広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。

野球は後半戦、こっちは終盤のはずなんだがなぁ。




広西大洗奮闘記 74 肉叉

昨日21日には風紀委員会にて組織改編が再び行われた。大まかに言えば、前年度まで在籍していた高校3年生を風紀委員会に復帰させることを生徒会を通じて発表したのである。

これで一時期は150人程、怪我人を抜けば100人強にまで減っていた風紀委員が、怪我から復帰した分も合わせれば200人程まで増加したのである。

病院にいる怪我人の数もあと4人。蜂起の鎮圧後手術を受けた者たちだが、全員回復傾向にあり命に関わることはない、と医者は言っている。

風紀委員会は大洗学園艦、新学園都市に於いて重要な治安維持、労働監視部隊としての地位を回復したと言えるだろう。

正直園さんの復帰人事に異論や不満が湧くのは覚悟していたが、今回の混乱を受けた人事とのことで生徒会に対する反発もほぼない。これで安心して仕事を任せられる。実際動員した住人による労働への監視任務の範囲、対応人員は増加した。

動員した住人による労働といえば、水産科が取った魚を捌く仕事を増やした。学園艦の中でも自炊を主とする寮に住む者や学園艦在住の者の母親、料理が上手い者などを重点的に配給場所を通じて呼び出している。

配給に回しているのは漁獲高の9割。残り1割を保存食とするべく加工するのもここの仕事だ。魚はここ数日は安定して獲得出来ているが、これがいつまで続くかは不明瞭だ。備蓄は作って損はない。もっとも元来学園艦に備蓄されていた分の保存食は尽きかけているのだが。

魚の配給は配給場所での住人の様子から見ても好印象だと思われる。これまで入っていた主なタンパク源といえば、配給食糧に入っていた加工肉、場合によっては卵白で繋ぎ合わせたようだ合成肉だったりしたから、それに比べればはるかに美味いはずだ。

とにかくも会長による最終段階や支援物資に関する報告が無い以上、ここに滞在出来ない可能性も考慮せねばならない。飯は確保するに越したことはない。

とはいうものの、配給と人員確保を残せば、生徒会に出来る仕事は2回目の万山群島への開発担当の派遣準備などであり、そこまで多くない。私も印を押す作業の合間に少しゆったりと水を飲むことが出来る。

昨日の夜から早朝にかけて雨が降った為湿度が高い過ごしにくい日ではあったが、皆が不平を言わず働いてくれるのもこの作業量のお陰である。

 

そんな中、緊急無線の甲高い音が鳴った。試験機械を通じて繋げた島から毎日報告は入って来るが、それは夕方。少なくとも朝の配給準備が終わったばかりの今には掛かってこないはずである。取り敢えずそれに出ることにした。

隣の部屋に入って無線の会話ボタンを入れ、イヤホンの向こうの声に耳を傾ける。

「はい、こちら生徒会の小山です。」

「こちら船舶科の艦長大橋です。おはようございます、小山副会長。」

「何か御用ですか?」

「ええ、今日はとても良い知らせと余り良くない知らせをお伝えしようと思いまして。どちらからお聞きになりますか?」

「えっ……」

真面目な大橋にしては回りくどい話し方なので奇妙に思ったが、やはりその声は大橋に間違いない。

「じゃあ、良い知らせからお願いします。」

「島からの無線を通じまして、井上の輸送船が西南政権からの支援物資を積んで万山群島近くを航行付近だと分かりました。」

「……ということは、会長の最後の交渉が南京で無事成功した……ということ?そうで良いですよね⁉︎」

「ええ、それで間違いないでしょう。」

「……」

小山は思わず目元を抑えた。膝からも力が抜けかけた。

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫……です……でも、安心してしまって……会長、本当にありがとうございます……本当に……」

「……気持ちは分かりますが、泣くのはもう一つの話を聞いてからになさってください。そのもう一つなのですが、今回は我々の輸送船Aの他、もう一隻輸送艦を向こうが使わせてくれたそうで、そちらの『福安』なる輸送艦もいます。お陰で予定物資量の大半を今回のみで運べたそうです。」

「そこまで悪い話には聞こえませんが?」

「で、その『福安』なのですが、乗っているのは物資だけではありません。学園艦への視察団が一緒に乗っているんです。」

「……え?」

「お分かりですね?」

「……え?西南政権の、ですか?」

「はい。向こうの井上が勝手にOK出したようで。」

「……まってちょっと待って。本当?」

「本当に本当です。」

「……いつここに着くか分かる?」

「今日の夕方4時頃かと。」

「人数は?」

「調査する方が6人、それを護衛する軍人の方が20人です。向こうの視察団のトップは謝東閔という方だそうです。謝罪の謝に東、門構えに文書の文です。」

「……あ、ありがとう。受け入れ準備を進めておくわ。」

「ウチの井上が勝手にやっちゃってすみませんが、後で叱っときますのでよろしくお願いします。こちらでドックの整備、清掃などは済ませておきましょう。」

「それでは失礼します。」

小山はその返事を聞くことなく会話ボタンを押して会話を終わらせると、イヤホンを引っぺがしてすぐに生徒会長室に駆け込んだ。頰に流れるのは同じ水のはずだが、温度がかなり違う。

「……副会長?」

近場にいた高3の生徒会の者が不思議そうに尋ねてくる。何からどう言うべきか迷ったが、暫く情報を整理してから生徒会の者を呼び集めて、大橋から伝えられた情報を語り始めた。反応は笑顔の後絶望。見事に小山の前例を踏襲した。

「時間もありませんし、一旦各々今やっている作業を一番早く区切れるところで区切ってください。手の空いてる人はこちらから指示を出しますので、すぐにその通り行動してください。」

仕事に取り掛かれる者が一歩前に出てきた。その数10人程。細かく予定を立てる時間もない。必要と思われることを指示として出し、その後は高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するしかない。

取り敢えず必要だと思われることを矢継ぎ早に発する。

一つ、視察団の宿泊施設の準備。『ローマよりローマ』とあだ名されるアンツィオや芸術に強いマジノならいざ知らず、この学園艦は公立の学園艦で、しかも艦上に目ぼしい観光地も無いため、目立った宿泊施設がない。文化祭など外部から客が来る際は港に停泊し、その地の宿泊施設を利用して貰う程である。

私たちの学園艦の力を侮られない為にも、何とかしてちょっとは豪華な施設を用意せねばならない。商業科の集めた商品や華道、香道の顧問と履修者の作品も、場合によっては利用しよう。

一つ、案内の準備。ドックでは吹奏楽部の演奏をもって歓迎することにした。というよりいつも使っているドックが地味すぎるのだ。少し華を添えねば幾ら何でも申し訳ない。

それとドックからの案内ルートをこちらで設定し、そこを重点的に清掃する。その為の人員は暇そうな奴を動員した。こういうことがあるから総動員体制には感謝せねばなるまい。視察団の中にそのルートから外れたい方がいると面倒だが、その時は致し方ない。

学園の校舎にも呼ぶ為、グラウンドや校門、理科の実験室などの整備は重視する。

一つ、歓迎の準備。飯、余興、その他諸々。どれだけ影響力のある人々が来るかは分からないが、恩は売って損はないだろう。取り敢えず茶道の顧問と履修者による接待と長刀道、合気道の試合を企画。我が校の文化的側面を伝えるにはうってつけだ。なんだかクールジャパンの宣伝みたくなってしまうが、まぁいいだろう。

飯は水産科が養殖しているアンコウがまだあるはずである。泳ぐもので食べないのは潜水艦だけと言われる広東料理の故郷から来る方々なら、アンコウも大丈夫だろう。鍋にするには少し暑い天気だが、他にも唐揚げなどやりようはあるし、あん肝から汁を作ってもいい。そこら辺は学園艦にある食事処の料理人を掻き集めて考えて貰おう。他にも美味い魚を取り揃えて貰う。

大きく分けてこの3つ。即座に人を呼びに行かせ、作業に当たってもらう。

 

箒の音、それが学園艦のあちこちから聞こえるようになる。あとは学園艦に活気があるよう見せる為、学園艦内の店舗のシャッターを開けさせた。実際に住人に者を売らせる訳ではないが、店を空けて電気を点ければ営業しているようには見せられる。

呼び出した人間はそのまま呼び出した仕事に関する指揮をとり、こちらに指示を仰ぐ暇もない程働いてくれる。順路はこっちで用意したのを仕事を区切らせた者に届けさせたので、こっちから行けば何とか歓迎してくれるはずだ。

私は今日の配給開始が遅れる可能性がある事を艦内に布告した。また放送部の人々に声を褒められてから、耳が詰まるような音の鳴るエレベーターで艦の中へとどんどん沈み、足が着いて扉が開けて見せた先は刻々と準備の進んでいたドックであった。

吹奏楽部は楽器の類をチューニングしているのか、単調な音が広がる。その後ろで待つは学園の為に何かしたいと集まった風紀委員。鉄の棒を持って横にずらりと並んで貰った。学園を印象付ける一つにはなるだろう。

船舶科の艦長、長坂もこちらに現れた。船舶科の制服なのは良いが、肌が白っぽい。薄化粧しているのだろう。

「長坂さん、どうも。急ながら清掃して頂きありがとうございます。」

「大橋から呼び出されて何事かと思いましたが、こちらこそ本当にすみません。」

「いえ、それにしても、化粧をなさったのですか?」

「いやぁ、こういう時くらいしか化粧を許される場面も時間も有りませんから。副会長もなさっているではありませんか。」

「少しですけどね。」

背後からはチューニングを済ませた吹奏楽部による練習が行われる。演奏曲は体育祭での入場曲で演奏には慣れているとはいえ、部活を辞めた間のカンはそうもいかないようだ。間に合ってくれれば良いが。

「そういえば副会長は何語で向こうの方々と話されるのですか?」

「英語のつもりです。生憎今の学園艦には広東語が出来る方がいらっしゃらないので。会長までとはいきませんが、何とかしましょう。この先何年も付き合うのに通訳つけるのも印象悪いですしね。」

「なるほど。輸送船はもう直ぐかと思われます。少し待ちましょう。」

ふぅとペットボトルに汲んだ水を飲んで一息つき、化粧と服が乱れないよう気をつけながら、私はその時を待った。緊張はする。一つの悪態が全てをおじゃんにしてしまうかもしれないのだから。

吹奏楽部の曲が一致し、拍手の波でドックが呑まれて直ぐ、学園艦のドックの入り口が大きく開き始めた。吹奏楽部の者は楽器を持ち直し、風紀委員は右肩に右手で握った鉄の棒を縦に当て、私は『福安』が停泊予定の場所に長坂と進む。

我々の学園艦の仲間としての力を見せる時が来た。




次回予告

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