広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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メリークリスマス!どうも井の頭線通勤快速です。

クリスマス特別編です。

これを書くのが今日の唯一の用事です。


広西大洗奮闘記 特別編1 12使徒に見下ろされ

 1155年 スウェーデン王エーリク9世が征服。カトリックが布教されるが、宗教革命後スウェーデンがルター派を受容したため、ルター派が浸透する。

 

 1581年 スウェーデン王がフィンランド及びカレリア大公を兼任する形で後のフィンランド公国が成立する。

 

 1596年 農民が徴税と徴兵に対し棍棒戦争と呼ばれる反乱を起こすが一年後鎮圧される。

 

 1721年 スウェーデン、大北方戦争に敗北。二スタット条約でロシアにエストニア、カレリア地方などを割譲し、バルト海での覇権を失う。

 

 1809年 ナポレオン戦争の最中、スウェーデンはフィンランド戦争に敗れ、フレデリクスハムンの和約を結び、フィンランド大公の地位をロシア皇帝アレクサンドル1世が継ぐ。内政ではフィンランド人が登用され、後に公用語としてそれまでのスウェーデン語に加えフィンランド語も認められて行く中で、『フィンランド人』の民族意識が高まる。

 

 1899年 ニコライ2世は露独関係悪化に伴う強権化を進め、その中でフィンランドの自治権廃止宣言を含む二月勅書に署名。公用語としてロシア語が強要される。フィンランド人の反発と民族意識もさらに高まる。第一次ロシア革命後、これは撤回され、女性参政権が認められた普通選挙による議院内閣制が成立する。

 

 1914年 ロシア帝国、再び自治権停止。しかしロシアを輸出先として、最新技術を導入しつつ経済発展を遂げる。

 

 1917年 第二次ロシア革命の混乱の最中、フィンランド共和国独立宣言。

 

 1918年 フィンランド内戦勃発、白衛軍(資本主義派)の勝利。

 

 1921年 パリ講和会議で独立が国際的に承認される。

 

 これはそれから14年後、北欧の小国フィンランドで起こった異変にまつわる話である。

 

 

 気温が低いと思われていることも多いここフィンランドであるが、沿岸部はバルト海やメキシコ湾流のお陰で、北緯60度以上にあるにも関わらず日本の北海道とさして変わらない気候である。街の人間は長袖に薄手の上着を羽織った姿で街を闊歩している。彼らは広大な石段の一角に一度目をむけるが、気にせずそのまま通り過ぎて行く。

緯度が高い街の夜は早く、まだ5時にもなっていないのに完全に陽が落ち、辺りを照らすものは店と街灯のみである。

「……ねぇ。」

「なんだい?」

石段の途中には3人の少女が腰掛けている。正面、すなわちヘルシンキ大聖堂を背景とした時に左側の子は厚手の上着を来てさらに震えており、右の茶髪の子はジャージ姿で後ろで手を組んでおり、真ん中の子はチューリップハットに同じくジャージで、膝の上に弦楽器を載せ奏でている。そしてこの奏でている音楽こそが辺りの人間を振り向かせる理由である。

その足元にはコインの一枚入った空き缶が置かれているが、前に来てまでこの音楽に耳を傾ける者はいない。

「……今晩どうするの?」

「どうするって?」

「どこで泊まるの?こことか路上寝泊まりは自殺行為よ絶対。」

「……人が寝る時、布団である必要はないんじゃないかな?」

「ミカはその音楽で1マルッカでも稼いでから言ってちょうだい!」

「後ろのでっかい建物に泊めさせてもらうってのは?」

「最終手段ね。私たちプロテスタントの作法とか知らないし。」

「町外れのどこかで野宿すればいいんじゃないかな?」

「ここ人口何十万もいる都市の中心ですけど?公園で野宿でもする気?確かにテントと寝袋は用意してるけど。しかもそこまで場所も分からないのに歩く気?一応私たちこの国に居候しているんだから、下手に迷惑かけちゃダメでしょ!」

「野宿をする、それは本当に悪いことなのかな?」

「どーにかなるんじゃない?」

「ならなさそうだから言ってるんじゃない!全くもう、こんなことになるんだったらヘルシンキについて来るんじゃなくて学園艦に残ってればよかった!」

アキは口を膨らませてそっぽを向いてしまう。

「といっても、アキも自分で決めてついてきたんだろ?それじゃしょうがないじゃん。そんなカッカすんなよ。そういえばさ、何でミカはポリからヘルシンキに来たのさ?ここまでついて来た私が言うのも何だけど。」

「風が呼んだからさ。」

「ミッコは?」

「面白そうだったから。」

「やっぱり……本当どうすんの?帰るにも鉄道に乗れるお金も無いんだよ?」

「別に帰って学園艦の食い扶持を潰す必要はないんじゃないかな?」

「野宿で良いじゃん。学園艦に残ってても石油に制限かけられて戦車も車もバイクも乗れないんだから。」

ミカの指は変わらずこのカンテレの上を舞い、ミッコは腕を後ろで組み、2段上に頭をつけんばかりに身を反らせる。

「全く……」

「ミカはさっきから何を弾いてるのさ?学園じゃ聞いたことないけど?」

「この国の人にとって大切なものを伝えようとしているのさ。」

「へぇ。」

「でもこの様子だと皆さん既にお持ちのようだね。」

最後の1音を弾き、11本の弦の震えを抑える。

「大切なものなら持ってるでしょ、何か知らないけど。それより曲変えたら?」

「……そうだね、次は何の曲にしようか。」

「ちょっと夕飯考えときなさいよ。」

「この1マルッカに聞いてみる。」

ミッコは缶に手を突っ込みコインを掴み取る。

「てかそれどこで手に入れたの?」

「秘密。じゃあ表が出たら夕飯について考えなくてもよし。そーれ。」

それを右の親指の上に乗せ空に弾き、右手の甲と左手の平で挟む。左手を離すと、そこにはライオンの紋章が僅かな明かりを反射して輝いていた。

「表だな。じゃ問題なし。」

「何がどう問題なしなのよ。」

「……次は何時ものにしよう。」

「何時もの、って、アレ?いやあれはダメでしょ、歌詞的に考えて。」

「歌わなきゃいいんじゃないかな。」

「日本の曲にしたら?」

「……あまり弾けない。」

「あ、そう。」

今度はリズムが速い曲がこの石段から広場に響いた。こちらに来る人はいない。

「……この曲聴いてると戦車乗りたくなるんだけど。」

「……曲を変えるかい?」

「いや、いい。」

背後からの風が止んだ。

 

 

 かなり高齢に見える紳士は一人の秘書を共に付け、街を歩いていた。口から出て来るのは年甲斐もなく不満である。

「全く民主政治家の奴らは何を考えている!あの国の隣にある以上、軍備を整えて対応せねばならないというのが分からないのか!」

「ソ連と軍拡競争始めたら勝てないということでは……まだ恐慌の影響は残っているのですし……政府はソ連はしばらく内政に注視すると見ているようですし。」

「その目がいつ外を向くか分からないではないか!国を、我が国を潰す気か!ドイツが再軍備を始めた今、英仏がまともに助けてくれるはずがない!我が国は独自でこの国を守らねばならないのだ!」

「それは分かりますけど、だからといって閣下。予算が通らなかったと言って、また辞表にサインしようとしないでください。」

「やってられるか!」

「今の職はやって頂かねば困ります。」

「ふん!」

「せめてこの場では落ち着いてください。」

カバン片手に帰りを急ぐ男を何とか秘書は抑えようとするが、機嫌は相変わらずだ。

「だから民主政治家の奴らは……あとあのリュティの野郎も……」

そして愚痴はこの長身の老人の口から変わらずロシア語の形で飛び出し続ける。帰る道を進んでいると元老院広場の大きな銅像がさらに上から見下ろしている。そして二人の耳に入ったのは、音楽。それは老人の愚痴を一時停止させた。

「……大聖堂の方からだな。」

「こんな夜に日光浴でもしてる人間が居るんですかね?」

「……これはカンテレか?」

「そうみたいですが……恐らくどっかの乞食か何かでしょう。」

「カンテレにしてはやけに速いな。聴いたことのない曲だ。興味深い。行くぞ。」

「えっ?どちらに?」

「この音楽を奏でる主に会いに行くのだ。」

 老人は既に石段の方へ数歩歩みを進めていた。秘書はそれに遅れて広場を横切る。

「どどどうしたんですか急に?」

「なに、気になるだけだ。」

幅の広い石段にはそれぞれ離れた二組しか腰掛けていない。そして楽器を持っているか否かで演奏者か否かは判別可能だった。老人は斜めに段を登りそれらしき3人に接近する。

両端の二人はそれに気づいたようで、座ったまま老人に目線を合わせ、首から先のみ礼をした。音の連なりは絶えない。数段下にいるはずだが、かなり上から見下ろす形になる。

「……Kappaleen kuunneltavan?

(今弾いている曲は何だ?)」

「…………Karelia kehua ja ylittää polkkaa.

(カレリアを讃えるポルカさ。)」

「Se on hyvä biisi.

(いい曲だ。)」

ただ正面に立ち、瞳を閉じてその曲に聞き入る。だが途中と思われる場所で区切り、初めてミカは顔を上げた。

「Haluatko kuulla uudelleen alusta?

(もう一度始めから聞くことをお望みかな?)」

「Näin on. Pyydä alusta.

(そうだな。最初から頼む。)」

たった二人に対する演奏会がひっそりと始まる。老人は今度はしっかりと目を開き、ミカを視界に捉えながら聞き入る。両端の二人は何が起きたのか分からずにいるようだが、とにかく老人はこの3人が、例のボスニア湾にいる学園艦なるものの乗員であることを、その右胸に付いたマークから察していた。

曲は再び最初の方のリズムに戻ったかと思えば再びさっき聞いたリズムが耳に入る。そして指先で前方に描かれた四分円が、その曲の終わりを告げていた。

「……Tämä biisi tämä on loppu.

(この曲はこれで終わりさ。)」

「Se oli hyvä biisi. Koska tänään on hieman paremmalla tuulella todennäköisesti viettävät.

(いい曲だった。お陰で今日は少しマシな気分で過ごせそうだ。)」

老人は拍手とともにその曲を讃える。

「Kiitos sanomalla, että onneksi.

(そう言って頂けるとありがたいね。)」

「Tulit tänne Pori?

(君たちはポリから来たのかい?)」

「Nousta alukseen juna.Alkaen Pori.

(鉄道に乗って来たよ。ポリからね。)」

「……」

なるほど、かの学園艦の使節とやらが北西の港町ポリに現れてから一月以上が経つ。そこからはるばるここヘルシンキまで来た者たちが居ても不思議はない。そして政府は現状学園艦の実態の詳細をつかめていないらしい。

おまけにフィンランド語を話せ、話を聞き出せそうな人間がとりあえず目の前に一人。となれば取るべき道は自ずと決まる。

「Voit olla jossain yöpyä tänä iltana?

(今夜何処か泊まる当てはあるのかい?)」

「Ei.

(いや。)」

それを聞き終えると、後ろで待っている秘書の方を向く。

「君、今日はこの後何もないよな?」

「は、はい。今夜は特に用事はございませんが……」

「それなら結構。彼らを我が家に招待するぞ。準備しろ。」

「へっ?」

「聞こえなかったのか?招待するから準備しろと言ったのだ。」

「いえ、あの、この見ず知らずの者たちを招待するのですか?」

「ああそうだ。彼らは継続の者たちだ。話を聞きたい。」

「継続って……あの学園艦とかいうものですか?」

「そうだ。先に帰っておけ。」

「いやしかしですね、閣下。あなた様をこの者たちと護衛なしで帰らせる訳には……」

「私は軍人だ。こんな者たちに負ける程まだ衰えてはいない。早くしろ。」

「はぁ……分かりました。ですがお気をつけくださいね。」

 秘書は首を左右に捻り、すぐさまその場から駆け出した。

「Olette asuville ihmisille "jatkosota koulun aluksen"?

(君たちは『継続学園艦』の者だな?)」

「Kyllä.

(そうだよ。)」

「Haluavat kysyä meistä te, kun kuuntelet muita kappaleita. Tulevat illallinen tulemaan, eivät saa mitään?

(他の曲を聴くついでに、君たちの学園について聞きたい。夕食を都合するから来ては貰えないか?)」

「Minne mennä?

(どちらに行くんだい?)」

「Se on minun talo.

(我が家だ。)」

「Olen pelannut sitä sinulle oma alma mater mutta vain hyvä on mitä?

(私はこれを掻き鳴らしつつ、あなたに母校についてお話すればいいのかな?)」

「Kyllä.

(そうだ。)」

「Kiitollisena kutsun.Voin soittaa nämä kaksi ihmistä?

(では、御相伴にあずかろう。この二人も呼んでいいのかな?)」

「En välitä.Otan sinut.

(構わない。案内しよう。)」

「Odota vähän.

(少し待って欲しい。)」

先に進もうとする老人を制止させ、ミカはカンテレを脇に抱えすっと立ち上がる。

「どうした、急に立ち上がって。」

「ねぇミカ、何を話してたの?」

「この人の家に招待された。夕食をご馳走してくれるらしい。」

「…………はっ?」

「行くよ。もしかしたら今日は寝袋じゃないかもしれない。」

「いやあの、話が分からないんだけど。てかいいの?ついていって。」

「大丈夫……だと思う。」

「まぁ、野宿したくないなら行くしかないわな。」

「Anteeksi. Kiitos etukäteen.

(すまない。宜しくお願いするよ。)」

「Tule tule.

(ついて来てくれ。)

ミカは一歩先に出た老人の後を追う。

「アキ行くぞ。」

「え、ちょっと待って……」

なんだかんだ言ってアキもついて来た。

「Tietoja meistä.Olen Mika.Tämä on Mikko, on Aki.

(取り敢えず紹介しよう。私はミカ。こっちがミッコでそっちはアキだ。)」

「Mika, Micko, Aki……

(ミカにミッコにアキか。)」

老人は不思議そうに彼女らの顔を交互に眺める。

「Onko sinulla kysyttävää?

(何か疑問でも?)」

「…………Naiset olette?

(君たちは女性だよな?)」

「Ei ole niin tärkeää.

(それは重要なことじゃない。)」

「Vaikka harvinainen……Voi olla totta.

(珍しいが、確かにそうかもしれないな。)」

「Oletko varma, että haluat kysyä nimeäsi?

(名前を聞いても宜しいかな?)」

「……Carl Gustaf……Carl Gustaf Mannerheim.Tunnettu Gustav.

(カール=グスタフ、カール=グスタフ=マンネルヘイム。グスタフと呼ばれている。)」

「カール=グスタフ=マンネルヘイム……

 K,Kiitos etukäteen, Hänen ylhäisyytensä.

(よ、よろしくお願いします、閣下。)」

一滴の水滴が、ミカの首から背へと流れる。

「Terveisiä, Mika.

(よろしく、ミカ。)」

それを悟られぬよう握手を交わす。しかし学園艦の情報を望んでいることを加味しても、このお方はここまで我々を厚遇するのだろうか、それは分からない。ただ一つ言えるのは

「……ちょっといいかな?」

「何だ?」

「何?」

「……やばい。」

 




いつもお読みいただきありがとうございます。

この作品を書いた動機と今後についてのご連絡を活動報告の方に記載しておきますので、宜しければご覧ください。

フィンランド語があっている保証は全くありません。
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