広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。

分離の確定


広西大洗奮闘記 49 生存のために

 私は予感していたはずだ。この不可解な事態を。学園艦に補給船が来ず、寄港もできていない。家族に連絡も出来ない。そして麻子さんの行動。優花里さんの行動。華さんからの砲弾の異様な節約。戦車道の練習での仲間の違和感。エルヴィンさんと磯部さんの様子の変化。これの答えがこの些細ではないこと、パンドラの匣に隠されていることを。そして私は避けてきた、それを開くことを、ずっと。

恐らくこの予想から導かれる悲劇的な結末から目を背けたかったのだろう。その結果馬鹿な私の眼前に突きつけられたのはこの真実と要請である。

確かに真実はどうしようも出来ないものだ。学園艦の廃止のように交渉と戦車道でどうにか出来る代物ではない。だが要請は受けるか否かは私次第だ。皆は戦車道に関して、冷静なら無条件で私に付いてくる、または付いてきてしまうだろう。私のような者に戦う軍人なんて務まるとは思えないし、やり抜ける意思もない。

だがこの学園艦は私に自分の戦車道を気付かせてくれた場所であり、私たちが守った場所である。そしてそれを真に守り抜いたトップが、私たちに頭を下げて願い出ているのである。

恐らく下手に相談してはいけないのだろう。仲間を信じているか否かではなく、相手が私以上に苦悶してしまうから。やっぱり私はあの時言われたように心配しすぎる性分で、悩みを抱えがちなのだろうか。そう思った時、あの時の言葉がふと蘇った。

 

(無理なものは無理)

 

 気温はそうでもないが湿度が高い。周りにべったりと纏わりつく。歩幅も自然短くなっている。期限、そこまでに私は答えを出せるのだろうか……どちらを取ったとしても私には喉の小骨が残るだろう。

そう考えていると、私はいつの間にか歩道の段差に足を滑らせ尻もちをついていた。現実に対してはやり返せないのだ。配給の袋の中身は無事なようで、尻をはたいて先を急ぎ、帰ると手を洗い夕飯の支度を始めた。とはいってもこのような心境で手の込んだものを作る訳がない。炊いてあった米と袋入りの野菜をレンジで温めて醤油を適宜かけて摘む。これで十分だ。甘い物なんて久しく食べてない。

それらを食べ終わり流しに皿を戻すと、寝巻きに着替え布団に倒れる。まだ寝る気は無いので先程のことは一旦置いておき、別の事を考えることにしたが、思いついたのは明日で授業が終わるというまたこの世界云々に関することだった。

学生が明日で終わり。生徒ではあるが学ぶという目的を持つ学生ではなくなる。それは音も立てずに忍び寄り、今日の午後いきなり正面にその巨体を現した。仮に会長の案を呑んだとしても、それは職業、大人になる為の学生であり、学生になる為の学生ではなくなる。学園にはそうでない人も多いが、そうである人間は私を含む。

それはその巨体にもかかわらず実感が湧かせなかった。だがふと高校3年生の皆さんは私よりも苦悩しているのかと思った。皆さんはあともうすぐにまで迫っていた受験、それの為の勉強が一瞬で目的のないものに変容してしまった、その恐怖と失望に侵されているだろう。人のさらなる不幸を眺めて落ち着く、それは人として良くないことだが、そうでもしないと頭の混乱は私の思考を制圧してしまいそうだった。

 

 流石にこの方法は自己嫌悪に陥りそうだったので、身を起こしリモコンでテレビを起動させ、録画のページを表示させた。画面にはこれまで録画してきたものが並んでいる。多いのは無論ボコられクマのボコのシリーズだ。その中の一つを押して最初に混じった、もはや買うことの出来ないものを紹介するCMを飛ばすと、画面上には包帯を巻き腕を吊ったボコの姿が現れた。いつも通りやられては何度でも諦めず立ち上がる。それが何時もよりも愛おしく思えたのは何故だろうか。

 

 

 商業科との話を終えた。大したことではない。今後の学園都市運営において商業はそこそこのウエートを占めるだろうから協力願いたい、それだけである。無論了承を得られた。

さて私は明日から出かけてしまうが、学園艦には問題が山積みだ。先程も言った食糧の件も然りだが、私の最大の懸念は島での生活だ。行き先は無人島である。インフラも家さえもない。そこに移住開始から一月半程で3万人住める様にしなければならないのだ。工学科にはかなり頑張って貰わなくてはならないだろう、ただでさえ鉄鋼の切り出しをやってもらっている上であるから申し訳ないが。

この期間、技術を持つ者には休みはなさそうだ。だが救いもある。この学園艦には組み立て式の仮設住宅が1000個用意されているのだ。学園艦の人口には足りないが、少なくとも島での初動をこなせるだけはある。

これは学園艦から脱出せねばならない事態の時に使用するものだが、今回こそが使いどきだろう。

「会長、お疲れ様です。」

「ん、ありがとね、冷泉ちゃんもね。」

小山が角谷の後ろから声を掛ける。角谷はそちらには向かず、背もたれに倒れる。

「どうも。これからどうするんだ?」

「隣はもう全員いるかな?」

「配給担当の人たちも帰ってるいると思いますよ。どうします?」

「ちょっとこれからについてちょっと皆に伝えたいんだけどいいかな?それが終わったら冷泉ちゃんは帰って良いよ。」

「分かった。」

「じゃあ、呼んできますね。」

向こうの部屋の者たち全員が仕事を一区切り付けるまでは10分ほどかかった。生徒会長室には角谷、小山、麻子が窓側に、ドア側に生徒会の者たち計36名が立っている。学年は高3から中1まで多彩だが、高校生の方が多い。

「それじゃ、明日から私たちは出かけちゃうし、明日はその準備で奔走することになりそうだから、今後について話しておくね。そっから先は小山に任せるから、その指示の下で仕事をこなすように。」

「はい!」

「了解です。」

「まずは高3の人、聞いたとは思うけど私が昼に話したことは本当だし、今回の協定で向こうと話を纏めたのは事実だ。これから学園の廃校の回避に尽力してくれたその力を再び借りたい。受験勉強していた人は済まないとは思うけど、私ではどうしようもならない。その分こちらに全力で取り組んでほしい。」

「はい!」

「あとはこちらは皆も顔は見たことあると思うけど、普通一科2年の冷泉ちゃんだ。普通科学年主席なんだけど、中国語を学んで貰ったから今回は通訳として同行してもらう。帰ったあとは業務にも参加しもらうよ。」

「紹介に預かった冷泉だ。よろしく頼む。」

「さて、このように学園艦の現状を学園艦の皆さんにお知らせ出来た以上、生徒会の仕事にも幅が効くようになったから、これからは島で食糧を生産できるようになることを最初の目標として行動していくよ。

まずは学園艦からの移転、住居、農地整備、そして生産だ。少なくとも2年は見積もらなくてはならないだろうけど、その期間で済むよう進めてね。あとはその間の食糧などの購入に向けてだね。

まずは学園艦の鉄鋼以外に住民が保持しているものを徴収して向こうでの資金に変えていこうと思う。残念ながら食糧の備蓄はないけど、売れるものならある。何としても食糧の安定確保までこの学園艦住人3万人を生かさなければならないよ。

徴収の最初は靴にしようと思う。一家一足ずつ出せば少しは資金の足しになる。そんな感じでこの学園の為に捧げるしか無いのさ。

住民の移転については、同行してくださる松阪先生は広州での島の交渉成立後帰って貰うから、その情報を得たら直ぐに準備して。一月半程しかないからゆっくりしている時間はないよ!」

「はい!」

「じゃ、以上!各自業務に戻って!」

「はい!」

ぞろぞろと麻子をふくめた下級生が部屋から出て行く。新規で来た高3は倉庫から引っ張り出してきた机で仕事する者が多い。案外この広かった生徒会長室も狭くなってきたものだ。

「会長!」

明日からの準備に入ろうとした矢先、外に出た下級生の一人が舞い戻ってきた。

「どうした?」

「お客様です。」

「この時間に?」

呼び出した人はもう全員来たし、今はもう外出は制限されているはず。

「誰?」

「風紀委員会の後藤委員長です。あと他に風紀委員が二人。」

「……まぁ、お迎えして。」

「はい。」

ゴモヨが生徒会の者に連れられて角谷の前に来た。顔色はあまり良いとは言えない。しかも顔には汗が浮かんでいる。息の荒れようからもここまで急いで来たと思われる。

「風紀委員会委員長、後藤モヨ子です。まずは夜間行動制限を破ってしまったこと、申し訳ありません。」

「それはいいからさ、急にどうしたの?あとここ他の生徒会の人が聞いているけど大丈夫?」

「構いません。今回来たのは、緊急の要件をお伝えせねばならないからです。学園の未来に関わります。」

「……何?」

「風紀委員の一部が、決起を計画している模様です。」

「⁉︎」




ハイレ・セラシエ1世「ウチにも学園艦来れば……」
カッサ・ハイレ・ダルケ「アッサブかマッサワまでイタリア軍を突破できてから言ってください。」

次回予告

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