の4割を無償で広東省政府に納入する。また、学園都市への物資輸送は全て広東省珠海港を経由させる。

 

・角谷杏の処遇

角谷杏は広東省への上陸を認め、両広政務委員会(仮称)の成立次第、その委員長に就任する。

 

・軍事防衛関連

学園都市防衛について、学園都市設置から3カ年駐屯する事態が発生しなければ広東軍は駐屯権を放棄する。治安部隊の設置などに関しては、広東省政府の許可を必要とするため、初期に保持している武器類は広東省政府が保管する。その部隊を広東軍に編入することはしない。

 

・人材招集

大洗女子学園は現在保有している防衛部隊の幹部(階級少佐以上またはその参謀)または戦車道隊員を広東軍に招集させる。技術に関しては中山大学、広西大学、恵州学園の者を派遣し、実力があると認められた者を広東省政府に招集させる。またそれらに伴いその者らの広東省への上陸を許す。

 

 悪くはない。日本からの自治権剥奪などの要求に比べれば。元より独立勢力としてやっていくなど不可能だということは分かってた。だから学園都市からすれば時間亡き今これに乗るのが最善。

だが行き先は無人島だ。インフラも何もあったものではないだろう。そして経済、運営の首根っこを掴まれるのだ。何もない島で3万人、しかも現状の学園艦では新たな物資を買い取れるこの時代の金もあるまい。移動も出来ない。死ねも同然だ。あ、でもウサギさんチームなら生存可能かもしれないが。

私がやるべきなのは、ここから何が引き出せるかだ。大洗の未来のために。だがその前に幾つか確認しておきたい事がある。

「May I ask you some question?

(幾つか尋ねてもいいですか?)」

「OK.」

先ほどの通訳らしき男は腕を組んで頷いた。

「First,in this requisition,you don't write the positioning of Guwangdong Guwangsi Council.What is my role in this?

(最初に、この要求書では、あなた方は両広政務委員会の位置づけを書いていません。そこでの私の役割は何ですか?)」

通訳らしき男はチェンとかいう男に中国語、だと思う言葉で確認を取ると、返事した。

「We plan to have the participation rights of Council and approve Commission decision.

(委員会の参加権と委員会決定の承認を予定している。)」

「The participation rights…….Thank you.Next,where is Ladornes islands?

(参加権……ありがとうございます。次ですが、万山群島はどこにありますか?)」

「Out of Pearl River Delta.

(珠江デルタの外だ。)」

なるほど、確かに香港入りする前、西側にチラチラ島が見えた。あれらのことか。この広州からは遠くもなく我々が動けばすぐに対処可能な場所だ。私たちがそこの場所になるのは呑まざるを得ない、か。だが、主導権を完全に向こうに奪われるわけにはいかない。

「Thank you for answering me.I certainly attend to your request.Well,I would like to enter into talks in order to conclude an agreement which base on this requisition…….

(お答えいただきありがとうございます。あなた方の要求はしかと承りました。それではこの要求書をベースに協定の締結に向けた交渉にはいりたいのですが……)」

「Talks?What is that purpose?

(交渉?その目的は?)」

不思議そうな顔で通訳らしき男が問い返してくる。チェンさんも似たような顔だ。思わずえっ、と日本語が溢れる。が、答えねばならない。

「To make better agreement of this for each other……

(この要求書を双方にとってより良い協定とするため……)」

「Better?NO!This requisition is the BEST talks for us!

(より良い?違う!この要求書こそが我々にとって『最も』良い協定だ!)」

 通訳らしき男は明日から身を乗り出し、私を指差しながら怒鳴りつける。

「You say that I approve it unconditionally, don't you?

(あなたは私にこれを無条件で呑めと?)」

「All you can do is to sign it hurry.Hurry!

(あなたはこれに早くサインだけすればいい。早く!)」

「Wait,wait,huáng .You shouldn't blame and timber girls.Calm down.

(待て待て、黄。女の子は責めて急かすもんじゃない。落ち着け。)」

チェンさんが興奮しつつあった通訳らしき男を止めるように口を挟んだ。

「Sorry sir.

(申し訳ありません、閣下。)」

「However,

(しかしながら、)」

今度はチェンさんが私の方を向いた。

「It is true that you can't afford to be, isn't it?

(あなた方が余裕がないのは、真実ではないかね?)」

「……」

「We made the air force search your school.As the result,the deck of your school ship was occupied by urban are.What this means is obvious.your school ship can't grow as much produce as its crews needs.So, you'd request a food of Hong Kong.At least,you don't receive respectable supplement for more than two weeks.Storage should be severe on fuel and foods.Do you think it's also disadvantageous for your school ship to make negotiations be prolonged excessively here?

(我々は空軍にあなたの学園を調べさせた。その結果、あなたの学園艦の甲板上はほとんどが市街地で占められていると分かった。これが何を意味するかは明らかだ。

学園艦は乗員に必要な食糧を育てられない。だからこそあなた方は香港に食糧を要求したのだろう。少なくとも、あなた方は2週間以上まともな補給を受けていない。燃料、食糧共に厳しいはずだ。ここで交渉を無闇に長引かせるのはあなたの学園艦にとっても不利益だと思うが?)」

そうか。私は荷物を全て取られたのだった。私が持っていった情報は向こうも知っているようだ。

「……If do you say that I negotiate for that?

(……もしそれでも私が交渉すると言ったら?)」

「You'll be here for a while.

(もうしばらくここにいて頂くことになります。)」

少しチェンさんから意識を解放すると、廊下の外からはかさばったような金属音がする。そしてこの周りにいる軍服らしきものに身を包んだ者たち。

何かは想像がついた。間違いなく今度は優雅ではない。威圧感、あの役人とは比べ物にならない、生きた威圧感が私を襲う。あの時、あの役人との交渉の時、私には味方が3人いた。だが、今は一人。本当に一人。

 

 私は狐だったのだ。学園艦を、私たちの学校をなんとかしようと上海、香港とやってきたが、何が出来た!今も何が主導権を取るだ!弱みさえ握られてるじゃないか!私はただ少し勉強が出来て、人を纏められて、砲手がちょっと上手いだけのただの女子だ!なぜ私はそんな事も分からなかったのだろう!

 

 叫んでもいられない。そうだとしても、私がどれほどちっぽけな存在だとしても、この身で引き受けた事はやらねばならない。この状況をひっくり返し得る、世界大会なんぞ掃いて捨てるような、そんなものを相手に不審に思われる前に突き出す必要がある。

 

 何だ。

 

 何がある!

 

『cheating each other……』

 

 騙し、ハッタリだっていい!

 

 この場を切り抜けられるなら。

 

 今こそあのことを履行しないで

 

 いつするんだ!

 

 何か、

 

 何か思いつけ!

 

 きっかけだ!

 

 きっかけさえあれば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや待て、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそも何故、私はここにいる?




次回予告

報告

英語翻訳、まだ続くんだよなぁ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。