ここにいる、またはグラウンドにいる生徒諸君、船舶科の諸君、並びに教員の皆さん、そして配給場所で話を聞いていらっしゃる住民の皆さん、どうもこんにちは。大洗女子学園生徒会長、角谷杏です。この集合、放送の為に昼の放送の後、お時間を作って下さった方もいらっしゃるでしょう。生徒会を代表して御礼申し上げます。
そこまでして急に今回このような場を設けましたのは、私たち生徒会から皆さんに謝罪し、お伝えしなければならないことがあるからです。謝罪しなければならないことは3点ございます。
まず、皆さんに本年10月10日以降倹約体制、統制体制、量を削減された配給に耐えて頂いたこと。
そしてそれの理由として発表したこちらの情報が不十分極まりなかったこと。それにもかかわらず目立った反発も無く1日2度並んで下さったことは感謝の念に堪えません。本当にありがとうございます。
最後は、我々生徒会が皆さんの未来に関わる最重要事項を伏せ続けていたことです。
まずは我々が住民の皆さんにお伝えしていた配給体制の理由、「南方の補給用の港が使用不能となった」というものは、実は港が使用不能であるというのは事実ですが、南方の港のみが使用不能という訳ではありません。現在、この世界のほぼ全ての港に停泊することは不可能な状況となっております。
このような不完全な情報を発表したのには訳があります。それが先程申しました「皆さんの未来に関わる最重要事項」、でございます。
ではその最重要事項とは何か。私がこれから語ることは皆さんには信じがたいことに違いありません。私自身も脳内で何回も否定し、現実ではないと信じようとしました。しかし現状打開に向け行動するにつれて、それが真実であり、我々はその渦中にいることを思い知らされ続けました。
それは、ここが過去の世界であるということです。
もう一度言います。ここは我々からしたら過去の世界です。
さらに詳しく言いますとこの学園艦の外では今日は1935年11月9日です。
原因の詳細は分かっておりませんが、外部との交流の結果そうであると判明しております。証拠といっては何ですが、当時の香港総督であるウィリアム=ピール卿より預かった書状がこちらです。そして現在いるのは日本の近くではなく香港南方の東沙諸島近くです。
この内容が皆さんの未来への希望を、予定を奪い、絶望へと導くことであるとは理解していますが、それでも私はお伝えし、皆さんは理解して頂かねばなりません。
10月8日に学園艦が光に襲われました。それ以降外部との連絡が遮断され、補給船が途絶えた為、配給と倹約体制を導入しました。その後外部との接触に成功。先程お伝えした情報を手に入れました。
そしてそれが判明して以降、生徒会としてはこの地での支援先を求め学園艦を南西へ航行させつつ外部との交渉を繰り返して参りましたが、これらの達成は残念ながら力及びませんでした。
しかしこの度新たな交渉の結果安定して物品を入手可能な状況に近づき、情報発表によっていたずらに住民の皆さんの不安を煽る事態にはならないと判断し、この度このような場にて現状をお伝えしています。
この度、私角谷杏は大洗女子学園の代表として中国広東省にあります中国国民党中央執行委員会西南執行部と中国国民党国民政府西南政務委員会との交渉に成功し、学園都市機構の維持を認められました。
彼らを軍閥と呼べば分かりやすいのでしょうが、受け入れて下さった敬意も込めてその呼称は用いません。今後はこの二つを合わせ西南政権と呼びますが、彼らは中華民国南京政府から正式に承認を受けている地方政権です。この政権とこちらの「大洗女子学園と西南政権との相互協定」を結び、このように向こうの指導者である陳済棠閣下や李宗仁閣下などの署名も得ております。
私はこれからさらに皆さんに苦労をかけ、苦痛を与えてしまうことを非常に申し訳なく思います。それはあの「8月の悪夢」を再現することになっただけでなく、新たな生活を組み立てて頂くこと。そして我々が蔑視の対象となる地を選択せざるを得なかったことです。この時期中国では反日が声高に叫ばれています。
我々が住む所は中国本土から少し離れた無人島、ここから北方の広州沖の万山群島ではございますが、本土との交流無しには生活出来ないでしょう。そのような目にあうことは避けられません。この大洗女子学園学園艦住人3万人の生活の安定までは長い時間が掛かります。それまでの辛さは想像もつきませんが、それにも耐えてもらえねばなりません。
我々はこの学園艦を文科省から2度守り抜きました。しかし我々は3度目の守り抜かねばならない事態に直面しております。ですが、我々は戦車道があったように、今回もこの協定という希望を掴んでおります。
我々はこれまでの生徒と住民の皆さんの努力を、思いをフイにしない為にも何としてもこの希望の糸を掴みとらねばなりません。全力を賭して、この学園艦の住民の皆さんの中の一人でも飢えに苦しむような事態は避けなければなりません。
そして調査の結果この過去に知波単学園と聖グロリアーナ女学院が来ていることが分かっており、両校ともそれぞれ日本とイギリスの援助を獲得しています。2回目に我々を救うべく、国への反逆も恐れず、ただ友情のみで駆けつけた誇り高き彼らよりも先に、我々は不安に膝を屈してはいけません。
仮ににするとしたら、それは彼らへの重大な裏切りです。大洗女子学園はそれが運命だと諦めない、運命に抗う、そう出来ると私は信じております。
抗う為に、私は学園艦の全てを動員した移動及びその後の生活の為の準備を整えたいと思います。明日の10日土曜日を最後に、全ての授業を打ち切らせて頂きます。まだ転居の準備とは言いませんが、学園艦設備や売却品の準備などやらねばならないことは多くあります。それに向けた準備をその日から始めて頂きたいのです。
残念ながら配給の食糧は節約はしてまいりましたが、十分に残っているとは言えません。ここの皆さんの学びの場という学園艦の存在意義を奪ってしまうことは申し訳ありませんが、島の準備が整い次第必ずや学び舎大洗女子学園を復活させます。その時までどうかご協力お願いします。
今後を簡単に述べますと、この大洗女子学園学園都市の処遇に関しましては、皆さんは総員学園艦から退艦し、万山群島に於ける無人島に学園都市を設置し居住することになります。この対象となる島は現在未定ですが、間も無く決まる予定です。その地にて学園都市の開設を許されました。その地への荷物の輸送に関しては学園艦にある輸送船の他にも西南政権海軍保有の輸送艦をお借りする予定です。学園艦は広東省政府の管轄となり、この学園艦の内部または甲板上の鉄鋼を切り出して差し出す為、そのための人員以外は原則乗艦出来ません。
学園艦は1936年1月1日を以って大洗女子学園から西南政権に開け渡されます。先程の工学科の他にも人材としてご協力して頂く方もいらっしゃいますが、それは個別に連絡致します。指名された方はご協力お願いします。
残念ながら、我々に残された時間は長くはありません。そしてその間にやらねばならないことは山ほどございます。この学園艦の全ての人間が協力しなければ実行出来ません。
辛いとは思います。厳しいとは思います。寂しいとは思います。ですがやらなければなりません。どうか、授業前に号令が元気よくかけられる日までご協力お願いします。
以上で私からの話は終わりです。ご静聴ありがとうございました。
角谷は壇上から降り、一礼すると脇へ下がっていった。ざわめきはない。正しくはざわめくことができる程理解が追いつかない。司会の場に立っていた小山は壇上のマイクを取りに行き、コードごと司会の場まで戻ってくると、それを口の前にあてた。
これから今後の動きに関与して頂く方を言います。内容をご説明しますので指定された時刻に生徒会室までお越しくださいますようお願いします。
4時半、工学科の鹿島さん、清水さん。
4時50分、戦車道受講者のうち車長。
5時20分、学園長及び中学、高校の各教頭先生。
5時40分、被服科の顧問の先生方。
6時10分、船舶科の3艦長。
6時30分、各町内会長の皆さん。
7時、農業科及び水産科の顧問の先生方。
7時半、生徒議会議長、副議長、書記。
8時、商業科の顧問の先生方。
顧問の先生方は事情説明の為、履修生徒のうち何名かを呼んで頂けるとありがたいです。また、高3の元生徒会の者及び高2の冷泉さんは、これが終わりましたら至急生徒会室まで来てください。
質疑応答についてはこの場では省略し、生徒会室の前に目安箱を設置しておきますのでそちらに氏名を記入して投函してください。返答に関しては掲示板及び配給場所にて纏めて掲示する予定です。
以上で本日の集会を終了します。扉側の生徒から順に退出してください。
舞台の脇の控え室には角谷が先に戻っていた。部屋の隅にいる先に引いた河嶋は角谷と異なり小山に声をかけることはしない。
「終わったみたいだね。」
「ええ。質疑応答も書面で、しかも学園中に晒すと言っときましたから、そうそう仕事が割かれることは無いでしょう。」
「流石。じゃあ、お客さんを迎えるから部屋に戻るよ。ここの片付けもやらせといて。」
「既に全箇所にて始まっているはずです。ここから予定が立て込んでいますが、帰って来たばかりで大丈夫ですか?」
「体調?それなら問題ないよ。」
「なら良いのですが……では、時間も無いですし、」
「早く行くよ。かーしまも。」
「は、はい。」
角谷は河嶋の腕を引いて混み合う体育館の裏から引き上げた。生徒会室は3人が踏み込んでも返事はない。生徒会長室も同様。そして言われた通りの人が角谷が席に着くとすぐに来た。
「呼ばれた冷泉だが。」
「こっちへ。」
ドアの向こうの小山の手は入り口近くの麻子を案内する。
「他の方はいないのか?」
「みんな配給場所での案内しているわ。」
そんなことを言いつつ角谷の前まで来る。
「呼び出された冷泉だ。」
「久しぶり。冷泉ちゃん。」
「呼び出された人も多いし時間も無いのだろう。本題に入って欲しい。」
「そうだね。中国語の進みはどう?」
「聞き取りは分からないが、少なくとも日常会話は問題ない。書くのも基本的には。」
「流石だねぇ。何語?」
「広東語だ。中華民国に行く前日に頼まれて学ぶ中国語はそれと四川語くらいしか無いだろう。というより渡してくれた資料に北京、南京、広東しか無かったからな。」
「おっけー。じゃあ明日から来てくれる?」
「何処に?」
「広州経由南京。」
「広州は渡される島の交渉というのは分かるが、南京に何故行く?」
「これの最後の方を読めば分かる。英語だから分かるでしょ。」
角谷は協定のコピーを麻子に渡す。パラパラ見るともう良いというように麻子は机に戻した。
「なるほど。選挙も考えるとこのことは伏せて正解だな。」
「そゆこと。これの履行に新体制樹立が条件になってるからね、それを南京政府に認めて貰わねばならないのさ。だからそれの為の会議とかに通訳として来て欲しい。」
「この前いた先生じゃダメなのか?」
「先生には交渉のあと島の場所を報告して貰わなきゃいけないから、それを頼むんだよ。前の交渉とかで苦労かけたしね。」
「で、私か。希望は満たせるか分からないが行こう。明日のいつだ?」
「夜の予定。それとこれからのそれぞれへの伝達は今後の為にも知っておいて貰いたいんだけどいい?」
「分かった。そろそろ来ているぞ。」
「本当だね。」
外の廊下を走る音は隣の部屋に入る音に変わった。
次回予告
机は2度叩かれる。
麻子「私チート過ぎないか?」
主「pixivの某漫画で2日でドイツ語覚えているからセーフ。」
活動報告更新したので気が向いたらどうぞ。