広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。

今年の甲子園は劇的な試合が多い気がする。あんま観てないけど。


広西大洗奮闘記 79 前進

彼女がテントの中に入っていったのを見ていると、目の前に少々スペースが生じている。多少慌ててそれを詰める間に、その姿を見失ってしまった。

列に沿って曲がって、私は初めて西北西と東南東を結ぶ直線上に置かれた台を目にした。置かれているのは基本花束。他にも希望者から集められた写真もあるが、榊など植物が目立つ。その中で寺によっては箱に入った仏像、神社によっては箱に入った御神体を持って来て、経や祝詞を述べている。

その後ろで人々は祈りを捧げている。長い人もいれば短い人もいる。空いたスペースに次々人が入り、終わったらすぐに抜けるシステムだ。丁度目の前から一人抜けたので、菩提寺の前ではないがそこに立ち入って手を合わせ、ここからいなくなってしまった人のために祈りを捧げた。

すぐに一歩下がり、またベルトコンベアに乗っかる。流されるまま、私は一度曲がって暫く進んだ後、会場外に押し出された。既に多くの人は帰っているらしく、案外スペースも広い。

帰る為には新三郎を呼び戻さねばならない。呼んだとしてもすぐには来ないし、彼女も暫くしたら来るだろう。娘が彼女の娘に世話になったのだから、挨拶しておくのが筋だ。ここで待つ他ない。

新三郎に一言連絡して、塔の足元の芝の上で暫く立ち尽くす。弱まってきた風が草を通じて足元を、髪を通じて着物の布地の上を流れる。

列が途切れ途切れになってきた。出て来たものは揃って泣き腫らしている。そう、ここまで来ると最後の方に回って子供や親などの為に嘆き続けた人間しか残らないのだ。

ここにはこの世の悲しみの一部が凝縮されている。世界の中では数あるうちの一つに過ぎない、というのがこの世界の哀しいところではあるのだが。

だがその中で毅然としているように見える女性がいる。その人が列から弾かれると、会場は閉じられた。

だが匂う。近づいてみると、他のものに混じっている上に微かではあるが、確かにそれが感じられた。涙の匂い。恐らく服に何重にも重ねられた、永遠に抜けないもの。

私はそれに気づいていることを気取られないように、少し早足で近づく。

「西住しほ様、でございますか?」

「……はい。」

「私、五十鈴華の母の五十鈴百合と申します。娘がご息女様にお世話になりました。」

「ああ、五十鈴さんの……」

彼女には娘の名の方が遥かに通りがよいようだ。

「……この度はご息女のご不幸、心よりお悔やみ申し上げます。彼女は間違いなくこの先の戦車道の砲手の道を切り開く方でありました。同じ戦車道を学ぶ者としてなんと言ったら良いか……」

「そちらもご息女様を二人とも、同時に逢えなくなってしまったと伺っております。それは私には想像しかねることでございます。私こそなんと言ったら……」

「……やめましょう。西住流は常に前へ進む流派。惨めな気分にしかなりません。」

「……ええ。いずれにせよ、娘がお世話になりました。またお世話になる日が来ると祈っています。」

「……私はこの後も用が有りますので、これで失礼します。」

「こちらこそ、時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。」

彼女は近くに停められた縦に長い車に乗り込むと、何処かへ向けて走り去っていった。きっと彼女は私を奇妙な人だと思っただろう。だがそれで良い。あの涙からして、死んだと信じる故か、はたまた私たちが知り得ないようなことを知っている故か、精神状態が宜しくない。深酒まで付いているから、ほぼ間違いないだろう。

もし前者ならば、彼女の心持ちは少しは上向くだろう。娘の友の母を僅かばかり救う。それが今私にできる微かな自己満足なのだから。

「奥様……」

新三郎はやはり早い。すぐに隣に停まり、台を通じて私を上に乗せる。

「このまま戻られますか?」

「そうしなさい。」

人力車は海から離れ、ようこそ通りをエスコの前、ガード下を通過しながら国道51号を目指し駆けていく。一つの明かりは沈み、やがて細かい明かりが所々から道中を照らすようになる。

「……新三郎?」

時折持ち手から右手を離し、顔の方に腕を持っていっている。

「……すみません、奥様。お嬢のことを思い出してしまって……特にあの時、お嬢が勘当されて港に送った後の帰りとかを……」

「本当に新三郎は泣き虫ね。」

「男なのに面目無い……」

「……前を向きなさい、新三郎。あの娘はそう簡単には死なないわ。なんていったってあの多感な時期に勘当されても、それに最高の作品で返して来るような強い娘ですもの。」

「……しかし……幾ら何でも学園艦がなくなったというのに……」

「私はあの娘が死んだなんて絶対に信じない。海の底からあの子の遺体でも上がってこない限り。ただ今は私たちと逢えないだけ。大海原の向こう側、そんな所に居るわ。そしてそこで必ずあの娘は強く生きている。」

「……」

「五十鈴の家の主人として命令するわ。華は何処かで生きていると信じなさい。そして華のことでまた泣くことは許しません。」

「……はい。」

大きな輪っかの横を抜けて、二本の足は二つの車輪に支えられつつ、さらに強く回り始めた。




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