広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。

角谷杏の非日常。


12月9日

作品の都合上一部変更しました。


広西大洗奮闘記 51 夢、そして正夢

 5時31分、起床。床の横になっている者たちに注意しながら隣に移動し、顔を洗い水を飲んだ後、昨夜作ってもらった分の書類を回収。その場でそれに目を通す。

 6時丁度、朝の配給担当起床。すぐさま服を着替えて出掛けて行く。近場の一人に、今日から生徒会室に持ち込む分が増えていることを伝える。書類は少し当人と話をしなければ。

 6時30分、アラームと共に全員起床。皆と一緒に布団を片付ける。始めの頃は宿泊行事のような雰囲気があったが、一月も続ければ作業である。裏に入れた後、腕を捲る。生徒会分の食糧が届けられる前にそれなりの準備は整えたい。

 7時27分、人数分の朝食を鍋で完成させる。今日出来なければしばらく出来ないから、ちょっとくらい趣味を嗜んでも悪くない。人の役にも立つし。皿に入れよそって配る。自分も食べる。美味い。食材に大きな変化はなくなってきたが、味を変えた甲斐がある。

 8時1分、完食。この備蓄を作ってくれた方とその元の食材を育てて下さった方に敬意を込めてご馳走様、と言う。食器を洗い場の担当にそれを渡す。

さて仕事だ。真っ先にやるのは今日議会にて可決してもらう予定の総体規則案、正式名称大洗女子学園の非常時に伴う総動員体制導入等に関する規則、の内容を調整することだ。担当と小山を呼び出し椅子に座らせて話し合う。今回の案はこれまでの統制体制による物流の生徒会による一元的な管理に、学園の教育機構の一時的な停止と人員管理の権限を加えたものである。人員の定義は学園艦に住む全ての住人だ。そこに差はない。

さてここから残る生徒会の者たちがやり易いように整えていくか。

 9時12分、大体纏まった。まずは人員の配置、管轄に於ける決定権を生徒会に限定する。しかしそれだけだと教員などから不満が出かねないから、中学、高校の教頭先生と町内会長に参加してもらう。あらかじめ伝えておいてあるので混乱もない。

後は生徒の労働に関しては時間制限を設けた。中学生が5時間、高校生が6時間と定めておくが、将来的には延長も視野に入れる。あとは所持品回収は要請、即ち差し出し相手の許可を得るものとする、と記載する。主な変更点はこんなものだ。最後に一言、

『総動員体制は大洗女子学園の存続及びその住人の生命保護を目的として実行されるものであり、万山群島での新学園都市にて全学年での授業の開始後1週間後にこの法は効果を失い、廃案とする。』

と記せば、生徒会による完全独裁という不満や反論も多少は緩和されよう。そしてこれはタネだ。餌だ。キュウリの折れた分を捕まえるための。小山にはその点はしっかり伝えておいた。次は所持品回収に関する意見調整だ。基本反対する気は無いが。

 9時47分、こちらも無事纏まった。取り敢えずたけのこの皮になりそうな物をちまちま貰っていくことになる。一人暮らしが多いとはいえどどの家も必要最低限以上の物品を持っている。それを使う。あとは質屋経由で札束をさばいた時の残りも。

 11時7分、あのあと始めていた石油の備蓄と島での使用に関する資料が出来た。足りない。住民移住のための輸送船の使用でかなり使ってしまう。輸送船に押し込みながら運んで回数を節約するほかないだろう。出来るだけ広州からは買いたくない。

 12時2分、他の生徒会の者の進捗と問題を席を回って聞き出した後、昼食をとる。やはり食糧や物品関連の管理は慣れてきつつあるが、人員管理は高3が増加したとはいえ対応仕切れるか若干不安だ。帰って来てから場合によっては生徒会の人員増も考慮に入れなければ。

 12時27分、最後の8音が鳴り終わってすぐに完食し、食器も各自で洗う。口周りを少し気にした後小山を連れて大教授へ向かう。ここにて議会が開かれる。

開会に必要な人数は間も無く集まり、壇上で自身の口から今回の体制に関する説明をする。議会の人間は話が通じやすくて助かる。議員の一人から万が一の為の暴走阻止機能の設置を求められたが、これまで通り生徒会長選挙及び議会選挙は年一度行うと署名した。

選挙準備費用は馬鹿にならないが、自治権を認めてくれた以上下手に西南政権に擦り寄る必要もないうえ、それで政権の安定が保証されるなら安いものだ。

 13時14分、議会にて可決。明日から施行される。そうでなければ困る事情がある。帰りがてら放送が流れる。選挙に関するものだ。放送部の今朝の調査の結果逆転したそうだ。赤峰側が今回の件に関する対応を早急に行えなかったのが痛手らしい。

また一歩進めた。放送部の例の者はショックだったのかは分からないが、前のようなハキハキした話し方ではない。

 13時51分、艦内の補給船ドック着。集まった松阪先生と冷泉ちゃんと共にその輸送船を前にして大橋艦長から今回の出航について説明を受ける。出航は18時、目的地は広州、時間は半日強、さらに今回は鉄鋼の見本品を1t乗せていくそうだ。

今回同行してくれる船舶科の人は古賀と三川という長坂班の者だ。古賀はなかなか気さくで、三川は真面目そうだ。行程も確認をする。

 14時56分、生徒会長室に戻る。荷物の中身の最終確認。これまでの資料と衣服関係と中国語関係など諸々。終わり次第午前に終わっている仕事のうち私の決済がいるものに印を押す。そして最後は小山に出航後の決済を全面的に委任する書類に印を押す。

 15時32分、夕方配給組が準備を始める。一人ずつ握手をして送り出す。

 16時19分、やるべき書類のチェックは済ませた。2年はやはり長い。たけのこの皮が尽きる前に収入源を確保したい。塩か、魚か……

 17時10分、ドックに再び着く。船舶科の者たちは忙しなく輸送船に荷物を積み込み、鉄鋼も本来はクレーンなどで積み込むべきなのだが、石油の節約のため人力で運んでいる。今回北へ行く人は自身の荷物を船内の操舵室に運ぶ。服は今は制服にしてある。後船内でワンピースか他の正装に着替え、簡単に薄化粧するが、やはり此処を出るときぐらいはこの学園艦の正装でいたい。

 17時47分、出航も間近に迫った頃、生徒会の人も見送りに来てくれた。配給組はいないが他の人はいる。

 18時、この協定を紙切れにしないための旅が始まる。汽笛一声学園をはや我が船は離れたり、とでも言おうか。いや、「我ら」の船とした方がいいか。船の外で手を振る。向こうも振り返してくる。今回の旅で死にそうになるようなことはないだろうが、不安はある。しかし向こうの期待に満ちた顔はそれを紛れさせた。

 18時33分、学園艦のドックを離れてしばらく、久々に鳥を見た。灰色の羽をしたヨウムだ。冷泉ちゃんと船舶科二人は驚き、松阪先生はため息を吐いた。これまでに出来たこととこれからすることを伝えると、頑張れとだけ返してきた。

このヨウムの通り此処がパラレルワールドで私たちは13年後には帰るならば、こっちにも大洗の痕跡は残した方がいいのか、生活が安定したら考えてもいい。鳥はその曇り空に羽を溶かしながら飛び去った。

 

 

 今日の交流戦もそのセンチュリオンの砲は弾薬が装填されさえもしなかった。撃破されたのは僅かに9輌。かなりのキルレートだ。それに時計を確認すると、まだあれには十分間に合いそうである。

しかし、彼女、13歳の大学生の顔は晴れない。いや、寧ろ勝つごとに虚しさが増していく。あれから一月。捜索は僅かな有志によって継続されているに過ぎない。そして痕跡はない。彼女を破った高校生の寄せ集め、それに参加した全ての者が失われた。

確かに彼女たちが失われてもこの世界に彼女に勝てる戦車道の人間はいるだろう。それでも彼女たちは別だった。そのリーダーがボコ仲間であるとかではない。

戦えない。彼女はそのために新世界への挑戦を断ったのに。ある意味では助かったのかもしれないが、雨の後固まった安定した土地を失ったことは、特に人付き合いの得意でない彼女にとっては辛い。

だが彼女は戦車道を辞める気は毛頭ない。文科省に戦車道を侮辱されたに対する復讐という面や、島田流の名を挙げるという点もある。しかし、次こそは勝つ。西住みほ、いやあのチームそのものに。学園艦が消えた場所からはまだ誰の屍も上がっていない。

生きている。間違いなく何処かで生きている。だからこそその時に相応しい姿でいる必要がある。それが根幹であった。

「全車ご苦労、帰還して。」

島田愛里寿はマイクを口に当てそう命令を下した。

 車輌の片付け、運搬準備、砲弾使用量など各種報告を済ませ、反省会を終えてやっと戦車道の一試合は終わる。

「隊長、お疲れ様です。」

「ん。」

 副官のアズミが声を掛けても軽く上の空である。オレンジに染まる西の空をただじっと眺める。

「……やっぱりあの件、相当ショックなのかしら。」

 同じく副官のメグミがアズミの背後から声をかける。

「あの学園艦の件?」

「そう。試合の後学園艦見て回った際に仲良くしてくださったそうだし……」

「そうだろうけど……正直どうしようもないよね。」

「戦車道はしっかりやってくださるけど、他がうまくいってないみたいだしね。この前教授に怒られているの見たよ。」

「どうしたの?」

バミューダ三姉妹が揃う。かのプランと同じ名前であることの共通点は何かしらを吸い込むことだけであろう。前者が戦車を、後者が学園艦を、である。

「いや、隊長の話。」

「ああ。で、元気出して貰うために私たちに出来ることはないか、って感じ?」

「まぁそうなんだけど……なんかある?」

「食事は?ハンバーグ店に誘うとか。」

「その後ボコミュ行きは確実だけど?」

「うっ……」

「……でしょ?」

ここまでボコミュ行きを敬遠するのには訳がある。彼女らは既に改装後に愛里寿と共に6回行っているのだ。元から好きというわけでもないのにそんな回数行けば自然行きたくなくなる。

「という訳で外は無理。」

「というかそもそも心の問題だからね……物じゃ何ともならないでしょ。」

「まぁ、出来るのは隊長といつも通り振る舞い続けることだね。」

「うーん……そうだろうね。」

「同意。」

「じゃ、そんな感じで。」

 そうメグミが纏めると、3人は揃って愛里寿に近づいた。

「……夕焼け綺麗ですね、隊長。」

「うん……」

「今日の勝利、おめでとうございます。」

「ん。」

「そろそろ時間です。撤収しましょう。」

「分かった。」

 愛里寿は3人に連れられて先ほどの顔の向きとは逆に進む。

「そういえばね……」

「どうしました、隊長?」

「最近夢を見るの。」

「夢、ですか?どんな夢ですか?」

「みほが、他の高校の人も、みんな大人になってて、また戦車道で戦うの。」

「大人って……どれくらいですか?」

「分かんない。でも今の大学のみんなよりも年上。そして私も目線が同じ。」

「それで、その戦車道はどうなるんですか?」

「勝ち負けが付きそうなところで、いつも目がさめる。」

「そのあとは私たちの勝ちに決まってますよ。次は負けられませんから。」

「……これはね、単なる夢じゃない。正夢。必ず叶う。」

「そうです。叶いますよ。学園艦がなくなるなんて絶対可笑しいですから。ひょっこりと戻ってきますよ。」

「……うん。」

迎えのバスが目の前に並ぶ。

「帰りましょう、隊長。」

 




次回予告

棒をよく磨け
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