広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。

真夜中の学校……怪談の定番やな


広西大洗奮闘記 53 動員

 ゴモヨは皆と練り上げた防衛計画を片手に、いざという時早急に情報を掴めるようヤボクを近くに付けながら、暗闇の学園へ歩みを進める。校門を通り抜け向かうは生徒会室、いや生徒会長室だ。

「……静かっすね。」

「これから忙しくなるけどね。何か連絡来てる?」

「いや、幸い何も無いっす。」

「明日かしら……」

学園で行き先を迷うことはない。こんな時間に明かりがついているのは、夜間の船舶科の授業の教室か生徒会室の2択だからだ。そして前者がありえないとなれば後者しかない。後者の前にたどり着くと、大きな扉を叩き入室を請う。

「はい。」

「風紀委員長、後藤モヨ子です。」

「小山副会長がお待ちです。」

生徒会の者の一人に案内され奥に入る。奥の部屋の中では昨日よりも多くの人間がここで作業していた。

「失礼します。後藤です。蜂起勢への対処案を作成しましたのでもって参りました。」

「どうもありがとうございます。そちらの方は?」

「学園艦店舗運営補佐担当長の矢暮と言うっす。情報関係を管轄してんで今回は万一の際に委員長にすぐに情報を伝えられるように同行して来たっす。」

「ここでは辞めなさいよその口調。」

「いいですよ。矢暮さんが来ている理由は分かりましたし、そんなこと気にして入られませんから。」

「はぁ……すみません、ウチの部下が……」

「では、早速お話を。」

小山は会長の席を借り、その前に椅子を二つ並べ、二人をそこへ座らせた。

「はい。蜂起勢の方が数が多く、しかも精鋭も向こうに回っているため、数を集中させて局所的に優位を確立して撃退し、弱らせたところを捕らえる、というのが作戦です。

守るのは艦橋とここ学園の2ヶ所。配分比は1:9です。学園では校内への入口及び校内を守る予定です。その為出来れば今夜から風紀委員を学園に留め置いて欲しいのですが……」

「それに関しては明後日の選挙の会場準備補佐として学園宿泊証を発行しますのでご案心を。しかしそうなると蜂起勢が動いた後こちらから動くのは厳しそうですね。」

「……正直蜂起勢が戦力の8割学園に集中させてきたら、撃退出来たとしても負傷者はこちらの半数……近くになるでしょう。」

「負傷者は減らして貰いたいですね。医薬品も限られる今大陸からは出来るだけ買いたくありませんし。まぁ、取り敢えず大まかな方針はそれで構いません。相手が動かない限りこちらは向こうを潰せる明確な証拠を得られませんので。後で詳細を詰めましょう。そういえば昼間の運動、聞きました?」

「赤峰候補のですか?部屋からながら聞きましたよ。何でも今回の発表は全て嘘だとか日本に帰るとかなんとか。昨日一日動いていませんでしたし流石に大丈夫だとは思いますがそれがどうしましたか?」

「昼間の放送で、向こうは自分たちが劣勢であることを知っているはずです。生徒会へのこれまでの不満を背景にそこそこ支持されていますから、加担されたら面倒だと。」

「落選した後に蜂起されればあり得るかもしれませんが、これまで選挙で戦っていますし民主主義を卑下したりはしないと思います。まぁ、本当に負けるのが確実となったら分かりませんが。」

「……まぁ、向こうについたら選挙後に特別風紀指導を受けさせて貰える?」

「了解しました。」

「あとこっちからひとつ。部下に調べさせてる限り部隊の集結などは見られないので、今日は来ないっぽいっす。」

「ありがとう。じゃあちょっとそこで待ってて。」

小山は部屋の入り口側に進み、1名肩を叩いて連れて来た。

「じゃあ、細部を詰めていきたいんだけど、その前に援軍のアテが付いたわ。」

「援軍!本当ですか!ですが何処からの……いや、五十鈴さんを連れて来た……ということは……戦車道を使うつもりですか?」

「ええ、他にまともに増援となりそうなものは無いですから。戦車道がこちら側で参戦したらこちら側の正当性も高まりますし、見た目だけで威圧することも出来るでしょう。」

「いや……確かにそれはそうっすが、私たちや五十鈴さん、そして小山副会長ならともかく他の皆さんが協力してくださるんすか?」

「協力して貰えるようになったんですよ。」

「どういうことですか?」

「夕方の配給の際に、一つ掲示を出しておいたのですが、ご存知ですか?」

「ええ、総動員体制に関するものですよね?明日からとか書いてあって今日決定したにしては急だなぁ、とは思いましたが。」

「こちらがその内容です。」

華が二人の後ろから書類を手渡す。

「……これがどうかしたっすか?」

「……なるほど、そういうことですか。」

「何がっすか、委員長?」

「人員管理に戦車道の方も入る、ということですね?」

「その通りです。今日は蜂起勢は来ないようですから、今夜日を超えてから戦車道の人たちを召集しても大丈夫でしょう。」

「なるほど。そしたらこちらのグラウンドと校門の方に回って貰って戦力の増強としましょう。ここらは抜かれたくないですから。」

「それでいいでしょう。他はそちらの案のままで結構です。」

「ありがとうございます。早速風紀委員に学園への召集をかけてもよろしいですか?」

「書類は後からでも何とかなりますから構いませんよ。」

「分かりました。他に何か用はありますか?」

「いえ、特には。必ずこの動きを鎮圧してください。それだけです。」

「勿論です。私の不手際が起こしたもの、確実に私が抑えます。では失礼します。」

ゴモヨは席を立つとヤボクを連れて生徒会長室から去った。

「……ふぅ。」

「小山副会長、お疲れですか?」

「五十鈴も急にありがとね。」

「いえ、私もIV号乗ることになるでしょうから大丈夫です。しかし、今回負傷者を出す事態になってしまうのでしょうか。」

「戦車を見て向こうが恐れをなして引いてしまうのが一番いいものだと思いますね。」

「確かに鉄の棒を持った者同士の殴り合いよりかはそちらの方が良いですね。」

「それで、召集の準備は出来てる?」

「ええ、高3を含め全員召集します。あとは日を跨いだら各家庭を訪問するだけです。呼びに行く人の手配も出来てます。」

「なら大丈夫そうですね。」

 

 

「そういう訳で、今回あなた方をこちらへお呼びしたのです。」

深夜の学園内、とある教室に集められ席に座らされた戦車道の者たちを前に、教壇の裏から小山が話を続けた。前には他にゴモヨ、ヤボク、そして華が並ぶ。

「という訳で、ゴモヨ委員長と相談の上、風紀委員の方たちと4輌ずつ演習場に繋がるグラウンドと校門の警備について貰います。」

「わ、私たちに戦えと?」

前に座る磯部が机に上半身を乗せる。

「いえ、流石に戦車を見れば蜂起勢は引くと思いますよ。ですから恐らく正面切って戦うことにはならないかと。」

「よ、よかったぁ……」

「今回はこの前の一件とは異なり、総動員体制の規則に基づいた生徒会の決定ですので従って貰います。それに今回の件が拡大して混乱が抑えきれなかった場合、西南政権との協定がひっくり返される恐れがあります。何としても大きな混乱を起こさずに鎮めたいのです。ご協力を。」

「……はい。」

小山がみほの顔を見て通告すると、近くの澤が手を挙げる。

「あの、すみません。その風紀委員から離脱した人たちって本当に暴動とかを起こす気なんですか?」

「…………ええ、こちらの得ている情報ですと既にあちら側についた担当の者ほぼ全員に鉄の棒を配っている上、一部は既に一箇所にあつまっているっす。それに……彼らの目的はこの耳が間違ってなければ角谷会長とそれに繋がる政権を打倒する事です。

今回の支持率調査で角谷会長後継の峠候補と赤峰候補な支持率の差がかなり開いているところから、それをひっくり返そうとするとなるとそれくらいしか手段はないかと思うっす。」

「……蜂起は間違いなし、ですか。」

「残念ながらそうっす。こちらとしても元仲間を弾圧したりはしたくないっす。ですからそちらの威を借る形になるっすが、よろしくお願いするっす。」

「……万が一向こうが引かなかったら、どうなりますか?」

「一応校内にも部隊を配置していますので直接生徒会室に乗り込んでくることはないと思いますが、それだけで向こうの士気は上がると思うので、道を防ぐなどして他の風紀委員の部隊の対処を待ってください。」

「……分かりました。」

「ではこちらの方で他の教室を宿泊所とする形で宿泊許可証を発行しておきましたので、準備してください。校舎内にいらっしゃってすぐに連絡が取れる状況ならば特に行動に規制はしません。以上です。あとゴモヨさん、防衛計画の最終調整をしたいので、この後生徒会室に来ていただけますか?」

「……はい。」

「あと五十鈴さん、皆さんの部屋の管理と監視を今日一日お願いします。確か今日は配給関係ありませんでしたよね?」

「はい、大丈夫です。」

「では以上です。ごゆっくり。」

小山は全員の前で頭を下げると、ゴモヨとヤボクを連れてその部屋から立ち去った。残された者たちは華の案内の下で机が後ろに下げられた別の教室に案内される。

「ここですね。布団などは防災倉庫から持ち出して来ましたので、皆さんそちらを使ってください。」

布団は奥の方に準備されており、戦車道の面々は荷物を一箇所に纏めると布団を開いて引き始めた。既に時間は深夜の1時を回っている。だがこんな状況から考えれば果てしなく楽しい行為である。

その晩、日が昇るまですべての布団の中のおしゃべりが同時に止まることはなかった。内容は先ほどの話や現状の話ではなく、たわいもない日常の話だった。

 

 小山はゴモヨを通じてヤボクを先に生徒会室に戻らせる。ゴモヨと小山は無言でその背中を眺めた。しばし二人は明かりもない廊下で立ちすくんでいたが、その静寂を先に打ち破ったのは小山だ。

「委員長。」

「……はい。」

「これからちょっと散歩に行きたいのですが、外出許可を頂けますか?」

「構いませんが、なぜこの時間に?」

「特に理由はありません。あと出来ればご一緒願いたいのですが。」

「……分かりました。」

 二人は街灯もまともについていないグラウンドに出る。地面の砂を踏む音が途切れ途切れに鳴る。小山が、足を止めた。

「……ここなら本当に誰も来ません。本当のことを聞いてもいいですか?」

「本当のことですか……」

「ええ。短刀直入に言えば、あなた方風紀委員が今回の件の前から蜂起を計画していたのではないか、ということです。」

「……」

「先ほどヤボクさん、澤さんの質問に嘘を返しましたよね。蜂起側はまだ集結はしていないはずなのに。何故そうしたか。それは『何も知らない人には嘘を吐くしかなかった』から。私もあなた方も既に『風紀委員は蜂起するもの』という枠にはまっていたんです。」

「……」

「そちらがこちらの情報を集めていたことは掴んでいました。風紀委員は何かを企んでいる。先んじて抑えるべきだと諫言して来る人もいました。しかし私は廃校が決まった時からの恩からそれを退けてきた。」

「……」

「別に私はそれも有りますし計画していたこと事態を非難するつもりはありません、今回の蜂起を無事に抑えて対応を任せてくだされば。認めて頂けますか?」

「……」

「駄目ですか。」

「……本当に、追求は無いのですか?」

「我々としても今後の新たな学園都市運営において治安維持の為あなた方は必要です。蜂起側を完全に鎮圧して、今後も協力してくだされば、特に問題ありません。」

「……分かりました、認めましょう。少し話が長くなりますので、何処かで腰を落ち着けませんか?」

「そんなにですか?」

「今となっては馬鹿らしいものですが。」

「折角ですし聞きましょう。」

グラウンド近くのレンガ倉庫の壁に背をつけ腰を下ろす。丸に近い月が空には輝いている。

ゴモヨはこれまでの経緯を説明した。それを考えた理由、実行計画、そして今回の蜂起側の担当長がその計画の中心的役割を担っていたこと。そんなことを風紀委員の話に絞りつつ話した。小山は黙ってそれを聞き、聞き終わると手を取った。

「……誤解が壁を生みました。しかし、その誤解は私たちの学園艦に安定をもたらす為には必要なことでした。」

「よく分かっております。」

「ですがその誤解は解かれました。私たちは今まで以上に手を取り合うべきです。あなた方は『何もしていません』。いいですね?」

「……はい。今後もさらなる関係強化を進めましょう。」

手を離す。小山は立ち上がり裾の砂を叩いて払い、背筋を伸ばした。小山の特徴は通常の人間が後ろにバランスを崩しそうな角度で伸びをしてもバランスを崩さないことである。

「では、早速8輌……いや、7輌の配置を決めましょう。」

「どれが動かないのですか?」

「私は流石に前線には出れませんから。」




次回予告

クリスマス特別編……の予定
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